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【BOOKS】格闘家はどんな本を読んできたのか──青木真也、朝倉未来、石井慧、堀口恭司、那須川天心らが「好きな本」

2020/04/27 21:04
【BOOKS】格闘家はどんな本を読んできたのか──青木真也、朝倉未来、石井慧、堀口恭司、那須川天心らが「好きな本」

 4月23日「世界本の日」に、多くのファイターたちが、愛読書や好きな漫画などを語った。

 同日は、スペイン・カタルーニャ地方の伝説で、“悪獣のいけにえに差し出された王女を救った騎士”サン・ジョルディが殉教した日ともされ、いつしかこの日に大切な人と本と花を贈りあって、愛する気持ちを伝え合うようになったという。また、4月23日はシェイエクスピア、ミゲル・デ・セルバンテスなど多くの文筆家の誕生日や命日でもある。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため外出自粛が続くなか、週末やゴールデンウイークも、自宅待機が求められている。そんな“巣ごもり”時間を有意義に過ごすのに、室内でのトレーニングに加え、読書は最適と思わられる。

 ファイターたちは、これまでどんな本を読んできたのか。まずは、ONE Championshipのファイターから紹介する。

“思考の格闘家”として『空気を読んではいけない』『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし』などの著作もある青木真也(Evolve MMA)。

 ONEでは、2019年3月にエドゥアルド・フォラヤンを肩固めで極めてライト級王座奪還。同年4月に若き天才クリスチャン・リーに王座を明け渡したものの、10月の日本大会でホノリオ・バナリオに一本勝ち。さらに2020年4月の「Road to ONE:2nd」では、世羅智茂とのグラップリングマッチでドローとなっている。

 小学3年から柔道を始め、2003年11月の総合格闘技デビューから17年目を迎えたいまもトップ戦線で存在感を増している青木が、「思い出の本」として挙げたのは、『日本人のメンタル・トレーニング』(長田一臣・著)だ。

◆青木真也・選
『日本人のメンタル・トレーニング』(長田一臣)

 日本のスポーツ選手向けの、成功への哲学とメンタル・マネジメントを記した同書に、青木は「中学生の時に書店で出会った」という。

「初めて技術本を買ったのは小学生の時」と自著で振り返る通り、幼い頃から、様々な面において強さを追求する研究熱心な青木の姿勢がうかがえる。

 著者の長田一臣は、体操の具志堅幸司、柔道の古賀稔彦、恵本裕子ら金メダリストを指導してきた、スポーツにおける催眠や自律訓練法の第一人者。

 メンタル・トレーニングにおける“暗示語”を主に、「哲学的暗示」「ものの見方・見え方の暗示」「競技別特徴的な暗示」「イメージ・トレーニングの暗示」などで使用し、血の通った「人間学的心理学」の立場から、オリンピック選手たちを勝利に導いた。

 たとえば、ロサンゼルス五輪体操金メダリストの具志堅が使用した「暗示放尿」は、放尿とともに不安や緊張も一緒にすべて流れ出ていくとイメージするもの。マイナス要素が尿とともに身体から出て、身も心もすっきりするという。

 一流選手たちを開眼させた『勝利の呪文』では、「やるだけやったら、あとは心、気の持ちようだ。事に臨んでは肚(はら)をくくるしかない─―自分は自分にほかならず、それ以上でもなければ以下でもない。勝ち負けよりも納得のいく試合を心がけよ。あとは大きなものの掌の上のこと。人事を尽くして天命を待て─―勝負も人生も所詮納得の問題だ」と、長田は記している。

「やるだけやった」上で、青木は「競技別特徴的な暗示」をどのように取り入れているのか。試合前の呼吸方法も含め興味深いところだ。

 カーフキックの“壊し屋”高橋遼伍(KRAZY BEE)は、MMA8連勝をマークし、2020年1月の「ONE: A NEW TOMORROW」で強豪タン・リー(ベトナム/米国)と対戦。無念の1R KO負けを喫しており、コロナ収束後の再起を誓う。弟の高橋昭五(警視庁)は、東京五輪代表選考を兼ねた12月のレスリング全日本選手権で、グレコローマンスタイル67kg級で優勝を果たしており、兄弟揃って世界の頂を目指している。

