毎日ジムに行くとき「世界王者の手本」にならなきゃいけないって意識するようになった。俺と同じ夢を追いかけてる連中に、これが必要なんだぞって
──初対決後はお互いにリスペクトを抱いている印象ですが、ショーンはマイクや試合中の言動でも“いじめっ子キャラ”を発揮することがあります。フェイスオフはどうなると思われますか?
「俺は彼をすごくリスペクトしてる。実際に戦ってみて、あいつがめちゃくちゃタフで世界トップレベルだと分かったから。あのときは偶然のようにタイトルマッチにこぎつけた印象もあったけど、イズラエル・アデサニヤを倒して実力を証明したわけだし、試合で戦って、本物だって痛感させられた。データで見るよりもずっと強い選手だし、もっと早く王者になっていないのが不思議なくらいだ。ただ、リスペクトしてようが何だろうが、最終的には“乗り越えるべき障害”に変わりない。もし向こうがトラッシュトークを仕掛けてきても、あるいはリスペクトをしてきても、俺はやるべきことをやるだけだ」
──パースでのイズラエルとの試合に向けて準備をしていた時、「あなたが王者としてあまりリスペクトを得ていないように感じる」とお伝えしましたが、その時あなたは「ネットの人たちを納得させるために戦っているわけじゃない」とおっしゃっていました。前回の勝利を経て、その状況は変わったと感じていますか? もっとリスペクトを得ていると思いますか?
「うーん、俺はそもそもリスペクトされてないとか、そういうのをあまり気にしてないんだよね。確かに目にすることはある。暇なときにXを開いて、知らないやつらのコメントを読んで笑ったり、適当に返事したりすることもある。たまに他のファイターの投稿にも茶々を入れたりするけど、そんなのはホントに時間が空いたときだけ。リスペクトされていないと言われても、全然気にならない。それよりも、俺をリスペクトしてくれる人とか、応援してくれる人がいるっていう事実の方が大事。彼らが俺にもっと活躍してほしいと期待してくれるからこそ、“その期待に応えたい”って気持ちで戦うんだ。だから“アンチがいるから燃える”とかはないんだよ。リスペクトとサポートをくれる人たちこそが俺のモチベーションってことさ」
──タイトルに挑戦していた頃の自分と、今こうして王者としてここにいる自分を比べて、一番大きく変わった部分は何でしょうか? どのように“違う”と感じていますか?
「一番大きいのはメンタル面だと思う。毎日ジムに行くとき、“世界王者の手本”にならなきゃいけないって意識するようになったんだ。俺と同じ夢を追いかけてる連中が同じ場所で練習していて、俺は彼らに“これが必要なんだぞ”って見せる立場になった。数年前までは俺も同じように“いつかは王者に”って思ってたわけだから。
だからこそ、まず人より早くジムに来て、いちばんハードにトレーニングをして、ウォーミングアップもクールダウンも栄養管理も回復も徹底する。それが世界王者の当たり前なんだって示したい。みんな技術は十分に持ってるから、細かい部分をどこまで積み重ねられるかが差になる。メディア対応とか、公の場での立ち振る舞いなんかも含めてね。
でも同時に、“普通の人間”であり続けることも忘れちゃいけない。王者になったからといって、急に完璧になれるわけじゃない。家族や仲間、昔からの友人――そういう、自分の人生にとって本当に大切なものがあったからこそ、ここまで来られたんだ。ファンやスポットライト、メディアが言うことはもちろんありがたいけど、それがいちばん大切なわけじゃない。いいことを言われても悪いことを言われても、それが家族や仲間の評価より優先されることはないんだよ。もし大事な人たちがいなくなったら、どんなに派手な名声を手に入れても意味がないからね」
──マイティ・マウス(デメトリアス・ジョンソン)とのポッドキャストを拝聴しました。とても興味深かったのですが、“当面は階級を変えずミドル級でレガシーを築きたい”という考え方について、もう少し詳しく教えていただけますか?
「タイミングが来れば階級を変えるのもアリだと思うけど、現時点ではまだやることがあるんだよ。もしロバート・ウィテカー(ミドル級5位)がハムザト・チマエフ(ミドル級3位)に勝っていたら、俺の考えも変わってたかもしれない。でも、今はそうじゃない。もしリマッチ、さらにまたリマッチってことになると“そこまでこの階級にいる必要があるのか?”となってくるけど、今のミドル級は顔ぶれがガラッと変わった。ショーン・ストリックランドが1位、ナッソージン・イマボフが2位、ハムザトが3位にいるし、カイオ・ボハーリョ(ミドル級6位)みたいな新しい世代が台頭してきてる。イズラエル・アデサニヤ(ミドル級4位)やロバート・ウィテカーが何年もトップを走ってきたけど、今は4位と5位だろ? まさに新時代が来ていて、俺はその中心にいるわけだ。
だから少なくともあと3回はこの階級でタイトルを守って、“ミドル級最強の王者”と呼ばれたいと思っている。それから上の階級に行ってもいいし、タイミングが合えばいつでも検討するよ。でも今のところは、まずミドル級で揺るぎない実績を築きたい。“ミドル級こそが一番”と示したいんだ」
──上位ランカー同士が一緒にトレーニングするケースが多く見られます。ショーン・ストリックランドとカイオ・ボハーリョ、あるいはアレックス・ペレイラと。ロバート・ウィテカーとイズラエル・アデサニヤなども。あなたは誰かと一緒に練習してみたいと考えたりするのでしょうか?
