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【BOOKS】格闘家はどんな本を読んできたのか──青木真也、朝倉未来、石井慧、堀口恭司、那須川天心らが「好きな本」

2020/04/27 21:04
 4月23日「世界本の日」に、多くのファイターたちが、愛読書や好きな漫画などを語った。  同日は、スペイン・カタルーニャ地方の伝説で、“悪獣のいけにえに差し出された王女を救った騎士”サン・ジョルディが殉教した日ともされ、いつしかこの日に大切な人と本と花を贈りあって、愛する気持ちを伝え合うようになったという。また、4月23日はシェイエクスピア、ミゲル・デ・セルバンテスなど多くの文筆家の誕生日や命日でもある。  新型コロナウイルスの感染拡大防止のため外出自粛が続くなか、週末やゴールデンウイークも、自宅待機が求められている。そんな“巣ごもり”時間を有意義に過ごすのに、室内でのトレーニングに加え、読書は最適と思わられる。  ファイターたちは、これまでどんな本を読んできたのか。まずは、ONE Championshipのファイターから紹介する。 “思考の格闘家”として『空気を読んではいけない』『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし』などの著作もある青木真也(Evolve MMA)。  ONEでは、2019年3月にエドゥアルド・フォラヤンを肩固めで極めてライト級王座奪還。同年4月に若き天才クリスチャン・リーに王座を明け渡したものの、10月の日本大会でホノリオ・バナリオに一本勝ち。さらに2020年4月の「Road to ONE:2nd」では、世羅智茂とのグラップリングマッチでドローとなっている。  小学3年から柔道を始め、2003年11月の総合格闘技デビューから17年目を迎えたいまもトップ戦線で存在感を増している青木が、「思い出の本」として挙げたのは、『日本人のメンタル・トレーニング』(長田一臣・著)だ。 ◆青木真也・選『日本人のメンタル・トレーニング』(長田一臣)  日本のスポーツ選手向けの、成功への哲学とメンタル・マネジメントを記した同書に、青木は「中学生の時に書店で出会った」という。 「初めて技術本を買ったのは小学生の時」と自著で振り返る通り、幼い頃から、様々な面において強さを追求する研究熱心な青木の姿勢がうかがえる。  著者の長田一臣は、体操の具志堅幸司、柔道の古賀稔彦、恵本裕子ら金メダリストを指導してきた、スポーツにおける催眠や自律訓練法の第一人者。  メンタル・トレーニングにおける“暗示語”を主に、「哲学的暗示」「ものの見方・見え方の暗示」「競技別特徴的な暗示」「イメージ・トレーニングの暗示」などで使用し、血の通った「人間学的心理学」の立場から、オリンピック選手たちを勝利に導いた。  たとえば、ロサンゼルス五輪体操金メダリストの具志堅が使用した「暗示放尿」は、放尿とともに不安や緊張も一緒にすべて流れ出ていくとイメージするもの。マイナス要素が尿とともに身体から出て、身も心もすっきりするという。  一流選手たちを開眼させた『勝利の呪文』では、「やるだけやったら、あとは心、気の持ちようだ。事に臨んでは肚(はら)をくくるしかない─―自分は自分にほかならず、それ以上でもなければ以下でもない。勝ち負けよりも納得のいく試合を心がけよ。あとは大きなものの掌の上のこと。人事を尽くして天命を待て─―勝負も人生も所詮納得の問題だ」と、長田は記している。 「やるだけやった」上で、青木は「競技別特徴的な暗示」をどのように取り入れているのか。試合前の呼吸方法も含め興味深いところだ。  カーフキックの“壊し屋”高橋遼伍(KRAZY BEE)は、MMA8連勝をマークし、2020年1月の「ONE: A NEW TOMORROW」で強豪タン・リー(ベトナム/米国)と対戦。無念の1R KO負けを喫しており、コロナ収束後の再起を誓う。弟の高橋昭五(警視庁)は、東京五輪代表選考を兼ねた12月のレスリング全日本選手権で、グレコローマンスタイル67kg級で優勝を果たしており、兄弟揃って世界の頂を目指している。  そんな高橋遼伍が読んでいるという本は、『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』。 ◆高橋遼伍・選『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』(本田健 ) 「人生を自分らしく生きる、その生き方が書いてあります」というこの本を、高橋はジムの先輩に勧められて読んだという。  