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2021年7月10日(日本時間7月11日)、米国ネバダ州ラスベガスのT-モバイルアリーナにて『UFC 264: Poirier vs. McGregor 3』が行われる。
メインイベントは、ダスティン・ポイエー(米国)とコナー・マクレガー(アイルランド)が対戦。両者はこれまで2014年9月と2021年1月の2度対戦し、1勝1敗。今回が決着戦となる。
2014年9月の初戦は、マクレガーが左フックをテンプルに当てて、1RパウンドでTKO勝ち。
2021年1月の前戦ではアメリカントップチームの名将マイク・ブラウンが授けたカーフキックをポイエーが効かせて、マクレガーを金網に追い詰め左右ラッシュで2R TKO勝ちしている。
互いのチームが戦略を練るなか、ポイエーとマクレガーはどんな戦い方を見せるか。この一戦の見どころをWOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
ポイエーがマクレガーを2度破れば、王者オリヴェイラに挑戦も
――『UFC264』のメインイベントは、ダスティン・ポイエーvs.コナー・マクレガー。6カ月ぶりのダイレクトリマッチにして3度目の戦い、いわば決着戦となりますが、この試合を高阪さんはどう見ていますか?
「過去2回の映像をあらためて見返してみたんですけど、とくに前回、ポイエーがTKOで勝った試合は、戦略および対策が勝敗を分けた気がしましたね。ポイエーは、ストライカーであるマクレガーに対して、カーフキックでダメージを与えることを戦略に組み込んだ上で試合をやっていたと思うんですよ。それに対してマクレガーは、カーフキックという技術は当然知っていたと思いますけど、ポイエーがそれを戦略として使ってくるとは思ってなかった節がある」
──カーフキックを軸にした戦略でくるとは予想していなかった、と。
「というのも、試合開始15秒くらいのところで、ポイエーが1回カーフキックを出しているんですよ。その時は、おそらくマクレガーの反応をうかがうように、様子見で蹴ったような感じだった。そして1R 残り38秒のところで、今度はけっこう強く蹴っているんです。これは頭からカーフで組み立てようという戦略がないと、できない動きだと思うので」
――マクレガーも最初はカーフキックをスネで受けて、カットができていたのが、途中からもろにもらうようになってしまいました。あれはどういった理由が考えられますか?
「ひとつはポイエーが、“意識づけ”としてインローを蹴ったんですよ。インローを蹴られたことでマクレガーが脚を内側に向けるようになると、ポイエーはしっかりとカーフを蹴ることができる。だから、これも戦略ですよね。
また、1Rはマクレガーがパンチで押して優勢だったじゃないですか。それによってマクレガーは“パンチでいける”と思ったからこそ、前重心で強いパンチを打っていきましたよね。でも、重心が前脚にあるというのは、相手からするとカーフキックを蹴れる状態でもある。そこが狙われたんだと思います」
――なるほど。1Rに打撃で優勢だったことで、逆にカーフの餌食になりやすい状態になってしまった、と。
「その辺が、勝負の“アヤ”なんですよ。1Rが終わった時点で、マクレガーは“パンチでいける”と思っただろうし、ポイエーの方も、1Rは劣勢ながらも“これはカーフキックが当たるな”って、認識したと思うんですよね。だからこそ、2Rはどんどんカーフを蹴っていって、5発目でマクレガーが崩れたところにパンチをラッシュして結果的にKOで倒すことができたんだと思います。戦略の勝利ですね」
――とはいえ、マクレガーの動きも決して悪くなかったです。
「かなり仕上がりは良かったと思いますよ。おそらくマクレガーの方は、まずテイクダウンされないことを考えて、もし倒されてもすぐに立ってスタンドに戻す、それを繰り返すことで、テイクダウンにきたポイエーの体力を削っていこうという頭があったんじゃないかと思うんですよね。1Rのところで、倒されてから立ち上がるまでの動きがすごく良くなっていたので、相当練習してきたことがうかがえました」
――マクレガーは、ハビブ・ヌルマゴメドフやネイト・ディアズに寝技で敗れていますけど、自分の弱点を克服して、テイクダウンディフェンスを強化することで、逆にテイクダウンの攻防でポイエーの体力を削っていこうとしていたんじゃないか、と。
