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【UFC】“チベットの鷲”がオクタゴンで44秒勝利、エンボーファイトクラブのその後

2020/11/30 15:11
【UFC】“チベットの鷲”がオクタゴンで44秒勝利、エンボーファイトクラブのその後

(C)Chris Unger/Zuffa LLC

 2020年11月28日(日本時間29日)に開催された「UFC Fight Night: Smith vs. Clark」にて、1人のチベットファイターがオクタゴン2勝目を挙げた。

▼フライ級 5分3R
○ス・ムダルジ(中国)
[1R 0分44秒 KO] ※左ストレート
×マルコム・ゴードン(カナダ)

 わずか44秒。UFCフライ級の最速フィニッシュ3位となるKO記録をマークしたス・ムダルジは、UFC初のチベットファイター。中国四川省の首都・成都にあるエンボー(恩波)ファイトクラブに所属し、MMAで13勝4敗をマークしたことになる。

 ムダルジが所属するエンボーファイトクラブは、かつて中国人民武装警察部隊員だったエン・ボー氏が創設した格闘技ジム。貧困に苦しむ涼山イ族自治州の少数民族の子供たちを集め、MMAファイターとして育成してきたが、2017年には地方当局が少年たち数人をクラブから連行し、故郷へ戻すなどの介入もあり、論争を巻き起こしてきた。

 チベット自治区のある四川出身のエン・ボー氏は、8歳で父親を亡くし、18歳で散打を始め、1980年に武装警察の大会で優勝を果たしている。1982年に「エンボーファイトクラブ」を結成。2000年には、アバ・チベット族チャン族自治州に、初の散打チームを設立。10年をかけてMMAを含むファイトチームに発展させた。

 一時、社会的に恵まれない思春期の少年たちがMMAで競い合うビデオが拡散され、非難を浴びることとなった同氏だが、その後システムは改善方向にあり、現在は学業などにも配慮されたプログラムが組まれているという。

 そんななか、14歳で散打を始めたムダルジは、エンボーファイトクラブが散打からMMA中心に移行していく時期に、同クラブでトレーニングを積んできたファイターといえる。


(C)Brandon Magnus/Zuffa LLC

“チベットの鷲”ムダルジは、2016年1月のプロMMAデビュー後、WLF(武林風)等で活躍。初戦の北京大会でルイス・スモルカに腕十字で完敗後、ダゲスタン共和国で単身、半年間の合宿を積み、自身の弱点であったレスリングと柔術を特訓。その後、アンドレ・スーカムタスに判定勝利、そして今回、UFC初のKO勝ちを収めた。

 師匠エンボー氏もダゲスタンからザビット・マゴメドシャリポフ(UFCフェザー級3位)らをコーチとして招聘。13歳からダゲスタンの山々に囲まれた武術寄宿学校「パエ・ストロン・スヴェタ(世界の五方位)」に住み込みで切磋琢磨してきたマゴメドシャリポフは、チベットファイターたちの寄宿生たちの境遇を理解し、熱心にMMAを指導している姿が伝えられている。

 また、散打を通じてハビブ・ヌルマゴメドフの亡き父アブドゥルマナプとも交流を深めて来た。

 UFCで初勝利を挙げたときムダルジは、「心の底から思うのは、努力がすべて報われたということ。チームに感謝している。トレーニングや自分の成長に関して彼らがとても助けてくれた。過去の試合で抱えていた弱点を直すために長い時間をかけてトレーニングしてきたから、オクタゴンに上がる前から今回の試合は勝つつもりでいた。チベット出身のファンもたくさんいる。それらすべての応援が自分の力になっている」と語り、今回のUFC2勝目で「あっという間にフィニッシュしたけど、今日(見せたの)がすべてじゃない。すぐにまた試合ができることを願っている。来月、相手は誰でもいいから試合がしたい。ただ、トップランカーがいい」と、フライ級転向で、上位進出を目標に掲げた。

 高地トレーニングにより、強い持久力を持つチベットやダゲスタンのファイターたち。ムダルジは「ダゲスタンとチベットは同じ武道の精神を持っている。勝敗にこだわり、通常時の練習から激しいトレーニングを積んでいる」と力強く語っている。

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