MMA
インタビュー

【UFC】対コロナ最前線のニューヨークから、米国格闘技を読む(2)──シュウ・ヒラタ「UFCのダナがファイトアイランド構想を捨てない理由」

2020/04/15 11:04
「ニューヨークにとって、9.11同時多発テロが最も暗い日のはずだった。そして今、私たちはこのサイレント・キラーのせいで、さらに多くのニューヨーカーを失っている」──ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、2020年4月9日の会見でこう語った。  新型コロナウイルスの全米の感染者数は4月11日時点で、50万2,876人(死者1万8,747人)、うちニューヨーク州では17万2,358人(死者7,844人)に上っている。それは、世界のどの国よりも多い数字だ。  そんなニューヨークで、長くファイターのマネージメントを務めるシュウ・ヒラタ氏は、UFCをはじめとする世界のプロモーションに数多くの選手を送り込んできた。しかし、このコロナ禍でほとんどの大会はストップ。選手たちも自宅待機を余儀なくされている。  ロックダウン中の同市で、「息ができずに喘いでいる人のみベッドが与えられる」というエルムハースト病院近くで、ヒラタ氏が目にしている現実とは? そんな最中のUFCの大会強行宣言と中止に至るまで、いったい何があったのか。そして、いま選手たちは、我々は何をすべきなのか──対コロナ最前線のニューヨークから、シュウ・ヒラタ氏が語る、後篇。 『UFC 249』はディズニー会長の一言で中止が決定した ――(※前篇からの続き)さて、そんな状況を理解した上で、米国におけるスポーツ・格闘技界の動きを俯瞰すると、様々なニュースに実感がわいてきます。シュウさんは、UFCにも多くのファイターを送り込んでいますが、4月18日に予定されていた『UFC 249』の開催中止に至る経緯も、マネージメントとして直にやりとりをされてきたかと思います。ダナ・ホワイト代表は、新型コロナウイルスが感染拡大するなか、ニューヨーク大会が不可能となったときから、プライベート島での開催、さらにコミッションの管轄外である先住民居留地のカリフォルニア州タチ・パレスでの開催案など、終始決行を宣言してきました。どのように感じていましたか。 「例のUFCの『ファイトアイランド』構想は、まだ続いているようです。ダナは『インフラを整備中で実際につくる』と言っているそうですから。『UFC 249』では、ウチと契約中のジェシカ・アンドラージ(元UFC世界女子ストロー級王者)が、ローズ・ナマユナスと対戦予定でしたが、UFCからの突然の要請で『明日にでもすぐに飛行機に乗って来てほしい』と言われて、ジェシカはブラジルから米国に入国すると2週間の隔離があることも考慮して、3月31日には飛行機でラスベガスに向かっていたんですよ。  幸いジェシカの場合は、彼女もコーナーマンたちも全員すでにビザを持っていたから、ギリギリ出国は出来た。なんとかベガス入りも出来たんです。着いてすぐにホテルに隔離されましたが、ホテル内とはいえ練習場も用意されていて、そこで練習をしつつ、隔離生活の中で全員で待機していました。でも、着いたときは、試合をする場所などは全然明かしてくれなくて、着いたらいろいろと説明すると言われて……最終的に『キャンセル』という言葉は絶対に使わないんです。問題になるので『延期』という言葉を使っていましたね。結局、大会は開催されなかったんですけど、まだちゃんとファイトマネーが支払われるのか、そういう話は直にはないんです。ダナはメディアを通して、『UFCと契約している全てのファイターは安心して欲しい。経済的な心配は必要ない』というようなことを明言していましたが、じゃあいくら出すのかいう話なんです。ご存じのとおり、元王者のジェシカはけっこう高給取りなので、その10分の一しかもらえないんだったら大変ですし」 ――たしかに試合をしなかったファイターが、どこまでファイトマネーが補償されるのか気になるところです。ところで、マネージメントサイドとしては、ファイトアイランド構想と、コミッションの管轄外のタチパレスでの試合というのはどのように聞かされていたのでしょうか。 「基本的に、アイランド構想はアメリカに来ることが出来ない選手たちのための試合を組むと。一方、タチパレスでは、アメリカ国内にいる選手、または、いったん入ってこれた選手たちの試合を組むのだと。弊社のマネージメント選手で言えば、日本人でも米国で練習している佐藤天選手や魅津希選手は後者のタチパレスのほうだと思っていたんです。ロケーション的にも、ロサンゼルスとサンフランシスコの間で、ベガスから近いところにありますし、MMA興行にも慣れている。