一戦一戦、どれだけ人の心を動かせるかが、目標でありテーマ
──そのタイミングで来たRIZINのオファーを二つ返事で受けられましたか?
「そうですね。タイミングもまあ、よかったかな」
──対戦相手を聞いた第一印象は?
「なんで、コレ? と思って。いや誰だよ!って(苦笑)。正直、知らないコイツに勝ったところで、俺は大晦日のヒロヤ戦の負けを払拭できるのか? っていうところが不安だったんですよ。RIZINでやり返したい意味ってのは、やっぱそこなので。“ヒロヤに負けた新井丈/修斗”みたいな汚名を返上したかったので、それ以上の相手であったり、分かりやすく言えば定期参戦している日本人選手とかとやりたかったので正直乗り気じゃなかったのですけど……。
海外勢をどんどん入れていくということも聞いて。相手のことを調べれば調べるほど実力者なのも分かったし、まあ新井丈がコイツに勝てばしっかり自分の立ち位置を上げることはできるのかなというところで。且つ、そう簡単に日本人がポンポン出られる大会じゃなくなるのは自分としては嬉しいことだったので。海外選手と、日本の代表格の選手で少ない席数を取り合うみたいな椅子取り合戦の構図は、すげぇワクワクした部分もあったので。その辺りを考慮して最終的には“やる”と言いました」
──現役のEFC二階級王者。かつて扇久保博正選手とTUFで試合をしていますが、丈選手の世界での立ち位置が見えてくる試合です。相性などはどう感じていますか?
「全然、最悪の相性ではないので。うん。別に不安はないです」
──サウスポー構えですが右も強い印象です。
「キックやムエタイ出身の選手であるという情報を見ましたがフィニッシュはサブミッションとKOほぼ同じ数。ベテランになっていくにつれて盤石な戦い方をするMMA選手になったのかな、という印象ですね」
──長い手足でギロチンもやってくる、ほんとうに厄介な相手ですし、なかなかいないタイプです。仮想ズールーとなる練習相手はいますか?
「意外といるっすね。サウスポーが多いんです、HEARTSは。日によっちゃ俺だけがオーソドックス、みたいな日もあるので。対策はできてるかなと思います」
──どんな試合をしたいですか。
「ま、いつも新井丈の試合ってワンパターンだと思うんで。最初に相手のいいところをたくさん受けて、“新井丈ヤベーんじゃねーか?”ってみんなに思わせて。そっからドロドロの展開で諦めず、最後は新井丈がKO勝ち。そういう試合じゃないですかね」
──堂々のKO宣言ですね。
「期待しててくださいよ(ニヤ)」
──ご自身のなかでどんな位置付けの試合となるでしょうか。
「“JO IS BACK”が自分のテーマで、大晦日にたくさんのものを失ったのち、この準備期間でどんな準備をして、どんな思いで過ごしてきたかっていうのを9カ月ぶりにMMAファン/新井丈ファンに見せつけて“やっぱ強ぇな、新井丈”、“帰って来たな、新井丈”と思わせるための一戦です」
──現UFC世界ミドル級王者のデュプレシ選手が、ズールー選手のセコンドにつきたいと本誌のインタビューに答えてくれています。
「そういう身近にUFC王者=世界一の男がいるという環境に対しては、対抗心みたいなものは感じるっすね。良い環境で練習している人間を、HEARTSで与えられた環境で超えるっていうのは、大沢さんを正当化する方法のひとつだと思うし。大沢さんも対世界を目指してるので、そこはやってやろう! って個人的な気持ちはあります……けど、もし来るなら、フツーに終わったらドリカスに写真撮ってもらおうとは思ってます(笑)」
──同門の木下カラテ選手は7連勝中のカルシャガ・ダウトベックと対戦。お互い試される試合になりますね。
「そうですね。『HEARTSvs世界』として、勝つことでHEARTSの立ち位置を上げられる一戦だと思いますので、かなりやり甲斐があります」
──その点で、直近ではONEで猿田洋祐選手が激闘しましたし、UFCでは風間敏臣選手が初勝利を挙げました。あれは和術慧舟會HEARTSにとってUFC初勝利だったと。そういうチームメイトの世界での活躍は刺激になっていますか?
「ひとりの選手、チームメイトとしては、ただただ本当に力をもらったなっていうか。ホント、ありがとうって気持ちですね。みんなを鼓舞してくれて。背中を見せてくれた。そんなチームの士気を上げてくれる一勝だったと思います」
──それを受けて、ズールー戦のさらにその先を見据えて、丈選手は世界に向けてなのか、今どんな青写真を描いていますか。
「俺はヒーローになりたくてやってるんですね、格闘技。つまり観てる人の心を動かす、たくさんエネルギーを与えるっていう、そういう人間になりたいと思ってやってるんで。最終的に×××のチャンピオンになりたいだとか、××倒したいっていう目標ではないんですよ。一戦一戦、どんだけの人の心を動かせるかってところが自分の目標、テーマなんで。ホントただただ一戦、やってくだけっていうところですね」
──人の心を動かすのはどういうファイターであること、あるいはどういう試合をすることだと考えているのでしょうか。
「小手先の技術だけでキレイに戦う選手の試合だと、観てる人の感想は、“ああ、スゲー”、“ああ、うまいな、強いな”……で、終わりだと思うんですよ。人の心を動かすってのは、相手のいいところ全部受け切って、ホントに、負けちゃうんじゃないか? って不安な気持ちにさせつつ、絶対諦めない気持ちを伝えて、最後逆転勝ちするっていう。そんな試合だと俺は信じてるんで。
(胸に手を当てて)気持ちを見せる。生き様って出るじゃないですか、ツラい試合になったとき。秒殺KO勝ちだと、出ないっすよ、そいつの人間性って。ホントに全部のもの出して、残り少ない手持ちの札ほぼ無い! みたいな状況で、丸裸になったときにソイツの生き甲斐っていうか、気持ちが見えるじゃないですか。そこを感じ取ってもらえたらな……って」
──最後に、いまフライ級の身体にするために増量で四苦八苦している丈選手が、ドーピング問題についてどのように感じているかも伺えますか?
「日本人、やらないでしょ? やる人いないよね? 別にみんなやってないでしょ? って、信じてやってきたんで。ましてや自分が使わなきゃいけないって感じたこともなかったんで、これまで。正直こう、みんなやってないでしょって、ただただ信じて今まで特に大きく考えずにここまで来ましたけど。最終的に立ち位置が見えるようになったときに、実はこの業界に蔓延してたんだよって知ることになるのは、格闘技を好きで信じてやっている身としては悲しい部分です。
自分がやるか・やらないかってことに関して『やりたくない』理由としては、やっぱりヒーローになりたくてやってるから。将来、新井丈に憧れて格闘技を目指した少年が、実は新井丈ドーピングのおかげであんな強かったんだよ、って知ったとしたら、それは俺、その子に悪いことしてるなって思うから、だからやらない。そう思ってます」