 そんな高橋遼伍が読んでいるという本は、『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』。

◆高橋遼伍・選
『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』(本田健 )

「人生を自分らしく生きる、その生き方が書いてあります」というこの本を、高橋はジムの先輩に勧められて読んだという。

 同書では、成功し幸せになるために「自分を知り、大好きなことをやる」などの秘訣が紹介されている。「自分の好きな事をして生きると周りが手助けしてくる。いまの自分の生活は、本に書いてある生活そのものになっています」と、高橋は語る。

 同書については、RIZINで活躍中の朝倉未来(トライフォース赤坂)も「最近読んだ本」に挙げており、老富豪と青年の出会いと成長の物語は、ファイターの機微にも触れるようだ。

 人生は、『考えること』と『行動すること』の二つで出来ている、と記す同書では、「成功している人たちは、自分のやっていることにワクワクして、“与える”ことばかり考えている。人は人を喜ばせた分だけお金を受け取るようになっている。“自分なりのやり方”で人を喜ばせることを考えればいい」と、その人が好きなことを持って、他者を喜ばせることが成功の秘訣だと説く。

 その上で、『豊かさ意識』を持つ成功者は、「社会的な経済の状況がどうであれ、自分は豊かになれることを確信している」という。その豊かさの意識は、根拠の無い過信なのか。著者は、具体的な意識の持ち方についても著している。

「多くの人の最大の問題は、理想の状態をイメージしていないことにある。自分の望む人生をイメージすることが重要だ」「いろんな理由をつけてやらない人がいる。行動力は、失敗に直面できる勇気とも言える。行動する時に、無意識のうちに失敗の恐れが出てくるが、実際の人生では間違ったり失敗しなければ何も学べない」「自分でダウンを認めない限り、人生のゲームに負けはない」

 などなど、当たり前のようで実行するのが難しい、前向きな言葉の数々だが、「思考と行動が人生を形作る」のはファイターのみならず、多くの人にとって当てはまることだろう。

 普段読書の習慣がない人でも、尊敬するアーティストやアスリートの自伝なら読みやすいかもしれない。2020年1月大会で強豪イヴァニウド・デルフィーノに判定勝ちした和田竜光(フリー)は、矢沢永吉の『成りあがり How to be BIG―矢沢永吉激論集』の1冊を挙げる。

◆和田竜光・選
『成りあがり How to be BIG―矢沢永吉激論集』(矢沢永吉)

 和田は「『成りあがり』は中学の時に友人に借りて読みました。“永ちゃん”はいつでもポジティブで自信満々。イケてる」と、熱いファン魂を伺わせるコメントを寄せている。

 同書で、「ぼくのいうツッパリとは、食うことさ」と語る矢沢は、「いま、キツイと思ってるやつ。誰も助けてくれないよ。おまえが、そのまま自分のはぐれる気持ちを継続さすと、ますます、まわりは『待ってました』とやってくる。おまえらは、反撃したくないか。反撃するって、どういうことか。おまえ自身に負い目がなくって、自分で、てめえの手でメシを食ってるんだという誇りを持つことだ」と、自身のテーマを持って自活することの重要さを説いている。

 また、同書では、矢沢永吉が愛読書としてデール・カーネギーの『人を動かす』を「十回ぐらいリフレインで読んだ。えらい気に入ってね、キザに友達の誕生日に贈ったりした。無意識のうちに為になっているみたい」と明かしており、「人を動かすには、相手の欲しがっているものを与えるのが、唯一の方法である」といったカーネギーの言葉は、“戦う人”にとって共通の真理が記されているのかもしれない。ちなみに、この『人を動かす』も朝倉未来の「最近、読んだ本」のひとつだ。

 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を挙げるのは、ONE3戦目でONEムエタイ・バンタム級王座戦を経験している鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM)だ。

◆鈴木博昭・選
『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)

 鈴木は、シュートボクシングの王座を返上後、2018年11月からONE Championshipに参戦。2018年11月のONEデビュー戦でデイヴィダス・ダニラからダウンを奪って判定勝ち、2019年1月にはモハマド・ビン・マフムードに3R TKO勝利し、ONE3戦目でONEムエタイ・バンタム級王座挑戦へ辿り着いた。