UFCのスタッフも行くことを考えたら、条件的にはいい。一番初めからみんなが想定していた場所ではあるんです。でも、この新型コロナウイルスを巡る世論もあり、最後の最後はカリフォルニア州のギャビン・ニューハム知事が、UFCに影響力を持つDisney(ディズニー)の現取締役会長のボブ・アイガーに頼んで、ダナへの『stand down』の一言で中止が決定した」 ――DisneyはUFCを放送するスポーツ専門ケーブル局ESPNを傘下に収めていますね。 「そうですね。もういろいろな会社を持っていますし、何と言ったってカリフォルニア州の税金を一番多く納めているのはDisneyとAppleで、アイガーはAppleの取締役もやっていましたからね」 ――それは……ダナも従わざるを得ない。 「しかも、カリフォルニアは3月17日にアメリカで初めてサンフランシスコで自宅待機命令を出すと、19日にはカリフォルニア4000万人の住民にもロックダウンを命じています。その時点でディズニーランドは、カリフォルニア州知事の勧告を受けて、『正しい意見だ』ということで、すでに休園を発表していましたから、行政とめちゃめちゃ仲がいいなとは思っていたので、UFCがカリフォルニアで大会を開催するのは無理だろうとは思っていたんです。それにこれは後で聞いた話なんですけど、もしもタチパレスでの大会を強行したら、カリフォルニアの他の大会場は一切使えないようになるぞ、と圧力をかけられたそうです」 【写真】ウッドサイド酒屋近くに集まったソーシャルディスタンスお構いなしのドリンカー。すぐに警察が駆けつけ「全員、家があるなら帰れ、無いならシェルターに連れていくぞ」と解散させられた。 [nextpage] 42大会放送の契約で7億5千万ドルが保証されている ――そんなことがあったとは……。それでもダナは「今年は42大会を開催する」とも言っていますね。 「その42大会という数字は、放映権料に関わっているんです。ESPNはUFCの放送で、PPVを含む独占権によって7億5千万ドルを保証していて、年42大会やるのが契約上の条件なんです。だって普通に考えたら、ファイトアイランド計画を止めて契約下の選手全員にいくらか払った方が、島に施設を作って選手やセコンド・関係者をプライベートジェットで連れて行って毎週大会を開催するよりもコストは低いはずですよね。それでもこのファイトアイランド構想を捨てないのは、ESPNから7億5千万ドルを満額で欲しいということだと思います」 ――なるほど。この不測の事態に何らかの軽減措置があったのかもしれないですけど、基本的にはUFCにとっては大会を開催する必要があると。UFC以外で、無観客試合でも継続開催すると声明を出しているのは……WWEですね。外出禁止令が発令されたはずのフロリダ州のパフォーマンスセンターで、WWEは番組の収録や生中継を再開しています。WWEは競技ではないとしても興行面では州によってはアスレチック・コミッションが関与しているとも聞きます。 「月曜日のRAWと金曜日のSMACKDOWNはフロリダ州オーランドにある育成施設WWEパフォーマンスセンター、水曜日のNXTは同州ウインターパークにあるフルセイル大学で無観客試合を継続開催すると声明を出していますね。その模様は全米で中継される。  外出禁止令が発令されたはずのフロリダ州のパフォーマンスセンターで、WWEが番組の収録や生中継を再開したのは、フロリダ州ではWWEを“社会生活を維持するうえで必要な事業であると見なすことに変更した”かららしいんです。  ここで面白いのは、ESPNの記者がフロリダ州知事秘書室に『UFCやボクシングも社会生活を維持する上で必要な事業であると見なすか』と問い合わせたところ、『無観客で実施される限り、スポーツの限定はしない』と回答したというんです。  これなら『UFC 249』もフロリダのセミノーレでやる計画だったら、すんなり大会は開催されたかもしれないですね(笑)。WWEは競技ではないですが、明らかに選手たちのソーシャルディスタンスは不可能ですし、実際に現場で働くスタッフも、いちいち6フィート離れて、なんてやってられないですし。一部には、検査して陰性だった人が50人、100人集まったって関係ないだろ、という意見もありますけど、現時点ではCOVID-19の全てが解明された訳でもないですからね。無症状の病原体保有者の可能性も考えると……。  クリス・ワイドマン、アルジャメイン・スターリング、佐々木憂流迦、魅津希、井上直樹のヘッドコーチのレイ・ロンゴがすごく良い事を言ってたんです。『私だって私自身が必ずコロナに感染してないと自信を持って断言できない。