同書では、成功し幸せになるために「自分を知り、大好きなことをやる」などの秘訣が紹介されている。「自分の好きな事をして生きると周りが手助けしてくる。いまの自分の生活は、本に書いてある生活そのものになっています」と、高橋は語る。  同書については、RIZINで活躍中の朝倉未来(トライフォース赤坂)も「最近読んだ本」に挙げており、老富豪と青年の出会いと成長の物語は、ファイターの機微にも触れるようだ。  人生は、『考えること』と『行動すること』の二つで出来ている、と記す同書では、「成功している人たちは、自分のやっていることにワクワクして、“与える”ことばかり考えている。人は人を喜ばせた分だけお金を受け取るようになっている。“自分なりのやり方”で人を喜ばせることを考えればいい」と、その人が好きなことを持って、他者を喜ばせることが成功の秘訣だと説く。  その上で、『豊かさ意識』を持つ成功者は、「社会的な経済の状況がどうであれ、自分は豊かになれることを確信している」という。その豊かさの意識は、根拠の無い過信なのか。著者は、具体的な意識の持ち方についても著している。 「多くの人の最大の問題は、理想の状態をイメージしていないことにある。自分の望む人生をイメージすることが重要だ」「いろんな理由をつけてやらない人がいる。行動力は、失敗に直面できる勇気とも言える。行動する時に、無意識のうちに失敗の恐れが出てくるが、実際の人生では間違ったり失敗しなければ何も学べない」「自分でダウンを認めない限り、人生のゲームに負けはない」  などなど、当たり前のようで実行するのが難しい、前向きな言葉の数々だが、「思考と行動が人生を形作る」のはファイターのみならず、多くの人にとって当てはまることだろう。  普段読書の習慣がない人でも、尊敬するアーティストやアスリートの自伝なら読みやすいかもしれない。2020年1月大会で強豪イヴァニウド・デルフィーノに判定勝ちした和田竜光(フリー)は、矢沢永吉の『成りあがり How to be BIG―矢沢永吉激論集』の1冊を挙げる。 ◆和田竜光・選『成りあがり How to be BIG―矢沢永吉激論集』(矢沢永吉)  和田は「『成りあがり』は中学の時に友人に借りて読みました。“永ちゃん”はいつでもポジティブで自信満々。イケてる」と、熱いファン魂を伺わせるコメントを寄せている。  同書で、「ぼくのいうツッパリとは、食うことさ」と語る矢沢は、「いま、キツイと思ってるやつ。誰も助けてくれないよ。おまえが、そのまま自分のはぐれる気持ちを継続さすと、ますます、まわりは『待ってました』とやってくる。おまえらは、反撃したくないか。反撃するって、どういうことか。おまえ自身に負い目がなくって、自分で、てめえの手でメシを食ってるんだという誇りを持つことだ」と、自身のテーマを持って自活することの重要さを説いている。  また、同書では、矢沢永吉が愛読書としてデール・カーネギーの『人を動かす』を「十回ぐらいリフレインで読んだ。えらい気に入ってね、キザに友達の誕生日に贈ったりした。無意識のうちに為になっているみたい」と明かしており、「人を動かすには、相手の欲しがっているものを与えるのが、唯一の方法である」といったカーネギーの言葉は、“戦う人”にとって共通の真理が記されているのかもしれない。ちなみに、この『人を動かす』も朝倉未来の「最近、読んだ本」のひとつだ。  芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を挙げるのは、ONE3戦目でONEムエタイ・バンタム級王座戦を経験している鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM)だ。 ◆鈴木博昭・選『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)  鈴木は、シュートボクシングの王座を返上後、2018年11月からONE Championshipに参戦。2018年11月のONEデビュー戦でデイヴィダス・ダニラからダウンを奪って判定勝ち、2019年1月にはモハマド・ビン・マフムードに3R TKO勝利し、ONE3戦目でONEムエタイ・バンタム級王座挑戦へ辿り着いた。  2019年5月のノンオー・ガイヤーンハーダオ(タイ)との王座戦では、2Rに腓骨を骨折。フットワークが使えなくなるアクシデントのなか判定3-0で敗北。