2023年10月7日(土)タイ・ルンピニースタジアムで開催される『ONE Fight Night 15』にて、ONEフライ級サブミッショングラップリング世界王者のマイキー・ムスメシ(米国)と、「無差別級サブミッショングラップリング」(10分1R)で対戦する元ONEライト級世界王者の青木真也(日本)が28日、都内で会見を行った。
青木のONEでの試合は2022年11月のサイード・イザガクマエフ戦以来、11カ月ぶり。グラップリングルールでは、2022年5月の ケイド・ルオトロ戦以来、1年半ぶりの試合となる。
「40歳、窓際の意地」とキャッチコピーがつけられたバックパネルの前で青木は、「単純に干されていたというか、使われてなかっただけ。みんな辞めさせたがる。“最後にさせたい”というようなことだと思いますけど、試合をしなくなることがあったとしても、辞めることはないですから。いま自分が置かれている状況を悲観することはない」という。
また、四十路に入り、ONEの中継中に実況から「現役最後を囁かれる」とカード紹介されたことについて、「言葉を扱う仕事をしていて世の中に出るなら、選手が生きてやっていることを背負う器や覚悟があるのか。お前らがやるんだったら、俺もお前を殺す気でやるっていう気持ちでやってる。40歳になったけど、ナメられたくない」と、20年間の格闘家人生の矜持を見せた。
対戦相手のマイキー・ムスメシは、“グラップリング界のパウンドフォーパウンド”とも称される強豪。今回は無差別級戦で青木とは階級差があるが、MMAとグラップリングは別競技だ。さらに、今回は青木がMMAで主戦場とするケージではなく、リングでの戦いとなる。
青木はマイキーについて、「いまのあのルールにおいて、ひとつの完成形というか、つけ入る隙がない相手。小さくていつもと感覚が違って、型にハメ辛い」と評し、そのピュアグラップリングには「付き合う気持ち、ないです。まったく別モノなんで。そこに付き合ったら負けるんじゃないですかね。(シャットアウトする自信は?)自信というか、そうしようと思っています」と、相手の動きにさせない組み技を見せるとした。
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自分が主軸でないマッチになるからみんな辞める。僕は僕の主軸に変えられる
──現在のコンディションは?
「特に試合に向けた練習も無理していないので、変わらず元気です」
──無差別級サブミッション・グラップリングマッチに臨む心境は?
「単純に干されていたというか、使われてなかっただけですから。心境と言うか。なんかみんな辞めさせたがるんすよね。最近」
──ONEフライ級サブミッション・グラップリング世界チャンピオンのマイキー・ムスメシと対戦が決まったことについては?
「(ONEが)売りたいんだなと感じますし、それに対して寂しい気持はあったりするけど、別に惨めだとは思わない。来た球をちゃんと打ち返すだけですね」
──バックパネルの「40歳、窓際の意地」のキャッチについて、どう感じていますか。
「そうですね、そういうことだと思うんですよね。辞めるというか、最後が見えてきているというか、最後にさせたいというようなことだと思いますけど。うーん……試合をしなくなることがあったとしても辞めることはないですから。いま自分が置かれている状況を悲観することはないですね」
──最近、同年代の金原正徳選手がクレベル・コイケ選手に勝利するなど、格闘技界隈のことをどう見ていますか。
「“格闘技界隈”の人じゃないから、よく分からないね。感想は……なんだろうな、『金原が“青木が強い”って言ったから強いんですね』とか言われると、“あー”って思いますけどね。格が違う。格が違うことに関して、世間もマスコミも分かんないじゃないですか。だから、客もマスコミも全員揃って、格が落ちたな、と思いますね」
【写真】今成正和の右腕を対角の手でコントロールしてから右足で縛ってワンハンドにさせてリアネイキドチョークを極めたマイキー。足関節を解除してトップを奪ってからのバックテイクだった。(C)ONE Championship
──マイキー・ムスメシのグラップリングスタイルをどう感じていますか。
「20年グラップリング、格闘技やってますけど、ほんとうに世界観が変わってきて、いまのスタイルに対してどう向き合うかということですけどね。いまのあのルールにおいて、ひとつの完成形というか、つけ入る隙がない相手だと思います」
──攻略方法を聞いても仕方がないとは思いますが、どう……。
「『攻略方法を聞いても仕方がない』じゃなくて、グラップリングというもの自体が、攻略方法を言っても伝わらないから。でも言っても体格差が出るかも分からない、ほんとうやってみて、ですね」
──普段は大きな相手とも組むなかで、10cm小さく、10kg軽い相手との試合はやりやすいのか、やりにくいのでしょうか。
「やりにくいですね。相手があってのことなので。型にはめる方なので、いつもと感覚が違うというか、はまり辛い。出方も、MMAもそうですけど、お互いに組み合ってみないと分からないですから」
──「窓際」への自覚も?