そんな状況で一番大切なのは、スマート(賢明)な決断を下す事』と。つまり、UFCだろうが、WWEだろうが、普通の会社の会議だろうが、いま自宅を出て外に行く事がスマートな事なの? と。それで感染して自宅に戻り大切な家族や友達に感染させてもいいのか? という事だと思うんです。  もちろんWWEもUFCと同じで、FOXやUSA Networkから放映権料を満額貰えないと厳しくなるのかもしれないですけど、私が疑問に思うのは、大体どのライセンス契約でも選手と団体の契約でも、天災やテロ、感染病など、プロモーターのコントロールが効かない事情で大会が中止になった場合はその責任は課せられないと書いてあるものなんです。WWEとFOXやUSA Networkの契約内容は知りませんけど、私は交渉する余地はあるのではと考えます。実際にはそれを主張してもすんなり放映権料を全額貰えないから、こういう事になっているのでは、と思いますが。  ですから、WWEに関してはスマートな決断なのか、会社の事業を継続させて社員の生活を守るには致し方ない決断だったのか。どちらが正しいのかは、新型コロナの真相のように、現時点ではこれが正しい! と言い切れない、ということだと私は思ってます」 ──そんな状況下でUFCは、とにかくやると言い続けてきましたが、この世論では無観客でも大会を開催するのが困難になってきました。 「そうですね。世論としては、厳しい言い方をすれば、やっとちゃんとした良識のある大人が出てきて、ガキ大将を押さえつけたという感じです(笑)。今回も結局、無理になったので、今我々が説明を受けているのは、『ファイトアイランド構想はまだ続くので、あと1カ月ちょっと経てば、練習場とか選手・スタッフが泊まる施設だとか、すべてのシステムが出来上がるから、そうなったらやるぞ』と、言われているんです。けど、『試合までの追い込みの練習はどうする?』と聞いたら、『そこで練習もできるから』と。『じゃあ2カ月前に島に行けと?』みたいなやりとりをしていて、どこまで現実的なのかなとも思っているんです」 ――もちろんまだ公にできないところもあるでしょうけど、どういう島なんでしょうね。パラオのイノキアイランドのような……。 「そこもダナ・ホワイトが持っている島らしいんですけど、アメリカ領域のどこかなんでしょうね。僕はカリブ側じゃないかと踏んでいるんですけどね。あるいは西海岸のメキシコちょい手前とか。コスタリカで開催した『BodogFight』を思い出しましたよ(笑)。ただ、あのときも、いろいろなチームが来て練習をしていたので、技術交流ができて、人材発掘にもなるし、他のチームの見学も出来たので、選手にとっては悪くはないなという部分もあったんです。まあ、それでも2カ月間も練習相手やコーチが島に行くのは非現実的なようには思います。皆さん生活がありますからね。  選手たちも大変です。こういうときにビザがしっかりしている選手はアメリカにずっといられますけども、練習する場所がままならないですし、収入がどうなるのかとか、みんな宙ぶらりんです。一応、佐藤天選手と魅津希選手はとりあえずアメリカにいるという判断は下しているのですが、でももし半年以上も試合しないんだったら、どうするのか、また考えなくてはいけません」 ――もしファイトアイランドで試合をするにしても、検査も無症状病原体保有者を100%チェック出来るのか。もし島に感染者が入って拡大したら、逆に隔離されてしまうかもしれない。 「そこなんですよ。新型コロナウイルスがどこまでのものなのか、まだ定かじゃないこのときに、大会とか人を集めてやるのは無謀だという声は圧倒的に多いです。このファイトアイランドも、どこかで潰されるんじゃないかなと思ってしまうんですけどね。たとえば、今の状態でスポーツイベントを強行して、呼んだスタッフが一人でも感染したら、訴訟になる可能性があります」(※【追記】UFCは5月9日から23日までフロリダで、『UFC249』を含む4大会を無観客で開催することを発表。ダナ・ホワイトUFC代表は、6月からファイトアイランドのビーチにオクタゴンを設置して大会を行うこともメディアに語っている)。 ――訴えられるということですよね。たとえ検査をしても万全ではない限り、試合をする選手にもリスクがある。もちろんソーシャル・ディスタンスを保つことはできない。 「スパーリングもどうしてもやらなければ確認できないとき以外はやりません。対人練習でも接触のないマススパーみたいな感じですからグラップリングは難しい。佐藤選手のチームも最大でも4、5人くらいに分けて練習していました」 ――五輪の柔道などでも問題になりましたが、しっかり練習ができていないということはベストコンディションではないということですよね。 