上久保周哉「『戦うのはもういい』って思ってもらうようにします」
2023年8月27日(日)『ROAD TO UFC 2』(シンガポール・インドアスタジアム)バンタム級準決勝で、日本の上久保周哉(頂柔術/TRY H Studio)が、中国のシャオ・ロン(Xin-Du Martial Arts Club)と対戦する。
上久保は、日本人バンタム級最強の一角。様々なテイクダウンを武器に、相手を寝かせて削って極める、MMAグラップラーだ。2018年7月からONEに参戦し、スノト、モハメド・アイマン、キム・デファン、ブルーノ・プッチ、ミチェル・チャマール、トロイ・ウォーゼンに勝利し、サークルケージで6連勝。
UFC挑戦のために、ONE Chmpionshipとの契約のマッチング期間を消化し、『ROAD TO UFC』に参戦し、5月の1回戦は組みに行ったところに中国のバーエゴン・ジェライスの下からのヒザ蹴りにダウンを喫し、テイクダウンディフェンスにも苦しみながら、最後は組みで上回り、スプリット判定を制した。8年間負けなしで10連勝、MMA13勝1敗分けの28歳。
シャオ・ロンは、一回戦で野瀬翔平にスプリット判定勝ち。序盤の野瀬のヒザ十字に苦しめられたが、テイクダウンを切ってコントロール。組みにも細かい打撃を入れて上回り、スプリット判定をモノにした。25歳でMM25勝7敗の戦績を持つ。
山場だと思っている。集中して向こうの100パーセントをぶち破る
――減量の調子はいかがですか。
「減量はいつも通りじゃないですか。前回ちょっと楽すぎたから、もうちょい体重残したいなとは思ってやってきたんですけど、相変わらずいつも通りです。日本と同じ夏で暑いなとは思うんですけど、何回も来ていますから、散歩もしやすいし。いい国ですね」
――何度も試合をしたONEとは異なり、UFCで水抜きが可能になって2試合目。そうナーバスにはならない感じでしょうか。
「前回はちょっと久々の水抜きありだったので気を付けようとは思ってたんですけど、前回たぶん気を付けすぎたのかな」
――前回は135.51ポンド(61.46kg)で、+1ポンド規定の136ポンド(61.68kg)よりちょっと少なかった。
「余裕だったというか、もうちょい残しといても良かったなみたいなのは前回思った感じです。今回は、それでも前回よりちょっと残したいな、とやりながら、結局いつも通りでしたが」
──練習環境は所属の頂柔術、TRY H Studioに加え、出稽古もされてますね。
「そうですね。ロータス世田谷、ALLIANCE、それにCARPE DIEMではグラップリングの練習でお世話になったりしてます」
――打撃専門のジムには?
「打撃だけというのはあんまりやっていないですね。打撃専門の人とやると、ちょっと競技が違うというか。MMAファイターの人と打撃スパーをするなどはありますが」
――出稽古先でも、練習している誰もが上久保選手の組み技の強さを語ります。そうなると同階級で上久保選手より強い寝技師の存在が必要なんじゃないかと思ってしまいます。
「そう言ってくれるなら嬉しいですが、MMAとしての寝技もまだ直すところがいっぱいあるし、全然完成してないし、正直頂柔術とかで練習してても、別に自分が一番強いわけじゃないです」
――それは柔術、ギありということではないですか。
「柔術もノーギも、自分より強い人はいっぱいいるし、学ぶことあるし、自分の知らないことを知っている人はいっぱいいます」
――そのノーギでも『UNRIVALED』での吉岡崇人戦など、上久保選手がやろうとしている寝技は、そこにMMAが想定されていると感じました。
「まあ寝技というか、グラップリングだけやっていても、ポジション──MMAにおいてこれはどういう場面なのかというのは、“殴れるか”もそうだし、“相手が何がここで出来るのか”というのも、やっぱり常に頭によぎるというのはありますね。自然と。ただ、あんまりMMAのためだけにグラップリングをやってないというのもありますが」
――グラップリングをグラップリングとして行う部分もあると。それは自身の引き出しということでしょうか。
