MMA
インタビュー

【UFC】高阪剛「ブラホヴィッチを倒したら、アデサニヤの強さは本当に次元が違うことの証明になる」=3月7日(日)『UFC 259』

2021/03/03 18:03
 2021年3月6日(日本時間3月7日)、米国ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて『UFC 259』が開催される。  世界ライトヘビー級、バンタム級、女子フェザー級の豪華3大タイトルマッチが組まれた今大会。そのメインイベントでは、ミドル級王者イズラエル・アデサニヤが、ヤン・ブラホヴィッチの持つライトヘビー級王座に挑戦する。  この一戦の見どころを、WOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛氏に語ってもらった。 アデサニヤは、ほぼミドル級仕様の肉体のまま、ライトヘビー級でも勝てることを証明しようとしてるんじゃないか ――「UFC 259」のメインイベントでは、MMA20戦無敗のイズラエル・アデサニヤがミドル級王者のまま、ヤン・ブラホヴィッチの持つライトヘビー級王座に挑戦。史上5人目のUFC二階級同時制覇に挑みます。この一戦を高阪さんはどう見ていますか? 「自分は、アデサニヤのMMAに対する意識の高さを感じましたね。ミドル級王者でありながら、あえてライトヘビー級王座に挑戦するというのは、MMAファイターとしてさらに成長するため、自分自身に課したものなんじゃないかと思うんですよ。もちろんリスクもありますけど、その分、得るものがデカいと判断したんじゃないかな」 ――ミドル級王座の防衛を重ねていくという選択肢ももちろんありますが、あえて厳しい道を選んだ、と。 「というのは、今のミドル級ランカーの中で、誰が対戦相手ならアデサニヤのモチベーションが上がるか、上を目指して戦うに値するかと考えると、ちょっと見当たらないですよね」 ――上位ランカーはほぼ一掃し、現在の第一挑戦者候補もすでに完勝している前王者のロバート・ウィテカーです。 「そうなんですよ。だから、いまミドル級に留まって防衛戦を続けるというのは、自分自身にとって得策ではないんじゃないか、と考えた気がします」 ――31歳、まだまだ成長できる時期だからこそ、より高いハードルを自分自身に設けるという。ただ、ミドル級で絶対的な強さを誇るアデサニヤといえども、ライトヘビー級タイトルマッチというのは、大きなチャレンジです。 「ハッキリ言って、リスクは高いです。ライトヘビー級は93kg以下で、ミドル級の83.9kg以下とは9.1kgもの差があるんですよ。また、ライトヘビー級の選手というのは、通常体重が100kg以上の選手ばかりですから、もう“ヘビー級”と呼んでいいと思うんですよね。ちょっと他の階級とは次元が違ってくるので」 ――ヘビー級というのは「神に選ばれし者の階級」と言われますが、ライトヘビー級以上がすでにそうである、と。 「だから、ミドル級と同じことをやっても通用しないことがいっぱい起こるはずなんですよ。通用しないのであれば、どう戦えばいいのか、これまでとは違う試合のやり方を考えなければならないだろうし。試合の中でも判断して、二の矢、三の矢を放つことが重要になってくる」 ――これまでとは、まったく違う戦いを強いられる可能性が高いわけですね。 「正直、“なんだ、アデサニヤ。何も通用しないじゃねえか”ということが起こってもおかしくない階級なんですよ、ライトヘビー級というのは。たとえば、テイクダウンを取られた場合、上に乗られてるだけで疲れるし、削られていく。そうなる前にどう対処し、攻略していくのか。それはアデサニヤにとっても未知の領域なんで、決して簡単なことではないですよね」 ――アデサニヤは、身長193cm、リーチ203cmと身長とリーチに関してはライトヘビー級の選手と遜色ないですが、かなりスリムで、無理やりミドル級に絞っている選手ではないですね。 「そうなんです。