MMA
インタビュー

【ONE】“野生獣”手塚裕之、キャリア最大の難敵に挑む「自分のやることは、拳で眠らせること」=11月13日(金)配信

2020/11/13 10:11
 2020年11月13日(金)21時30分から、シンガポール・インドアスタジアムで事前収録された「ONE: INSIDE THE MATRIX 3」が配信される。  同大会では、日本から箕輪ひろば(総合格闘技道場STF)と、手塚裕之(ハイブリッドレスリング山田道場/TGFC)が出場する。 “野生獣”の異名で知られる手塚は農家と格闘家の二足の草鞋を履くファイター。今回は、MMA9戦無敗の超強豪ムラド・ラマザノフと対戦する。 「筋肉と米は裏切らない」をモットーとする手塚だが、シンガポールでの隔離生活では、思わぬピンチを迎えることに。そこで手塚がたどり着いた境地と、打開策とは? 「ONE: INSIDE THE MATRIX 3」は、11月13日(金)午後9時30分(日本時間)より、ONE Championship公式アプリ、またはABEMA格闘チャンネルで視聴が可能だ。 ──シンガポール入りする前、日本での練習状況はどのような形でしたでしょうか。 「朝・昼・夜と基本大体3部練習で回しています」 ――3部練習……1週間に休みは? 「日曜日は休み、1日取っていますね」 ――3部練でも疲労は溜まらないですか? 「そこまで溜まっていないですね。大丈夫でした」 ――現地入りしてから、PCR検査がありホテルに缶詰め状態にあると。 「はい。4日目になります。到着したときにシンガポールの空港でPCR検査をして、ホテルに直行し、部屋のなかで縄跳びなどをしていたのですが、昨日の夜にコロナの陰性の結果が出ましたので、トレーニングルームへの外出が認められ、そこでセコンドの人とミット打ちなどが出来るようになりました」 ――“野生獣”の手塚選手としては、こもりっきりだと気持ちが滅入ったりしませんか。 「そうですね(苦笑)。まあ、やっぱり地元とか、田舎の自然がいっぱいあるところが落ち着くというのはあるんですけど、まあでも、置かれている状況がみんな同じなのでしょうがないと思って。逆に今しかできないこととかを、楽しんでいる感じです」 ――さて、今回の対戦相手がロシアのムラド・ラマザノフになると聞いたのはいつくらいですか? 「対戦相手を聞いたのは2週間前くらいでしたね。試合から約3週間前ということになります」 ――それが、MMA9戦無敗のラマザノフと聞いたときの印象は? 「最初はすぐには顔と結びつかなくて、誰だか」 ――動画を見直したら……。 「ビデオをチェックしたら、とんでもなく強いロシア人らしいと」 ――ロシアの中でも、あのハビブ・ヌルマゴメドフで知られるダゲスタン共和国出身です。動画を見直すとゴリゴリのレスラーと感じました。いかがでしたか。 「本当にレスラーで、しっかりグラップリングも──MMAグラップリングも上手いというか、しっかりパスして極めたり、いいポジションを取って殴るというのが彼の持ち味なんじゃないでしょうか」 ――打撃を組みに合わせてきます。 「そうですね。あっちは組むための打撃なので、そこまでヌルマゴメドフのような1発があるような感じではないです。でも見ずにもらうと効く。テイクダウンが強いから打撃を入れにくいというのはあるかもしれないですけど、こっちとしては打撃で倒し切りたいですね」 ――手塚選手は、9月の『ROAD to ONE 3rd:TOKYO FIGHT NIGHT』でグンター・カルンダにTKO勝ちした。新型コロナウイルスの影響下ながら、あの時点で1試合出来たことは、手塚選手にとってはプラスになりましたか。 「そうですね。あそこで試合をして、ほとんど怪我が無かったので、試合後すぐに控室にマッチメイカーの方が来て、『来月どうですか?』と言われて。その場はちょっと試合直後で興奮しているから、一晩寝てからと思って、次の日に冷静になって考えて、普通に怪我も無さそうだし、出来るときに──今コロナでなかなか試合が無いというファイターが多いじゃないですか──こういう風に試合で出来るときに、勢いがあるときにポンポンやっちゃおうと思ったんです」 (C)SUSUMU NAGAO ――カルンダ戦は、サウスポー相手にオーソから左フックをかなり当てていました。打撃の進化についてはどのくらい手応えを得ていますか。 「去年のONEの日本大会で勝って(UFC参戦経験もあるエルナニ・ペルペトゥオに判定勝ち)、その後くらいから、宇都宮にあるキックボクシングジム・ゼロで、今回セコンドとして帯同してくれている高林(和也)会長と打撃をみっちりやるようになって。