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【UFC】朝倉海、タイで抜き打ちドーピング検査に「何回クリアすればいいのか」「RIZINもこのくらいやってほしい」──新UFCアンチ・ドーピング・プログラムとは?

2024/08/23 09:08
 UFCと契約した前RIZINバンタム級王者の朝倉海(ジャパントップチーム)が22日夜、自身のYouTubeチャンネルを更新。「ドーピングについて」を語った。  待望のオクタゴンデビュー戦に向け、現在タイ・プーケットの名門バンタオ・ムエタイ&MMAで約1カ月間のファイトキャンプ中の朝倉は、この日、現地にUFCアンチ・ドーピング・プログラム(UFC ADP)のサンプル採取要員が抜き打ち検査に来たことを明かした。  UFC入りしてすでに2度目となる検体採取を終えた朝倉は、「いまホットな話題のドーピングの件について話したいと思います」と切り出した。  冒頭で、「RIZINで起きた件(※榊原信行CEOが、平本蓮にかけられているドーピング疑惑についてドラッグテスト待ちと発言)については、正直、真実が分からないので、結果が分かる前に決めつけるのは好きじゃないんで、そこには僕は触れないでおこうと思います」と語ると、自身のこととして、UFCの検体採取システムについて紹介した。  朝倉は、「朝10時くらいに、練習に行こうとしたら、デカい外国人の方が『ドーピング検査です』って警察官みたいに来て、まさかタイにまで来るとは。もう2回目、1カ月半前に日本でやったばかりですぐにまた来た、しかもタイに」と、驚きの表情を浮かべた。 [nextpage] USADAを離れ、世界中に5千人以上の採取要員を擁するDFSIに移行  一部報道では、その検査員がUSADA(米国アンチ・ドーピング機関)派遣と報じられたが、実際には2024年からUFCは独自のUFCアンチ・ドーピング・ポリシー(UFC ADP)を起ち上げ、UFCと新たに契約したドラッグ・フリー・スポーツ・インターナショナル(DFSI)、またはその契約関連会社のいずれかによる無通知でのサンプル採取を行っている。  DFSIは世界中に5千人以上の採取要員を擁しており、USADA体制のプログラムよりもグローバルに網羅するという。抜き打ちサンプル採取は365日、1日24時間、週7日いつでも行われており、日曜・祝日問わず、サンプルを採取。新プログラムでは、DFSIはあくまで検体採取者であり、違反を裁く権限はないとされている。  採取された検体は、米国ユタ州ソルトレイクシティにある世界アンチ・ドーピング機関(WADA)公認のスポーツ医学・研究検査機関「SMRTL」で分析され、EPO、テストステロン、ヒト成長ホルモンなどの禁止物質をスクリーニング。  制裁決定を含むUFC ADPの管理は、コンバット・スポーツ・アンチドーピング(CSAD)と、その会長でありFBIで20年以上の勤務経歴を持つジョージ・ピロ(ノーギ柔術マスターズ世界王者)が、科学アドバイザーであるダニエル・アイクナー博士の技術的支援を受け、出場停止や居場所不定などのプログラム違反の裁定を含め、同プログラムにおけるすべての決定権を保持している。つまり、UFCは、ドーピングに関する結果管理や制裁の決定は行ず、第三者機関に委ねている。 (C)Zuffa LLC/UFC  朝倉は、「日本では血液検査と尿検査、今回は尿検査だけだったけど、来る5分前にトイレを済ませたばかりで出ない。でも来た瞬間からその人(検査官)は俺のそばから絶対に離れない。水をたくさん飲んで、結構量も出さないといけないのに、濃度の基準があって、『薄すぎる』とやり直しになって、もう1時間後の2回目も『薄い』と。『ご飯に行きたい』と話したら、レストランまで僕のバイクの後ろに乗って着いてきて、一緒にご飯を食べました。それで戻ってきて3回目でやっとクリア。まあ厳しいよね」と、検体採取の厳しさを語っている。  その採取の仕方や「禁止リスト」は、五輪アスリートが行っているWADA基準に則り、採取時にダミー検体にサシカエられないように必ず先端を目視でチェック。  また、UFCファイターは3カ月先までの位置情報を事前に提出し、居場所プラットフォームにもアクセス、抜き打ちチェック時に不在の場合、1時間以内に戻る必要がある。抜き打ちチェックを3度キャンセルすると、前述の通り、居場所不定のプログラム違反で罰則が与えられる。 [nextpage] シビアだけどフェアな状態で戦える(朝倉) (C)Zuffa LLC/UFC  厳格なアンチ・ドーピング・プログラムのようだが、USADA管理のときに比べ、ファイターへの負担が減っている部分もある。  USADAでは、選手から提供されたサンプルの総数と、選手に対して行われた検査セッションの両方がチェックされていたが、新しいUFC ADPの下では、検査セッションのみがカウントされている。  また、禁止物質リストの追加情報などは、新たなUFCアンチ・ドーピング・プログラムのオンライン・ポータルにて、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ロシア語、中国語、日本語、韓国語など、多言語によるポリシー情報が掲載され、確認ができるようになっている。 「1年以内に摂った薬とかも全部提出して、風邪をひいたときも薬を飲む前にUFCに報告して、返事来るまで飲めない。摂取物はめちゃくちゃ気を付けてます」という朝倉だが、その検査体制に信頼感もあるという。 「3週間後とかに結果が来る。何回クリアすればいいのかな、まだ試合もしてないのに」と苦笑しながらも、「でもこんくらいやらないと確かにダメだよね。RIZINもこのくらいやってほしいですけどね、ほんとうは。正々堂々と戦える。シビアだけどすごくフェアな状態で戦えるなと」と、ドーピングを行うファイターへのけん制になるとした。  近年では、アナボリックステロイド以外にも、ボディビル用サプリメントとして「合法ステロイド」とも呼ばれるSARMs(選択的アンドロゲン受容体調節因子)等が、女性化乳房症予防、ホルモンバランス調整・臓器へのダメージを緩和する“ケア剤”とともに服用されるケースが多く、そのサイクルを組むことで、ドラッグテスト日から逆算してパスする手段も増えている。五輪スポーツも含め、高価な経費がかかるドラッグテストとドーピングの抜け道は日々、巧妙化・複雑化しており、鼬ごっこではあるが、抜き打ちチェックであれば、これらの使用の抑止力になることはたしかだ。  また、米食品医薬品局(FDA)は、SARMsを含む製品に関して、摂取者に肝毒性など命に関わる副作用が発生したケースがあること、心臓発作や脳卒中などのリスク上昇につながる可能性があることも声明として発表している。  実は、UFCファイターの制裁を決定するコンバット・スポーツ・アンチドーピングでは、UFC内での身体強化薬の使用/乱用に関するあらゆる情報を報告できる内部通報ホットライン、通称“タレコミ・ライン”も設けている。 「俺はいつでもなんでもいいよと自信満々だから」と笑顔を見せた朝倉は、いよいよのUFCデビューに向け、「いい練習が出来てます。楽しみです、試合が。引き続き、発表をもう少々、お待ちください」と、プーケットの日差しで焼けた肌と、引き締まった身体を見せている。  このほかにも、朝倉が語る“検体採取を悩むかもしれないケース”や、検体採取の瞬間の実態などは、KAI Channelにて確認できる。
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