MMA
インタビュー

【UFC】対コロナ最前線のニューヨークから、米国格闘技を読む(2)──シュウ・ヒラタ「UFCのダナがファイトアイランド構想を捨てない理由」

2020/04/15 11:04

UFCでもオーナーが代わり、少しずつルールが変わってきている


【写真】対コロナ最前線エルムハースト病院から徒歩10分ほどのウッドサイドの街中。シャッターの落書きは日に日に増えている。エルムハースト病院にはアーティストらによる様々な支援も始まった。

――再開までは暫く時間がかかりそうな感じでしょうか。

「僕はそう思っていますね。早くても秋なんじゃないんでしょうか。そうすると、3月の延期から数えて半年間になるわけですから、契約下にある選手全員に、一律いくらか払うべきだと思うんです。ウチのマネージメントでも魅津希選手も含め、試合がすでに流れていますからね。簡単な計算をすれば、500人に2万ドルだったら10億円くらい。実は数カ月前にズッファは配当金と称して合計で330億円くらい払っているわけです。その時にダナ自身も6億円くらいもらっている。だから、半年の補償で10億円くらいの金はあるはずだと思います」

――日本の格闘技界とは体力の差がありますね。

「それはそうですね。UFCをスポーツ史上最高額の買収額となる40億ドル(約4400億円)で買収したWME-IMG(現Endeavor)は、様々なエンターテイメントビジネスにおけるアメリカの主要エージェンシーの1つですからね。マネジメントとしては、補償も含めいろいろ確認すべきことはあります。ただ、UFCの社員たちは全員自宅で仕事をしているような状況です。メジャーリーグの選手が奥さんが出産のときに試合に出たら非難されるようなこのアメリカで、コロナウイルスの終息が見えないなかでの大会開催はちょっと無理があるなと僕は思っているんですけどね。そんな中でなかなか選手たちが声を挙げにくいのは、やはりUFCにそれだけの力があるという表れでもあると思います」

――まだまだ他のメジャースポーツに比べ、プロモーションの力が強いと。米国でのほかスポーツの対応はいかがですか。

「最近話題になっているのは4月10日にアナウンスがあった、NBAが4月15日に1回目の支払いを選手にするという報道ですね。小切手を発行するようですけど、それは初回をフルに払うということを意味しています。アスリート収入ランキングのトップ100に、NBAの選手は40人もランクインしていますが、シーズンが中断されている中、今後は減給される可能性があるとも報じられていますね。MLBでは延期する60日間、補償給与を受け取ることで選手会と合意しており、補償額は選手の契約形態により4段階で分けられるそうです。今季年俸に関しては、試合数に比例することになると報じられていますね」

――大会が開催されず売上が無いなか支払いはすると。今後はどうなっていくか。

「格闘技界でも、みんな不安だと思うのでマネージメント選手全員に説明しているんです。UFCでもオーナーが代わり、少しずつルールが変わってきています。

 2012年8月の『UFC 151』でダン・ヘンダーソンの負傷欠場に伴いチェール・ソネンが、ジョン・ジョーンズ戦の打診を受けたとき、ジョーンズが新たな挑戦者に対し一週間では準備期間が短いとしてソネン戦を拒否し、大会が中止になりましたよね。実は、あの大会に水垣偉弥選手が出場する予定で、現地に着いてからキャンセルになったんです。そのときに支払われたお金が5千ドル、源泉されて手取りは3千5百ドルでした。これは大会が消滅するというレアケースでした。これ以外に今のオーナーになってから、いろいろとルールが変わったんです。

以前は相手の体重超過や寸前の怪我や病気で試合がキャンセルになったら、計量をパスした選手にはファイトマネーのギャランティは全額払ってくれたのに(※この場合ウィンボーナスは支払われない)、それが新しいオーナーになってから、計量パスして試合ができる状態だった選手にも1万ドルしか払ってくれない。これってすごく大きい。ギャランティ5万ドル稼げると思ってちゃんと計量をパスしているのに、1万ドルしか支払われない。選手の間でもものすごくブーイングが出ていました。まだまだこのあたりでも4大メジャースポーツには及ばない部分ですよね。そういった前例を見ると、1万ドル前後がとりあえず支給されたとして3カ月延期。また3カ月延期になったらどうなるか。本当にファイトアイランドでやれるのか。ただ、やれないにしても、島には1回は行ってみたいという気持ちはありますけど(笑)」

