2025年12月6日(日本時間7日)米国ネヴァダ州ラスベガスのT-モバイルアリーナで開催される『UFC 323: Dvalishvili vs.Yan 2』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)にて、フライ級5位の平良達郎(日本/THE BLACKBELT JAPAN)が、同級2位のブランドン・モレノ(メキシコ)と対戦する。試合を控えた平良が本誌インタビューに答えた。
平良の試合の2試合後には「UFC世界フライ級選手権試合」として王者アレシャンドレ・ パントージャ(ブラジル)vs.挑戦者ジョシュア・ヴァン(ミャンマー)も組まれており、平良とモレノの勝者が次期コンテンダーとなりうるランキング戦だ。
▼フライ級 5分3Rブランドン・モレノ(メキシコ)23勝8敗(UFC11勝5敗)2位 ※インタビュー平良達郎(日本/THE BLACKBELT JAPAN)17勝1敗(UFC7勝1敗)5位
(C)Zuffa LLC/UFC
平良は修斗世界フライ級王者からUFCに参戦し、オクタゴンで6連勝を記録。24年10月に同級1位のブランドン・ロイバルにスプリット判定で敗れプロ初黒星を喫したが、25年8月の前戦で当時無敗のパク・ヒャンソン(韓国)に2R リアネイキドチョークで一本勝ち。試合後に王者を含む上位陣との対戦をアピールしていた。MMA17勝(5KO・8一本)1敗。25歳。
対する2位のモレノは、メキシコ人として初めてUFCのベルトを巻いた元王者。21年にデイブソン・フィゲイレードにリアネイキドチョークで一本勝ちし初戴冠。翌年のラバーマッチでフィゲイレードに判定負けで陥落も、22年にカイ・カラ=フランスとの暫定王座戦で、左ミドルでダウンを奪いパウンドで3R TKO勝ちし暫定王者に。23年には正規王者フィゲイレードに3R TKO勝ちで統一王者となっている。23年7月に現王者のアレッシャンドリ・パントージャとの再戦でスプリット判定で敗れ王座陥落し、続く24年2月にブランドン・ロイバルにもスプリット判定で惜敗したが、その後、アミル・アルバジ、スティーブ・エルセグに判定勝ちで2連勝中。MMA23勝8敗2分(5KO・11一本)。大会翌日に32歳になる。
モレノはこれまで公式戦でKO・TKO負け、一本負けが無く(※2016年の『TUF24』でパントージャにRNCで一本負けもEX扱い)、8つの黒星はすべて判定によるもの。
メイン&王座戦の5Rの経験値が高いモレノに対し、平良は3R戦でいかに初回からモレノを上回れるか。ラスベガス入り直前の平良に本誌がインタビューした。
デンバーと沖縄で「濃密なファイトキャンプ」
──平良選手、今はどちらにいらっしゃいますか(※ZOOM取材は11月28日)。
「デンバーの宿にみんなといますね(※画面を松根良太TBJ沖縄代表に向ける。岡田遼コーチ、兄・龍一、食事を作る母親の姿も)。今は練習が終わって、夜ゆっくりしてるところです」
──そういった時間にインタビューを受けていただきありがとうございます。週明けてからラスベガスに移動ですか。
「はい、こっちの日曜日に。試合の6日前ですね」
──8月2日にアミル・アルバジの欠場を受けて、急遽当時無敗のパク・ヒョンソンと対戦し、2Rに一本勝ちしました。その後、9月にはデンバーで最初のキャンプを行っていました。そして沖縄・東京練習を経て、いま2回目のデンバー合宿ということですね。試合直前と試合3カ月前では内容も異なるように感じますがいかがでしょうか。
「自分的には、今回、9月からの3カ月間は結構準備期間がなかったのでいろいろ、自分の中でもスイッチを入れること、すごく濃密な時間にするために、デンバー、沖縄、デンバーという形をとりました」
──それぞれのキャンプでテーマを持ってやってこられたのでしょうか。
「そうですね。これまでのHAMA(High Altitude Martial Arts)を中心に、2回目のデンバーでは、ONX(UFC王者を多数指導するトレバー・ウィットマンコーチがいるジム)でも練習場を貸してもらって。やること自体はHAMAのコーチやチームメイトとやっていることとあまり変わらないんですけど、場所を変えて、集中したプロ選手練習だったりとか、そういうのが今回の2回目のキャンプでは増えてきているかなという感じです」
──ということは、ONXでのトレーニングにもマイク・ゴンザレス打撃コーチらが帯同されたりするのですか。
「はい。HAMAのストライキングのコーチやレスリングコーチも来て、練習場所だけONXに変わったみたいな感じです」
──選手たちがギャラリーのようにケージを取り囲んでいる写真を見ましたが、試合形式でやっているのでしょうか。
「スパーリングは全部、HAMAでやってるんですが、週1回、金曜日にスパーリングがあるので、そのときは(ブランドン)ロイヴァルがケージを使っていて、最後の1R、“みんなで見るぞ”みたいな感じで。(UFC)APEXっぽい雰囲気を作って、ちょっと盛り上げるじゃないですけど、アメリカらしいなと思いました」