「そこですよ、一番残念なのは。今の時期に、例えば井上直樹選手は肉体改造中で、これからどんどん身体が大きくなって強くなるというときにこうして練習が出来ない。あるとき僕は、マッチメイカーに文句を言ったこともあるのですが、これまで例えば、ある選手が怪我になったときに僕らマネジャーは新しい選手を入れようとして売り込むわけじゃないですか。そんなときマッチメイカーが断る理由が、『こんな緊急オファーだとちゃんと練習できていないからベストなパフォーマンスが望めない』と。じゃあ今はどうなんだという感じなんです」 [nextpage] UFCでもオーナーが代わり、少しずつルールが変わってきている 【写真】対コロナ最前線エルムハースト病院から徒歩10分ほどのウッドサイドの街中。シャッターの落書きは日に日に増えている。エルムハースト病院にはアーティストらによる様々な支援も始まった。 ――再開までは暫く時間がかかりそうな感じでしょうか。 「僕はそう思っていますね。早くても秋なんじゃないんでしょうか。そうすると、3月の延期から数えて半年間になるわけですから、契約下にある選手全員に、一律いくらか払うべきだと思うんです。ウチのマネージメントでも魅津希選手も含め、試合がすでに流れていますからね。簡単な計算をすれば、500人に2万ドルだったら10億円くらい。実は数カ月前にズッファは配当金と称して合計で330億円くらい払っているわけです。その時にダナ自身も6億円くらいもらっている。だから、半年の補償で10億円くらいの金はあるはずだと思います」 ――日本の格闘技界とは体力の差がありますね。 「それはそうですね。UFCをスポーツ史上最高額の買収額となる40億ドル(約4400億円)で買収したWME-IMG(現Endeavor)は、様々なエンターテイメントビジネスにおけるアメリカの主要エージェンシーの1つですからね。マネジメントとしては、補償も含めいろいろ確認すべきことはあります。ただ、UFCの社員たちは全員自宅で仕事をしているような状況です。メジャーリーグの選手が奥さんが出産のときに試合に出たら非難されるようなこのアメリカで、コロナウイルスの終息が見えないなかでの大会開催はちょっと無理があるなと僕は思っているんですけどね。そんな中でなかなか選手たちが声を挙げにくいのは、やはりUFCにそれだけの力があるという表れでもあると思います」 ――まだまだ他のメジャースポーツに比べ、プロモーションの力が強いと。米国でのほかスポーツの対応はいかがですか。 「最近話題になっているのは4月10日にアナウンスがあった、NBAが4月15日に1回目の支払いを選手にするという報道ですね。小切手を発行するようですけど、それは初回をフルに払うということを意味しています。アスリート収入ランキングのトップ100に、NBAの選手は40人もランクインしていますが、シーズンが中断されている中、今後は減給される可能性があるとも報じられていますね。MLBでは延期する60日間、補償給与を受け取ることで選手会と合意しており、補償額は選手の契約形態により4段階で分けられるそうです。今季年俸に関しては、試合数に比例することになると報じられていますね」 ――大会が開催されず売上が無いなか支払いはすると。今後はどうなっていくか。 「格闘技界でも、みんな不安だと思うのでマネージメント選手全員に説明しているんです。UFCでもオーナーが代わり、少しずつルールが変わってきています。  2012年8月の『UFC 151』でダン・ヘンダーソンの負傷欠場に伴いチェール・ソネンが、ジョン・ジョーンズ戦の打診を受けたとき、ジョーンズが新たな挑戦者に対し一週間では準備期間が短いとしてソネン戦を拒否し、大会が中止になりましたよね。実は、あの大会に水垣偉弥選手が出場する予定で、現地に着いてからキャンセルになったんです。そのときに支払われたお金が5千ドル、源泉されて手取りは3千5百ドルでした。これは大会が消滅するというレアケースでした。これ以外に今のオーナーになってから、いろいろとルールが変わったんです。 以前は相手の体重超過や寸前の怪我や病気で試合がキャンセルになったら、計量をパスした選手にはファイトマネーのギャランティは全額払ってくれたのに(※この場合ウィンボーナスは支払われない)、それが新しいオーナーになってから、計量パスして試合ができる状態だった選手にも1万ドルしか払ってくれない。これってすごく大きい。ギャランティ5万ドル稼げると思ってちゃんと計量をパスしているのに、1万ドルしか支払われない。選手の間でもものすごくブーイングが出ていました。まだまだこのあたりでも4大メジャースポーツには及ばない部分ですよね。