マネル・ケイプに左フックを当てるパントージャ。(C)Chris Unger/Zuffa LLC
2021年2月6日(日本時間7日)米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて「UFC Fight Night: Overeem vs. Volkov」が開催され、フライ級ランキング5位のアレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル)が、元RIZINバンタム級王者のマネル・ケイプ(アンゴラ)を判定3-0(29-28×2, 30-27)で撃破。UFC戦績を7勝3敗とした。
2016年8月のUFC登竜門番組「TUF」で、扇久保博正に判定負けも、UFC本戦では、後の王者デイブソン・フィゲイレードと渡り合い、フィゲイレードとドローのブランドン・モレノに判定勝ち、かつてケイプが判定負けしている佐々木憂流迦にも一本勝ちの戦績を誇る。2020年7月の前戦では、ロシアの13勝無敗1分アスカー・アスカロフに判定負けを喫したが、フライ級戦線も実力者ぞろいであることは間違いない。
試合を制したのは、パントージャの蹴りだった。
試合の入りはサウスポー構えだったケイプに、圧力をかけてダブルレッグに入ったパントージャ。ここは切ったケイプだが、ナチュラルなオーソドックス構えになると、パントージャは右のカーフキック! ボクシングベースのケイプが、大きくスタンスを開いて構えた前足に、パントージャが外側からのローキックをふくらはぎに当てると、ケイプはサウスポー構えが多くなっていった。
朝倉海との2度目の試合で海をマットに沈めた右のパワーハンドが、サウスポー構えで前手になるなか、パントージャは、得意の右ミドルもヒット。徐々にケイプを手詰まりにさせていった。
実は、この展開の一部を的中させた選手がいる。4年半前の「TUF」でパントージャを判定で下した扇久保博正だ。
今回のフライ級戦の両者をよく知る扇久保は自身のYouTubeで、パンチ勝負では、「ケイプはかなりボクシングがうまい。パンチの勝負になると、いつも通り、パントージャはガンガン行くと思うけど、ケイプは柔らかくいなして、懐に入って当たんないように思う」と、ケイプ有利を予想しながらも、「蹴りも使うと展開は変わる。ケイプは上体で避けるのでハイキック、ミドルキックが有効だと思う。パントージャはミドルを結構打つし、それを作戦に入れていけば、削って削って、ケイプがバックを見せたところで寝技で極められる」と予想していた。
2019年大晦日に、石渡伸太郎にスプリット判定勝ちを収め、当時バンタム級王者だったケイプへの挑戦権を獲得していた扇久保は、「もし僕がケイプと戦うなら、距離を取ってジャブをついて、蹴りで削って、相手が焦れてパンチで来たときにタックルを合わせる」と語っていた。
ジャブを当て、カーフキックで右を封じ、さらにミドルキックでパンチの距離を潰したパントージャ。グラウンドに持ち込めば、佐々木を極めた寝技の強さを見せることができる。しかし、2R以降、各試合のラウンド終盤にテイクダウンに行ったのは、ケイプの方だった。
攻撃を印象づける時間帯でのダブルレッグテイクダウン。ここで、パントージャはスクランブルから足を効かせての立ち上がりを見せている。逆に言えば、ケイプもテイクダウンからの抑え込みには固執せず、「立たせてバックテイクからコントロール」の動きで、ラウンドを終えている。それは、パウンドで削れれば削るものの、倒しても「寝技」の展開を避けたかったからとも考えられる。パントージャが倒されてもダメージ無く立ち上がった、このケイプのテイクダウンアテンプトは、判定において大きなポイントメイクにはならなかった。
扇久保は、近年のパントージャについて、「僕と戦った後にATTに移籍して、レスリングが急激に強くなった。打撃も以前はクロールみたいに(振り回して)打ち勝つのが、いまは綺麗に打つ。僕とやったときより強くなっている」と語り、パントージャ勝利を予想していた。
ATTでパントージャはケイプと対戦した経験を持つ堀口とも交流したが、新型コロナウイルスの陽性反応で、一度、試合は延期となっている。練習では、現ONE Championshipフライ級王者のアドリアーノ・モラエスとも練習。90年代にムエタイ選手からカーフキックを伝授されたとも言われるファビオ・ノグチの黒帯マカラオコーチとキックの練習を積んできた。
試合後、パントージャは、「彼のボディを蹴ろうとしてるとみんな思ってただろうけど、(ガードしてきた)彼の腕をキックでへし折ることを考えてた。5発目のキックで、俺は彼の腕を破壊できると確信した」と語っている。
サウスポー構えになった時のストレートも封じられたケイプにとって、前戦のように蹴りを多用しない朝倉海をダウンさせた距離では戦えなかったことは確かだ。そして、ウィークポイントである寝技があることによって、パントージャの組みのプレッシャーも感じながら戦わざるを得なかった。
1年2カ月ぶりの試合のブランクの影響もあったであろうケイプは、試合後、「ごめんなさい、日本」とツイート。
勝者のパントージャは、「タフな対戦相手であるほど、戦略が重要になる。ミステイクが1秒でもあったら、ドボンだ。自分は3R・計15分を戦うつもりで準備してきている。14年もやってきて、もう違う人間になっているというか、何より賢くなった。どんな相手とでも、誰とでも戦えるし、優れたストライカーであるマネルとだってそれで勝負できるし、柔術だってできる。すべてが頭に入ってる。コーチは俺に必要な全部を叩き込んでくれてる」と、試合を振り返った。
試合に向かう様々な環境、自身と相手の武器、相対関係によってそれぞれの試合は異なる。世界最高峰の舞台では、出来ないことがあれば、すぐにそこを突かれ、すべてが出来た上で、さらにストロングポイントが突出している選手同士が凌ぎ合いを戦っている。
フライ級王者との再戦をアピールしたパントージャ、オクタゴンでの再起を誓うケイプ、そしてかつて彼らと対戦した日本のファイターは、どんな進化を目指すか。RIZIN王者の敗戦は、海の向こうの出来事ではない。
以下は、試合を終えたパントージャとの一問一答だ。