(C) Ryo Okada
──たしかに。両コーナーマンもついて観客的に人の前でやる。平良選手のスパーリングの時もそういうことがあるのですか。
「いえ、僕は前半でケージを使わせてもらっていて。でも本当にコーチとかにセコンドしてもらったりしながら、より本番に近い形でやりましたね」
──あらためて2回のデンバーキャンプを経て、その感触はいかがですか。
「本当により濃密な時間になりましたし、1回目に行ったことで、そのときには(ブランドン)モレノと戦うってことは聞いていたので、HAMAのみんなも喜んでくれていてモチベーションになったのと、今回、試合前の最後のファイトキャンプに入る前に、コーチたちが(モレノ戦について)どう思ってるか、どういう戦い方がいいと思っているか、どういうパターンがハマると思ってるかということを確認できたのは、すごい良かったなと思ってます」
──なるほど。その考えに沿って練習を組み立てることができたと。その2回の米国キャンプの間には、THE BLACKBELT JAPANの沖縄と東京でも練習を行いました。千葉で扇久保博正選手と。沖縄では齋藤奨司選手を招聘してスパーリングも行っていましたね。そのスパーでも両コーナーに松根さんと岡田さんがついて、さらに大橋ジムの井上浩樹さんが動きをチェックされているのを見ました。どんなアドバイスを受けましたか。
「打撃のボクシングの動きのなかで、たとえば自分がパンチもらってる時は『達郎、いまパンチをもらったときに何を考えてる?』とか、『パンチを打った後、何を考えてる? 何も考えないのはダメだよ』とか、そういう実戦的なアドバイスをいただいていますし、ミットとかも色々持ってもらったりして。本当にたくさんのアドバイスいただきましたね」
──そういえば、以前の東京合宿のときは 井上拓真選手からもアドバイスをもらっていたそうですね。先日の那須川天心戦も凄かったですね。
「はい、アメリカで見てました!」
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3R戦は、僕に利がある
──そういった段階を経て、今回の試合に臨むわけですけれど、改めてブランドン・モレノという選手をどのようにとらえていますか。
「やっぱり自分の中でも本当に大きな相手っていうのは、間違いないですし、これを超えたら──これを超えた後っていうのを想像するとすごくワクワクするんですけど、やっぱり本当、この一戦にすごいかけていて……ビッグマッチだなって」
──たしかに。しかも同じラスベガスでも、ここ直近4試合のUFC APEXとは異なる2万人収容のT-モバイル・アリーナでの試合となります。ようやく観客のいる前で試合をするのは、平良選手にとってはモチベーションにもなりますか。
「そうですね。T-モバイルで試合を戦えることがすごい嬉しいですし、そこはすごいワクワクしていて。まあでも、ちょっとアウェーなんだよなって思いますけど(苦笑)」
──T-モバイル・アリーナでの試合は、2023年7月のエドガー・チャイレス戦以来で“メキシカンの敵”みたいに図らずもなっていますが、平良選手の人気も高まっています。
「そうですね。すごい公開計量だったり、モレノの人気とかも感じると思いますし、そういったこともやっぱりAPEXだと経験できないことなので、今後タイトルマッチをナンバーシリーズでどんどんメインに入っていきたいんで、ほんとうにT-モバイルで戦えることに感謝しています」
──その大観衆のなかで、今回は3R戦になります。平良選手にとってはここ3試合が5R戦で、ブランドン・ロイヴァルとはフルラウンドを戦ってきました。モレノにとっては、2020年のロイヴァル戦以来の3Rマッチで、直近4試合は5Rでの判定勝ちです。戦い方も変わるでしょうか。
「そうですね、5分3R。僕の試合自体は5R判定は1回しかないですけど、それなりに経験して、その作り方っていうのは分かっているので自信はあるんですけど。やっぱり3Rで短くなったことに関しては、僕にちょっと利があるんじゃないかなと思ってます。モレノの方がやっぱり5Rの経験が長いですし、3Rのペース感っていうか──そういった部分ではここ2試合、(アミル)アルバジ戦や(スティーブ)エルセグ戦はちょっと5Rの戦い方をしていたので、僕と急に3Rで行けと言われて、もちろん変えられるとは思うんですけど、そこは僕に利があると思っています。3R、エンジン全開で行こうかなと思ってますね」
(C)Zuffa LLC/UFC
──そのモレノに5Rの経験値を出させないという意味で3R戦で分があると。一方で、3R中2つを取らなくてはいけないことを考えると、いま「エンジン全開」と仰った言葉通り、序盤からそんなに様子見はできなさそうですね。
「そうですね。本当、1R・1Rの重みが変わってくるので、2Rを落としたらフィニッシュしないといけないですし、勝つことを考えると、やっぱり最初のラウンドが一番大事なのかなって思ってますね」