「マクレガーは明らかにフィジカルが強くなっていましたからね。四つに組んだ状態でケージレスリングの攻防もけっこう長い時間やっていたんですけど、それは組んで削っていこうという戦略の現れだったと自分は思います」
――敗れたマクレガーも、実は以前よりトータルで強くなっていたけれど、その死角がカーフキックだったわけですね。
「そうですね。だからマクレガーサイドからしたら、ケージレスリングの攻防でもほぼ主導権を握っていたし、1Rはパンチもかなり当てていたので、思い通りの展開ができていたはずなんですよ。だからこそ、カーフを効かされた時、“まさか、こう来たか!?”っていう思いがあったでしょうね」
――そうなると今回は、カーフキック対策をしっかりとやってきたマクレガー相手に、ポイエーがどんな戦略を練ってくるかがポイントになりそうです。
「今回も戦略が非常に重要な試合になると思います。マクレガーは敗れているので、まず前回と同じテツは踏まないということを徹底するのは当然。それにプラスアルファ、余計なことをあまり考えず勝つためのものを乗せていく、という正しい手順を踏めるか。一方、ポイエーの方は作戦が的中して勝った方なので、今度は相手がカーフ対策をやってくることを前提に、新たな勝つための戦略を練らなきゃいけない」
――前回はカーフキックという切り札を隠し持っていたわけですが、今回はおそらく、それが通用しなくなるからですね。
「だから、前回勝ったポイエーの方が、今回は難しい戦いを強いられる気がしますね。マクレガーは前回、カーフの対策をしていなかったことで敗れましたけど、“たら・れば”の話で言えば、カーフキックという戦略をポイエーが持っていなかったとしたら、下手したら早いラウンドでマクレガーが勝っていたんじゃないかと思うんですよ。それぐらい状態が良かったので」
――打撃が強いのはもちろん、パワーもアップしていたし、テイクダウンディフェンスも向上していたわけですからね。
「そしてポイエーは実際に試合をした当人なので、マクレガーのあの打撃を当てる感覚や、伸びてくる左ストレート、パンチの種類、コンビネーションの使い分けなど、あれを全面的にやられたらキツいなと絶対に思っているはずなので。今回、そのマクレガーを倒すために何を持ってくるかですよね」
──名参謀マイク・ブラウンにさらなる秘策があるのかどうか。
「そうですね。マイク・ブラウンをはじめとしたATT(アメリカン・トップチーム)軍団が、今度はどんな戦略を練ってくるか。そこが非常に楽しみだし、いったいどんな展開になるのか予想がつかないところが、興味深いですね」
――3度目の対戦にして、いちばん展開が読めないという。
「こういう試合も珍しいですよ。また両者にとって、今後を大きく左右する大事な試合ですしね。ポイエーがマクレガーを2度も破ったとなれば、それは最強のチャレンジャーとして、ライト級王者のシャーウス・オリヴェイラに挑戦することになるだろうし。マクレガーが、ここでポイエーに完勝したら、もう達人の域に達するんじゃないかと思います。タイトルマッチではないのに、ラスベガスのビッグマッチのメインイベントを飾るにふさわしい試合と言えるでしょうね」(取材・文/堀江ガンツ)
◆WOWOW『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC264 in ラスベガス
ダスティン・ポイエーvs.コナー・マクレガー3』
7月11日(日)午前11:00[WOWOWライブ]※生中継
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
7月16日(金)よる10:00[WOWOWライブ]※リピート
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
【メインカード】
▼ライト級 5分5R
ダスティン・ポイエー(米国)
コナー・マクレガー(アイルランド)
▼ウェルター級 5分3R
ギルバート・バーンズ(ブラジル)
スティーブン・トンプソン(米国)
▼ヘビー級 5分3R
タイ・トゥイバサ(豪州)
グレッグ・ハーディ(米国)
▼女子バンタム級 5分3R
アイリーン・アルダナ(メキシコ)
ヤナ・クニツカヤ(ロシア)
▼バンタム級 5分3R
ショーン・オマリー(米国)
クリス・モンティーニョ(米国)
【出演】
ゲスト:小園凌央(俳優)
解説:高坂 剛、堀江ガンツ
実況:高柳謙一
YouTube『スタジオ裏トークUFC264』