それでいて、時間をかけて筋肉量を増やして、重量級の体を作り上げて、今回のタイトル戦に臨むというわけでもなさそうですしね」 ――前回のミドル級タイトル防衛戦が半年前です。元ウェルター級王者のジョルジュ・サンピエールなどは、マイケル・ビスピンのミドル級王座に挑戦したとき、時間をかけてすごく身体を大きくして挑みましたが、それとは違うと。 「無理に身体をデカくするのではなく、減量はしないけれど、ほぼミドル級仕様の肉体のまま、ライトヘビー級でも勝てることを証明しようとしてるんじゃないかと思いますね。だからこそ、ライトヘビー級に転向ではなく、ミドル級王者のまま挑戦という形にしたんだろうし、すごくロマンを感じさせてくれる挑戦だと思います」 [nextpage] 元ミドル級王者のロックホールドがブラホヴィッチにアゴを折られたように、アデサニヤも潰される可能性がある ――そして迎え撃つ王者ヤン・ブラホヴィッチは、パワーを前面に出した、まさに“重量級”という選手です。 「カテゴリーとしてはライトヘビーですけど、スタイルとしては“ザ・ヘビー級”ですよね。UFCのチャンピオンだから、もちろん技術レベルも高いものを持っていますけど、パワー、突進力、拳の硬さというのが一番の武器という。だからこそ、アデサニヤとの試合がマッチしたのかもしれない」 ――パワーvsテクニックという、わかりやすい図式。 「同じライトヘビー級でも、例えばドミニク・レイエスがチャンピオンだったら、ちょっと話が違ってくると思うんですよ」 ――レイエスも技術レベルの高いストライカーですから、打撃vs.打撃、テクニックvs.テクニックで、パワー面ではアデサニヤがやや不利という感じになりそうです。 「だからレイエスがチャンピオンだったら、ライトヘビー級に挑戦してなかったかもしれない。ブラホヴィッチがチャンピオンだからこそ、気持ちがそっちに向いたんじゃないかな」 ──圧倒的なパワーの差を技術で覆すことができるか、というテーマですね。 「そういう気がしますね。そこを試してみたいというか。ただ、すごく危険な賭けだとは思いますけどね」 ――前回ブラホヴィッチは、かつてジョン・ジョーンズとほぼ互角の戦いをしたドミニク・レイエスを完全にKOしています。 「それも正直、ワンパンチですからね。左フック一発で倒して、その後の追撃のパウンドはオマケみたいなもの。だから当然フィジカルは強いし、身体も頑丈で重さもある。打撃もスピードがあったり、タイミングをうまくズラしてカウンターが上手いとかではなく、いつ何時でも倒せるパンチを打つことが出来るという、その強みをブラホヴィッチは持っていますよね。要は身体が疲れたり、体力が削られていても、逆転することができる選手なので」 ――アデサニヤの打撃を受けても、一発や二発で倒れることも考えにくいと。 「そうなんです。打たれ強いし、ハートも強い。前に出る圧力もかなりのものがある。打撃にしてもタックルにしても直線的な動きが多くて、そこに自分のフィジカルを乗せることが出来ている。だからその強みが発揮できているんだと思うんですよね」 ――自分の強みを最大限に出せるスタイルが、ここに来て確立された感じでしょうか。 「だと思いますね。37歳という年齢でチャンピオンになれたということは、自分のフィジカルや持っている技術に、試合のやり方やメンタルがしっかりマッチした状態なんだと思います。要は、自分が器用じゃないことを認識した上で、“これなら勝てる”という形を見つけたんだと思います。こういうタイプの選手はなかなか崩れないんですよ」 ――迷いがないわけですね。 「自分の強みも弱いところも十分に分かった上で、出来上がったものなので。自分のやり方に自信を持っているのが、試合を観ていても伝わってくるんです」 ――2019年7月に元ミドル級王者のルーク・ロックホールドをKOして以降、それが顕著です。 「あれも前に出るパワーで圧倒して、最後は左フック一発で意識を飛ばしましたから」 ――まさに元ミドル級王者が、ライトヘビー級の洗礼を受けた形ですね。ロックホールドはあれでアゴを折られて、あの試合以降は事実上の引退状態です。 「だからアデサニヤがああなってしまう可能性も十分あるんですよ。