同年11月には元ルンピニー&ラジャダムナンのランカーの強豪トゥカートン・ペットパタヤイ(タイ)にも判定1-2のスプリットで敗れている。 「いつでもどこでも読めるから、普段の読書はもっぱら電子書籍が中心」という鈴木は、雑誌では『日経ビジネス』などの経済専門誌を購読している。そんな鈴木が「思い出の本」として挙げたのは、定番の名作。 『蜘蛛の糸』では、悪行のため地獄に落ちた主人公カンダタに、釈迦が極楽から救いの糸をたらす。だが、カンダタが自分勝手な行動をしたため、その糸は切れてしまう。鈴木は、このストーリーから、「自分を選んで下さったとき、その後で胡座をかいて利己的にならない事を意識しています」と、教訓を学んでいるようだ。  NHKとTBSの両局でドラマ化された重松清のベストセラー『とんび』を挙げるのは三浦彩佳(TRIBE TOKYO M.M.A)だ。 ◆三浦彩佳・選『とんび』(重松清)  ONEで3連勝も、2020年2月の『ONE:KING OF THE JUNGLE』で、テイファニー・テオ(シンガポール)に3R 4分45秒、パウンドによるTKOで敗れた三浦。その後、眼窩底と眼窩壁の二箇所を骨折したことを発表したが、SNSでは順調な快復ぶりを伝えている。  周囲の支えを受けながら息子を育てたシングルファザーの半生と、親子の絆を描いた作品『とんび』を三浦は、「社会人になってから読んだ」という。  同作で息子の幸せを願う父親ヤスは、「ほんまもクソもあるか、家族に。大事に思うとる者同士が一緒におったら、それが家族なんじゃ、一緒におらんでも家族なんじゃ。自分の命に替えても守っちゃる思うとる相手は、みんな家族じゃ、それでよかろうが」と、語りかける。  周囲の理解とチームの力で戦う三浦は、「親の愛を感じる本。家族を大事にしようと思います」と、感想を語る。 「思い出の本」に漫画を挙げたアスリートも複数いた。特に格闘技漫画がアスリートたちに及ぼした影響は少なくないようだ。 ◆秋元皓貴・選『修羅の門』『修羅の刻』(川原正敏)  2019年7月にケニー・ズィー(豪州)に判定勝ちした秋元皓貴(Evolve MM)は、フルコンタクト空手出身。前戦のズィーとの試合ではオープンフィンガグローブではなく、キックボクシンググローブを着用して蹴り勝っている。  そんな秋元は、お気に入りの本に、小学生の時に読んだという長編格闘技漫画シリーズ『修羅の門』『修羅の刻』を挙げる。古武術・陸奥圓明流の使い手である陸奥九十九とその祖先を描いた物語だ。 「常に上を見続ける事、成長し続ける事。自分の為でなく誰かの為に戦う事」など、現在でも影響を受けていると言う。  数々の猛者が登場するが、好きなキャラクターは、(陸奥)雷(あずま)。「風雲幕末編」の出海の弟で、極端なのんき者で臆病な面もあるが、心優しく義理堅い性格の持ち主として描かれている。  西部開拓時代の米国を舞台とした同作で雷は、ネイティブアメリカンであるネズ・パース族に肩入れする。その理由を「富んでいる者から恵んで貰ったら感謝するだけでいいが、そうで無い者から恵んで貰ったときは恩を忘れるな」と語り、騎兵隊との戦いに臨む。  秋元はそんな雷について、「登場人物の中では一番弱いとされている人物ではあるけど、誰よりも優しく、人の為に戦う姿に心を打たれました」という。 「恥ずかしながら本を読む習慣があまりなかったけど、漫画はたくさん読んでいましたね」という佐藤将光(坂口道場一族)は、スポーツマンガの名作を挙げた。 ◆佐藤将光・選『あしたのジョー』(高森朝雄=梶原一騎・作/ちばてつや・画)『鉄コン筋クリート』(松本大洋)『ピンポン』(松本大洋)  中高生の時に読んだ松本大洋の一連の作品は、「今も生き方、倫理観に影響を及ぼしていると思う」と、佐藤は言う。  スポーツや闘いを題材に、人の美学や世界観を独特のタッチで表す松本の作品同様に、MMAの奥深さを体現する佐藤の戦い方はアーティスティックだ。佐藤将光の父親はマイルス・デイヴィスの衣装を長く担当していた世界的なファッションデザイナー“KOHSHIN SATOH”こと佐藤孝信。次男の将光は、父のデザインしたガウンを纏い、現在ONE3連勝をマークしている。  世界で根強い人気を誇る「刃牙」シリーズを挙げたのは、江藤公洋(和術慧舟會HEARTS)と手塚裕之(ハイブリッドレスリング山田道場/TGFC)だ。 ◆江藤公洋・選『刃牙』シリーズ(板垣恵介)『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和) ◆手塚裕之・選『刃牙』シリーズ(板垣恵介)『波乱万丈』(辰吉丈一郎)『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』(ヴィム・ホフ/コエン・デ=ヨング)  2月大会でアミール・カーン(シンガポール)を相手にリアネイキドチョークを極め、見事な一本勝ちをマークした江藤公洋は、アニメでは一撃必殺の『ワンパンマン』を好きな作品として挙げていたが、この『刃牙』においては、「この漫画から影響を受けて、格闘技に取り組み、強さを求めてストイックにトレーニングをやっています」と話す。  お気に入りのキャラクターは主人公の範馬刃牙。「成長過程や、強さを求めてトレーニングをストイックにするところが好き」と、レスリング時代から練習の虫である、自身と重ね合わせている。  また、「そんなに頻繁に読書はしないですけど」と前置きしながらも、映画化もされた川口俊和のタイムトラベル小説『コーヒーが冷めないうちに』を最近読了したと言う。  一方、手塚裕之の『刃牙』のお気に入りのキャラは、自身同様に見事な筋肉の持ち主のビスケット・オリバだ。  剣道、キックボクシング、グラップリング、MMAと学んだ手塚は、2019年6月にPANCRASEウェルター級でベルトを巻くと、10月には修斗ブラジル王者でUFC参戦経験もあるエルナニ・ペルペトゥオを判定で下してる。  自然に囲まれた栃木県塩谷町の山村に育った手塚は、「“生物基準”で強くなりたい。一番はフィジカルです」と公言し、坂道で軽トラックを押す・田んぼを走る・川の流れと逆に泳ぐ、などの特訓でマッチョな身体を作り上げている。  そんな手塚にとってオリバは、「極限まで鍛え上げられた肉体の持ち主であり、強さの秘訣は『愛』と答えるところが好き」だと言う。  オリバの力の源は、すべて彼女であるマリアのため。「愛以外に人を強くするものなどあるものか」と言い切るオリバに手塚はシンパシーを感じている。  若い頃の思い出の本を尋ねられて漫画を挙げた手塚だが、大人になって本を読むようになったとのこと。 「大学時代から本を読むようになって、月に2冊は買っています。だいたいスポーツ選手の自伝や、トレーニング関連」というなかで、おすすめとして、ボクサー辰吉丈一郎の自伝『波乱万丈』や、極寒に耐える能力を有する“ICEMAN”と呼ばれる著者がトレーニング方法を記した『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』も挙げた。  高強度トレーニング後の回復促進に有効といわれる、全身を氷水に浸す「アイスバス」はMMAでも採り入れられているが、“ICEMAN”ことヴィム・ホフのメソッドは、冷水トレーニング法と独自の呼吸法を併用したもの。ホフは、ショーツ姿でキリマンジャロ登頂にも成功しており、手塚もホフさながらにYouTubeで厳冬期に裸で登山する模様をアップしている。  また、ONE Championshipは、ファイターが選んだ「親子で楽しめる児童文学」も紹介している。 [nextpage] ファイターが選ぶ「親子で楽しめる児童文学」 ◆松嶋こよみ・選『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)  ONE2連勝から2019年8月にマーティン・ウェンの持つONEフェザー級世界王座に挑戦した松嶋こよみ(パンクラスイズム横浜)。ONE3戦目にして初黒星を喫し、戴冠はならなかったが、2020年2月の再起戦でキム・ジェウンを3R  TKO。再び王座戦線にからむ見事な復活劇を披露している。  そんな松嶋は、おすすめの児童文学として、「小学生になる時に祖父からもらった」という宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を挙げる。「小さい頃は内気な性格だったので、主人公のジョバンニに自分を重ねて読んでいました」と明かす。 「この本を読んだのをきっかけに本が好きになりました」と振り返る松嶋は、自身のソーシャルメディアに読了した本をアップするなど、今でも本をよく読んでいる。  近年では、山本周五郎賞受賞の『楽園のカンヴァス』(原田マハ)、元サッカー日本代表キャプテン長谷部誠のメンタル術『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』、米国のノワール小説文学賞デイヴィッド・グーディス賞受賞作家・中村文則による『教団X』、所属ジムの関内駅から近い横浜駅が舞台の『横浜駅SF 全国版』(柞刈湯葉)、18世紀パリの死刑執行人を主人公とした漫画『イノサン』(坂本眞一)などの表紙を、instagramで見ることができる。 ◆若松佑弥・選『こまったさんのカレーライス』(寺村輝夫 作・岡本颯子 絵)  2019年8月にジェヘ・ユースタキオを1R KO。10月にもキム・デファンを判定で下し、現在ONE2連勝中の若松佑弥(TRIBE TOKYO M.M.A)。昨年12月に第一子が誕生したばかりの“リトル・ピラニア”が挙げる「親子で楽しめる児童文学」は、『こまったさんのカレーライス』(寺村輝夫)。  すぐに「こまった」と言うので、“こまったさん”のあだ名がついた主人公が様々な料理に挑戦するシリーズから、若松は『こまったさんのカレーライス』をピックアップする。同書に「小学生の時、図書室で出会った」という。  不思議なストーリーに加え、かわいらしいイラストで料理のわかりやすいレシピも添えられているこの一冊は、自宅待機の時間が多い今、親子で料理をする入門書としても最適。親子二代に渡り読み継ぐ読者も少なくない。 ◆山口芽生/内藤大樹・選『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック)  ONE4連勝から、2月大会でデニス・ザンボアンガに悔しい判定負けを喫したV.V Meiこと山口芽生(RIKI GYM/和術慧舟會GODS/HybridFighter)と、ONE本戦3連勝中でONEムエタイフライ級世界王者のロッタン・ジットムアンノンに挑戦をアピールしている内藤大樹(BELLWOOD FIGHT TEAM)は、「親子で楽しめる児童文学」として、 世界中で愛されている絵本『かいじゅうたちのいるところ』を挙げる。  山口は幼少期を過ごした米国で同書に出会った。「アメリカの幼稚園、小学校に置いてあって、読書の時間に自分で読んだり、先生が読み聞かせてくれたりしました」という。  原題は『Where the Wild Things Are』。イタズラのおしおきに、夕食抜きで自室に閉じ込められた主人公マックスは不思議な世界に導かれる。部屋中に森や海が広がり、航海のすえマックスはかいじゅうの国に至る。かいじゅうを従え王様となったマックスは彼らと楽しいひとときを過ごすが、やがて……といった内容の絵本は、スパイク・ジョーンズにより映画化もされている。  山口は、同作について「大人になって実写版の映画を見返して、子供の頃の残酷な感覚を思い出させてくれました。子供の心の葛藤を上手く描いている作品だと思います」と語る。  一方、内藤大樹は『かいじゅうたちのいるところ』を、「保育園の時に祖母に買ってもらいました。たくさんのかいじゅうが登場してワクワクしました」と当時の思い出を語る。「物語を通して大きく成長していく」主人公のマックスの姿が印象に残っているという。  自身の内なる獣に打ち勝ち、その手綱を握ってコントロールして成長していく物語ともいえる同書は、自身の弱さを制御し、王冠を抱こうとするファイターにとっても示唆に富んだ内容なのだろう。 ◆内藤のび太・選『エルマーのぼうけん』(ルース・スタイルス・ガネット作・ルース・クリスマン・ガネット挿絵) “内藤のび太”こと内藤禎貴(パラエストラ松戸)が挙げたのも、世界的な児童文学作品だ。  内藤は、2018年5月に2度目のONEストロー級王座獲得も、ジョシュア・パシオに敗れ王座陥落。2019年は3月にレネ・カタランに敗れ厳しい連敗も、5月にアレックス・シウバ、11月にポンシリ・ミートサティートにいずれも判定で競り勝っている。 「『エルマーのぼうけん』を読んだのは小学校の頃だったかと思います。親に進められたかなにかで読み始めました」と、同書と出会ったきっかけを内藤は語る。 『My Father's Dragon』が原題の同作は、1945年、ルース・スタイルス・ガネットが22歳の時にスキー場のロッジでアルバイトをしながら書いた児童文学作品。主人公のエルマーがどうぶつ島に渡り、捕らえられていた竜の子供を様々な知恵を駆使して助けるという話だ。挿絵はスタイルスの義母クリスマンによって描かれた。  1948年に米国で出版され、海外での翻訳はスウェーデン語に続き、2番目に日本語版が出版されている。幼少時に読んだ内藤は、「色んな所に行きたいというワクワクした感情は、今の自分にも影響を与えられた気がします」と語る。  同作では、エルマーがどうぶつ島に向かうために、リュックサックにチューインガムや輪ゴムや磁石、歯ブラシなどのガラクタを詰め込み、決して強力ではない日常品を巧みに使用し、持ち前の勇気と知恵で、危機を乗り越える。  