MMA
インタビュー

【RIZIN】榊原信行CEO独占インタビュー(2)「“メガイベント”には国内はもちろん、Bellator、UFC、ONEにも声をかけていきたい」

2020/04/12 11:04
「断腸の思いですが、4月19日の『RIZIN.22』を中止にさせていただきます」──4月2日の会見で榊原信行CEOは、新型コロナウイルスの影響による横浜アリーナ大会の中止を発表した。5月17日に予定されていた「RIZIN仙台大会も併せて中止」が決定。「少なくとも4月、5月、6月は大会を開催しません」と2020年の上半期の大会の自粛を発表している。  朝倉未来&海の兄弟をはじめ、マネル・ケイプ、トフィック・ムサエフの2大王者の参戦も予定されていた4月大会。しかし、ケイプは会見の前々日にUFCとの契約を発表していた。  刻一刻と状況が変わるなか、榊原CEOはどんな決断を迫られていたのか。大会中止の経緯、ひっ迫する団体運営、ケイプ離脱、五輪アスリートのスカウティング、そして、急浮上した“真夏の格闘技の祭典”──その真相を榊原CEOに聞いた。独占インタビューの後編。 パトリック・ミックス再来日の話はある ――王者になってからの「もう1試合」を義務づけられない以上、UFCフライ級ランカーにも勝っている扇久保選手とのリスクのある試合をマネル・ケイプ側が受けることはしないのは理解できます。ただ、せっかく育て上げた選手が、頂点に立って流出という形になってしまいました。今後のバンタム級戦線はどう考えていますか。 「我々の紡いできたバンタム級のドラマでいうと、やっぱりここはケイプがいなくてはいけないピースの一つ、見てほしいピースの一つではあったので残念ではありますけど……バンタム級は人材の宝庫なので、ケイプが空けた穴をどうするか。次の流れでどうアクションを起こしていくかというのは、ファンの人たちの意見も聞きながら、新たなドラマをまた展開していけるようにしたいなと思っています」 ――バンタム級は、王座決定戦が濃厚でしょうか。 「そうですね。今度は暫定王座決定戦ではなく、王座決定戦を行う。ケイプへの挑戦権を手にしていた扇久保選手を軸にしながら、扇久保選手と誰がやるのがいいのか、考えています」 ――大晦日に石渡伸太郎選手に勝った扇久保選手は尊重されると。 「そこは担保をしたうえで、ふさわしい王座決定戦の相手を決めていきます。ビクター・ヘンリーがいいのか、朝倉海がいいのか、そこはまた皆さんの意見も聞きながら、相談をしていきたいところではありますね」 ――バンタム級では、Bellatorのスコット・コーカー代表が推薦するパトリック・ミックスが再びRIZINでの試合をアピールしています。 「その話はありますよ。元谷友貴に一本勝ちしたパトリック・ミックスがまた見たいとなれば、面白い試合になると思います」 ――なるほど。13勝無敗のミックスがまた日本に来る可能性があれば興味深い試合になると思います。バンタム級戦線は、扇久保選手を筆頭に朝倉海、石渡伸太郎、水垣偉弥、佐々木憂流迦、元谷友貴選手らに加え、浜松大会を勝ち上がったビクター・ヘンリー、井上直樹、金太郎、そして年内の復帰が待ち望まれる堀口恭司選手も控えています。 「ほんとうに人材の宝庫ですよね。期待してお持ちください」 今なら大同団結で一つになれる。ならなくちゃいけないタイミング ――さて、会見で今夏を目指して開催を企画したいというメガイベントですが、東京オリンピックが1年延期になるなか、会場が空くと同時に、まだまだ新型コロナウイルスの終息が見えない状況です。どんな思いでメガイベントの開催を目標としたのでしょうか。 「正直に言って、具体的にはこれから、です。2002年に国立競技場で『Dynamite!』というタイトルで、K-1もPRIDEもINOKI BOM-BA-YEも、みんなが手を携えて開催できた。20年前にあれだけのことができているんだから、今の時代でも、みんなでそのくらいのスケール感のことが“真夏の格闘技の祭典”でやれたらいいなという思いからの提案です。  もちろん、コロナウイルスの終息を前提としていますが、時期としては、まずは夏に最初のフラッグを立てたい。それこそ、新国立競技場をオリンピックで使わないんだったら、せっかく作ったのにもったいない。武道発祥の国の“格闘技五輪”として、国立競技場をもう一度、貸してくださいというくらいの気持ちがあります。それに、当初のオリンピック期間中は使用予定だった会場がガラッと空いているはずだから、さいたまスーパーアリーナや代々木競技場、新しい有明アリーナも、そういう会場をうまく活用させていただけたらと、気を吐くつもりで言いました。  コロナの収束が進んでから、よっこらしょと企画を立てても間に合わないので、いまは半分妄想が入っているかもしれないけれど、具体的に希望を持って、格闘技ファンが、RIZINのファンが“じゃあ、次いつやるんだ”と気をもむだけじゃなく、夏になれば……という思いの中でいまを頑張ることができれば、さまざまな我慢もできるんじゃないかとも思い、発表させていただきました。  会見を横浜大会の中止というネガティブな発表だけで終わりたくなかったし、格闘技もこれで灯が消えちゃうというふうに思われたくもなかった。みんなで乗り越えて行くために、何か共通の目標、希望、そういったものを持てるといいなと思って提案をしました。これから3カ月、4カ月という時間の中で、状況を見ながらいろいろな形を描いていけたらいいなと思っています」 ――「国立を押さえろ」となるといいですね。