対戦相手変更前に原口伸が語っていたこと「『This Tournament is Mine=このトーナメントは私のものです』って言おうと思っていたら、マイクを取られてしまって──」
(※以下は対戦相手変更前に原口伸に聞いたこと)
──当初は対海外勢ということで、フェザー級での「RTU」参戦を目指していた原口選手が、今回「ライト級」での減量というのはいかがでしょうか。
「いったん78kgぐらいまで頑張って増やしたのですが、ちょっと汗をかいたら、すぐに73kgまで落ちちゃってヤバいと思って(苦笑)。一生懸命食べて。それでもフレームは変わりませんが、動きには全然キレが出てきましたね」
──フェザー級での参戦を希望しながらもライト級で、と言われるなかで、出場を決めたのは?
「ここで『やはりフェザー級で』と言って、次にどんなチャンスが回って来るか分からないですし、出場のチャンスがあるなかで、やろうと決断思しました」
──そんななかで中国のバテボラティ・バハテボラ選手ともすでに会ったそうですが、どのように感じましたか。
「ちょうどすれ違って挨拶したくらいですが、計量前ということもあり、それほど大きさ、圧力は感じませんでしたね」
──シンガポール入りした雰囲気はいかがですか。
「前戦は『ROAD TO UFC(以下『RTU』)だけの大会だったんですけど、今回は前日に『UFCファイトナイト』があるということで、UFC選手たちと同じホテル空間にいるので、いつもとはちょっとそこが違うなと感じました」
──ワークアウトの部屋なども用意されていますが、すでに会った選手も?
「メインイベンターのコリアン・ゾンビ選手とか、ギルバート・バーンズ選手も見かけました。職業病と言うのか、なんかこう“デカいな”“この体格で戦ってるんだ”みたいな感じで、身体をまじまじと見ちゃいます。“組んだらどれくらい強いんだろう?”とか、ちょっと想像したりします」
──試合まであと3日となりました、現在の心境を伺えますか?
「『RTU』が決まってからは、もう本当に優勝するとことだけを頭に入れて、ずっと心の中でブレがあんまりないんで、今もリラックスして落ち着いて、本当にいい緊張感を持って取り組めてます。精神的にもそうですし、体的にも特に大きな怪我もなく、いいかもしれない。減量幅もあまりないので、いつも通り問題ないです」
──アジアでの開催で、何より時差の問題がありませんし、大きく環境は変わらないですが、調整も問題なく?
「レスリング時代からインドなど海外で遠征を繰り返してたので、その頃と比べたら、比較的いいところだなって感じがしています。UFCはホテルといい、関わる人といい、レベルが違いますね(笑)」
──レスリングでの同世代の選手というのは……。
「自分は70kg級(2019年全日本選手権フリースタイル同級優勝)で、階級は違いますが、65kg級には同じ歳に乙黒拓斗選手がいましたね」
──それはすごい年代ですね。今回、出稽古もされたかと思いますが、日本のBRAVEではどんな選手と組むことが多かったでしょうか。
「武田光司選手、野村駿太選手ら同階級の選手たちですね。ただ、いつも同じメンバーだと、互いに手の内がバレてしまって(苦笑)。それで、国内ではロータス世田谷にも少しだけ、練習で行かせてもらいました」
──青木真也選手ら、グラップリングの猛者が集う場所での練習はいかがでしたか。
「分かってはいたことですが、青木選手にかなりやられまして……でもそれがいい気づきになりました」
──いつもと違う環境で、いつもと異なる相手を欲して、出稽古を行ったと。海外ではプーケットのタイガームエタイにも出稽古したそうですね。
「自分の中で……マンネリじゃないですけど、このままでいいのかな、みたいにふと思って。2回戦を控えていて。自分の中で、“何かを壊す”ために行こうと思って。いろんな世界、いろんな人と触れて殻を破れたらいいなと思って」
──殻を破れました? どんな選手がいましたか。
「めっちゃ破れました。タイガームエタイにはラファエル・フィジエフ(UFCフェザー級6位)選手もいて、あとどうも強いなと思ったら、ONEで秒殺勝利したアクバル・アブドゥラエフらもいて。フィジエフ選手とスパーしたときは、やはり圧力を感じて、がっちり固めても中に入り辛かったですね」
──そういった練習環境のなかで、試合当日までどんなふうに過ごしていきますか。
「徐々に日を重ねる毎に、自分の中で試合モードになっているのを感じているので、今以上に“本当に試合するんだ”っていう実感を踏まえながら過ごしていきます。しっかり準備できたかなと思います」
──先ほど「いい緊張感」とのことでしたが、ネガティブな意味で、ナーバスになったり、緊張はしていないですか?
