テイクダウンとかあれば変わってくるけど──(扇久保)
MMAの試合はスタンドから始まる。初回の出足は、堀口恭司が指摘するように、朝倉ペースだった。
「1R目は凄い打撃が上手く当たってたりして、もうちょっと攻めればいいのになと思ったんだけど、ちょっと警戒してたのか、攻めあぐねてたなと。打撃とか反応されてないのに。いい打撃が入ってた。それを続ければ良かったのになって。1R目だからどうしても様子を見るのもあるけど、試合的には紙一重だから。やっぱり倒せる場面で倒さなかったっていうのが。1R目でもう仕留めに行っちゃってれば、俺は多分勝てたと思った」(堀口)
カーフキックも効かせていた朝倉。しかし、それをおくびにも出さないエリオットは、打撃にも徐々に目を慣らし、1R後半で、朝倉の左ハイを被弾しながらも、その蹴り足を掴んでテイクダウンを奪った。これまでもエリオットは再三、相手の蹴り足を掴んでテイクダウンを決めており、高い蹴りはリスクもあった。扇久保博正はこのスタンドの際を語る。
「1R目、凄くパンチのスピードもあって、ティムも最初は反応できてないような感じが見受けられたんですが、徐々にティムがスピードに慣れてきて、最終的にはギロチンで極められてしまったんですけども。やっぱり『手札の数』というか、朝倉選手はパンチは凄いんですけども、パンチをティムのボディワークで見切られ始めるとなかなか……。そこでテイクダウンとかあればまた変わってくるけど、パンチだけになってしまって、2R目からティムにプレッシャーをかけられた」と、パンチ主体で自ら仕掛ける組み技など手札が少なかったと指摘。
「1ラウンド目のハイキックも当たったんですけど、あそこからキャッチしてテイクダウンするのがティムは上手いんですね。僕もTUFの時、左ハイキック当てたんですけど、キャッチされたりして。ああいうのされてくると今度は蹴りが出せなくなってくる。ティムとやると、打撃が無さそうに見えてパンチとか蹴りも痛いし重さもある。ああいうボディワークで攻めて、しかもこっちがパンチで上体が上がった時にタックルも入ってくる。やっぱりもっとボディ入れてって欲しかった」と、MMAとしての散らしが必要だったとする。
試合前に朝倉からのテイクダウンや柔術的な仕掛けがないことが楽だと語っていたエリオット。このスタンドの立ち合いから、様々な格闘技が“ミックス”されるMMAとして、手札を欠いている朝倉は、日本ではそれを補ってあまりある強打を活かして戦い切ることができていた。
元UFC同級王者のデメトリアス・ジョンソン(DJ)は、スタンドの時点で朝倉の戦い方が「1次元だった」という。
「彼はキャリアのほとんどをリングで戦ってきた。四角の方が、相手を追跡するのははるかに簡単だ。それが彼が八角形のなかでティム・エリオットを追跡してコンビネーションを繰り出すのに苦労しているひとつの理由かもしれない(※JTTにはフルケージが設置されている)。彼は進歩していない。だからティムは生き残れる」と、試合解説をライブ配信しながら語っているDJ。
「これが、ティムが海を攻撃できる理由だ。海はグラップリングやクリンチ、レスリングに絡みたくない。だから彼は1次元でしか戦っていない。MMAでは複数の次元で戦えるのに、彼はそのための時間をかけていない。その次元で戦うためのレパートリーや自信を築いていないからだ。もしそれで誰かと戦った場合、相手をノックアウトできず、相手が攻撃できるなら、その時点で(打撃も)海の最も強い次元では無くなるから、ティムは彼を操ることができる。もし海が異なるレパートリーを築けば、常に彼が一つの次元にとどまる必要はない。今や彼はここに閉じ込められている」と指摘していた。




