2025年11月22日(日本時間22日24時から)、カタールの首都ドーハのABHA Arenaにて『UFC Fight Night: Tsarukyan vs. Hooker』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)が開催された(※堀口インタビュー)。
▼フライ級 5分3R〇堀口恭司(日本)34勝5敗(UFC8勝1敗)※UFC復帰・元RIZINフライ級王者[3R 2分18秒 リアネイキドチョーク]×タギル・ウランベコフ(ロシア)17勝3敗(UFC6勝2敗)※UFC4連勝でストップ
当初、両者は25年6月のUFCアゼルバイジャン大会で対戦することが決まっていたが、堀口が練習中の怪我により欠場。その日ウランベコフは代役のアザト・マクスム(カザフスタン)に判定勝ちし、今回の試合を迎えている。
ウランベコフのUFC唯一の黒星の相手は、朝倉海に一本勝ちしたティム・エリオット。22年3月にエリオットと対戦したウランベコフは、初回にエリオットの左オーバーハンドでダウンを喫し、テイクダウンも奪われ判定負けを喫している。
堀口は修斗で世界王者に輝いた後、2013年10月にUFCデビューすると4連勝で当時の王者デメトリアス・ジョンソンと対戦。5R残り1分で腕十字で敗れ、UFCフライ級王座戴冠ならず。しかしその後も3連勝。2016年11月にアリ・バガウティノフに判定勝ち後、当時のUFCフライ級戦線縮小に伴い、オクタゴンを離れ、2017年4月からRIZINに参戦していた。
この間、20試合を戦い、RIZINとBellatorでバンタム級王座を戴冠。ここまで5連勝中で、24年大晦日の前戦でエンカジムーロ・ズールーに判定勝ちで王座防衛後、RIZINフライ級のベルトを返上。今回、11カ月ぶりの試合で9年ぶりのオクタゴンカムバックとなる。
キレキレに仕上げたコンディション
35歳、“やることが多い”MMAのファイターとしては脂がのったこの時期での堀口のUFC再デビューに向け、大事を取って一度試合をキャンセルして作り上げたコンディションが、万全であることがうかがえる動きだった。
試合前には、同じ伝統派空手出身の野村駿太が「所属選手」としてアメリカントップチームに加わったことで、日本でしか確認のできない空手の打ち込みが、試合前にフロリダのATTで行えたことも奏功し、フィニッシュのきっかけとなった右前手の直突きに繋がっている。
先に仕掛けて自身のリズムとした堀口。そして、圧倒的なダメージを与えたカーフキック。かつてRIZINで朝倉海もマットに沈めた下段の蹴りが、鋭いステップインとともにウランベコフの前足を破壊していった。
試合後のU-NEXTのインタビューでは「すごく手応えがあったんで、『続けてどんどんやれ』っていうセコンドの声もあって」、外側から右前足に、さらに左の蹴りでもインカーフを狙っていった。
今回のコーナーマンにはいつもの名将マイク・ブラウンに加え、「別の試合で来ているパルンパもセコンドについてくれます」と、ATTでは通常ブラウンと2班体勢で動く、現UFC世界フライ級王者アレシャンドレ・ パントージャのコーチでもある柔術黒帯のマルコス・パルンピーニャもコーナーに入り、さらに2年前にウランベコフと対戦しているATTのコディ・ダーデンもセコンドとして帯同していた。
「やっぱりあの手足、長くてやりづらい選手でしたね」と振り返る通り、ウランベコフは公称の170センチよりは明らかに大きな体躯で堀口と対峙。
試合前の本誌のインタビューでも「身長でかい。170cmって言っていますけど、あいつもっとデカいですよね、たぶん。嘘付いてますよ(笑)」というリーチで、「ボディロックしたあれ(やぐら投げ)が得意ですよね。でも、逆に言えばあれくらいしかない。(下半身に)タックルを仕掛けるときは、結構みんなに切られているっていう。だけど、腕を巻かれたら本当にやり辛い。巻かせないように」と、上の組みで簡単にクラッチを巻かせないようにしたいと警戒していた堀口。
最初のヤマは、初回にあった。
[nextpage]
ウランベコフに背中を譲らず立った堀口
上で組んだウランベコフが右腕を差して堀口をケージに押し込むと、ウランベコフはボディロックして、堀口の体を持ち上げるようにやぐら投げでテイクダウンしたのだ。しかし、ここで堀口はすぐにケージに背中を預けて寝かされないようにすると、バックを狙うウランベコフに正対して突き放して、右カーフ、右フックを打ち込んでいる。
この攻防で、最大のチャンスを逸したウランベコフは、その後の組みもカットされ、前足を蹴られて疲弊。2Rのギロチンチョークも堀口に頭を抜かれると、片足タックルにパウンドを浴びて、ホーンに救われるも立ち上がれず。コーナーマンの肩を借りて自陣に戻っている。
かつて堀口とUFC王座をかけて戦ったデメトリアス・ジョンソンは、本誌の取材に、「彼のキャリア初期の強みは、非常に速く、距離を保ちながら相手の動きを察知し、ブリッツ(稲妻)のようにただひたすら相手を打ちのめすことだった。しかし今、彼の強みは対戦相手に応じて戦術を適応できる点にあると思う。それは主にコーチングの成果だろう。朝倉海、セルジオ・ペティスにもしっかりリベンジした。彼は試合への適応力とコーチの指示を聞くのが非常に上手いんだ。歳を重ねて、より多くの試合を経験し、賢くなった」と、MMAの適応力の高さを指摘する。