MMAにおいて抜きんでた武器を持たない内藤は、持っている道具を工夫して組み立てる、粘り強い戦い方で世界と伍してきた。同書におけるエルマーの創意工夫は、内藤のファイトスタイルにも影響を与えているのかもしれない。 ◆岡見勇信・選『三匹の子豚』  ONEで悪夢の2連敗から、2019年10月のアギラン・タニ戦で、スプリット判定勝ちをもぎとった岡見勇信(EXFIGHT)は、絵本・アニメ映画などで定番の作品を挙げる。 『三匹の子豚』は、もともと民間伝承によるおとぎ話の一つで、18世紀に英国で物語として出版されている。1933年のウォルト・ディズニーによるアニメーション映画『シリー・シンフォニー』の1話『三匹の子ぶた』により有名になった。 「幼稚園の頃、父親に読んでもらいました」というこの作品について岡見は、現在の自身のあり方に繋っているという。「三男の子豚の勇気と努力家のところを見て好きになりました。そして、最後に怖いオオカミをやっつけるところに感動を覚えました」。  安易に作ることができるわらの家、木の家はオオカミに吹き飛ばされ、2匹の子豚は食べられてしまうが、3匹目の子豚は手間をかけてレンガの家を建て、無理に煙突から忍び込もうとしたオオカミを煮えたぎる鍋に飛び込ませることに成功している。  ファイターであり父でもある岡見は、「『三匹の子豚』からは、努力すること、勇気を持つこと、真面目であること、優しさを持つこと──この4点を守ることで困難に立ち向かっていける、と子供ながらに影響を受けました。現在の自分の礎になっています」と語る。その勤勉さを持って岡見はUFCで世界の頂に挑んだ。果たして、ONEでは悲願のベルトを巻くことができるか。(協力:ONE Championship) [nextpage] RIZINファイターの「好きな本・漫画」  一方、RIZINでは、大会前に出場選手にアンケートを取り、試合に関することと同時に「好きな本・漫画」も訊いている。下記に、主なリストを挙げてみた。 ◆ロッキー・マルチネス・選『Can't Hurt Me』デイビッド・ゴギンス  第3代PXCヘビー級王者、第6代DEEPメガトン級王者として、RIZINでも活躍中のロッキー・マルチネス(SPIKE22)が選んだのは、デイビッド・ゴギンスの本。  ゴギンスは元米海軍、ウルトラマラソンアスリートの世界トップ20人に選ばれ、懸垂の世界ギネス記録(2013年)を持ってる。彼は骨折して体重が200ポンドを超えている状態でウルトラマラソンを走っただけでなく、心臓の壁に穴が開いているために持久力が制限される心房中隔欠損症に悩まされながら完走を果たした。  学校で学べず、自尊心を持つことも出来なかったゴギンスが成人になったときについた職はゴキブリ駆除の仕事。体重は136kgもあったという。恵まれない逆境のなか、努力で大きな偉業を成し遂げた彼のマインドセットは、綺麗ごとがなく、シンプルながら説得力がある。それは“変わりたい”という強い気持ちを持ち続けること。  ゴギンスは、「人生で最も大切な時間は、自分に対する問いかけだ。自分のなかの深いところに入っていかないとそれは得られない。全てを出し切ってやっと見つけられるんだ」 「どうすればいつまでもハングリー精神を維持することが出来るのか、と人々は僕に聞いてくる。一度、山の頂上に着くと人はどうなると思う? 俺は凄い、と思う。でもなぜそこから人は落ちてしまうのか? 人は山の頂に着くと、もう1個山を作ろうとするんだ。それも“平均的な山”を。私は何かを成し遂げた後、ゆっくり一息休んだりしない」  レイジーになろうとする怠け心にいかに打ち勝つか。 「マインドは自分が何を恐れていて、何に不安を抱えているか知っている。自分の深い嘘も見抜いている。そして自分を不快なものから遠ざけ、楽で居心地の良い方向に導く。マインドがすべてをコントロールしている。自分が脳をコントロールするか。脳が自分をコントロールするか」  そこでキーとなるのが、“40%ルール”だとゴギンスは言う。  “40%ルール”とは、「脳が自分に『もういいよ、逃げよう。不快になってきたし、座ろうぜ』と言ったとき、心が終わったと言っている時は、実際には40パーセントしか終わっていない」というものだ。自身に課した精神的な限界を無視して、より深く掘り下げるのに挑戦してみること──マルチネスは、それを格闘技で実戦しているという。 ◆トレント・ガーダム・選『アルケミスト 夢を旅した少年』(パウロ・コエーリョ)  世界67カ国語に翻訳されたパウロ・コエーリョの小説を挙げたのはトレント・ガーダムだ。