 2019年5月のノンオー・ガイヤーンハーダオ(タイ)との王座戦では、2Rに腓骨を骨折。フットワークが使えなくなるアクシデントのなか判定3-0で敗北。同年11月には元ルンピニー&ラジャダムナンのランカーの強豪トゥカートン・ペットパタヤイ(タイ)にも判定1-2のスプリットで敗れている。

「いつでもどこでも読めるから、普段の読書はもっぱら電子書籍が中心」という鈴木は、雑誌では『日経ビジネス』などの経済専門誌を購読している。そんな鈴木が「思い出の本」として挙げたのは、定番の名作。

『蜘蛛の糸』では、悪行のため地獄に落ちた主人公カンダタに、釈迦が極楽から救いの糸をたらす。だが、カンダタが自分勝手な行動をしたため、その糸は切れてしまう。鈴木は、このストーリーから、「自分を選んで下さったとき、その後で胡座をかいて利己的にならない事を意識しています」と、教訓を学んでいるようだ。

 NHKとTBSの両局でドラマ化された重松清のベストセラー『とんび』を挙げるのは三浦彩佳(TRIBE TOKYO M.M.A)だ。

◆三浦彩佳・選
『とんび』(重松清)

 ONEで3連勝も、2020年2月の『ONE:KING OF THE JUNGLE』で、テイファニー・テオ(シンガポール)に3R 4分45秒、パウンドによるTKOで敗れた三浦。その後、眼窩底と眼窩壁の二箇所を骨折したことを発表したが、SNSでは順調な快復ぶりを伝えている。

 周囲の支えを受けながら息子を育てたシングルファザーの半生と、親子の絆を描いた作品『とんび』を三浦は、「社会人になってから読んだ」という。

 同作で息子の幸せを願う父親ヤスは、「ほんまもクソもあるか、家族に。大事に思うとる者同士が一緒におったら、それが家族なんじゃ、一緒におらんでも家族なんじゃ。自分の命に替えても守っちゃる思うとる相手は、みんな家族じゃ、それでよかろうが」と、語りかける。

 周囲の理解とチームの力で戦う三浦は、「親の愛を感じる本。家族を大事にしようと思います」と、感想を語る。

「思い出の本」に漫画を挙げたアスリートも複数いた。特に格闘技漫画がアスリートたちに及ぼした影響は少なくないようだ。

◆秋元皓貴・選
『修羅の門』『修羅の刻』(川原正敏)

 2019年7月にケニー・ズィー(豪州)に判定勝ちした秋元皓貴(Evolve MM)は、フルコンタクト空手出身。前戦のズィーとの試合ではオープンフィンガグローブではなく、キックボクシンググローブを着用して蹴り勝っている。

 そんな秋元は、お気に入りの本に、小学生の時に読んだという長編格闘技漫画シリーズ『修羅の門』『修羅の刻』を挙げる。古武術・陸奥圓明流の使い手である陸奥九十九とその祖先を描いた物語だ。

「常に上を見続ける事、成長し続ける事。自分の為でなく誰かの為に戦う事」など、現在でも影響を受けていると言う。

 数々の猛者が登場するが、好きなキャラクターは、(陸奥)雷(あずま)。「風雲幕末編」の出海の弟で、極端なのんき者で臆病な面もあるが、心優しく義理堅い性格の持ち主として描かれている。

 西部開拓時代の米国を舞台とした同作で雷は、ネイティブアメリカンであるネズ・パース族に肩入れする。その理由を「富んでいる者から恵んで貰ったら感謝するだけでいいが、そうで無い者から恵んで貰ったときは恩を忘れるな」と語り、騎兵隊との戦いに臨む。

 秋元はそんな雷について、「登場人物の中では一番弱いとされている人物ではあるけど、誰よりも優しく、人の為に戦う姿に心を打たれました」という。

「恥ずかしながら本を読む習慣があまりなかったけど、漫画はたくさん読んでいましたね」という佐藤将光(坂口道場一族)は、スポーツマンガの名作を挙げた。

◆佐藤将光・選
『あしたのジョー』(高森朝雄=梶原一騎・作/ちばてつや・画)
『鉄コン筋クリート』(松本大洋)
『ピンポン』(松本大洋)

