MMA
インタビュー

【UFC】死闘から8年、川尻達也が 6.29『UFC 303』出場のカブ・スワンソンと対談「戦い続ける理由は?」「あのとき“仮想・川尻”用に呼び寄せたダンがいまやUFCファイターでセコンドだ。僕もいまだに成長し続けているよ」

2024/06/28 15:06

自分が何を成したのかを子どもたちの記憶にとどめてほしい

川尻 カブは2007年から17年間、WECを経て世界最高峰のUFCという舞台でたくさんの強豪と戦い続けてきて、そして結果も残し、殿堂入りも果たしました。Instagramでいつも見ていますが、奥さまと、かわいいお子さんが3人いらっしゃいますね。それからご自身のジムも経営しています。そんなカブが現役で戦い続ける理由が知りたいです。僕はもう引退してしまったので。

スワンソン まだ今でも完璧さを追求していますし、まだ自分が良くなっていっていると感じていますし、自分にとって、目標というのは決してベルトを勝ち取ることにはなくて、“自分がなりうる限り最高の格闘家になること”であり、そのうえで、いまだもって成長し続けていると感じています。いつか衰えを感じた時には絶対すぐ止めますし、その瞬間はもうじきやってくるというのも自分では分かっているんです。ただ、今のところはまだ素晴らしい試合ができると思っています。

川尻 なるほど。もうすでに最高の選手ではあると思いますが、より高みを目指してもっと強くなっていくカブを、僕はUFCのいち解説者として楽しみにしています。

スワンソン ありがとうございます。詳細に話すと、自分はコーチであり選手のマネージメントもしていますが、その点で今回のキャンプは特に素晴らしかったんです。自分の選手たちに期待していることを言葉で伝えるだけではなく、実際に自分の姿を通して、つまり彼らはトレーニングキャンプの中で僕が何をしているかを見ることで、やるべきことは何かを伝えることができたんです。だから今回のキャンプは彼らにとっても非常に特別なものになったはずです。自分がどう準備しているかを知ることによって、彼らはより良い準備ができるようになりますからね。

──あなたのジムの「Bloodline Combat Sports Agency」には、そういった若い選手が多いかと思います。UFC参戦中のダニー・シウバ(9勝1敗・8.24 デニス・ブズカ戦)、ダン・アルグエタもいる。その環境で鼓舞されることも?

スワンソン そうですね。自分の周りにいつも20代の若い選手がたくさんいるから、自分も若さを保てていると思います。そういえば、面白いことに、ここにいる(今回のセコンドの)ダンは、実は川尻戦の対策のために練習を始めたんです。ダン、ちょっと来て!(ダンを指して)ね、ほらこの体格だから、彼に川尻役をやってもらいました。あの頃のダンはまだ試合経験がなく、その後アマチュア戦をやってプロ戦を経験して、今やUFCにいます。川尻さんがきっかけだと思うと、まったくもってすごいことだと思いますね。川尻役のためにキャンプに呼び寄せたのですから。

川尻 なんという偶然! 当時の“仮想僕”がいまUFCで戦っているんですね。それにしてもカブは選手で、コーチで、マネージャーであり、忙しいですね。


(C)cubswanson

スワンソン はい、そして3人の子どもと妻がいるから、確かに忙しい。ただ、幸い自分は選手みんなが自分でキャンプを組み立てるように教えているから、つねに自分がつきっきりで面倒を見るというよりも、メンターのような存在なんです。幸い、彼らにちゃんと自己責任を持つっていうことを学んでもらえているからそれは非常に助かっています。

川尻 なるほど。Instagramを見ていると、お子さんたちはサッカーをやっているようだったけれど、格闘技もやっているのですか?

スワンソン ええ。子どもたちは柔術と、レスリングを少し習っています。ただプレッシャーはかけたくなくて。子どもに何かを押しつけるような父親にはなりたくないんです。いつも楽しくて、オーガニックで、無理やりではない形で格闘技と寄り添って成長していってほしいと思っています。だから子どもたちは柔術も習っているけど、サッカーもやってほしいって思うし、できるだけ多くのものやことに触れてもらって、自分で自分の道を選ばせてあげたいんです。父の背中を見て育つ、みたいのはなかなか難しいと思うから、自分らしい道に進んで、学んでいってほしいです。

川尻 もしかしたらいつかカブJr.がMMAの世界を選んでUFCのケージに上がってくる可能性もありますね?

スワンソン まあもし自分たちでその道を選ぶのならもちろん可能性はありますよね。それなら支えになるし助けはするのですけれど、あんまり応援したくはないなあ(笑)。

川尻 うちの13歳の娘は格闘技にまったく興味がなくてテニスに夢中になっていますよ。

スワンソン いいと思います。テニスは自分も高校の頃やってましたけど、自分の子にはできれば顔を殴られるような競技以外をやってほしいものです(笑)。

川尻 2戦前、ジョナサン・マルティネス戦の際にバンタム級に下げていましたね。自分は39歳の時に1回バンタム級に挑戦して、散々な思いをしたのですが、カブはバンタム級に落とした時のコンディションや、試合に向けてのメンタル面がどうだったのかを知りたいです。

スワンソン 自分を試すこと、挑戦するということ自体は楽しんでいたのだけれど、ただちょっと減量のタイミングが早すぎて落としすぎてしまって。もうちょっとサイズもキープするべきでしたね、というのも減量期が長かったために、ちょっとモロくなってしまった。

 それで試合の序盤のグラップリングの攻防で肋骨を折ってしまいました。そんな状況で自分のほうが試合をフィニッシュするというのは難しいことでしたね。もっとうまくやれると思うからもう一度バンタム級にチャレンジしたいとは思うんですけど、自分のキャリアを鑑みたら、フェザー級でキャリアを積み重ねてきたその記録を更新していくことのほうがいいと判断しています。

川尻 自分もバンタム級よりフェザー級のカブをこれからも見たいですね。

スワンソン はい、残りますからね(笑)。


(C)Zuffa LLC/UFC

川尻 そういえば前回の試合後、家族をケージに上げてかなりエモーショナルになっていましたね。

スワンソン 試合前後は感情的になりやすいんです。エネルギーを注ぎ込んで戦って、それに勝つと言うことは本当に喜びに溢れています。でも子どもができてからは、子どもたちの記憶に残るのに十分なだけの長さでこのMMAをやっていたいと思って、それをいつも大事にしています。この段階にあって、自分にとっての幸せというのは、自分が何を成したのかということを子どもたちに覚えていてもらうことだし、子どもたちが将来大きくなったときに、ファイターとしての父の話題があがったとして、それが誰かから聞いたストーリーではなく、自分自身の思い出として語れるように記憶にとどめてほしいんです。

川尻 なるほど。今週の試合も子どもたちの記憶に残るでしょうね。楽しみにしています。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

スワンソン 日本には2回行った事があって、大好きで、また行きたいと思っています。ご存じのとおり友人で練習仲間のフアン・アーチュレッタが日本で戦っていますね、だから一緒に来るように誘われるのですが、家族がいるからそれはなかなか大変です。日本の文化も、日本の格闘技文化も大好きだから本当にまた行きたい。日本のファンの皆さんからの愛も常に感じています。だから、必ずまた来日すると約束します。今週末の試合はU-NEXTで見てくださいね

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