朝倉海だけの問題ではない
DJは、「勝利を掴んだティム・エリオットに声援を送る。彼は私の予想を覆した。ティムはノックアウトされるだろうと思ってたんだ。海は新進気鋭のRIZIN世界チャンピオンだった。だが、彼には一つのスキルしかなかった。
(フィニッシュについて)海はMMAでは非常にアマチュア的な動きをした。彼は打撃打って手を投げ、相手が懐に入って来てテイクダウンされる。このとき(相手を遠ざける)フレームは無い。彼はレッスルアップ(※足を取りに行く動きを見せながら)で立ち上がりに行く。そこでティム・エリオットに頭と腕を差し出している。
海は手を使って戦っていないんだ。ティム・エリオットが仕事を終わらせる(極める)ためには、胸部に自分の腰を押し付ける必要があるため、手を腰に当てる(スペースを作る)。これは、2012年にジョセフ・ベナビデスを自分が倒したときと同じこと(※DJはマウントギロチンから腰を押して極めを防ぎ、潜りから足関節で脱出)。非常に簡単にサブミッションから抜け出すことができる。しかし、再び言うが、グラップリングは海の得意分野ではないため、慌ててしまった。海は相手の手を外せない状況で無理に手を外そうとしていて、あのクソみたいなギロチンに捕まってしまった」(DJ)
前述のように、今回の寝技師・エリオットとの試合に向け、逆算して対策も練っていた朝倉。極められないために、どう立ち合い当てるか、いかにテイクダウンを切るか、テイクダウンされたらいかにサブミッションを防ぎ、立ち上がるか。
MMAでは、すべての武器を使っていいし、使わなくてもいい。しかし、その動きは境目なく繋がっている。いまやグラップリングストライカーとも呼べる堀口恭司のように、組みが混ざれば打撃の質量も高まるのがMMA。
距離が近くなった2Rから、テイクダウンされて、スタンドに戻すことで首を取られた朝倉。残り1分。ラウンドマストのなかで初回を取っていた朝倉は、結果論としてはクローズドガードのまま凌ぐガードワークも考えられたが、メインイベントのように不可解なブレークが無い限り、トップから削られてラウンドは落としていた。となれば、3R勝負の戦略も問われることになる。
DJは「海を応援していた」という。
「海はグラウンドゲームを強化する必要がある。もし私が彼のコーチなら、6カ月間はボクシングは一切なし。全てグラップリングだ。ティムはいくつだ? 38歳か。
自分だったら? ティム・エリオットと初めて対戦したときと同じことをしたと思う。私は彼をレスリングで打ち負かすことができるし、彼は変則的な戦い方で良い仕事をしたと思う。しかし、あの試合で私が気づいたことは、組んだとき私はわざと彼に頭を与える、ということ。なぜなら彼はギロチンを狙うだろう? そしてギロチンは“フリーパス”だ。タックルで彼に頭を与え、頭の反対側にジャンプする。みんなあの試合を見返してみてくれ。それが私がやったことだ。彼がギロチンをかけて、私は頭と対角に跳んでパス(ガード)し、バックを獲っている。私はティム・エリオットを仕留めることはできなかったけど、彼は非常にタフで回復力がある。
私が海の立場だったら違った行動をとっただろう。彼のスキルセットなら軽快に動く必要がある。それで戦わざるを得ない状況では、常に後退し、相手がタックルすると、その腰は打撃ができる位置にはない。ただ後退しているだけだ。相手がテイクダウンを狙い、後退すると、フレームムーブが必要になる。
以前にも言った通り、MMAは世界チャンピオンになるのが最も簡単なスポーツだ。なぜなら、全体的に下手でも一つの分野、複数の分野で優れていればいいときがあるから。もちろんそれでも強くなければいけないが」(DJ)
一方エリオットは、試合後、「全体的なプランは、1R目を突破できれば、この試合は勝てる。そして、2R目でサブミッションを極めることだった。そして、まさにそれが起こった。いつもそうなるわけじゃないし、特に俺にとってはね。俺は計画が上手い方じゃない。俺は“ファイター”だ。楽しんでいるし、ミスを犯すこともある。俺はコーチにとって夢のような存在で。あなたの言うことを聞き、信頼し、何でも従う。でも同時に、コーチの悪夢でもあるんだ。なぜなら、俺は戦うことが大好きで、馬鹿なことをしてしまうから。それはただ、俺がそうしてしまう。
それにもう一つ、私はそれほど上手じゃない。俺はファイターで、戦うことが大好きだけど、技術的にはそれほどしっかりしていない。俺には何か違うものがあり、この試合でそれを示すことができたと思う。そして、海は俺よりも優れたマーシャルアーティストで技術的なファイターだが、MMAは“誰が最も優れているか”ではなく、“誰がより上手く組み合わせられる”か、“誰がゲームプランを機能させられるか”だ。俺は土曜日にそれを全て実現することができた」と、アスリートとしては朝倉が優れていたものの、MMAファイターとし、いかにゲームプランを遂行し、様々な要素を“組み合わせるか”が重要だと語っている。
応援してくれた皆さん、本当に申し訳ありません
— 朝倉 海 Kai Asakura (@kai_1031_) August 18, 2025
正直、自分に落胆しています
思うようにいかないことが多いけど、諦めずに泥臭く這い上がっていきます
この負けも、いつか必ずいい経験だったと思えるように、強くなって結果で証明します
厳しい意見も受け止めて、成長して戻ってきます pic.twitter.com/qhHA00yx0I
ストロングポイントと弱点のバランスをどう取るか。リングでブレークのあるRIZINとのルールセットの差、階級適正、MMAにおけるケージレスリング、MMAのなかの柔術・グラップリングのレベル差、フィジカルの強いトップレベルとの国際戦、チームとしての戦略──さまざまな課題は、決して朝倉海だけの問題ではない。世界最高峰と伍するために、J-MMAが向き合うべきことが内包されていた、朝倉海の敗戦だった。



