元UFCファイターの金原正徳(リバーサルジム立川ALPHA)が、自身のYoutubeで「カーフキック時代終焉!? 実践的カーフキック対策!!」を公開。格闘技界に一大ムーブメントを巻き起こしているカーフキックのMMAでの対処法と危惧を表明した。
大晦日に堀口恭司(アメリカントップチーム)が朝倉海をTKOに下したことで話題となっているカーフキック(足裏の筋肉・ふくらはぎへのキック)。立川ALPHAを主宰する金原は、キッズクラスの子供たちから「カーフキックはどうやって蹴るんですか?」と聞かれることが多くなったという。
そんなキッズたちに金原は、こう回答している。「そんな卑怯なことをせずに、“裏の筋肉”を蹴るんじゃなくて、“表の筋肉”を蹴りなさい」と。その意図はどこにあるのか。金原に訊いた。
まずは、相手に対して、どんな距離や位置取り、リズムで戦うべきか。そのなかでカーフキックを含むローキックをどう使うか。
「しっかりとしたローを蹴れるようになってからカーフキックを蹴る。これがすごく重要。受け手もしっかりカットできるようになること」と、基本ができた上でバリエーションが生きると、金原は説く。
本誌の取材にも「カーフキックに限ったことではありませんが、ずっと自分が言ってきたことは、相手に対してリズム感や距離感が合わなければ、パンチも蹴りもテイクダウンも合わせることはできないということ。カーフキックも、そもそもきちんとローをカット出来ないとカーフにも対応できない。蹴る方も、しっかりローキックを蹴ることが出来る“タイミング”を掴まないと、怪我をします」と、前提を語る。
動画では、「なぜ、キックボクシングではカーフによるKOが少ないのに、MMAでは主流になるのか」を、その構えから解説をしている。
まずは前足重心になりがちなMMAについて、「MMAは絶対的に体重の比率が前が6で、後ろが4。それは、相手のテイクダウンへの耐性を高めるために前重心になる。あるいは、パンチ重視のボクシングスタイルでもそうなる」と説明。
対してキックボクシングやムエタイの場合、「アップライトの構えで後ろ重心が6で、前が4。カーフキックを蹴っても(足が)流れて(ダメージを逃がされて)しまうか、あるいは、ヒザを外に向けて脛カットができる。だから立ち技でのカーフによるKOは少ない」と、MMAとの構えの違いがあるという。
ただし、近年、キックボクシングでもカーフキックが試合の流れを変えることがあるのは、パンチ重視の構えになっているからだと指摘。蹴りを掴むことがNGで、3分3Rの試合ではキックをカットするよりも、受けてパンチで攻撃する方が勝つ確率が高くなるため、蹴りをカットする文化が廃れつつあったからだという。
MMAでも、ムエタイのように後ろ足重心の6対4で構えることが出来れば、カーフキックでダメージを負わされることはないが、青木真也のような“綺麗な構え”でMMAを戦うには技術が必要だ。
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カーフキックは蹴り足を掴まれにくい
通常、「テイクダウンがあるMMAでは、後ろ足に体重が乗っている場合はタックルを切るのがなかなか難しい。だからMMAの選手は前足重心になりやすく、カーフキックがハマリやすいし当たりやすい」と金原は言う。
MMAにおいて、ローキックとカーフキックの違いは何か。それは硬い脛でもなく、比較的筋肉が厚い太腿でもなく、ふくらはぎの筋肉の薄い部分を蹴るというカーフキック特有の位置のみならず、蹴りの高さの違いにあるという。
「(打点が高い)ローキックだと蹴り足を取ってテイクダウンをされやすいけど、カーフキックは(打点が低く)手が届かないから蹴り足を掴まれにくい=テイクダウンされるリスクが少ないということになります」と金原は解説する。
一方で、カーフキックを打つ側の弱点としては、「近い距離で前足に体重が乗っている分、後ろ手のストレートを合わされやすい」ことだという。