ムエタイとMMAの二刀流で戦うガーダムは、タイのタイガームエタイジムで合宿を積み、RIZINでビクター・ヘンリー、井上直樹と接戦を繰り広げるなど、UFC志向の欧米ファイターとは異なるメンタルを持つ豪州ファイターだ。 『アルケミスト』は、スペインの羊飼いの少年サンチャゴが、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドへ旅に出て、錬金術師の導きと様々な出会いのなかで人生の知恵を学んでゆく、というもの。 「今まで慣れ親しんできたもの」と、「これからほしいと思っているもの」とのどちらかを選択しなければならないとき、「人は“自分が夢見ていることをいつでも実行できる”ことに、あの男は気がついていないのだよ」という一文とともに、主人公は「自分を縛っているのは自分だけだ」と気づく。  旅の途中では全財産を失うが、自分のことを「泥棒にあった哀れな犠牲者」と考えるか、これから「宝物を探し求める冒険者」と考えるか。  謙虚で柔軟な主人公は、先入観を持たずひたむきな心で困難に立ち向かう。その姿には、「おまえが何か望めば、宇宙のすべてが協力して、それが実現するように助けてくれる」というニューソートの引き寄せの法則(ポジティブシンキング)の思想が描かれているという。  ちなみに著者のパウロコエーリョは後年のインタビューで『アルケミスト』について下記のように語っている。「宝物はすぐ近くにある。しかしそれを知るために、旅が必要だった。なぜなら、身近にある夢を実現するためには、たくさんの困難を乗り越えることが大切だから」──。 ◆征矢貴・選『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル  パラエストラ松戸で格闘技と出会い、修斗バンタム級新人王とMVPを獲得も、2017年5月の試合を最後に実戦から離れていた征矢貴は、2019年6月にRIZINで復活。川原波輝、村元友太郎をともにKOに下している。  2017年に婚約者が急性白血病で他界。同年に自身も国が指定する難病のひとつ「クローン病」と診断された征矢は、投与される生物学的製剤が徐々に強い薬となり、「いずれは全部効かなくなってしまう。最終的には手術しかなく、手術をしたら格闘技はできないと思った」ことから、自身の免疫力で治す東洋医学の病院の存在を探し出し、生物学的製剤を止め、漢方薬と鍼と抗ヘルペス剤で寛解にたどり着いた。  そんな征矢が挙げたのは、ユダヤ人精神分析学者が自らのナチス強制収容所体験を綴った『夜と霧』。著者はアウシュビッツとその支所に収容されるが、想像も及ばぬ苛酷な環境を生き抜き、ついに解放される。家族は収容所で命を落とし、たった1人残されての生還だった。  監督官たちの非道なふるまい、被収容者たちがいかに精神の平衡を保ち、あるいはは崩壊させてゆくのか。著者は極限におかれた人々の心理状態を学者らしい観察眼で分析し、「生きることからなにを期待するかではなく、……生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題」と記している。 『夜と霧』の由来は、1941年12月、アドルフ・ヒトラーにより発せられた総統命令から。「収監者はドイツへ密かに連行され、まるで夜霧のごとく跡形も無く消え去った」とされている。  新版で新たに翻訳を担当した池田香代子氏は、版元のみすず書房のプレスリリースに、「フランクル氏は、被収容者にとってもっともつらかったのは、この状況がいつまで続くかわからないということだった、といいます。そんななかで、『生きる目的を見出せず、生きる内実を失い、生きていてもなにもならないと考え、自分が存在することの意味をなくすとともに、がんばり抜く意味も見失った人は痛ましいかぎりだった。そのような人びとはよりどころを一切失って、あっというまに崩れていった。あらゆる励ましを拒み、慰めを拒絶するとき、彼らが口にするのはきまってこんな言葉だ。『生きていることにもうなんにも期待がもてない』」  同書をピックアップした征矢は、逆境のなかで、「外部から悪い物が入ってきたわけではなく、自らが免疫機能を誤作動させる何かを生み出した」と考え、「自分が生み出した病気は自分で治せる」という言葉を聞き、「ストンと胸に落ちてきた」という。  そして、「どんなに辛いことがあっても、ジムへ行けば頑張っている仲間がいるのが僕にとって大きかった。その姿があったから僕も諦めないで復帰してやろうって気持ちになれたのかなと思います」と語っていた。  外からやってきた新型コロナウイルスの影響で、ジムが閉鎖され、試合も決まらないなか、征矢は何を思うか。