2019年12月21日に開かれた新・国立競技場のオープンニングセレモニー以降、同所では2020年元旦のサッカー天皇杯や、1月11日のラグビー大学選手権ではいずれも5万7千人を超える観客が集まりました。しかし、5月23日と30日に予定されていたラグビー日本選手権は中止となるなど、現在の予定はキャンセルが続いています。 「このまま1年間雨ざらしにしておいたら、せっかくの施設も錆びついてしまう。東京オリンピックの弔い合戦で、一夜限りの夢でも、格闘技界にそのチャンスを与えてもらえないものかと。別にほんとうに『RIZIN』のタイトルじゃなくても全然いいんです。みんなで想像をした、その日だけのタイトルを作って、いろいろなドリームマッチを実現させる。僕ら以外の、K-1やRISE、シュートボクシング、ほかの団体・ジムのみなさんも、今なら大同団結で一つになれる。ならなくちゃいけないタイミングなんじゃないかなと感じます。自分たちも意地やプライドやこだわりを全部捨てて、何かをやれたらいいなと思います」 ――年末のBellatorとの共同開催も「やってみよう」というところから始まって、ほんとうに実現しました。開催時期はともかく、声を上げていくというのは重要かと思います。ところで2002年の『Dynamite!』では、吉田秀彦vs.ホイス・グレイシーのジャケットマッチがあったり、ミルコ・クロコップvs.桜庭和志、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラvs.ボブ・サップの名勝負、K-1ルールでジェロム・レ・バンナvs.ドン・フライ、アーネスト・ホーストvs.セーム・シュルトといったカードも組まれていました。榊原CEOのなかでの“格闘技五輪”のイメージは? 「RIZINはそれこそフェデレーションとして協力団体に全部出てもらえるように協力を呼びかけたいと思いますし、そこに他団体の選手たちも絡んでくれば、いろいろなドリームカードが実現できると思います。これは国内外問わず。Bellator代表のスコットはもちろん、極論、UFCとかにも声をかけていきたいと思っています。こんなときだからこそ、コナー・マクレガーが出てくれないかなとか。ONEもいいんじゃないかとか。偉そうに言うつもりはありません。そういうことも照れずに言ってお願いしてみなければ分からないので。今まで起きなかったことを、みんながこういうタイミングだからこそアクションを起こしていけないものかと思っています」 ――街中で声を出して会話をすることさえ憚られる世の中ですから、いま新型コロナウイルスの収束に力を合わせて、これから日差しが強くなる日本でもしほんとうに収束をすれば、思いっきり声を上げて、試合を観戦できるような大会は望まれると思います。 「そういうことを想像してもらうだけでも、日々生きていく活力にもなるだろうと。選手たちにも目標が持てるように。日々のこの厳しい環境の中で、道場やジムが閉鎖されるなか、自宅などで工夫しながらトレーニングを続けていくのも辛いと思います。身体が資本だから休むわけにもいかず、収入も稼がなくてはいけない。そういう選手たちのモチベーションにも繋がるような大会を、もし、夏までに終息していなかったら、秋に、それでもダメなら大みそかに、と考え続けたいです。それは新型コロナウイルスの感染状況によってフレキシブルに考えざるを得ないところではありますが、まずはここから3カ月先、4カ月先のイメージの中で、そういうものを具体的に提案できたらと思います」 トップアスリートたちにもコンタクトしている ――――かつての吉田秀彦選手のように、4月1日にはレスリング界から元全日本王者・中村倫也選手が総合格闘技転向を表明しました。五輪が1年後になり、そこまで待てないというアスリートも出てくるかと思います。RIZINとしては、そういったトップアスリートを積極的にスカウトしていくのでしょうか。 「はい、もちろんです。オリンピックが1年先(2021年7月23日~8月8日)とされていますが、この東京オリンピックを前後して、アマチュアのトップアスリートたちには、すでに水面下で僕らも会ったり、話をしたり、間に入っている人たちからいろいろな提案をもらったりしています。中村選手のことは僕は知らなかったのですが、そういう意向をお持ちであれば、1回会って話をしてみて、何を目指しているのか、聞いてみたいなと思います」 ――では最後に、納税しながら支援が無い格闘技に対してあらためて国には納税の再分配を求め、RIZINとしてはまずは夏までは充電期間にすると。状況次第では夏前にも再開を目指していると聞きます。 「そうですね。そこは状況次第です。当面、3カ月間くらいの方向性は立ててそこに向かって頑張っていくのですが、いまの状況がもっと長引いたら……ほんとうにもう存続できなくなる。国などの支援が無ければ厳しい。昨年、実施した投資型クラウドファンディングや、あるいは純粋なクラウドファンディングとかも含めて、志を共有してくれるファンの人たちからも力を貸していただくことが必要になってくるかなと、これはもうほんとうに率直にそう思っています。格闘技を愛してくれるファンの人たちとともに、この厳しい時代を生き抜いていくために。そういう人たちと耐え忍んで、その期間、支援をいただいたものを持って、夏なり、しかるべきタイミングで大会を開催し、皆さんにお返しをしていくような、そういうキャッチボールも含め、“真夏の格闘技の祭典”に向けて頑張っていきたいと思います」
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