そして、堀口と2度戦い、再戦では堀口のグラップリングに完封されたペティスも、「出入りの動き、カーフキック、グラウンド、堀口にはフルセットのスキルがある。彼は常に学び続けていて、新しい勝ち方やチャンピオンになる方法を探している。彼ならUFCで本当にチャンピオンになれるスキルとマインドを持っている」と、9年前にオクタゴンに挑戦したときと比べて、道具箱の武器が増え、MMAとして融合していると高く評価している。
空手の間合いのコントロールから出入りの打撃、上下の蹴り、近い距離でのボクシング。組んでも相手にいいポジションを譲らず、上になればグラウンドからも強さを見せた。まさにチームの戦略を実行できるスキルをどの局面でも備えていた。
堀口のカーフキックを受け、3Rにたまらず前足をスイッチしたウランベコフに、堀口は左でインローも蹴って左フックを打ち込むと、ダゲスタンレスラーは自らグラウンドで下になった。
ここでも堀口はしっかりハーフガードでトップをキープしてパンチとヒジで削ると、亀になって立ち上がるウランベコフに、右ミドルから右ストレートを打ち込み、フライ級ランカーをマットに沈めると、最後はバックを奪い、リアネイキドチョークで絞めて、「He is out(彼は落ちた)」とコール。レフェリーが力の抜けたウランベコフの右手を確認し、間に入った。失神したウランベコフに気付かせるように腹をポンポンと叩く堀口。
ケージ内でマイケル・ビスピンのインタビューを受けた堀口は、英語で「ほんとうにいい気分だよ。UFCにカムバックできたから、これが俺の夢だった。次? もちろん俺はUFCのベルトを狙う。どこだ? パントージャ! 彼は俺のチームメイトだ。でも関係ない、お前のケツを叩き潰すぜ。オーッ!」と咆哮。
ビスピンから「チームメイト同士が対戦したいと思うのは非常に珍しいことだが?」と問われると、「もちろんパントージャをリスペクトしている。ただベルトが欲しいだけだ。気にしないよ、分かってるだろ。ファイトはファイト、ビジネスなんだ」と語り、パントージャのコーチでもあるパルンピーニャから笑顔で肩を小突かれ「彼は“敵のボス”」と紹介。大会後には、パフォーマンス・オブ・ザ・ナイトの5万ドル(約785万円)を獲得している。
[nextpage]
王者パントージャの首を狙うヴァン、平良達郎、堀口恭司
バックステージでU-NEXTのインタビューを受けた堀口は、「しっかりとフィニッシュで勝てた、いいパフォーマンスできたんで、日本のファンの皆さんに、喜んでもらえたと思います」と落ち着いた表情。
ランキング11位のウランベコフを相手に“ちょっとこれ危ないな”という場面は? と問われても「もう全然(無い)。落ち着いて全体的に対処できた。最後、自分がチョークを取れて勝てたのも手応えありますね。普段からケージで練習やってるんで、あまり(練習と試合の)違いは感じない」と、9年ぶりのケージ、オクタゴンでの試合の手応えを語った。
そしてあらためてケージで宣言した同門対決について、「本心ですよね?」と問われ、「まあまあまあ、それはやっぱそこ(王者)を目指して。やっぱりね、ジョーク交えてそこにチャレンジしたいっていう意志を伝えたいなと思って」、パントージャもチームも織り込み済みの頂上対決に向かう決意を宣言したとした。
堀口の目標は、アジア人初のUFC世界王座獲得。その頂きに現在立っているのは、前述の通り、同門アレッシャンドレ・パントージャで、12月6日(日本時間7日)の『UFC 323: Dvalishvili vs. Yan 2』ではジョシュア・ヴァンを挑戦者に迎え、5Rの王座戦を戦うことが決定している。
堀口はそのパントージャとの同門対決の可能性について、本誌の取材に「チャンピオンとすごい仲いいんですけど、『お前、俺が行ったらブッ飛ばすから』なんて、すごい言ってます。で(パントージャも)『いいよ。いつでも来い』みたいな感じで」と、勝ち進んでいった場合の同門対決が、ATT内で認められていることを語っていた。その再出発の第一歩が、堀口にとってはアウェイのドーハで刻まれた。
現在、UFCフライ級には、堀口を含め3人の日本人選手が名を連ねており、5位の平良達郎(THE BLACKBELT JAPAN)が12月7日に2位のブランドン・モレノ(メキシコ)と対戦。UFC1勝1敗の鶴屋怜(THE BLACKBELT JAPAN)は8月の試合を負傷欠場し、3月のジョシュア・ヴァン戦以来の再起を目指している(※2連敗の朝倉海はバンタム級転向を表明)。
同階級には、元RIZINのマネル・ケイプ(6位 ※12月13日に3位のブランドン・ロイヴァルと対戦)がランキング入りしており、堀口恭司の勝利により、さらにフライ級戦線が激化することは間違いない。
最後に「応援、皆さん本当にありがとうございました。おかげさまで、こういうしっかりと極めて勝つことができました。またどんどん、UFCのベルト目指して頑張っていくので、皆さん引き続き応援よろしくお願いします」と、力強く語った、元RIZIN二階級制覇王者。
今回の勝利でランキング入りは確実。今後の流れによっては、もう1、2試合をいい形で勝利すれば、一気に王座戦争にからんでくることも予想される。
現フライ級王者はパントージャ、2位が平良と対戦するモレノ、3位がケイプと対戦するロイバル、4位が8月の平良戦を欠場したアミル・アルバジ、5位が12月7日にモレノ戦を迎える平良、そして6位に元RIZIN王者のケイプがランキングされている。
平良が勝利すれば同日のパントージャvs.ヴァンの勝者との対戦が濃厚だ。26年春にUFCフライ級のベルトを巻いているのは誰か? ひょっとすると日本大会で夢の日本人同士の王座戦の期待も高まる、堀口恭司のビッグカムバックだった。