大晦日に堀口恭司は、朝倉海のカウンターももらうことなくカーフキックを当てたが、それは「堀口選手のように出入りが速い選手に合わせるのは難しい。ただ、あれは次元が違う選手なので」と、堀口のように遠い間合いから頭の位置を前に傾けずに飛び込んで打てるのは、稀有な例とした。
では、金原はいかにカーフキックを封じたか。MMAで山本“KID”徳郁に勝利し、KNOCK OUTでもキックボクサーに勝利している元UFCファイターは、上体を立てた、細かなステップで、独自のMMAスタイルで戦っていた。
「僕は基本的に“触らせない”」という距離感。詰められた時には「パンチを合わせたり、カットしたり、組んでさばく」という。
「選手のスタイルにもよるけど、MMAではカットしてしまうとテイクダウンされるので、受けてパンチを返すのが一番いいと思っています。あるいは、(足を引いて)蹴らせないか。でも、下ばかりを意識させられるとスーパーマン(パンチ)をもらうこともある」と、カーフキック対策を明かしている。
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カーフキックを嫌う選手が増えると、テイクダウンしやすくなる
カーフキックがMMAのひとつの技として組み込まれていくことで、今後は「カーフキック」に繋がる技も、効果を発揮することになる。
カーフキックを受ける相手の反応によって攻め手も変わってくる。カットして足を上げることによってどう重心が変わるか、その体勢のときに対応しにくい攻撃をすればいい。
たとえば、パンチの場合では、「スウェーでかわす人」「ブロッキングする人」「ヘッドスリップする人」「バックステップする人」、それぞれの対応により、どの足に重心が乗っていると、どの蹴りやパンチで反撃しにくいかが決まる。
同じようにMMAのなかで、カーフキックの対応によって、その次の技のトランジション(移行・繋ぎ)も変わってくる。
金原は、その一例として、動画のなかで「僕がよく使うのは、カットしてくる選手に、ローを蹴るふりをして相手の外側に足を運び、それに相手の足を引っかけるようにして、外側の手で相手を後方に倒す」というムエタイのこかしに似た動きを披露。
さらに、「その手の捌きを、外足を引いてステップバックされたら、そのまま詰めてボディロックやシングルレッグでテイクダウンに行くこともできる」と、カーフキックからの展開を実技している。
「カーフキックを嫌う選手がもっと増えてくると、テイクダウンしやすくなったり、いろいろな攻撃のバリエーションも増えてくると思います。みんなバカみたいに蹴ってくるようになってくると思いますが、絶対に防げない技じゃない」
そう語る金原は、冒頭で記した通り、カーフキックに傾倒することで、技術の幅が狭まることも危惧している。
「距離を取って、カーフで組み立てる人もこれから増えてくるでしょう。ケージレスリングの技術が向上していくなかでポイントゲームになるように、競技性が高まると仕方無い部分はある。リスクを負わずに勝てるならそれにこしたことはないと考える人も増える。時代の流れだとは思いますが……」と言いながらも、パンチとカーフキックの最強コンビネーションだけでは勝ち続けることは出来ない、とも語る。
「カーフキックに対して、距離を潰せれば問題ないんです。楽をしようとせず、組むことが出来ればもらわない。あるいは構えを考える。広いスタンスで近距離で、ひたすらテイクダウンを切ってパンチ狙いで組まないという構えだと、カットが出来ない」
距離が変われば、蹴りもパンチも組みも変わる。冒頭に記した通り「相手に対してリズム感や距離感が合わなければ、パンチも蹴りもテイクダウンも合わせることはできない」のがMMAだ。
技術は巡る。かつて猛威を振るった三日月蹴りは、MMAの動きのひとつとして、効果的な効かせ方とその防御方法も認知されつつある。
「対処が出来ていないと、ひとつもらってしまうだけで、ゲームの流れが変わってしまう」可能性を持つカーフキックの、今後の展開に注目だ。