「俺は南アフリカに腰を据えてるし、あまりそういう話はないね。ロバートとアデサニヤが一緒に練習してるのは、もう二人が試合をすることはないだろうって判断があるんじゃないか? ウィテカーは年齢的にまだもう一度ぐらいタイトル挑戦できるだろうけど、アデサニヤはもう挑戦できないだろう。彼のことはリスペクトしているよ。俺が神と崇めるアンデウソン・シウバと同じで、どんなに負けを重ねてもアデサニヤのレガシーが揺らぐことはない。アデサニヤも、アンデウソンと同じ域に到達してるからね。ラスベガスだとUFCのパフォーマンス・インスティチュート(PI)を使うために世界中のファイターが集まるから、自然と誰かと一緒に練習することがあるけど、俺は自分のジムとチームを信じてやってる。それで十分だと思ってるよ」
──前回のパースの試合では、前夜に南アフリカ代表(スプリングボクス)のラグビーの試合があったこともあり、多くの南アフリカ人が応援に来ていました。今回シドニーでは、どんな雰囲気になると想定していますか?
「パースではスプリングボクスが試合で相手をボコボコにしちゃったから、俺にもブーイングが多かったのかもな(笑)。シドニーにも南アフリカ系のコミュニティはあるみたいだけど、パースほどじゃないと思う。でも応援が増えるかもしれないし、ブーイングが増えるかもしれない。どっちにしても会場が盛り上がれば大歓迎だ。ストリックランドは世界中にファンがいるしね」
──オーストラリアが第二の母国になりそうですか?
「交通ルールを考えると、厳しすぎて微妙だね(笑)。パースもすごく良かったし、シドニーも最高だ。パースの会場は俺が経験した中でも最高に盛り上がってたから、シドニーのみんなも負けないぐらい声を出してくれると嬉しい。街としてはすごく魅力的で、もっと長く滞在したいくらいだよ」
──ケープタウンはオーストラリアと近い緯度にあります。豪州に来て、他ではあまり見ないユニークなカルチャーなどに触れましたか?
「言うと怒られそうなんだけど……こっちじゃ、マレットヘア(長い襟足)や口ヒゲがめちゃくちゃ流行ってるだろ? あれは面白いね。オレも口ヒゲは前にやったんだけど、マレットヘアにするには時間がかかりそう。あとは交通ルールが厳しすぎる。運転速度がかなり制限されてるから、すごい車を持っててもどこでスピード出すんだって思う。違反ばっかりになりそうだから、むしろ遅い車でいいんじゃないかってね(笑)。でも食文化は素晴らしいよ。特にシドニーはケープタウンにも似た雰囲気があって、ステーキをはじめとした肉のクオリティも南アフリカと同じくらい高い。特にステーキや赤身肉の質は南アフリカにとても似ている。世界で唯一、南アフリカに匹敵する食のレベルがあるのはオーストラリアじゃないかと思うね」
──ところで、UFC王者となった今、次はオーバルレースでも王者を目指すという話を聞きました。本気で考えていますか?
「もちろん。本格的に参戦するタイミングが来たら、ちゃんと狙いにいくつもりだよ」
──先日の公開練習ではギターを披露していらっしゃいましたが、今回は“アコースティック・ドリカス”の演奏を見せてくださる予定はあるのでしょうか?
「絶対やらない(笑)」
──少しプライベートなお話になりますが、婚約の際、ご自身の誕生日パーティをフィアンセに準備させて、サプライズでプロポーズしたと伺いました。最初から綿密に計画していたんですか?
「そう。プロポーズって、男性側のイベントっていうより、フィアンセのためのものだからね。彼女は“こうしてほしい”とか言わなかったけど、家族や親しい友人が揃ってるほうが喜ぶだろうし。年末年始はみんなバラバラになりがちだから、誕生日なら自然に集められると思ったんだ。で、主催を彼女にして、家族も友人も集まって、写真とかも撮れるようにして……。結果的に完璧だったよ。ただ、めちゃくちゃ緊張した。試合より緊張したかも(笑)。言おうと思ってたセリフは飛ぶし、指輪のケースはポケットに引っかかるし。でも最終的に“YES”をもらえて最高だったね。あとで『本当に”YES”って言った?』って聞いちゃったくらい(笑)」
──もう一つお聞きしたいのですが、映画『ネバー・バックダウン』を観て総合格闘技を始めたというのは本当でしょうか?
「本当だよ。100%間違いない」
──その映画の登場人物の中で、一番自分に近いと思うキャラクターは誰でしょうか?
「最後にいい女を手に入れるやつかな」