そういった前例を見ると、1万ドル前後がとりあえず支給されたとして3カ月延期。また3カ月延期になったらどうなるか。本当にファイトアイランドでやれるのか。ただ、やれないにしても、島には1回は行ってみたいという気持ちはありますけど(笑)」 ――RIZINで朝倉海選手を破りバンタム級王座に就いたマネル・ケイプもUFC入りが発表されましたが、タイ在住で、オクタゴンデビューは半年後や1年後になってしまうかもしれませんね。 「そうですね。一部では『UFCは新規契約は半年間くらいやらないのでは』という声も聞かれるなか、某日本人選手もついに契約したらしいですが、このままだとしばらく試合が組まれない可能性はありますね。ただ、本当にファイトアイランドで練習できるんだったら、それこそ魅津希選手やその選手も呼んで、ジャパントップチームで合宿組めばいいかなと思ったくらいです(苦笑)。実を言うと、平本蓮選手をイスラエル・アデサニヤのところ、ニュージーランドのシティ・キックボクシングに行かせる予定だったんです。あのジムのオーナーの一人ダグ・ヴィニーはK-1でバダ・ハリとも対戦していますし、GLORYで活躍したアデサニヤのように、キックからMMAに転向した選手が多いので、バックボーンが同じだからいいと思っていたのですが、そういったことも全部延期になっています」 ――補償なども含めてしばらく耐える必要がありそうですね。 「選手も大変ですし、うちらマネジメントも大変ですから。UFCのようなプロモーションばかりではないので、非UFC選手もいろいろマネジメントさせてもらっているんですけど、もう全然試合が無いので、基本、収入ゼロですから……」 ――ファイトマネーの補償を明言したのは、あとはBellatorくらいでしょうか。 「Bellatorも3月13日に無観客で行うと発表してから一転、開始5時間前に『Bellator 241』をキャンセルしたじゃないですか。あの大会については、スコット・コーカーが出場分のファイトマネーは補償することを言っていますが、その後については補償の話は全く出ていないんですよ。実は、5月の終わりに安西信昌選手の試合を組みたいという話がでてたんですけど、5月以降の大会も全部キャンセルになってしまったので、どうなるのか問い合わせているんです。ただBellatorも母体が大きいですから、話を通せば金は出るはずなんですが……」 ――Bellatorの親会社はバイアコムCBSですね。 「全米3大ネットワークの1つであるCBS、MTV、ニコロデオンをはじめとするケーブルテレビ局向けのチャンネルやパラマウント映画を傘下に持つ巨大メディア・コングロマリットです。25社くらいテレビ局とか親会社を持っている。その中で、Bellatorは本当に小さいディビジョンの一部です。もしも、PRIDEの全盛期に、UFCに売らずに、メディアカンパニーに売っていたらどうなっていたのかなとか、想像してしまいますよね」 ――米国発PRIDEが存在する世界線があったかもしれない、と。今はどこも先行きが見えないなか、スポーツ界も一旦止まって、それぞれの立場で出来ることをやっている。シュウさんのミット持ちもしばらく続きそうですね。 「選手はシェイプを維持しなくちゃいけないので大変です。普通のミットはともかく、しゃもじミットってけっこう難しいんですよね。ジムに行けないから、グラップリングダミーも買いたいんです。あれを買ってくれば、投げたりぶん殴ったりとかできますから。でも、僕腰が痛いのに持ち運ぶのが不安なので魅津希選手に頼もうと思ってます(苦笑)」 【写真】2019年8月31日、中国・広東省深セン市で計量オーバーした中国のウー・ヤナンに勝利した魅津希。後方にヒラタ氏の姿が見える。(C)Brandon Magnus/Zuffa LLC/UFC ――魅津希選手も井上直樹選手もそちらに住まわせていて、マネージャーとして拠点を提供している。米国に残っている選手たちも不安でしょうけど、この危機を乗り切るべく日々を過ごしているわけですね。 「そうです。2人とももう2年、ニューヨークにいますからね。やっと今年は直樹くんがRIZINで、魅津希ちゃんはUFCで活躍し、ここから独立させて……と思っていた矢先でしたからね。ちなみに顎を2箇所骨折した佐々木憂流迦選手の手術も4月の予定だったのが、5月下旬から6月頭に延期になってしまったんです。また復帰が延びてしまうかもしれない。それでも選手たちは諦めないですから。コロナのある世界でどう生きて行くか。それは我々だけでなく、みんなの問題です」
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