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インタビュー

【RIZIN】新井丈「ツラい試合になったとき、そいつの生き様が出る」「ドーピングはやらない、なぜなら──」

2024/09/27 08:09
 2023年11月、山内渉との大激闘をTKOで制し修斗史上初の世界ストロー級&フライ級同時二階級制覇を成し遂げた僅か1カ月後の大晦日、新井丈の姿はRIZINのリング上にあった。ヒロヤに2R TKO負けを喫し「たくさんのものを失った」と言う、その試合から9カ月。不屈の新井丈が、9.29『RIZIN.48』での南アフリカ2階級王者エンカジムーロ・ズールー戦に向け、復活にかける思いを本誌に語った。 簡単に日本人が出られる大会じゃなくなるのは嬉しい (C)新井丈 ARAI JO ──(心直の道場破りから続く)大晦日のヒロヤ戦は、丈選手にとっては1カ月のインターバルでフライ級での試合でした。改めてどう捉えていますか。 「振り返ると、自分の打たれ強さを過信しすぎていた部分はあったかなというところです。試合期間も、試合内容や展開に関しても、うん……。ガードを怠った面は間違っていたな、と思いますね」 ──丈選手が右を当てて詰めたところに左をもらったのはガードも落ちていて、ちょとラフに詰めてしまいましたか? 「うん……、そうですね、たしかに。ガードも下がってましたしね」 ──あの時点までペースは悪くなかったでしょうか。連戦の疲れなどは感じていましたか。 「いえ。ペースや試合展開はいつも通りの新井丈だったし、疲弊もなかったですけど、なんかこう“いまいち捕まえきれないな”というのは感じてはいたんですよね……、うん……そう、ボディは当たっていたけど顔はしっか捕えられてなかったし、ちょっと最後、コーナー側に詰め切れてなかったので、追いかけてはいるけど相手も逃げ続けられるというような。ちょっとうまく行ききってない印象があったっすね、1R」 ──試合の映像はあまり見直したくないのが正直なところでしょうか。 「そうなんすよ、あんまり見返せてないですね(苦笑)。でもさすがに見て……反省点は探してやってます。でも何回もは見れないっす、やっぱり(苦笑)」 ──それだけ悔しかったということですね。やり返したいという気持ちは? 「あります、あります」 ──丈選手との試合の次戦でヒロヤ選手が所英男選手に敗れたことについては大雑把に言うと「何やってんだ」というような感情だったのでしょうか? 「まあ、そっすね(苦笑)。そんな感じです。ここは世代交代しなきゃダメだろって」 ──では5月の修斗での石井逸人vs.関口祐冬の結果についてはどう感じましたか? 「ウン。あそこで勝った方とやるんだろうな、というふうには見てたので、理想で言えば、関口くんは自分が直近でやっているので、まあ石井選手のほうが、見ている側もノレる、アツい試合になるのかな? っていうところでそこは期待してたんですけど……。そこに関しても何やってんだよって(苦笑)、石井逸人には思いましたね」 (C)新井丈 ARAI JO ──そんな丈選手ご自身は、大晦日の前から時間をかけて肉体改造をしたいと話されていましたが、大晦日を経てやっとそこに取り組めているという状況でしょうか。 「はい。試合がない期間がこんなに長くなったことはなかったし、KO負けで、激しい練習も3、4カ月くらいしなかったんですね。そのなかで、練習強度が高すぎると身体を大きくするのは難しいなあって改めて感じて。トレーナーさん、栄養士さんにサポートしてもらって体の増量だけに集中して、みるみる人生最高体重を更新して。なんか、楽しかったですね、増量期」 ──増量期に寺田健太郎さんのもとへ行かれたのはどのような経緯で? 「阿部一二三選手のトレーナーを紹介できると言われて“これは触れてみたいな”って。うん。ま、短期間でしたけど、ほぼ毎日のようにその期間はパーソナル受けて、やりこみました。既存のフィジカルトレーナーもずっといるんですけど、多少エッセンス、考え方が違うところなんで。やっぱり新しいものを取り入れる機会だなとも思って。得られるものはたくさん吸収しようっていうスタンスで行きました」 ──キツい練習後、喉を通らないのに食事は摂らなくてはいけないのは大変ですよね。 