──となると、初回から自分を信じていくことになる。その自信は今回のキャンプでを通して手応えはいかがですか。
「そうですね。自分を一番信じて──周りにも『自分を信じろ』ってすごく言われていてそれを信じてあとは楽しむだけかなと思ってるんで1R、アレックス・ペレス戦やブランドン・ロイバル戦のように“どっちが取ったかな?”みたいなラウンドをやるんじゃなくて、やっぱりそこを明確にする必要が今回あるのかなと思っていますので、入りっていうのはすごくイメージしてます」
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1週間後にケイプと戦うロイヴァルと同じ空間での練習が「刺激になる」。堀口恭司の試合は「強い選手・危険な選手が帰ってきた」
──モレノはロイヴァルと対戦しています。そのロイヴァルとの試合を5R、平良選手も戦ったことで、その経験が今回の試合の力になるのではないかと思いました。想定も含めて。
「そうですね。近い対戦(24年11月)でロイヴァルもモレノに勝ってますし、そういうトップランカーと5R、戦えたっていうことは、間違いなく、自分の背中を押してくれてます。今回、初めての強敵じゃないぞっていう安心感はあります」
──そのロイヴァルもデンバーでのキャンプにはいたのですよね。岡田コーチは「次は俺が挑む」とスパーする勢いでした。どうなったでしょうか。
「それはちょっとまだ一度もお見かけしてないですけど(笑)、でも僕の1週間後にロイヴァルも試合(マネル・ケイプ戦)なんで、練習自体はそこまで交わってないですけれど、同じ空間でお互いの試合を応援しているので、本当にロイヴァルがいい練習、いいスパーとかしてたら刺激になりますし、すごい熱くいい関係というか、本当にいい刺激になる人かなって思ってますね」
(C) Ryo Okada
──いずれまた試合もするでしょうしね。ONXではトレバー・ウィットマンコーチからも何か声をかけられることもあるのですか。
「特別声かけられるっていうよりかは、トレーバー・ウィットマンのクラスがあって、そこに参加してるっていうのと、(ロイヴァルの練習で)スパーとかもHAMAに来てるので、ちょこっとアドバイスをもらったりとかして、すごく優しくていい人です」
──THE BLACKBELT JAPANとHAMAのチームデンバーで戦う感じですね。
「そうですね。はい」
──いまフライ級は熱い階級になっています。日本から堀口恭司選手がUFCにカムバックして、タギル・ウランベコフ選手に一本勝ちした試合はどうご覧になりましたか。
「いやー、率直に本当、堀口さん強かったなって。強い選手・危険な選手が帰ってきたなって、正直思いました。ここからまた一段とフライ級の熱を感じましたし、間違いなくというか、“必ず戦うだろうな”って思いました」
──そうですね。ここまでUFC8戦7勝1敗、一つひとつ試合をこなし積み上げてフライ級5位につけた。今回の試合を超えて、チャンピオンシップにたどり着きたいですね。
「そうですね。この試合は、そういう意味があると思ってるんで。パフォーマンス(試合内容)もあると思いますけど、そういう(王座挑戦を決める)パフォーマンスを当日、します!」
「モレノを超えていく──強くなった自分の姿を期待してほしい」
──なるほど。あらためてブランドン・モレノとここで戦う意味を、どう考えていますか。
「まず嬉しいです。ここでモレノの相手を任せてもらえることが。相手がいないなかで(スティーブ)エルセグと試合をしたり、あまり相応しい相手がいなかった印象だったので……俺は相応しいよ、俺は超えていくよ、というところを、やっぱり他と違うってところを見せられるいい機会かなって思ってます」──モレノはボクシングはいわずもがな。柔術もレスリングもMMAとして強い選手です。この試合で勝負どころをどこととらえていますか。
「やっぱりバック。自分は前回もバックチョークで勝てて、ロイヴァル戦はバックコントロールでポイントを取って。寝技に関してバックというのは向こうもすごい警戒してると思うんですけど、その中でも僕はバック取れると思ってます。そして、しんどい試合ができるか・できないかが、キーポイントになってくるかなって思ってます。消耗戦になるか・ならないか、綺麗に戦っちゃうのか」
──もうその覚悟はできているということですね。
「その覚悟はできてます。いい流れになる時もあれば、悪い流れになる時もあると思うので。悪い流れになったときも、いい流れに持ってこれる力があると思っているんで、そこはもう自分を信じて戦うだけです」
──最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
「日本で応援してくださる皆さん。12月7日、モレノと戦います。今年、まだ一戦しかしていなくて、2戦目でモレノということで、2025年、強くなった自分の姿を、12月最後に見せたいと思います。強くなっているので、期待してください!」