「窓際と言うか……たぶんもう僕らの世代ってね、もうあんまり必要とされていないというか、代謝されていることは確かで。ただ、僕の場合はまた違った土俵を作ってるからこそ生き残れているというのはある。でも、歳を取ってくるとこういうマッチアップは増えてくるし、だからみんな辞めるんだと思いますよ。自分が主軸でないマッチになるから辞めるんだと思います。僕は僕の主軸に変えられる、と思っています。あくまで俺の世界の中では、変えられると思っています」
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世に出す表現によってその選手を生かしも殺しもするなら、俺もお前を殺す気でやるっていう気持ちでやってる
──青木選手にとって「40歳」を迎えたというのは?
「僕にとっての40歳は、『現役最後を囁かれる』ってアナウンサーに言われることじゃないですかね(※22日の『ONEフライデーファイツ34』の放送)。“誰が言ったんだ”と思ったんですけど、最近、思うんですけど、ああいうアナウンサーとかも、言ったら“ヨカタ”じゃないですか。言葉を使う仕事をしていて、文章を書く仕事の人もそうですけど、表に出るヤツも、ひとつの自分が出す表現によって、その選手を生かすも殺すも、そいつの人生というか、そいつの生きてやっていることを背負う器というか、覚悟みたいなものが無いんだよね。だから俺はムカついてるんですよ。
じゃあ、お前がここに来て、水でもブチかけられる根性があるかって言ったら無いわけじゃん。言葉を扱う仕事をしていて、何か文章を書いたり、世の中に出るなら、適当なこと言ってのうのうと喋るんだったら、俺の前に出て来いって思いますね。
みんなナメてるんですよね。俺たちも良くなくて。何か言われてもニヤってしちゃうじゃないですか。でも僕はやっぱりそうは思ってないから。お前らがやるんだったら、俺もお前を殺す気でやるっていう気持ちでやってますから、そういうのに対して。だから、40歳になりましたけど、ナメられたくないですね」
──小さい相手とのやり辛さを語っていましたが、試合前の怖さというのも?
「いや怖いですよ。やっぱやりたくないし、怖いし、小っさいのに負けたら“弱いね”って言われるわけじゃないですか。その怖さは僕は常に持っていますけどね」
──その怖さを越えるために、普段からコツコツと……。
「コツコツとやり抜くことだ、と言いたいところではあるけど、結局は“押し出されているな”って思いますよ。仕方なくやっているんだと思います。そんなに何か覚悟してやっていることではないですね」
──そういった戦いに向け、モチベーションや支えになっているのは?
「いや、支えが無いからやってるんじゃないですかね。支えが無いから、これしかやることないから。何かほかのことが充実していたりとか、ほかに賭けるものがあったらほかのことをやっていると思います。何もないから仕方なくやっていますね」
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ピュアグラップリングに付き合う気持ちは、無い
──MMAの試合の方は?
「MMAの試合の方が儲かりますからね。MMAもやりたいですね。僕はいつでもいいですけど、何か扱い辛いんだと思います。やっぱり若くないし、それなりに値が張るし、費用対効果を考えて、ほんとうに扱い辛いんだと思います。それは重々、理解しています」
──グラップリングルールとはいえ、ルンピニースタジアムで試合をする感慨はありますか。
「ルンピニーですけど、改装されたから。いまのルンピニースタジアムが(以前見ていた)ルンピニースタジアムかというと難しい。それはラジャもそうだけど、名前はルンピニーかもしれないけど、別物という意識で、“ムエタイの聖地”だからということは、正直、無いですね」
──前回のグラップリングマッチのケイド・ルオトロ戦(2022年5月)と異なり、今回は押し込めるケージではなくリングであることは?
「リングってやっぱり組み技に適してないと思うんですよ。MMAにも適してないとは思うんですけど、うーん、ケージの方がやりやすいのは確かですけど、彼のスタイルを考えると、上下になるから、あんまりケージの攻防・リングの攻防にならずにあんまり影響しないかなと思います」
──“グラップリング界のパウンドフォーパウンド”とも称されるマイキーを相手にピュアグラップリングでも付き合う気持ちもありますか。
「付き合う気持ち、ないです。まったく別ものなんで。そこに付き合ったら負けるんじゃないですかね」
──でもシャットアウトする自信はあるのでは?
「自信というか、そうしようと思っています」