試合前のアーチュレッタ「海がレスラー対策をする。それは自分にとってはやりやすくなる」
──MMAファイターのあなたにとって、ピュアレスリングの練習をレスラーたちと行う意味は?
「萩原京平とレスリングの練習をしているのは、カリフォルニアで自分がコーチを務めている高校です。自分にとっては本当にこのピュアレスリングをやるということはルーツでもあって“自分がどこから来たのか”を再確認できる場所です。テクニカルとかそういう部分も当然あるけど、あくまでも精神力を鍛えるために必要。やっぱりレスリングの練習って非常に厳しいので、その部分をプロになった、MMA選手になった今でも保つために、日々そういう環境に自身を置くこと。そして、これから先ハングリーで夢と希望を持っている人たちと同じ環境で自分もやるということが、非常に自分に対しての戒めというか、自分にとっての素晴らしい経験となるので、そういった夢と希望を持っているアスリートたちと横に並んで、同じ環境でやるということは非常に大切なのかなと思います」
──今回の試合前に“仮想・朝倉海”とも練習を?
「海戦で自分が陥るであろうシチュエーションというものは、萩原選手でもシミュレーションはできたと思いますので、そういった意味では、偶然ではありますけれども、いいことになったなと思います。普段からはカブ・スワンソンだったり、ブライアン・オルテガたちと練習していますね。前回の試合(朝倉の欠場で扇久保博正と対戦)のときは“チト”マルロン・ヴェラと練習したんですけども、彼のほうが本当に海みたいな攻め方をして、すごいフィニッシュというか、殺傷能力があって、フィニッシュする勘をもってやってくるので、彼との練習は非常に長くてつらいものだったというのを覚えていますけど、今振り返ってみると、あのときの練習が今回の相手に向けて非常に役に立つんじゃないかなと思っています」
──朝倉海選手の動きは見えている?
「とくに朝倉の動きは分かりやすくて読みやすいので、戦略で苦労した部分はありません。どういう対策をどうやれば勝てるかは、ある程度見えている。相手を後手に回す、防御に回す部分と、相手を疲労させるのは扇久保が(朝倉に)やったこともそう。マネル・ケイプは倒し方は違いましたが、ベーシックにシンプルに動くことが攻略の道筋となると思っています」
──フィニッシャーである朝倉選手の一番警戒している部分は?
「彼の右手は破壊力があるし、数々の選手を倒してきてボディショットもいい。相手に合わせるヒザ蹴りや、前に出てきているときに強い。(相手を)後退させること、テイクダウンについて考えさせること、来るかもしれないと思わせるとことで、攻略法となり、一つひとつの武器を封じることが出来ると思います。いずれにせよ最高の試合をする準備をしてくることは想定しています」
――7月に最初の朝倉海戦のスケジュールから大晦日になったことは、その間に扇久保戦もやらなくてはいけなかったけれど、アーチュレッタ選手にとっては良かったことでしょうか。それともハードスケジュールになっているでしょうか。
「この8カ月で4試合(エンリケ・バルソラ、キム・スーチョル、井上直樹、扇久保博正にいずれも3R判定勝ち)するというのは、正直、非常に大変だったんですけれども、自分は戦うのが大好きなので、良かったという風にも思います。けれども、前回のことに関してはやっぱり精神的にいろいろとキツかった。というのも、身体よりも精神的にキツくて、Bellatorでタイトルファイトを2連続で負けてしまって、ここからまた“自分はチャンピオンだ”ということを信じて自分に鞭を打って進まなきゃいけなかったので、そういう意味では非常に辛かった。
“自分を乗り越える”というところが一番のチャレンジだった。どうしてもショートノーティスの試合というのはお互いにパフォーマンスは落ちる。今まで準備していたもの、コンディションは置いておいても、やっぱりまったく違うタイプの相手になったりとか、今まで練習していたものがまったく意味のないものになってしまったりとか、作戦だったり、相手のスタイルによって全部変わってきてしまうので。
ただ、今回のこの試合が大晦日に起きる、そして朝倉海とやるということは、非常に喜ばしいことです。互いに待ち望んで“本物のファイター”同士が大晦日で試合をするという試合こそ、日本のファンが見るに相応しい試合だなと思っています。どっちが勝つか分かりませんが、本当に厳しい試合になって、接戦の判定になるかもしれないですし、どっちかがフィニッシュするかもしれない、されるかもしれない。でもその中でも自分たちがやれることを精いっぱいやるということが、この試合をする意味になるんじゃないかなと思います」