「引き出しを増やしたいし、何より楽しいからじゃないですか。柔術もグラップリングも楽しいからやってるし、これを“MMAでは使える・使えない”とかで、“使えないからやらない”というのももったいない。それに、グラップリングだけの技と言っても、それをMMAに生かせるかどうかは自分次第なところもあるし、何でも1回やってから、自分が決めるという感じです」
――「生かせるかは自身次第」、たしかに。そういう中で、前回の試合では、バーエゴン・ジェライスが自身の組みの強さをテイクダウンディフェンスに特化してやってきた。その上で上久保選手は上回った。あの試合を経て、修正したこともあったでしょうか。
「修正するべき点とかは、わりかしありましたね。うまくいった場面でも、もっとこうすれば良かったなみたいな、より良くするための方法みたいなのもいっぱいありましたね」
――それはバックテイク出来ているけれど……という部分もありますか。
「テイクできてるけど、もっとうまく楽にというか、もっと早い段階で出来たんじゃないかと思う場面もあるし。単純に自分があの場面はこうすれば良かったな、と思うシーンとかもあったので、そういうのは見て、改善はしました」
――ダウンを喫した場面に関しては、ご自身で十分把握できていたのですよね。
「そうですね。あれは試合のあの瞬間でも自分がミスったのが分かったので。頭が下がり“あっ、ヤバッと思ったときにヒザをもらいました。もらうべくしてもらったのは自分で自覚しているという感じです」
――「見えていれば効かない」という言葉もありますが……。
「あの瞬間はよぎりましたよ。“見えていれば効かない”というワードは本当によぎりました。ちゃんと見えていましたからね。見えて、次の瞬間には尻もちついてたから、試合のあの攻防の瞬間は、“見えていれば効かない”って嘘じゃんって、ちょっと大沢さんに訴えかけてました(笑)」
――でもそこからすぐにリカバリーしてラウンドを取り返しました。
「まあ見えていたから失神しなかった。完全に失神しなかったとも言えます。苦戦はしたけれど、あの試合は絶対に勝っていたと今でも思うし、試合が終わった時に自分が勝ったと思いました。あれはトーナメント全体を通して“お前、油断するなよ”っていうメッセージだったんじゃないかと思ってすべてちゃんと吸収して、もう1回準備してきました。
相手が強いのはある程度想定はしていたし、弱い奴が出てくるわけないだろうと。むしろ自分は強い奴と試合がしたいと思って、ここに来たので、初っ端からああいう相手とやれたのは自分にとってはありがたいかなと。まあ、でも単純に強い人と試合できるのは楽しいですよね」
――MMAにおいて、タイトに組んで削ること、相手を動かしてコントロールすることという塩梅はとても難しいことだと感じました。
「いわゆる緩急です。自分の寝技は相手を動かさせた中でのタイトさが、動けるけど動けないみたいな。そういう状態を作っていくことは常に目指して練習しているので」
――自分がイニシアチブを取っている組み手というか、形になっていないといけないと。前回のジェライス戦では、UFC上海PIがある中国勢の強化体制や対戦相手の研究についても触れられていましたが、今回も同じ中国のシャオ・ロンということで、情報はかなり伝わっていると考えられます。
「当然。相手は自分のことを100%警戒して、100%対策を立ててくるんだなっていうのが改めて分かったし、今までの相手は、どこかで自分のことを下に見ているようなところがあって。常に相手も自分の方が強いって思ってる中でやる試合の方が多かったから、前回はそういう意味では、相手はチーム全体で、何が何でも“100回に1回(の勝利)”を持ってこようとしてたんじゃないかな、とは思って。そういう100%対策してきてるところを越えなきゃいけないというのは、実際に体感したことです。
だから、今回ももうすでに1個自分のプレッシャーがかかっている状態で試合は始まります。向こうも後出しじゃんけんができるから、しっかり準備はしてくるだろうし、対策も待ち受けている。自分もそれをもう1個、読んだ展開を考えて練習はしてきましたし、うまくいかなかったときにどうするかという対応力もしっかり準備しています。プラン1が上手くいかなくても、ちゃんと2、3、と次に切り替えられるようにしていこうと思っています」
━━シャオ・ロン選手の印象は?
