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インタビュー

【BREAKING DOWN】菊野克紀が元大相撲力士と対戦、朝倉未来の1分間大会に「空手衣で出る。路上では服を着ているから。出来れば素手がいい」

2021/07/01 16:07

「いざ」というときは、その場で戦いが決まる

――あんこの小さなオープンフィンガーグローブにしたい、というその心は?

「グローブが厚ければ厚いほど、体重差が出るじゃないですか。だから、素手のほうが僕はいいわけです、本当は。素手は安全上無理だろうから、普通のオープンフィンガーグローブでやらせてくださいとお願いはしました。まだ返事はもらっていないです。『たぶん大丈夫だと思います』という感じでした」

――それはご自身にとっても諸刃の剣ではありますね。

「でも当っても効かない攻撃よりは、当たって効く攻撃でお互いにやったほうが面白いですから」

――相手の攻撃は当たらない自信がある?

「キック経験者ですし、当たるかもしれないですよ。分からないですけど。でもそのほうが面白いじゃないですか」

――簡単に面白いとは言えないです。総合ルールなので1分とはいえ、組みもあります。

「そうですね。心配なのが、僕この空手衣(長袖)で出るんです。だから掴まれたらけっこう大変なのかな、とは思うんです。ビリビリって破れるかもしれないし、でも、それも稽古かなと」

――「それも稽古」というのは?

「僕は空手をやっている、武術をやっているというのもあるし、服を着ているじゃないですか、みんな」

――路上では皆、服を着ていると。でも相手はおそらく着て来ないかと。

「それはそれでいいんです。僕の問題ですよね。別に脱いでもいいんですけど、相手がこうだからこうするという、競技にあまり寄せたくないというか。いざというときって、その場で(戦いが)決まるので、その瞬間でいろいろ準備するという状況に近づけたい。だから脱ぐのが嫌だって感じですね。意味が無いよなと」

――掴まれる前に一撃で仕留められる自信も?

「でも“一撃で仕留める”と考えたら仕留められないんですよね(苦笑)。散々そんなのは経験してるので、欲を捨てて、迷いとか不安も捨てて、手放して、“今ここ”に集中して臨めたらいいなと思いますね。勝ち負けは分からないです」

――今まで一番体重差があった試合は?

「(巌流島での)ジミー・アンブリッツ戦じゃないですかね。彼は140キロくらいだったかと(※体重差約57kg)。僕ここ(脛)が切れちゃってノーコンテストになったんですけど。あと『敬天愛人』では100キロの選手ともやりました」

――アンブリッツ戦で外受けされて、骨折ではなく切れたのは、体重差によるところもありませんか。

「まあそうなんでしょうね」

――それでも試してみたいと。

「まだ僕、ヘビー級をKOしたことないんですよね。その欲を出したら駄目なんですけど、試してみたいなというのはあります」

――極真空手の頃から無差別にも出られて、今回の無差別&1分間ルールでの試合に向けて、どんな練習をされていますか。

「普段、僕は『誰ツヨDOJOy』という道場をやってるんですけど、そこでも大体、組み手とかも20秒で回したりするんです。長くても40秒とか。手合わせ稽古会というのも主催してますけど、それも20秒とか40秒で回すので、基本短い時間で終わるくらいの気持ちで、パンパンではなくて、パパパパっと終わるような気持ちで稽古してるので、もうそのままです」

――普段から短期決戦を想定していると。

「そうですね。起こり得る状況を想定してやっています」

――それは、実際にどういう戦いになるんでしょうか? 無酸素ラッシュをする人も?

「いや全然、無酸素というか、そういう勝負じゃなくなるかな。僕がここでやっているのは“流々舞”と言ってルール無しなんです。目突き、金的、なんでもあり。当てないですけどね」

――……何でもあり、なのですか。

「当てないけどありのルールで練習をするんです。お互いそういうことをしてくる前提だから、絶対中心のガードは欠かせないです。目とか金的とかはちゃんと(防御を)意識しながらやらないと、一瞬でやられます。オラッてやって、パーンと割れます」

――それを想定して構えなくてはいけない。

「そうですね。たぶん半身を切るであったりとか、中心の意識を外したら一瞬でやられます」

――急所攻撃を想定して、20秒なり40秒なりで回す。

「そうです。攻防が起きます。本気で当てたらどっちかが死んでいると思うんですけど、一応20秒間は当てずに勝負をする。それとは別に、オープンフィンガーグローブをつけて、ライトスパー的なものも40秒くらいでやります。そのときも目突き、金的の想定はします。スパー的な場合は、敬天愛人ルールに近くて、噛み付きとか目潰しとかを想定して、密着・膠着は禁止という感じでやります。だから、今回のルールに対して、特別な練習をするということはなくて、ふだんの練習の感覚で行きたいなと思います」

――相手に抑え込まれる可能性もありますが、1分で試合は終わる。

「そういうことを僕はやりたいわけじゃないので」

――でも路上ではずっと抑え込む人もいるのでは?

