アンデウソン・シウバはGOATだ。でも同時に時代も見ないといけない
──王者として防衛を重ねると、すぐに階級転向の話が出がちですが、いまミドル級は活況です。ライニアー・ デ・リダー(ミドル級5位・元ONE王者)、アンソニー・ ヘルナンデス(ミドル級7位)が大きな勝利を挙げ、ナッソージン・ イマボフ(ミドル級1位)対カイオ・ ボハーリョ(ミドル級6位)も控えています。いまの“王者から見たミドル級”戦線をどう捉えていますか?
「世界王者でいるには最高の時期だよ。動きが多いし、面白い奴らが揃ってる。トップに名乗りを上げてるやつが何人もいて、次の挑戦者を誰にするか、すぐに決まるだろう。少なくとも頭に浮かぶのは4人。誰が来ても構わないし、近いうちに彼らの間で自然と序列がつくはずだ。ワクワクしてるよ」
──直近のミドル級のパフォーマンスで、最も印象に残ったのは誰ですか?
「アンソニー・ヘルナンデスだな。直近のロマン・ドリッゼ(ミドル級11位)戦は本当に見事だった。それと、ライニアー・デ・リダーとロバート・ウィテカーの試合――あれはデリダーにとって大きなテストだったけど、すごく接戦だった。判定が怪しいって言う人もいれば、正しかったって言う人もいる。俺はどっちにも異論はない。そういう試合だよ。でも、やっぱり一番はヘルナンデスだ。ドリッゼは(当時)トップ10にいたはずだけど、その相手にあそこまでやってのけたのは誰もいない。ドリッゼはナッソージン・イマボフともやってるし、ビッグネームと戦ってきた。それでもあれだけの内容を見せたのは超インパクトがあった。もちろん、イマボフとカイオ・ボハーリョも、とんでもない勢いで勝ち続けてる。正直、ランキング9位相手に良い試合を見せるのと、2位や3位相手にするのとでは話が違うってのも分かる」
──ここ数試合は会場やカードの厚み的に地味な位置のときもありましたが、今回はアメリカ、しかもビッグイベント。王者として、このスポットライトをどう受け止めていますか?
「どこで防衛しようが、俺のホームじゃないなら関係ないさ。むしろ世界を回れるのが最高なんだ。オーストラリアも大好きだし、カナダも素晴らしかった。俺の地元じゃ雪はあまり見ないから新鮮だったね。で、今はアメリカ。最初の4戦はアブダビ、その後はラスベガスで続けて戦ってきた。シカゴも本当に美しい街だ。試合後は少し滞在して、ちゃんと満喫するつもりだよ。ファイトウィーク含めて3週間いるけど、まだ堪能できてないからね。試合をするうえで、アンダーカードの厚みとかは気にしたことがない。俺は自分の試合をやるだけ。見てくれる人に、払った分だけの価値を必ず渡す。それが俺のやり方だ」
──PPV(ペイパービュー)や放映のフォーマットも変化しつつあります(※26年からのパラマウント+配信はPPV無し)。今回のような大型イベントを経て、その仕組みが変わる可能性については?
「数年前まではPPVがすべてだった。アメリカ市場はPPVの中心だし、だからこそマンチェスターで開催する時も、アメリカ時間に合わせてとんでもない時間にメインが始まったりする。理屈は分かる。でも、今の流れだと“スペインでやる”“南アフリカでやる”って話も現実味を帯びる。PPVだけが軸じゃなくなれば、世界のどこでも現地時間の午後3時から夜10時みたいな、普通の時間帯でイベントを組める。南アフリカで深夜1時開始、朝7時終了なんて馬鹿げたタイムテーブルじゃなくて済む、ってことだ。これは大きな変化になり得るし、俺はワクワクしてる。UFCの収益が増えれば、俺たちファイターの取り分も増えるはずだしな」
──クリス・ワイドマンがあなたを大絶賛していて、「この試合に勝てば、史上3番目のミドル級王者に入る。上から見ると、イズラエル・アデサニヤとアンデウソン・シウバに次ぐ存在で、自分より上だ」とまで言っていました。あなたはその評価を妥当だと思いますか?
