(C)ONE Championship
2020年2月7日(金・現地時間)インドネシア・ジャカルタのイストラ・セナヤンにて、ONE Championship『ONE: WARRIOR'S CODE』が開催され、松嶋こよみ(パンクラスイズム横浜)が、半年ぶりのファイトで強豪のキム・ジェウン(韓国)を3R、右ストレートでダウンを奪ってのパウンドでTKO勝ちを収めた。
2019年8月にONE世界フェザー級王者マーティン・ウェン(豪州)に挑み、TKO負けを喫した松嶋。世界王座奪取に失敗した試合から、自身を見つめ直し、再び作り直して難しい再起戦に勝利した。
勝負どころでコーナーの北岡悟代表から掛けられた言葉、試合直前に見直したジェウンの癖、「ただただしんどかった」という3R目のフィニッシュ──猛者が揃うONEフェザー級(※70.3kg)戦線で、松嶋こよみは再び頂きを目指す。多くの大会で流れていく試合の数々のなかで、心に留めておきたい熱戦を、ONE Championshipの協力のもと、本人に聞いた。
パンチで倒した後は、乳酸が溜まって“早く止めてくれ、早く止めてくれ”と思ってました
──MMA4連勝中だった強敵のキム・ジェウォン選手に3R TKO勝利を収めました。試合を振り返って、率直な感想から教えてください。
「すごいしんどい試合でもあったんですけど、最終的には自分の作戦が上手くハマった試合かなと思っています」
──ジェウォン選手は松嶋選手の組みを切り、かなりアグレッシブに圧力をかけてきました。
「凄く圧は感じたんですけど、マーティン(ウェン・王者※2019年8月に松嶋が対戦)の圧ほどではなかった。そこはちょっと気持ちが楽になって戦えたかなと思います」
──圧力は実際見えない部分ではありますが、「マーティンほどじゃない」というのは具体的に何処が違うのでしょうか。
「(ジェウォンは)マーティンより武器が色々あるんじゃないかなと思うんですよね。マーティンはあの右があるから、他は気にせずともこれを当てるという圧が凄くて、そこに僕は精神的にやられたところがあるんですけど、逆にキム・ジェウォン選手は意外と色んな所から攻撃出来るタイプだった。それが僕的にはやりやすい。(マーティンと比べて)圧を感じなく戦えた結果かなと思います」
──前回はマーティン選手の右の圧力にやられた部分が大きかったと。
「向こうの強い部分を意識して自分が弱くなっちゃう所があったんじゃないかなと。今回は自分の強い所を当てようと思っていたので、逆に相手が嫌がってくれた。それが圧を感じなかった結果かなと思います」
──激しい打撃戦にもなりましたが、打ち勝てる自信はありましたか。
「打撃を貰わずに打つというのが一番大事だと思っていたんですけど、正直ダウンを取れるとかは全然考えていなくて、ただ良いパンチをどんどん当ててテイクダウンに繋げていこうと思っていました」
──突きに加え、右ロー、サイドキックと蹴り技も有効でした。岩﨑達也先生の空手は重心も含め、どのような場面で活きたと感じましたか。
「相手を詰めていく部分とかでも、今までと違って重心が重い状況で詰めて行けたからこそ、パンチも入ったと思うし、カットしにくい蹴りを蹴れたんじゃないかなと思います。自分の重心がブレて蹴っている時には、相手もパンチ当ててきたので、そこは改善点なんですけど、今回は良い結果に繋がったと思っています」
──3R、ジェウォン選手をダウンさせた右ストレートは、頭を下げながらもコンパクトで独特な軌道でした。レスリングとの融合のなかで、どのように磨いてきたのでしょうか。
「前回の試合が終わってからボクシングを習うようになって、ストレートの打ち方だったり、一から考え直す場面が今までの練習の中であったので、それを自分で横浜(パンクラスイズム横浜)に持ち帰って、スパーリングの中でタックルと上下に意識をさせてからパンチを出したりする練習をしてきたので、それが出たかなと思っています」
──途中、テイクダウンを切られ・あるいは立ち上がられ、ジェウォンの右を被弾しました。セコンドの北岡悟選手らからは試合中、あるいはラウンド間に、距離も含め、どのようなアドバイスが松嶋選手にとって助けとなりましたか。
「2Rにダウンを取った時、『急がなくていい』って言ってくれて、そこで焦らず、もちろんそこで決めたかった気持ちもあったんですけど、体力温存させる為にも『焦るな 焦るな』と言ってくれたので、そういう部分ではあの場面で急ぎ過ぎなくて良かったなと。もしあれで動き過ぎてたら、体力が無くなって次のラウンドに行けない状態だったなと思います。