「ああ、そうです本当に。増量期、そこに関してはツラかったですね。お腹空いてないのにすぐゴハンの時間がくるっていう」 ──最大で何キロまで増えたのですか。 「最大70キロです」 ──そこから絞っていく、と。現在(※インタビューは8月下旬に行われた)は? 「いま64キロくらいですね。自分でもどういう身体になるのか、ワクワク、ドキドキしながらやってますけど。ただこの1回の期間で完全に1階級分の筋肉を搭載できるかっていうとまあ不可能なので。今後さらに1、2年かけて、試合後にはクールダウンして身体を休める期間をつくって、その期間に再度増量。今回いろんな人に関わって得た知識を詰め込んで、試合ごとに少しずつ筋量を増やして行きたいと思っています」 ──スパーの手応えはいかがですか? 「戻りたての頃に関しては“重っ!”って思いました。ですけど、しっかりそこは頭と身体の使い方を切り替えて調整していけば、戻りましたね。それに理論的に言うと、筋肉量が増えると出力が増えるので、絶対にスピードも増えるはずらしいんですよ。身体を大きくして遅くなっているっていうのは、トレーニング段階で言ったらボディビル寄りになっているとか、身体の使い方がそういうものに慣れてしまっているだけなんですよね。本来は力を出すことのできる筋肉は増えているのだから、スピード、瞬発力みたいなものも上がるはずなんですよ。それを変換していくトレーニングを意識すれば、戻りましたね」 [nextpage] 一戦一戦、どれだけ人の心を動かせるかが、目標でありテーマ ──そのタイミングで来たRIZINのオファーを二つ返事で受けられましたか? 「そうですね。タイミングもまあ、よかったかな」 ──対戦相手を聞いた第一印象は? 「なんで、コレ? と思って。いや誰だよ!って(苦笑)。正直、知らないコイツに勝ったところで、俺は大晦日のヒロヤ戦の負けを払拭できるのか? っていうところが不安だったんですよ。RIZINでやり返したい意味ってのは、やっぱそこなので。“ヒロヤに負けた新井丈/修斗”みたいな汚名を返上したかったので、それ以上の相手であったり、分かりやすく言えば定期参戦している日本人選手とかとやりたかったので正直乗り気じゃなかったのですけど……。  海外勢をどんどん入れていくということも聞いて。相手のことを調べれば調べるほど実力者なのも分かったし、まあ新井丈がコイツに勝てばしっかり自分の立ち位置を上げることはできるのかなというところで。且つ、そう簡単に日本人がポンポン出られる大会じゃなくなるのは自分としては嬉しいことだったので。海外選手と、日本の代表格の選手で少ない席数を取り合うみたいな椅子取り合戦の構図は、すげぇワクワクした部分もあったので。その辺りを考慮して最終的には“やる”と言いました」 ──現役のEFC二階級王者。かつて扇久保博正選手とTUFで試合をしていますが、丈選手の世界での立ち位置が見えてくる試合です。相性などはどう感じていますか? 「全然、最悪の相性ではないので。うん。別に不安はないです」 ──サウスポー構えですが右も強い印象です。 「キックやムエタイ出身の選手であるという情報を見ましたがフィニッシュはサブミッションとKOほぼ同じ数。ベテランになっていくにつれて盤石な戦い方をするMMA選手になったのかな、という印象ですね」 ──長い手足でギロチンもやってくる、ほんとうに厄介な相手ですし、なかなかいないタイプです。仮想ズールーとなる練習相手はいますか? 「意外といるっすね。サウスポーが多いんです、HEARTSは。日によっちゃ俺だけがオーソドックス、みたいな日もあるので。対策はできてるかなと思います」 (C)EFC ──どんな試合をしたいですか。 「ま、いつも新井丈の試合ってワンパターンだと思うんで。最初に相手のいいところをたくさん受けて、“新井丈ヤベーんじゃねーか?”ってみんなに思わせて。そっからドロドロの展開で諦めず、最後は新井丈がKO勝ち。そういう試合じゃないですかね」 ──堂々のKO宣言ですね。 「期待しててくださいよ(ニヤ)」 ──ご自身のなかでどんな位置付けの試合となるでしょうか。 