「タイトル防衛数という観点なら、そういう見方もあると思う。クリスは本当に素晴らしいし、俺は大ファンだ。ただ、アンデウソン・シウバは俺にとってGOATだ。ヒーローだったからな。でも同時に“時代”も見ないといけない。彼らが防衛を重ねた時代は、対戦相手が副業を持ってたような時代なのか、今みたいにフルタイムのトップファイター相手なのか。競技の成熟度も違う。どっちが上だ下だを言うつもりはないが、今の時代で同じ数の防衛を積むのは簡単じゃない。俺が“史上最高”とか“史上最高のミドル級”と呼ばれるには、まだ道のりはある。ただ、この試合に勝てば、かなり近づくはずだ」
──この試合については皆が持論を語っていますが、実際に何が起きるかはケージが閉まるまで誰にも分かりません。チマエフはあなたにとって“高いハードル”になるという声も多い。もし理想的な形で彼に勝ったら、“P4P(パウンド・フォー・パウンド)1位もあり得る”という意見も出ています。
「チマエフがとんでもなく強いのは、その通りだし、俺も分かってる。でも、俺がここまで倒してきた相手も同じように“高いハードル”だった。ロバート・ウィテカーなんて、王者以外には10年以上やられてなかった。次はショーン・ストリックランドで、そいつは直前にMMA史上最強の一人といわれるイズラエル・アデサニヤを倒して王者になっていた。そして、アデサニヤ本人とも戦った。今度はチマエフ。で、彼の先にもまた“高いハードル”って言われるやつが出てくる。それが“ベスト同士が戦う”ってことだ。だけど、試合が終わったらみんなこう言うはずだ――『またやりやがった。ドリカスはまたやった。もう疑わない』ってな。だけど、この流れは延々と繰り返されるんだ」
──この結果次第で……という話の続きですが、ハムザト・ チマエフは「勝てば10月にアブダビでやりたい」と話す一方で、もし上手くいかなかった場合は活動が鈍るのでは、という見方もあります。仮に彼が負けたら、次はどうなると思いますか?
「非常にいい質問だ。まず“10月に”って話は――あり得ないね。この試合が終わったら、彼は一度立ち止まって、自分はどうMMAに向き合うかを見つめ直す時期になると思う。彼の通帳を見たことがないから本当かどうかは知らないけど、本人は“金は山ほどある”って言ってるから困ってはない。そして“必ず王者になる”と確信してる。でも、今回は王者になることはない。俺はキャリアで負けを味わったことがある。あれは最悪だ。本当にキツい。でも、そこで人間性が問われる。彼がそこからどう立ち上がるか、興味深く見させてもらう」
──あなたはここまでずっとハイペースで戦い、メインイベントや5Rの経験も豊富です。その点で、彼に対してアドバンテージがあると感じますか?
「100%あると思ってる。世界トップのミドル級相手に、5Rを見据えて準備して実際に戦うって経験はデカい。同じジムに通い続けるみたいに、試合に慣れるほど新しいことも試せるし、リスクも取れる。ただ、彼みたいなタイプは休んでてもいきなり出てきて“ずっと試合してたのか?”ってくらい仕上げてくることがあるから、彼にとって試合の“慣れ”はあまり重要じゃないかもしれない」
──あなたはナッソージン・イマボフにあまり関心がないように見えます。注目度がそれほど高くないからでしょうか?
「いや、次の相手じゃないからだよ。彼はカイオ・ボハーリョとやるはずだ。『ハムザト・チマエフ(ミドル級3位)より先にタイトルショットをやるべきだ』って主張する人もいるが、正直それは馬鹿げてると思う。誤解しないでほしい、イマボフは素晴らしいファイターだ。イズラエル・アデサニヤ(ミドル級4位)との試合でも良かったし、強い一撃も当てた。ここ数戦は安定してきた。ただ“ナンバー1コンテンダー”かといえば、まだだ。ランキングは持っていても、次の挑戦者ってわけじゃない。だから今の段階で彼について語るのは意味がない、そういう姿勢なんだ。もしボハーリョに勝てば、その時は話が変わるだろうけど、決めるのは俺じゃない。俺は“次に来る最強の相手”と戦うだけだ」
──デレク・ブランソンとの試合はまだ2年前の話で、1R目はレスリングとグラップリングでかなり攻め込まれました。あの試合を振り返って、何が変わったと思いますか?“より強いレスラーのチマエフ相手なら、もっと厳しくなるのでは”という見方もあります。
「ブランソンのセコンドは最後にタオルを投げ込んだだろ。今回も1Rを取られたっていいよ、代わりに相手のセコンドからタオルを受け取ってやる。――それが答えだ」