――RIZINで朝倉海選手を破りバンタム級王座に就いたマネル・ケイプもUFC入りが発表されましたが、タイ在住で、オクタゴンデビューは半年後や1年後になってしまうかもしれませんね。

「そうですね。一部では『UFCは新規契約は半年間くらいやらないのでは』という声も聞かれるなか、某日本人選手もついに契約したらしいですが、このままだとしばらく試合が組まれない可能性はありますね。ただ、本当にファイトアイランドで練習できるんだったら、それこそ魅津希選手やその選手も呼んで、ジャパントップチームで合宿組めばいいかなと思ったくらいです(苦笑)。実を言うと、平本蓮選手をイスラエル・アデサニヤのところ、ニュージーランドのシティ・キックボクシングに行かせる予定だったんです。あのジムのオーナーの一人ダグ・ヴィニーはK-1でバダ・ハリとも対戦していますし、GLORYで活躍したアデサニヤのように、キックからMMAに転向した選手が多いので、バックボーンが同じだからいいと思っていたのですが、そういったことも全部延期になっています」

――補償なども含めてしばらく耐える必要がありそうですね。

「選手も大変ですし、うちらマネジメントも大変ですから。UFCのようなプロモーションばかりではないので、非UFC選手もいろいろマネジメントさせてもらっているんですけど、もう全然試合が無いので、基本、収入ゼロですから……」

――ファイトマネーの補償を明言したのは、あとはBellatorくらいでしょうか。

「Bellatorも3月13日に無観客で行うと発表してから一転、開始5時間前に『Bellator 241』をキャンセルしたじゃないですか。あの大会については、スコット・コーカーが出場分のファイトマネーは補償することを言っていますが、その後については補償の話は全く出ていないんですよ。実は、5月の終わりに安西信昌選手の試合を組みたいという話がでてたんですけど、5月以降の大会も全部キャンセルになってしまったので、どうなるのか問い合わせているんです。ただBellatorも母体が大きいですから、話を通せば金は出るはずなんですが……」

――Bellatorの親会社はバイアコムCBSですね。

「全米3大ネットワークの1つであるCBS、MTV、ニコロデオンをはじめとするケーブルテレビ局向けのチャンネルやパラマウント映画を傘下に持つ巨大メディア・コングロマリットです。25社くらいテレビ局とか親会社を持っている。その中で、Bellatorは本当に小さいディビジョンの一部です。もしも、PRIDEの全盛期に、UFCに売らずに、メディアカンパニーに売っていたらどうなっていたのかなとか、想像してしまいますよね」

――米国発PRIDEが存在する世界線があったかもしれない、と。今はどこも先行きが見えないなか、スポーツ界も一旦止まって、それぞれの立場で出来ることをやっている。シュウさんのミット持ちもしばらく続きそうですね。

「選手はシェイプを維持しなくちゃいけないので大変です。普通のミットはともかく、しゃもじミットってけっこう難しいんですよね。ジムに行けないから、グラップリングダミーも買いたいんです。あれを買ってくれば、投げたりぶん殴ったりとかできますから。でも、僕腰が痛いのに持ち運ぶのが不安なので魅津希選手に頼もうと思ってます(苦笑)」


【写真】2019年8月31日、中国・広東省深セン市で計量オーバーした中国のウー・ヤナンに勝利した魅津希。後方にヒラタ氏の姿が見える。(C)Brandon Magnus/Zuffa LLC/UFC

――魅津希選手も井上直樹選手もそちらに住まわせていて、マネージャーとして拠点を提供している。米国に残っている選手たちも不安でしょうけど、この危機を乗り切るべく日々を過ごしているわけですね。

「そうです。2人とももう2年、ニューヨークにいますからね。やっと今年は直樹くんがRIZINで、魅津希ちゃんはUFCで活躍し、ここから独立させて……と思っていた矢先でしたからね。ちなみに顎を2箇所骨折した佐々木憂流迦選手の手術も4月の予定だったのが、5月下旬から6月頭に延期になってしまったんです。また復帰が延びてしまうかもしれない。それでも選手たちは諦めないですから。コロナのある世界でどう生きて行くか。それは我々だけでなく、みんなの問題です」

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