そして、一番助かったのは、2R目終わってコーナーに戻って来た時に『折れるな!』と言われて。前回の試合で自分が折れてしまった部分もあったので、もう一度気持ちを入れ直して3R目に臨めたかなと。本当にセコンドの北岡さんだったり、トレーナーさんのおかげで3Rに仕切り直して戦うことが出来たと思います」
──ダウンを取ったご自身の拳の感覚と手応えとしてはどうでしたか。
「一回倒れた時は相手の目がまだ虚ろだったので、“このまま行けるかな”と思って倒しに言ったんですけど、パウンドを入れる中で相手が起きて来たのが目で分かったんです。もちろん北岡さんの声も聞こえて、“ここはいったん休もう”って意識をすぐに切り替えられました」
──徐々にジェウォン選手の意識が戻ってきて、ホールドして来ました。
「ONEの採点方法でも、あれだけダウン取ったら大きいと思うんですよ。ただテイクダウンを取って上にいるだけでは無いので。その部分では安心して休むことが出来たかなって」
──3R目のフィニッシュを振り返ってみていかがでしたか。
「ただただしんどかったですね……。パンチで倒した後は乳酸が溜まって“早く止めてくれ、早く止めてくれ”と思ってました。その前に、キム選手が前に出て来てくれたおかげで、下がったところに自分のパンチだったと思うんで、もちろん彼が攻める気持ちがあったからこそ起きた最後の結果だと感じます」
──なるほど。実際に対峙して相手の癖なども見つけたのでしょうか。
「すごく特徴的な腕の振り方をしていたので、そこを狙っていて。右のストレートがそんなに見えていないだろうなと感じていたのでその部分では作戦が当てはまったなと思います」
──それは試合中に気づいたのでしょうか。それとも事前にビデオで?
「ビデオです。試合当日の試合前にちょうど見ました。会場行きのバスの中で北岡さんとトレーナーさんと見直して、『やっぱり左手が落ちてくるね』と話をしていて。左ボディ、左フックが強いのですが、それ狙う時、上下の振りがある。そこでやっと気づきました。(左ボディを打ってくる時に)体を傾けてくるのを試合前に見つけられたのはすごく大きな事でしたね。作戦は最初から決まっていた事を当てはめただけなんですけど、丁度、相手の癖とも合わさって上手く入ったと思います」
──打投極の全てを織り交ぜたMMAを見せてくれましたが、今のご自身の完成度はどれくらいでしょうか。
「まだまだ強くなれると思うし、試合の映像を見てもダメな部分が何個も見つかって、2割3割ぐらいでいいかな。まだまだ(伸びしろが)ある所を見せたいですね」
──今後の対戦相手も松嶋選手を研究してくると思います。
「毎回違う動きをするので、逆に見つけにくいのかなと。レスリングがみんな印象付いているので、それを餌に違う攻撃をする事が、今後の課題かなと思います」
──松嶋選手のレスリングを駆使した戦い方は、非常に体力を消耗する戦い方です。今後の課題はどこにあるでしょうか。
「もちろん、自分の強みがレスリングであることは今後も変わらないし、ただその中で打撃を織り交ぜて、なおかつ倒した後も攻めて行けるかをもっと突き詰めていきたいなと思います」
──フェザー級王者まであとどれくらいの道のりになると思いますか?
「まだまだ遠いと思いますね。それ以外にも強い選手がいっぱいいるので。その選手たちとも戦わないといけないし、順番に(挑戦者が)並んでるものなので、マーティンもすぐ僕とやる必要はないと思います。一つひとつ勝ってまたそこに辿り着かないといけないですね」
──アピールするのであれば、次は誰と対戦してみたいですか。
「誰ともやりたくないのが一番ですけど(笑)。僕とやりたい人がいればって気持ちでいます。誰とやってもしんどいので(苦笑)。そこで勝ってタイトルマッチが出来るんであれば、そんな対戦相手とどんどん戦っていくしか無いのかなって」
──今回、「気持ちが折れなかった」一番の要因は?
「前回の負けですかね。マーティンとやった試合、そしてセコンドのお二人のおかげですね。気持ちが折れそうな時になんとか踏ん張れたのは『折れんな』って言葉があったから。それが一番印象に残っています。これからもやることは変わらないので、一つひとつまた強くなってベルトを目指して戦いたいと思っています」
──最後にファンへメッセージを。
「試合を応援して頂きありがとうございます。タイトルマッチまで遠い道のりではあると思うのですが、一つひとつ積み重ねてベルトを狙っていきたいと思うので、これからも応援よろしくお願い致します」