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インタビュー

板垣恵介が描く「フィジカルの天才が集まる世界」大相撲

2019/04/16 14:04
『大相撲ジャーナル』の増刊号として復刊した『ゴング格闘技』。その『大相撲ジャーナル』に、漫画家・板垣恵介のインタビューが掲載されている。現在、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で好評連載中の『バキ道』にて、大相撲を描いている板垣は、大鵬の時代からの大ファンだという。板垣が語る相撲の魅力、『バキ道』に登場する相撲キャラクターとは? 『ゴング格闘技』Yahoo! ニュース配信記念インタビュー。 実戦で「地上最強」相撲を描くチャンスをずっと探していた ──板垣恵介さんが相撲を見るようになったのはいつ頃からでしょうか。 「柏鵬時代から見ていましたね。昭和38年というと巨人・大鵬・卵焼きの時代。大鵬関に比べて、柏戸関はちょっと落ちる印象がありましたね。今の自分の感性で当時の相撲を見たら、きっとおもしろかったと思います。剛の柏戸に柔の大鵬。きっと見応えがあるだろうな。当時は今のような感性がなかった時代でしたから。相撲はおもしろかった」 【写真】昭和39年11月の大鵬の土俵入り。(C)大相撲ジャーナル ──他に格闘技はご覧になっていたのですか。 「プロレスもよく見ていました。力道山の全盛時代でしたから、デストロイヤーとの名勝負も見ていましたよ。嫌いな格闘技はありませんでしたね。プロレスや空手に夢中になっている頃は、むしろ相撲ってのんびりとした、ゆるい印象がありましたね」 ──今では相撲の強さを描いていますね。 「相撲に対する知識が増えていくにつれて、本物の天才が集まる世界、フィジカルの天才が集まる世界と思うようになりました。全盛期に比べたら新弟子は集まっていませんが、それでも強い」 ──そこまで力士は強いと思われますか。 「地方巡業の時、地元のアマ相撲の横綱などが序ノ口力士を相手に勝ったりして、プロが時々、恥をかかされるから、千代の富士関が相手になったという話を聞いたことがあります。地元の実力者より小さくて細い千代の富士関がやぐら投げなど派手な技を披露すると、やっぱりプロはすごいんだなあとなりますよ」 ──板垣さんが漫画で相撲を取り上げようと考えたきっかけは? 相撲の強さとは何か?『バキ道』では主人公の刃牙が、「宿禰」の称号を継ぐ者と対峙する。(C)板垣恵介(秋田書店)1992 「相撲はすごいんじゃないかという思いが、10年くらいかけてジワジワと沸き起こってきたんです。そして、千代の富士関が活躍するようになってきたあたりから、やはりとんでもない格闘技なのではないかと思うようになりました」 ──相撲がすごいと思うようになったわけですね。 「空手界で大山倍達さんが創始された極真空手が“地上最強”と言われていた時、全日本選手権(第9回)の優勝者で、大道塾という団体を設立した東孝さんが『本当に他の競技にも負けない空手、実戦で負けない空手を作りたいが、現時点ではそうではない』といった趣旨の話をされたのです」 ──地上最強の全日本王者が空手よりも強い格闘技があると言ったわけですね。 「そこで、いろいろな格闘技から10人ずつ出してきた場合、どの格闘技が一番強いのかという議論になった時、当時、東さんは大相撲がナンバー1、2番目がレスリングの130キロ超級で、その次がボクシングのヘビー級となったわけです。そうなったら空手は何番目になるのだと。師である大山倍達さんに反旗を翻すようなことを言ったわけです」 ──そこまで相撲がすごいと。板垣さんも同じような考えなのですね。 「立ち合いから10秒の間に千代の富士関や白鵬関が他の格闘技の選手と戦ったら、やりたいことをやれるのではないかと思います。UFC(総合格闘技)のチャンピオンでも、打たれる覚悟をして向かってくる千代の富士関や白鵬関は止められないのでは」 【写真】昭和56年名古屋場所千秋楽、千代の富士が北の湖を一気に寄り切る。(C)大相撲ジャーナル ──確かに、土俵という空間のなかでの相撲の立ち合いの迫力は他の競技にはないものです。 「頭から当たってゆく。ぶつかり合った時の音はすごいです。我々がぶつかったら、放物線を描いてすっ飛びますよ。相撲を描くチャンスをずっと探していたのです」 ──なるほど。 「以前、ファミレスに食事に行った時、ものすごく大きいお客さんにサインを頼まれた。前頭までいった相撲取りですと。しこ名は聞きませんでしたが。体重もやせたと言いながら、140キロあると聞いて驚きました」 ──その方とはどんなお話をされたのですか。 「横綱、大関に胸を借りる機会はなかったそうですが、三役力士に稽古で胸を出してもらったら、押している気がしなかったと話していました」 ──力士は引退しても大きく、力は強いのでしょうね。 「旧K-1の石井和義さんは相撲に自信があり、力士と一緒になる機会があったら、四つに組ませてもらうそうです。ある時、横綱の若乃花勝さんと会って組ませてもらったら、体がクルッと1回転して、そっと下ろされたと」 ──横綱は違いますね。 「ご自身も格闘技をされている東大の松原隆一郎さんにうかがったのですが、千代の富士関の引退相撲に出席された時、体中に手の跡がいっぱいついていたそうです。現役から離れると、短期間に肉体の衰えはまず皮膚に表れるのだと話していました」 相撲の押せない、つられない、見えない技術を描けたら ──好きな力士は? 「たくさんいますよ。