「そうですね。本当にレスリング時代はそういう、3日前ぐらいにナーバスになる気持ちが分かりましたが、今はもう仕事してる舞台で、そういうふうにナーバスになることはなくて、前回もなりませんでした」
──そのライト級トーナメント初戦では、ウィンドリ・パティリマ選手を相手に原口選手は2R、パウンドによるTKO勝利を収めながらも、そのフィニッシュには不満が残っているようでした。
「自分の中では、終わった瞬間、“ああ、またパウンドに頼っちゃったな”とか、“スタンドの打撃をもうちょっと見せられたらな”と思ったりしたんですけど、周囲の関係者の方々からも『今回はトーナメントだから、勝つのが第一だから』って言われて。『あの戦い方でいいから』と。“ああ、じゃあ、もう自分の持ち味を発揮して、この戦い方でいいんだ”と自分を肯定することができました。それまでは“一本とかで勝ちたいな”って、“パウンドってどうなんだろう”って思ってたんですけど。でも、終わってから肯定してくれる人がいっぱいいたから“これでいいんだ”と振り切ることができて“これで行こう”みたいな感じになりました」
──海外の強豪勢相手にそれで勝ち切る強さが重要ではないでしょうか。そうして自己肯定できたことで、“魅せる勝ち方をしたい”ということに気持ちが捕われる懸念がなくなったと。
「そうですね。なので、(トーナメントで優勝して)UFCと契約を果たして、それから勝ち星を重ねてから、そういうことを考えればいいっていうくらいになっています」
──前戦の試合から、今後に向けて参考になったことはありましたか。
「試合の映像で見ていた、全く同じオクタゴンでやれたことは、自分でもなんかこう“おおっ、本場だ!”と思いながら、本当に楽しんでやれたので、そこは良かったかなと思います。だからといって浮かれた気持ちはなく、地に足が着いていた感じがします。(試合をする場所としての感覚は)今までとは変わらないけど、UFCなんだなとテンションが上がっているような」
──準決勝の対戦相手であるバテボラティ・バハテボラ選手の印象は?
「前回の試合だけだと、1Rは相手にずっとプレッシャーかけて押したりしてたんで、結果は反則勝ちですけど、打撃とか侮れないというか、普通に強いなって思って見ていて、それ──以前のLFAの試合とかも結構見返して、打撃は強そうだなと思いました」
──打撃を強みとする選手と、グラウンドを強みとする2人の戦いと見られるところはあると思いますが、ご自身はどのように見ていますか?
「自分もそうだと思います。それで、どっちの得意分野が勝つか、みたいな勝負になると思うんですけど、そういう時に意外と打撃が当たったりとかするのかな、とか思いながらしっかり打撃の練習もしてきました」
──原口選手の打撃を見ると、レスリング時代と同じ右前足の右利きサウスポーでしょうか。
「そうですね。前足に入りやすいというのがあるんですが、今回は相手もサウスポー構えなので、練習でもサウスポーの人といっぱいやってきました。テイクダウン、タックルを見せてからの打撃とかをいっぱい取り組んできて、相手がぶん回して来たら下に入るとか。やっぱりレスリングだけじゃ通用するレベルじゃなくなってくるのかなっていうのもあって。MMAとして意識しています」
──バハテボラ選手で一番警戒しているのはどんなところですか?
「いろいろセコンド陣とも話して『打撃は重そう』っていう指摘は“確かにそうだな”と思うのと、相手が左利きのサウスポーでストレートがすごい伸びてきます。僕は右利きのサウスポーだから、そことのところも気をつけないといけないなという感じです」
──では、相手に関わらず全体的に強化してきたことや、成長したことはありますか?