「いや、目潰せばいいじゃないですか。噛み付けばいいじゃないですか。あり得ないです、そんな想定は。ある意味抑え込むというのは喧嘩じゃ使えないです。よほど安全に距離をとって抑え込まないと」

――なるほど。グレイシー柔術はセルフディフェンスとして、目突き、頭突き、髪引っ張りなどの攻撃に対しても想定をしていたようでした。ホイス・グレイシーは時間無制限でそれを戦った。

「だから、ニーオンザベリー、マウント、バックとかだったらOKなんです。常に頭突き・目突きとかを想定しなきゃいけない。もちろんセルフディフェンスとしてのグレイシー柔術はあったはずですよ。でもいまの競技は、そうじゃなくなってきているのは、僕はあまり燃えないんです」

――柔術は組み優先の中でセルフディフェンスを考えた。菊野選手の考える「路上の現実」はどういうものでしょうか。

「1対1だったら組みでいいですけど、複数だったらちょっとキツいなと思います」

――対複数ということを考えると、立ち技のほうがいいと。

「まあそうですよね。一対一をやっていられない状況だったら、打撃のほうがいいとは思います。ただ組み技も重要なので。だから、僕も両方やりますし、“誰ツヨ”でも両方教えているし、敬天愛人でも両方使うようにしています」

――対複数の練習もここではあるのですか?

「よくやります。ここでもするし、手合わせでもやりますよ、2対1、3対1……そういうことをして遊んで楽しんでいます(笑)」

――“いざ”というときの護身、身を守るためには逃げてもいいと考えますか。

「もちろんですよ。逃げるのが一番です。危険に遭わないこと、逃げること、助けを呼ぶこと。どうしようもないときに最低限、身を守れるようにしておけば、ちょっと心が楽じゃないですか。そうすれば声も出て、足も動くかもしれない。保険と一緒ですよ。別に何も起きないけども、保険に入っておけばちょっと安心して日々を送れる。そういうものを、武術によって得ていると。

 それを楽しく身につけるということ。おもちゃなんですよね、言い方は悪いかもしれないけど、戦いごっこの延長です。武術って誰でも、何歳からでも強くなれるから、楽しい。ちょっと実用的なところもあるし」

――確かに想定しておくことで、心構えは変わりますよね。

「楽しいですよ。個人的にはいざというときに、UFCのヘビー級チャンピオンに襲われたとして、白旗を揚げたくないわけです」

――白旗を揚げたいんですけど(苦笑)。

「そうですよね。でも家族まで殺されたら、と考えたら嫌じゃないですか。そこで勝てません、じゃあ済まなくて、負けねえぞと、やってやんぞという気持ちは持っていたい。そのための稽古はし続けるという。まあ、そんなことが起きずに一生を終えたいんですが(笑)。体重がどうだとか、相手は武器を持っているから白旗を揚げて殺されるだの、家族がやられるだのは、嫌なんです」

――その意味は分かります。考え出すとキリがないですね。通り魔的なものに遭ったらどうするのか、とか。

「考えますよ。すごく考えます。まず殺意を持って自分に向かってくる、誰かに恨まれた場合、それは無理だと思います。守れない。だから人に恨まれないようにしようとか、仲良くしようとか。それが、通り魔的にやられたらちょっとキツいです。でも、そういうものに遭遇して、慌てて何も動けないとはなりたくないなと思います」

――果たしてそのときに何らかの動きが出来るか。あるいは自分と誰かを護れるか。

「分からない。だから、そのための、ちょっとでも確率を上げる練習をしておきたいなって感じです。それは、その場にあるものを使ってどう戦うかという発想も含まれます。ジャッキー・チェンなんかがいい勉強になりますよ。環境を利用する。そのうえで逃げるのが最善だし、助けを呼ぶことも。ベストな選択をできるような心構えというか、自信を持っておけば冷静に判断できるのかなと」

――そういう心構えを教えている生徒たちに、見せたいという思いもあるのでしょうか。

「まあ普段やっている稽古の延長線で、こういう威力も出て戦えるよ、みたいなものは見せられたらいいですけどね」

――それを自分自身も試したい?

「そうです。正直に言えば発散もありますね。さきほどの話しと矛盾するかもしれませんが、闘争本能とかもあるし、試合で思いっきり人を殴りたい、蓄えたものを出したい、発散したいという欲求はあるので、それと稽古というのと、両方ですね。本当、アマチュアです(笑)」

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