宮本武蔵の『五輪書』をラスベガスに持ち込み読んでいたタイソン・ペドロ。(C)U-NEXT
2024年3月2日(日本時間3日)米国ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Rozenstruik vs. Gaziev』(U-NEXT配信)が開催される。
▼ライトヘビー級 5分3R
ビトー・ペトリーノ(ブラジル)10勝0敗(UFC3勝0敗)※UFC3連勝中
タイソン・ペドロ(豪州)10勝4敗(UFC6勝4敗)
セミファイナルのライトヘビー級戦では、MMA10戦無敗・UFC3連勝中のビトー・ペトリーノ(ブラジル)と、タイソン・ペドロ(豪州)が対戦する。
本誌では、ペドロにインタビューを行ったが、その前にペドロの生い立ちを紹介したい。
まだケージファイトが豪州で世間に認められていないなか、『King of the Cage Australia』のオーナーの父により、マイク・タイソンからその名がつけられたタイソン・ペドロは、幼い頃から格闘技が身近にある環境で育った。
UFCのドキュメンタリーで、親子はタイソンが「戦いを生業にしたい」と望んだときのことを振り返っている。
父ジョン・ペドロは、「テストしなければならなかった」という。タイソン・ペドロに「度胸があるかどうか。彼が辞めたりしないかどうか」。そもそも息子に不安定なファイターの仕事をさせることに賛成はしていなかった。
息子の「テスト」の過程で、ジョンはタイソンを気絶させ、鼻と前歯をへし折った。テスト終了と思われたが、父は息子にリングのマットから折れた歯を拾わせて、コーナーマンに渡すようにうながし、「このラウンドはまだ80秒ある」と伝えた。
ジョンはそのときのことをこう回想している。
「彼はフラフラで血まみれで、ジムには彼を助けに飛び込もうとする男たちがいた。でも、“私の世界”ではそんなことは一度もなかったから『消えろ』と言った。私の知っている人生では、誰も助けに来ない。そして息子には、人生で立ち上がるとき、本当に立ち上がるとき、誰も傍にいてはくれないことを知ってほしかった。
彼は歯が抜けた顔で這って戻ってきた。タイソンは私にパンチを繰り出し始めた。ますます強くなったようだった。私は彼を掴み、彼の顔を見つめて言った。『お前は大丈夫だ。ファイターになるだろう』」と。
ここまでが、よくタイソン・ペドロについて語られるストーリーだが、そこには後日談がある。
MMAファイターになったタイソンの試合に向けてのトレーニング中、形勢は逆転した。
スパーリングが白熱し、タイソンが打ち込んだパンチで父は「人生で初めて打ち倒された」。意識を取り戻したとき、息子は父に謝罪し、「戦いをやめようと思う」と涙ながらに語り、ジョンはタイソンに「これからはお前がこの家族を守るのだ」と伝えたという。
4連勝後、2016年11月にタイソンはUFC入りを果たし、2018年のマウリシオ・ショーグン戦でヒザの靭帯を断裂。2022年に3年4カ月の長期ブランクから復帰し、2連続KO勝ちした。2023年2月のモデスタス・ブカウスカス戦で判定負けも、9月の前戦でアントン・トゥルカリに1R TKO勝ちで再起を飾っている。
しかし、今回の対戦相手のビトー・ペトリーノは、無敗の26歳のプロスペクト。アンダードッグとして、コメインに臨む32歳のタイソン・ペドロに聞いた。