それから初めての試合が、この間のカルンダ戦でした。あれはもう本当に作戦どおりで、最後に合わせた左フックも何回も繰り返して、ミット打ちで対策してた動きでした。その意味では、やっぱり進化を感じてる部分はありますね」 ――対レスリングに関しては、ラマザノフは2月の前戦でペ・ミョンホ選手をシングルレッグで片足を股に挟んで、そのままボディロックしてテイクダウンという、あんな体勢でテイクダウン出来るのか、と驚きました。 「ああー、あれはほかの人からも指摘されましたね。見た目的にもおかしいんですが(笑)、フィジカルは相当強いと思うので、ある程度強引にやってきても技がかかっちゃったりするんでしょうね。そこらへんは気を付けてというか、すごく身体も強いというふうに仮定して臨もうと思っています。レスラー自体があまり周りにいないので、あんまりレスラーとはやっていないですけど、ただ、いつもより多くテイクダウンに入ってもらったりとか、あとは万が一倒されたときも、抑え込まれて一番不利な状態からスタートする。そこからエスケープの練習だとかは多くやってきました」 ――9勝無敗ということですが、ONE以外の試合もご覧になられましたか。 「見ました。たぶんロシアの大会なんでしょうけど、相手が寝技系の選手で結構、最初押されている感じがあったんですけど、首一本入っちゃったらギロチンですぐ取った試合を見ました。でも、あれは1回ダウンしているんですよね、ラマザノフは。そのシーンを見てみると、相手に対してすごい余裕で無防備で突っ込んでいたときにもらっているので、今回は僕に対してたぶん打撃を警戒してくると思うので、そんな簡単にはいかないなとも思いました」 ――ラマザノフに負けが無い理由は、やはり並外れて強いテイクダウンとパスガード、パウンドにありますか。 「やっぱりヌルマゴとかもそうですけど、あのスタイルが出来るのは堅い。1回あの展開に持ち込んだらハメていけるので、相手には“ラッキーが無い”ような戦い方です。でも逆に、その型まで行けなかったときは、ツラいと思うんです」 ――なるほど。その型にハメさせないと。 「“いつも通りにいかないな”と思わせたいです」 [nextpage] 日本大会があるなら、秋山さんとウェルター級の頂上対決をやっても面白いんじゃないかと ――ラマザノフですけど、ウェルター級のトップ10ファイターと目され、秋山成勲選手の上あたりに位置するのではないかと思われます。そのラマザノフと戦うことは、手塚選手の中でどんな位置付けで考えていますか。 「ウェルター級の中では無敗ですし、かなりベルトにも近い存在なんじゃないかな、という認識はしています。タイトルマッチでアバゾフと無敗のナカシマが対戦する(※アバゾフがTKO勝ち)、そんな中で、僕の場合は一戦一戦与えられた試合を勝っていく。日本大会とかがあるのであれば、そこで秋山さんとウェルター級の日本人の頂上対決をやっても面白いんじゃないかと思っています」 ――おおっ、岡見選手がミドル級に復帰したいま、日本のウェルター級のトップを決めたいと。 「盛り上がりそうかなと思って。やりたくないカードかもしれませんけど(笑)」 ――なるほど。そんな展望を抱くなか、ダゲスタン共和国vs.下野国……ちょっと比較の規模を間違えましたが、栃木っ子も負けられませんね。しかし、だんだん外が寒くなってきましたので、手塚選手が日課とする屋外トレーニングの機会が減ったのでは、と思いました。さすがにいまは川で泳いだりは……。 「寒中水泳は本当に一番寒くなったときとかにしますね」 ――一番寒くなったとき?(苦笑)。 「はい。屋外では走り込みとか、ジャンプ系とか、フィジカル強化をやってきました。僕らの練習だと、サーキットとかをやるにしても『うわーっ』と大きい声を出したり、人目を気にせずに裸で出来る環境は外になっちゃうので」 ――「人目を気にせず裸になれる外」というのは都会だとビーチくらいに限られると思うのですが(笑)、やっぱり裸なんですね。 「裸で自然を感じながらやっています!」 ――コールドトレーニングは? 「夏場の間とかは毎日冷水のシャワーは浴びるようにしていて。それは毎日続けてます」 ――アイスバス代わりで疲労回復になる? 「そうです」 ――身体的に新たに取り組んできたトレーニングもありますか。 「フィジカルの面なんですけど、これまでボディビル的なトレーニングばかりしてきたんですけど、それを筋肉を肥大させるというよりは、持っている筋力をうまく連動させて、動きに繋げるような、本当のアスリートのトレーニングを教えてもらうようになりました」 ――筋力を連動させると。 