「レスリングという主軸は変えずに+αで、先ほど言ったような、下を見せて上とか、逆に上を見せて下であるとか、そういったことを重点的に取り組んできました。今までだったら、ちょっと距離が縮まったからタックル、みたいな感じで、本当に気持ち+α出来たかなと。変に相手と距離を取らなくなったり、下がったりするということが減ったので、前よりはちょっと試合を進めやすくなったのかな、というイメージです」
──バハテボラ選手は前回反則勝利となりましたが、キ・ウォンビン選手と対峙していました。その点で、中国の選手はやはり脅威になってきていると感じますか?
「勝負の世界というのはもちろんですが、こういう“何かがかかった”時の試合って、みんな“実力以上の何か”を発揮してくることが多分、多いと思います。たとえばレスリングだと、オリンピックがかかるとみんなの目の色を変えて、“あれ? そんな強くない選手だったのに”という選手が勝つみたいなことも結構あります。やっぱり、プレッシャーなどを色々潜り抜けて、勝たないといけない、そういう舞台だなという感じです」
──どんな試合を見せたいですか?
「自分の得意なところ──タックルだったり、パウンドだったりをガンガン出して、全ラウンドで深海に引きずり込むような試合をして、テイクダウンのその先まで、しっかりフィニッシュできるように頑張ります」
──今は目の前のトーナメントに集中していると思いますが、契約を勝ち取ってから向き合うことになるUFCロースターの選手たち、とりわけランカーについて現在はどんなふうに見ていますか。
「自分はもしタイミングが合えば、フェザー級に下げることも考えていて。小さいので。ともかく、ライトでもフェザーでも、やっぱり“戦ってみたらどうなるんだろう”とか、もちろんレベルがまだ違うっていうのも頭では理解しつつ、“こうすれば戦えるんじゃないかな”っていうことを頭に入れて見るというのは最近増えました」
──前日のファイトナイトのメインがフェザー級のトップどころの試合です。試合前日ですが、確認しますか?
「一応日本人選手とメインは会場で見られたらいいなと思っています」
──ところで、前回、試合後のマイクで最後に何かを言おうとしてマイクを取り上げられてしまう場面がありましたね。
「ハハハ(笑)。前日に、英語でひとこと言おうと決めていて。『This Tournament is Mine=このトーナメントは私のものです』って言おうと思っていたら、マイクを取られてしまって言えなくて(笑)」
──多分、そう言おうとしていたことはどこかで話されていますよね?というのも、個人的に、お兄さん=原口央選手が、ROAD FCのトーナメント初戦の時にその言葉をマイクでおっしゃっていたのを聞いて、伸選手がそう言っていたと思い込んでいて、「兄弟でそれを言うんだ!」とエモーショナルになってしまいました。
「あれは普通に、マイクを奪い取られました(笑)」
──おそろいの決め台詞にしようと約束していたわけではないのですね(笑)。今回、央選手が25日に2回戦となる状況で離れ離れの戦地に赴いている状況ですが、近くにない不安はありますか?
「いや、そんなに(笑)逆に、兄貴も試合だから、一緒に勝てればいいかなぐらいの感覚で。不安はないです。兄と互いにミットを持って、相手のシミュレーションもして、相手ののビデオを見てやってみることで、自分の学びにもなりましたね」
──央選手の2回戦の相手はかなりデンジャラスだなと前戦を拝見して思いました。
「化け物ですよね…。今、23歳とかですよね?兄貴としても、修羅場が来たなって感じですね(※対戦相手の体重超過で試合中止)。僕は高校時代にキルギスの選手とやって負けちゃったんですけど、柔らかいし、力あるしみたいな感じで。ゴリゴリではないんですけど、力もあって、柔らかくて。……ってイメージです。体の使い方がうまいというイメージがありますね」
──そういうイメージは共有しているのですよね?
「そうですね。7月にタイガームエタイに練習に行ったときも、キルギスの選手とも3人ぐらいやって、やっぱレスリングのディフェンスがうまかったので、そのことも兄貴には情報として伝えたりしました」
──タイガームエタイはロシア語圏の選手がとても多いですよね。
「はい、ダゲスタンの方とか何人かいて。戦績が9勝0敗だとか、そういう無名だけどめっちゃ強いみたいなダゲスタンの方といっぱい組みました」
──では、新しい原口選手の一面が見られることを楽しみにしています!最後に、U-NEXTでご覧になる方にメッセージをお願いします。
「僕は28日のエピソード6の一番最後で、日本人選手としても大会としても一番最後のトリなので、しっかり締められるように頑張りたいと思います。よろしくお願いします」