あんな「いい人」と残酷な試合をするとは
――会見では「アームロックと洗濯ばさみだけ」と言ってましたが、それだけじゃないと思っています。
「いや、マジで本当、その二つしか知らないんですよ。自分バレてもいいくらい、本当それしかないんですよね。“もっとここからこういう技も覚えたほうがいいよ”とよく言われて、一般会員さんとかと練習するときはそういう練習もするけど、結局、試合前になるとアームロックの練習をするから、それに偏ってる。それが僕のいいところだと思ってるから。投げとかは元々柔道もやってたから、レスリングも今やっていますけど、決め技がその二つしかないので──」
――すべてそこに帰結する形になってる?
「そうです。全部それのためのやつだから、ドミネーター選手はそれを分かってると思うけど、分かっていても自分、絶対極められるから」
――手首さえ持てれば行ける?
「そうですね、ガチッて手首持って手をセットするんですけど。だから、向こうは絶対手を取られないようにしてくる。でもそうすると僕、洗濯ばさみもあるんで。どっちかで絶対極められます。分かっていても極まるのが必殺技なんで」
――現在、6月のRIZIN北海道大会での1R KO勝ちも含め4連勝中。その極めは、それ以前の前回のRIZIN参戦時のときとも精度が異なる?
「山本空良戦(2022年2月)ですよね。あのときは寝技を習ってなくて独学だったので。その前の中村大介選手とやる前は、ヒザの前十字靭帯を切って1年半くらい寝技をせずに、実戦感覚が掴めないまま負けて悔しい思いをした。山本戦のあとにセキュリティを辞めて格闘技により集中しました。だから、あのときの寝技はドミネーター選手と練習した頃の寝技なので、そんな大したことないです、別に。いまはクレベル選手ともやりたいです、絶対極める自信があります」
――そこまで自信があるとは……。しかし他の人にはない技術体系ですよね。
「そこに特化していますね」
――弥益選手も、実はアームロックとシザースチョークで勝利しています。どんな試合になると思いますか。
「自分以外の試合をあまり見ないので、アームロックがほんとうに得意なのか、そうなったら望むところだし、たぶん……意外に打撃もけっこうドミネーター選手ってやってくるじゃないですか。だからお互い殴り合って、寝技でも展開あって、めっちゃいい試合になると思うんですけど……、ただ僕は1ラウンドしか体力持たないので、本当に1ラウンド全力出し切って極めに行ければ」
――本当はそんなことないんじゃないですか。9月のPANCRASEのタイトルマッチは2Rに極めています。
「前回2ラウンド目だったんですけど、本当“延長戦”の気持ちです。“延長戦始まったな”みたいな」
――2Rの時点で延長戦……近年に格闘技に向き合ってきたことは、ここまでの話で感じます。スタミナもつけようとしているのでは?
「もちろんつけようとはしてるんですけど……、僕の必殺技のいいところって、120パーセントで極めに行くから極まるんですよ。でも、たいていの人はそこで80パーセントくらいしか出せないから3ラウンドもつ。普通、限界超えるくらい力を使ったら、5分3ラウンドもたないんです。それだと僕のいいところが消えちゃうから、僕はもう1ラウンドで思いっきり取りに行きます」
――そこは、見どころですね。
「本当に関節かけたら僕折りにいくつもりでいくし、絞めたらもう落とすつもりでいきます」
――たしかにそこでガッと極めにいくから取れる。それが“延長戦”でも極めたところに新居選手の進化を感じています。
「絶対120パーセントのアームロックなのに、違う技を覚えちゃうと、こういう体勢だとこっちもあるって考えちゃうと、120がたぶん90とか80になっちゃうんですよ。だから、それ以外別に覚えなくていい」
──必殺技と心中するということですね。しかし、前回のRIZIN参戦時と異なり、今回はPANCRASEのベルトを持って参戦する。その気持ちは?
「やっぱりPANCRASEの代表として、ドミネーター選手は元DEEPのチャンピオンなので、他団体の選手を倒すというのに意味があるかなと思っています。そこで勝つためにも、迷わず自分を出します」
――RIZIN北海道大会では盟友の飯田健夫選手を右ストレートからのサッカーボールキックで沈めた。今回は、4戦目のRIZINで、しかも出たいと望んでいた大晦日のRIZINに臨むにあたって、どんな試合をしたいと思っていますか?
「本当に大晦日って“天と地”じゃないですか。今年負けて終わるのか、勝って終わるか、そこで全部決まるから。けっこう残酷な試合を、あんないい人とするという」
――“いい人”とも夢の潰し合いをするのが格闘技ですね。
「会ったら毎回喋るし、練習もしたことあるけど、ずっと常に謙虚だし。誰がどう見てもいい人じゃないですか、あの人。会見のときもそうですけど。でも自分、いい人とばかり試合してるから、前回の北海道の飯田健夫戦もそう。今はBreakingDownみたいな、ちょっと揉めるのが流行ってるけど、僕はいい人同士の気持ちいい格闘技が見せれたらなと思って。いい人だけど試合は残酷。それを、煽り合いじゃなくて、試合で見せられる格闘家同士の戦いを見せたいですね」
――なるほど。一見いい人じゃない側に見える新居選手の格闘家としての内面を知れてよかっです。
「ええ、マジっすか? そう見えてました?」
――そもそもクラブセキュリティだから、良くない人を止める方ですしね。
「そうですよ、自分。止める側だし、いい人じゃないですか、自分も(笑)」
――ちなみにセキュリティで力を使わなくちゃいけないときもときには……。
「もちろんセキュリティでアームロックとか洗濯ばさみ、練習してました」
――練習……(苦笑)。
「下手に揉めるより怪我しないんですよ、そのほうが。もちろん極め切んないですよ。その形になれば大人しくしてくれるから、変に投げたり、バーンと自分も手を出しちゃうと怪我しちゃうから、スッとやってサッと極めるのが一番いいんですよ。大人しくなるから」
――セキュリティで制圧術として使っていた……。やっぱり弥益選手の“いい人”とは種類が違うかもしれない(笑)。それがリング上でどう出るのか、楽しみします。
「ぜひ、楽しみにしてください!」