現WBA世界ミドル級王者の村田諒太も愛読書に挙げている同書は、生きる意味を問う、一冊だ。 ◆石井慧・選カルロス・カスタネダの本  ペルー生まれの米国の作家・人類学者であるカルロス・カスタネダの本を挙げたのは石井慧(チーム・クロコップ)。石井は前戦、2020年1月の「HEAT 46」で、SFTミドル級王者クレベル・ソウザを相手に1R、アームロックで一本勝ちを収めている。  そんな石井が挙げたカスタネダは、UCLAで文化人類学を専攻し、在学中に旅の途中でヤキ・インディアンの呪術師「ドン・ファン」と出会い修行を積んだ、とされる。1968年、その経験を『呪術師と私』のタイトルで発表。全米でベストセラーとなった。  カスタネダはヨガや武術的な身体技法の本も残しており、同書を愛読していた細野晴臣はかつて「ビジョン・クエスト」を現地で体験している。果たして石井は、カスタネダの本にどんな興味を抱いたか。  以下は、ほか各選手が挙げた「好きな本・漫画」のリストだ。漫画では、板垣恵介が描く『刃牙』シリーズ、尾田栄一郎の『ONE PIECE』、井上雄彦の『バガボンド』が根強い人気となっている。 [nextpage] 堀口恭司、那須川天心、朝倉未来らが好きな本・漫画は? ◆堀口恭司・選『ワンパンマン』(ONE/村田雄介) ◆那須川天心・選『刃牙』(板垣恵介)『RAVE』(真島ヒロ)『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)『約束のネバーランド』(白井カイウ・原作、出水ぽすか・作画) ◆ハム・ソヒ・選『ノルウェイの森』(村上春樹)李外秀(イ・ウェス)の本 ◆浜崎朱加・選『NARUTO』(岸本斉史) ◆RENA・選『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)「取りあえず1話見てみようと思ったのがきっかけ。見始めたら止まらなくなりました」 ◆朝倉未来・選『ONE PIECE』(尾田栄一郎) ◆矢地祐介・選『刃牙』(板垣恵介) ◆朝倉 海・選東野圭吾の作品 ◆ビクター・ヘンリー・選『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平)『進撃の巨人』(諫山創) ◆扇久保博正・選『空手バカ一代』(梶原一騎・原作、つのだじろう・画) ◆石渡伸太郎・選『キングダム』(原 泰久) ◆川尻達也・選『バガボンド』『リアル』など井上雄彦の作品。 ◆佐々木憂流迦/井上直樹・選『バガボンド』(井上雄彦) ◆白鳥大珠・選『はじめの一歩』(森川ジョージ) ◆江幡塁・選浅田次郎の作品 ◆大崎一貴・選東野圭吾、山田悠介、アガサ・クリスティの本『七つの大罪』(鈴木央) ◆町田 光・選金城一紀の作品 ◆平本 蓮・選『ONE PIECE』(尾田栄一郎)『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)「『少年ジャンプ』大好きです」 ◆芦田崇宏・選『柔道部物語』(小林まこと)『ONE PIECE』(尾田栄一郎)『バキ』シリーズ(板垣恵介)『ワンパンマン』(ONE/村田雄介) ◆中村K太郎・選『創世のタイガ』(森 恒二) ◆安西信昌・選『宇宙兄弟』(小山宙哉)『刃牙』(板垣恵介) ◆越智晴雄・選『ろくでなしブルース』(森田まさのり) ◆住村竜市朗・選『ONE PIECE』(尾田栄一郎) ◆前澤 智・選 CLAMP作品『スヌーピー』(チャールズ・シュルツ)『ちはやふる』(末次由紀)ジブリ、ディズニー等の作品 ◆渡辺華奈・選『ドラゴンボール』(鳥山明) ◆あい・選『ONE PIECE』(尾田栄一郎) ◆マルコス・ソウザ・選『五輪書』(宮本武蔵) アイルトン・セナの本「以前は警察官になりたかったので、推理小説や警察物も好きです」 ◆関根"シュレック"秀樹・選『キン肉マン』(ゆでたまご)『喧嘩稼業』(木多康昭)『ケンガンオメガ』(サンドロビッチ・ヤバ子・原作、だろめおん・作画)『TOUGH』(猿渡哲也)『真・異種格闘技大戦』(相原コージ)『バキ』(板垣恵介)『咲』(小林立) ◆ビタリー・シュメトフ・選フョードル・ドストエフスキーの本「彼は不運にも受刑者として私の故郷シビリアで5年間(1849年に官憲に逮捕され1854年まで服役)過ごした。当時のシベリアはロシア最大の監獄があった場所だったから」(シュメトフ)
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