とにかく、ブラホヴィッチのあの前に出る圧力とタフネスぶりは、相手にとっては本当に嫌なものなんです。あれだけフィジカルの強い選手が、常にプレッシャーをかけ続けてくるというのは、恐怖さえ感じると思うんですよ」 ──その対戦相手にとって嫌な感じは、PRIDE全盛期のマウリシオ・ショーグンにも似ています。 「そうかもしれない。あの前に出てくる力によって、技術が無力化されるというかね。ブラホヴィッチは、そういう強さがあるからこそ、いまベルトを腰に巻いてるんだと思います」 ――では、この試合のポイントをひとつ挙げるとすれば、どのあたりになりますか? 「アデサニヤサイドから考えると、当たり前のことですけど、いかに相手の攻撃をもらわず、自分の攻撃を当てるのか、ということですね。ブラホヴィッチの打撃には、一発で意識を飛ばす力があるので」 ――アデサニヤは、ここまでMMA20戦全勝ですけど、試合の中でけっこう相手の打撃をもらってはいます。 「ケルヴィン・ガステラムとのミドル級暫定王座決定戦(2019年4月)なんかは、とくにそうでしたよね。これまでアデサニヤは、多少効かされたとしても、打たれながらも打ち返して倒せる自信を持っていると思うんですよ。でも、ブラホヴィッチの打撃をもらったら、同じようにはいかないと思うので。今回ばかりは、顔を触らせないというのが鉄則だと思うんです。ブラホヴィッチの打撃は、ガードの上からでも効く可能性があるので」 ――となると、ブラホヴィッチはある意味、アデサニヤの天敵のような存在かもしれません。 「そうとも言えるし、そのブラホヴィッチを倒したら、アデサニヤの強さは本当に次元が違うということを証明することになるだろうし。その両面ですよね。ブラホヴィッチは、やっぱり重量級は技術も必要だけど、パワーと打たれ強さと拳の硬さがものをいう世界だということを見せつけるのか。それともアデサニヤが、前人未到の域にさらなる進化を見せるかどうか」 ──ミドル級王者のまま、ライトヘビー級も制するということは、あの絶対王者と呼ばれたアンデウソン・シウバも成し遂げていないことです。 「だから、ここでアデサニヤがミドル級とライトヘビー級の同時制覇を成し遂げたら、“史上最強”の呼び声も一気に高まるでしょう。いずれにしても、ものすごい試合になるんじゃないかと期待しています」(取材・文/堀江ガンツ、写真/Getty Images) 【放送日程】 『生中継!UFC‐究極格闘技‐ 怒涛のトリプルタイトル戦!アデサニヤ、ライトヘビー級王座奪還なるか』 3月7日(日)午後0:00[WOWOWライブ]※生中継(WOWOWオンデマンドで同時配信) 3月12日(金)深夜0:00[WOWOWライブ]※リピート(WOWOWオンデマンドで同時配信) 【UFC259 主な対戦カード】 ▼UFC世界ライトヘビー級選手権試合 5分5Rヤン・ブラホヴィッチ(ポーランド)イズラエル・アデサニヤ(ナイジェリア) ▼UFC世界女子フェザー級選手権試合 5分5Rアマンダ・ヌネス(ブラジル)メーガン・アンダーソン(豪州) ▼UFC世界バンタム級選手権試合 5分5Rピョートル・ヤン(ロシア)アルジャメイン・スターリング(米国) ▼ライト級 5分3Rイスラム・マカチェフ(ロシア)ドリュー・ドーバー(米国) ▼ライトヘビー級 5分3Rチアゴ・サントス(ブラジル)アレクサンダル・ラキッチ(セルビア) 【出演】ゲスト解説:村田夏南子(UFCファイター)解説:高坂 剛、堀江ガンツ実況:高柳謙一 番組公式サイト
全文を読む

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.331
2024年3月22日発売
UFC参戦に向け、ラスベガス合宿の朝倉海。「プロフェッショナル・ファイターの育て方」でチームを特集。『RIZIN.46』鈴木千裕×金原正徳インタビュー、復活K-1 WGP、PFL特集も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア

関連するイベント