 中高生の時に読んだ松本大洋の一連の作品は、「今も生き方、倫理観に影響を及ぼしていると思う」と、佐藤は言う。

 スポーツや闘いを題材に、人の美学や世界観を独特のタッチで表す松本の作品同様に、MMAの奥深さを体現する佐藤の戦い方はアーティスティックだ。佐藤将光の父親はマイルス・デイヴィスの衣装を長く担当していた世界的なファッションデザイナー“KOHSHIN SATOH”こと佐藤孝信。次男の将光は、父のデザインしたガウンを纏い、現在ONE3連勝をマークしている。

 世界で根強い人気を誇る「刃牙」シリーズを挙げたのは、江藤公洋(和術慧舟會HEARTS)と手塚裕之(ハイブリッドレスリング山田道場/TGFC)だ。

◆江藤公洋・選
『刃牙』シリーズ(板垣恵介)
『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和)

◆手塚裕之・選
『刃牙』シリーズ(板垣恵介)
『波乱万丈』(辰吉丈一郎)
『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』(ヴィム・ホフ/コエン・デ=ヨング)

 2月大会でアミール・カーン(シンガポール)を相手にリアネイキドチョークを極め、見事な一本勝ちをマークした江藤公洋は、アニメでは一撃必殺の『ワンパンマン』を好きな作品として挙げていたが、この『刃牙』においては、「この漫画から影響を受けて、格闘技に取り組み、強さを求めてストイックにトレーニングをやっています」と話す。

 お気に入りのキャラクターは主人公の範馬刃牙。「成長過程や、強さを求めてトレーニングをストイックにするところが好き」と、レスリング時代から練習の虫である、自身と重ね合わせている。

 また、「そんなに頻繁に読書はしないですけど」と前置きしながらも、映画化もされた川口俊和のタイムトラベル小説『コーヒーが冷めないうちに』を最近読了したと言う。

 一方、手塚裕之の『刃牙』のお気に入りのキャラは、自身同様に見事な筋肉の持ち主のビスケット・オリバだ。

 剣道、キックボクシング、グラップリング、MMAと学んだ手塚は、2019年6月にPANCRASEウェルター級でベルトを巻くと、10月には修斗ブラジル王者でUFC参戦経験もあるエルナニ・ペルペトゥオを判定で下してる。

 自然に囲まれた栃木県塩谷町の山村に育った手塚は、「“生物基準”で強くなりたい。一番はフィジカルです」と公言し、坂道で軽トラックを押す・田んぼを走る・川の流れと逆に泳ぐ、などの特訓でマッチョな身体を作り上げている。

 そんな手塚にとってオリバは、「極限まで鍛え上げられた肉体の持ち主であり、強さの秘訣は『愛』と答えるところが好き」だと言う。

 オリバの力の源は、すべて彼女であるマリアのため。「愛以外に人を強くするものなどあるものか」と言い切るオリバに手塚はシンパシーを感じている。

 若い頃の思い出の本を尋ねられて漫画を挙げた手塚だが、大人になって本を読むようになったとのこと。

「大学時代から本を読むようになって、月に2冊は買っています。だいたいスポーツ選手の自伝や、トレーニング関連」というなかで、おすすめとして、ボクサー辰吉丈一郎の自伝『波乱万丈』や、極寒に耐える能力を有する“ICEMAN”と呼ばれる著者がトレーニング方法を記した『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』も挙げた。

 高強度トレーニング後の回復促進に有効といわれる、全身を氷水に浸す「アイスバス」はMMAでも採り入れられているが、“ICEMAN”ことヴィム・ホフのメソッドは、冷水トレーニング法と独自の呼吸法を併用したもの。ホフは、ショーツ姿でキリマンジャロ登頂にも成功しており、手塚もホフさながらにYouTubeで厳冬期に裸で登山する模様をアップしている。

 また、ONE Championshipは、ファイターが選んだ「親子で楽しめる児童文学」も紹介している。

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