「“JO IS BACK”が自分のテーマで、大晦日にたくさんのものを失ったのち、この準備期間でどんな準備をして、どんな思いで過ごしてきたかっていうのを9カ月ぶりにMMAファン/新井丈ファンに見せつけて“やっぱ強ぇな、新井丈”、“帰って来たな、新井丈”と思わせるための一戦です」 ──現UFC世界ミドル級王者のデュプレシ選手が、ズールー選手のセコンドにつきたいと本誌のインタビューに答えてくれています。 「そういう身近にUFC王者=世界一の男がいるという環境に対しては、対抗心みたいなものは感じるっすね。良い環境で練習している人間を、HEARTSで与えられた環境で超えるっていうのは、大沢さんを正当化する方法のひとつだと思うし。大沢さんも対世界を目指してるので、そこはやってやろう! って個人的な気持ちはあります……けど、もし来るなら、フツーに終わったらドリカスに写真撮ってもらおうとは思ってます(笑)」 ──同門の木下カラテ選手は7連勝中のカルシャガ・ダウトベックと対戦。お互い試される試合になりますね。 「そうですね。『HEARTSvs世界』として、勝つことでHEARTSの立ち位置を上げられる一戦だと思いますので、かなりやり甲斐があります」 ──その点で、直近ではONEで猿田洋祐選手が激闘しましたし、UFCでは風間敏臣選手が初勝利を挙げました。あれは和術慧舟會HEARTSにとってUFC初勝利だったと。そういうチームメイトの世界での活躍は刺激になっていますか? 「ひとりの選手、チームメイトとしては、ただただ本当に力をもらったなっていうか。ホント、ありがとうって気持ちですね。みんなを鼓舞してくれて。背中を見せてくれた。そんなチームの士気を上げてくれる一勝だったと思います」 ──それを受けて、ズールー戦のさらにその先を見据えて、丈選手は世界に向けてなのか、今どんな青写真を描いていますか。 「俺はヒーローになりたくてやってるんですね、格闘技。つまり観てる人の心を動かす、たくさんエネルギーを与えるっていう、そういう人間になりたいと思ってやってるんで。最終的に×××のチャンピオンになりたいだとか、××倒したいっていう目標ではないんですよ。一戦一戦、どんだけの人の心を動かせるかってところが自分の目標、テーマなんで。ホントただただ一戦、やってくだけっていうところですね」 ──人の心を動かすのはどういうファイターであること、あるいはどういう試合をすることだと考えているのでしょうか。 「小手先の技術だけでキレイに戦う選手の試合だと、観てる人の感想は、“ああ、スゲー”、“ああ、うまいな、強いな”……で、終わりだと思うんですよ。人の心を動かすってのは、相手のいいところ全部受け切って、ホントに、負けちゃうんじゃないか? って不安な気持ちにさせつつ、絶対諦めない気持ちを伝えて、最後逆転勝ちするっていう。そんな試合だと俺は信じてるんで。 (胸に手を当てて)気持ちを見せる。生き様って出るじゃないですか、ツラい試合になったとき。秒殺KO勝ちだと、出ないっすよ、そいつの人間性って。ホントに全部のもの出して、残り少ない手持ちの札ほぼ無い! みたいな状況で、丸裸になったときにソイツの生き甲斐っていうか、気持ちが見えるじゃないですか。そこを感じ取ってもらえたらな……って」 ──最後に、いまフライ級の身体にするために増量で四苦八苦している丈選手が、ドーピング問題についてどのように感じているかも伺えますか? 「日本人、やらないでしょ? やる人いないよね? 別にみんなやってないでしょ? って、信じてやってきたんで。ましてや自分が使わなきゃいけないって感じたこともなかったんで、これまで。正直こう、みんなやってないでしょって、ただただ信じて今まで特に大きく考えずにここまで来ましたけど。最終的に立ち位置が見えるようになったときに、実はこの業界に蔓延してたんだよって知ることになるのは、格闘技を好きで信じてやっている身としては悲しい部分です。  自分がやるか・やらないかってことに関して『やりたくない』理由としては、やっぱりヒーローになりたくてやってるから。将来、新井丈に憧れて格闘技を目指した少年が、実は新井丈ドーピングのおかげであんな強かったんだよ、って知ったとしたら、それは俺、その子に悪いことしてるなって思うから、だからやらない。そう思ってます」
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