「身体全体をうまく効率的に使って、動きを最速化させたり最適化させるという。例えば普通の筋トレって、筋肉自体に大きく負荷をかけないといけないので、一つの関節をロックして、例えばここの二頭筋だったりを鍛えるんですけど、それって不自然な動きじゃないですか。自然界でいうと、重いものを腕で持ち上げようと思ったら、足から連動させて反動を使って上げるほうが自然な動きになる。僕の場合、もうウェルター級としての身体も出来てきたので、これ以上、肥大させる必要がそろそろ無いかなと思ってたので、より競技に特化した身体になっていこうかなと思って。自分でも勉強をしたり、パーソナルの方に頼んだりするようになりました」 ――専門の方について、筋肉を連動させて、地面からも自分の力を伝える感じでしょうか。 「そうですね。けっこう地元で空手の選手とかを教えたりしてるパーソナルトレーナーの方に習っています。あとは……けっこう本とかを読むんですけど、麻雀の世界で、20年間無敗だったら桜井章一さんの本をけっこう読んでいます」 [nextpage] 自然体になるには自然を理解していないといけない ――フィジカルから思考へ、“雀鬼”ですね。 「はい。麻雀の勝負の世界で20年間無敗なんてそうとう凄いし、全然競技は違いますけど、どういうことを考えてるのかなと思って。けっこう本が出ていたので、ちょっと買って読んでみたら、桜井さんも自然をすごい大切にしてたんですよ」 ――おおっ、思考からフィジカルに繋がりました。 「やっぱり力いっぱい動こうと思っていると人間は変なところで力むから硬くなって遅くなる、と書いてあって。脱力するためには自然体でいなくちゃいけなくて、自然体になるには自然というものを理解していないといけないから、自然の中に身を置いているほうが強い、というのでした。実際に試合前に自然の中に行ったり、試合中の動きとかも、川を流れる水のようにとか、落ち葉が落ちる自然な動きをイメージしながらやっていた、と書いてありましたね」 ――「自然体になるには自然を理解しなくてはいけない」、まるで剣豪のような境地に手塚選手はなっていると。「勝負」の面でも参考になりそうですね。 「勝負どころについては、不利な状況に陥ったときが勝負どころと言っていました。あとは、勝ちを欲するなと。美しく負けることを考えて試合に臨むと勝つと。いい勝負をしようというふうに気持ちを持っていくことが大切と言っていました」 ――圧倒的に不利なときに勝負どころが訪れる、と。しかし勝ちを欲するな、というのは難しそうです。 「勝とうと思うことは人間の傲慢さからきていて、自然界では野生動物は負けないという気持ちなんだと。食われないために。だから、勝とうと思っている動物っていなくて、死なないために負けないという気持ちなんだと」 ――確かに格闘技の本質はサバイブすることですから、生き残ることが競技のなかでも勝つことに繋がれば……。桜井さんは「弱い人は修正力がない」とも言っていますね。 「そうですね。それも生き残ることに繋がりますね。試合のなかで不利な状況になっても修正し、自分のベストを尽くす。不確実なことはあまり言いたくないので、これまでも絶対勝ちますとまでは言わなかったんですけど、桜井さんも、負けないぞという気持ちで臨むといいと書いてありました」 ――では最後にファンにメッセージをお願いします。 「今回、当初のアギラン・タニ選手から急きょ相手が変わって、ラマザノフ選手とやることになったんですけど、自分のやることはいつもと変わらず、拳で眠らせることなので、それに集中して倒します。そして……筋肉と米は裏切らない!」 ――あっ、シンガポールの食事は大丈夫なんでしょうか。 「それが……ごはんが毎回運ばれてくるんですけど、ごはんというか、弁当が3食。米が無いんですよ。大体芋かオートミールとかなので」 ――えっ、“野生獣”のもととなる米が無いのはピンチじゃないですか。 「炊飯器も持ってこなかったのですが、自分でデリバリーも出来るので、ウーバーイーツみたいな感じで頼んでます!」 ――じゃあ米は食べたんですね。 「安心してください、米は毎日食べるようにしてます! 」 ――オートミールでしぼんでいく手塚選手を見なくて良かったです(笑)。試合、楽しみにしています。 「日本からも応援、よろしくお願いします!」
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