白鵬関はひよっとして史上最強の力士かも……と思います。テレビで武蔵丸さん(元横綱、現武蔵川親方)と魁皇さん(元大関、現浅香山親方)の腕相撲を見たことがありましたけど、魁皇さんの腕力はすごかったですね」 ──取材などで格闘技の選手と会われる機会も多いのでは。 「一番、分厚い手だったのが空手家の中村日出夫さん。垂木を手刀で切るというすごい手なのですが、朝青龍と握手をしたら、中村さんの手の厚さをらくらく超えていて驚きました。白鵬関をはじめ力士とも何人と握手をしましたが、みんなこの手なんだと。オレの握力の10倍くらいあって、手をクッシャと潰せるのではと実感しましたね」 ──手刀に似ているかもしれませんが、張り手を得意としている力士も多いです。 「旭道山関はすごかった。掌底(しょうてい)突きで久島海関を倒しましたよね。あの技は立ち合い寸前で思いついたわけがない。きっと頭にあったはず。気のない感じで仕切って、立って倒したあと相手を見ようともしなかった。あの姿が色っぽかった……」 ──板垣さんご自身の格闘技の経験は? 「高校で少林寺拳法を始め、陸上自衛隊に入隊してからは、ボクシングで国体に出たこともありました。ただ、ボクシングは階級制ですが、相撲は無差別級。相手との体重差が100キロ以上ということがあるわけですからそりゃあ、おもしろい」 ──相撲のどういった面を漫画に取り入れたいと考えていますか。「力士それぞれのフィジカルに加え、打たれる覚悟で向かっていった時の動き、見えにくい技術などを、どうやって取り入れていこうかと考えています」 ──見えにくい技術とは? 「習志野の第1空挺(くうてい)団にいた頃、そこの“横綱”と呼ばれていた先輩と相撲を取らせてもらったことがあったのです。ちょっと組ませて下さい、といった感じで。その時、一番力が出るのはこの形か、こうすれば押されないのかといったように、やらせてもらったのです。そういった押せない、つられないといった見えない技術を描くことができたらいいと思っています」 ──『バキ道』ではオリバが宿禰(すくね)氏にパンチをして「相撲にスタートはない」という場面があります。 「立ち合いで相手の虚をつこうとするところがおもしろい。一方で“相手”との呼吸を合わせて同時に立つわけで、大人の競技。あらゆる格闘技の中で1つだけ。わざと合わせないようにする技術もあるわけで、そこにフェイントもありそう。立ち合い1つ取っても奥行が深い」 ──キャラクターを描くにあたってイメージしていることは? 「顔が大切。いい顔を描かなくてはいけない。貴景勝関はいいですよ。あの愛想のなさは。勝ってもべらべらしゃべらないのがいいですね。度胸がいいし、体が小さいのがまたいい。あの小ささで勝ち進んでいくにつれて、小さい力士が有利だと言う人まで出てきた。あの体形ではつかまえるのが難しいからと。勝っている時はどうにでもたたえられる」 ──他にいい顔をしていると思う力士はいますか? 【写真】初場所10日目、立ち合いで千代大龍を張る松鳳山。(C)大相撲ジャーナル 【写真】初場所4日目、栃煌山を突き出しで下した髙安。(C)大相撲ジャーナル 「松鳳山関もいいですね。あの人の決着のついたあとのふるまい、所作がかっこいい。髙安関はフィジカルがすごい。最も人間離れしているように見える。横綱を期待しますよ」 ──相撲界に望むことはありますか? 「青少年に言いたいのは、『(相撲は)今、おいしいよ』ということ。今、大鵬関、千代の富士関、貴乃花関がいたら国の英雄になれますよ。様々なプロスポーツと比べると決して高給ではないかもしれませんが、世の中から称賛され、リスペクトされる。10代の子供たちの中には身長190センチ台のフィジカルの天才がいるわけで、『あそこ(相撲界)は狙い目だぞ』と伝えたい。もしモンゴルを代表する外国勢の“天敵”になれたら国を代表する大英雄になれますよ」 ──読者にどういうことを伝えたいですか? 「相撲を長期的に見てほしい。丁寧に見たら絶対におもしろいから。オレが仲良くなった人に相撲を勧めて、ハマらなかった人はいませんよ。相撲を覚えていくと『この力士は前回どうだった』とか成長が見えるようになって、それくらいまで分かってくると、絶対におもしろくなってきます」(聞き手・長山 聡) ◆板垣恵介(いたがき・けいすけ)昭和32年4月4日、北海道釧路市出身。61歳。少年時から相撲をはじめ格闘技に興味を持ち、高校で少林寺拳法を始めた。20歳で陸上自衛隊に入隊し、ボクシングで国体に出場するなどした。除隊後、昭和57年に漫画を描き始め、平成元年に『メイキャッパー』でデビュー。同3年から週刊少年チャンピオンで『グラップラー刃牙』の連載を開始。その後、シリーズ第2部『バキ』、第3部『範馬刃牙』、第4部『刃牙道』が人気を博し、現在は第5部『バキ道』を連載している。 ◆グラップラー刀牙(グラップラー・バキ)平成3年から『週刊少年チャンピオン』で連載がスタート。地下闘技場の最年少チャンピオン範馬刃牙と、刃牙の父で地上最強の生物と謳われる範馬勇次郎を中心に、様々な格闘家との闘いが描かれている。『バキ』、『範馬刃牙』、『刃牙道』、『バキ道』をはじめとするシリーズの発行部数は2018年の時点で累計7500万部という大ヒットとなっている。 ◆大相撲ジャーナル板垣恵介 独占インタビューが掲載された『大相撲ジャーナル』3月号(株式会社アプリスタイル発売)。最新号は5月2日(木)発売予定。大相撲「五月場所」は5月12日に両国国技館にて初日を迎える。
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