――互いに圧力をかけ合う試合のなかで、ストライキングの圧力の朝倉海選手と、テイクダウンの圧力のアーチュレッタ選手との戦いになる、そこで引いたほうがペースを握るという考え方についてはいかがですか。
「その通りで、たぶんプレッシャーの圧のかけ合いになると思う。まず海選手が打撃でプレッシャーをかけようとしたときに、まず自分がそういう圧のかからないタイプのファイターだということに気づくと思います。自分のスピードだったり、縦横、前後の動きが他の選手よりも出来ていると思うので、的が絞りづらい。そして打撃を避ける技術にも自分は長けている。海が自分と向き合ったときに思うように出来ないと感じると、プレッシャーがかけられず、1回距離を取って、待ちのスタイルになるだろう。待ちになると、おそらく自分の持っていた作戦というものを1回白紙に戻して、そこから立て直さなければいけない。
“自分の作戦を先に放棄した者”が不利になるというのは間違いない。自分は前に出ながらも打撃を振れて、後ろに下がりながらカウンターも出来る。前後左右に動くなかで打撃とテイクダウンに切れ目が無い。TJ・ディラショーとずっとスパーリングをやっていると、そういう技術を身につけないとやっていけないので、自分は一つの方面でだけ強いのではなくて、全局面でいろいろと出来る。その部分が勝敗を分けるんじゃないかなと思います」
──朝倉海選手が海外からMMAレスリングの強い選手とコーチを招聘して対策を練っていることについては、どう感じますか。
「試合のたびにスタイルを変えたり、対戦相手のスパーリングパートナーを用意するスタイルというのは身体にとって非常に良くないと思う。自分のスタイルを定着させるためにも良くない。おそらく海は今までとは違う慣れない練習をして、身体に思ったより負荷がかかっているんじゃないかと思う。怪我をしないか不安に感じます。ただ、それは彼の問題で、彼が今レスリングをしっかりとやって、MMAのなかで覚えているということは、自分にとってすごくやりやすくなると思います。
なぜならば、彼はおそらくこれからレスラーとしての反応をすると思うから。レスリングを習うことによってレスラーの反応をするようになるということは、そこを知り尽くしている自分としてはより倒しやすくなるということ。逆にレスリングを知らない人の動きは非常に読み辛かったり、想像とは違う、定説とは違う動きをしてくるので、テイクダウンし辛かったりするんです。レスリングを分かってくると、レスラーの動きをする。それは自分にとってはやりやすくなるという風に思います」
──あなたにとって、RIZINのバンタム級王座を防衛する意味は?
「誰かから聞いたけど、このバンタム級タイトルはこれまで誰も一度も防衛したことがないと。そういう意味でも初防衛ということで歴史に名を刻むことになる、そこに対するモチベーションがあります」
――7月の試合後、「せっかく海はホームでアメリカ人を倒す機会があったのに、それを自分でふいにした」という言い方をしました。それは、RIZINチャンピオンではあるけど、アウェーであるということを理解していると感じました。でも今回の大晦日の試合では、自身の試合をもって“RIZINが自分のホームである”ということを示すような試合になるでしょうか。
「……自分にとってはもうここが、夢にまで待った機会なので、本当にKOTC時代からオーナーのテリー(トレビルコック)に『ぜひ日本に行かせてくれ、RIZINに行かせてくれ、RIZINのチャンピオンになるから』と、本当にお願いしていたので、ようやくこういう機会をもらえて、RIZINで連戦を勝ち抜いてここまで来た。ダン・ヘンダーソンが自分のアイドルで、僕はダンの父からレスリングを教えてもらったんです。ダンと話したときに彼は『日本から離れなければ良かった』とすごく言っていたんです。なので、実際に自分が来て戦ってみて、その言葉がすごく理解できます。日本の文化だったり、スタッフだったり、イベント、環境全て、自分にとってはすごく──“暗いところから出てきて、すごい光を与えられたような、すごい特別な場所だ”と思いました。
何より、日本のファンにあって自分の人生が変わったんです。彼らのおかげで自分は生き返った。それで“絶対試合に勝ってファンのためにチャンピオンになる”と決めたんです。RIZINが世界チャンピオンになる機会を私に与えてくれて、自分がチャンピオンになっているので、当然、自分が“RIZINの代表”として振る舞いたいし、“ここは自分のホームだ”という風に思いたい。胸を張れるようなチャンピオンになって、今回、RIZINのファイター、RIZINのチャンピオンがやっぱり世界にも通用する世界一だということを誇りを持っても言いたいと思っていますし、今回海に勝ったら、次は二階級で、フェザー級でも最強を証明したいなと思っています」