「トップキープが強いし、パンチも強いな、とは思います。本当のところはグラップラーなんじゃないかな? っていうのは見た感じの感想です。触れてみないと分からないところはあるんですけど、ここを越えないと。自分が感じる“強い人”という試合は、まだシャオ・ロンは見せていないかなと。それが自分の時に来るかもしれないし、それを自分は現場で越えていきたいから、こんなところで負けるわけにはいかないよ、と思っていますよ」
━━警戒している点があるとすれば?
「警戒……をしているとすれば、相手が自分を警戒していることに警戒しています」
――打撃面では、シャオ・ロン選手をどう見ていますか。
「強いパンチを持っている選手ではあるし、でも、かといって打撃偏重で偏っているわけではない。リアクションもいいし、そこは彼が30戦くらいの試合経験で作ってきたものなんじゃないかなと(※25勝7敗・4KO/TKO 9SUB)」
――シャオ・ロン選手にスプリット判定で敗れた野瀬翔平選手の試合では、テイクダウンを防ぐ。あるいは、サブミッションに打撃を入れた、あの形を見て、得るものがありましたでしょうか。
「簡単にはテイクダウンできるタイプじゃないなという感想はありますけど。でも、野瀬戦も無尽蔵のスタミナではないし、彼には彼の得意な部分と苦手な部分がしっかりあるというのは、試合を見て、こっちも研究しました、ちゃんと」
――カウンター待ちの相手に対しても最終的には上回ることができた中で、今回もそういう試合を想定して練習してきたのでしょうか。
「まあそうですね。相手がまずしっかりディフェンスしてくる。そのうえで、向こうも組んでくるのか、打撃で来るのか、両方のシチュエーションは想定してやってはきました。『全局面で上回る』ってみんな好きな言葉だですが……何が一番上回っているかな。ケージの中で相手に対して意地悪な部分が出せるっていうことに関しては、自分のほうが上じゃないですかね
向こうもパンチが強いけど、本質はグラップラーだと思うので、そこのスクランブル、向こうが自信持ってるところで、自分が勝負して負けないというものを作ってきたし、自信もあります」
――ONE Championshipで6連勝して、UFCとの契約のために、この『ROAD TO UFC』から参戦した上久保選手にとって、あと二つ勝てばという状況をどうとらえていますか。
「前戦を経て、“どんな内容でも勝つことがすべてだな”っていうのは思いました。とにかく目の前の一勝をみんなが取りに来ている。当たり前のことですけど。途中で負けたら何の意味もないということで、いい試合をしたいです。トーナメントだからって先のことを考えてもしょうがないですからね、目の前の試合にちゃんと勝ちたいと思います。
それに、相手も100パーセントで来るから、向こうは自分に勝ちさえすれば、あとは(決勝に進出すれば)どうにでもなると思っているんじゃないですか」
【写真】上久保チーム。頂柔術の礒野元代表の左手は、自転車での負傷とのこと。
――たしかに、中国勢のためのトーナメントと言っても過言ではないかと思います。その意味では、この準決勝が……。
「山場だと思っています。集中して向こうの100パーセントをぶち破る。向こうが怪我していてとか、体調が悪くてとか、そんな言い訳ないくらいにしっかり打ち破って勝ちたいし、向こうも上海PIの選手だから、設備が良けりゃ勝てるわけじゃないぞ、と思わせたいなと思っています」
――どんな試合になると考えていますか。
「また5分3Rやりたいですね。フルラウンドやりますよ。フィニッシュは目指してますけど、僕は5分3R、やりたい。終了間際にフィニッシュするくらい、時間いっぱい戦っても勝つ。相手が“次やれば勝てる”とか言い出さないような試合をします」
――キツい試合をする、という宣言ですね。
「はい。(上久保と戦うのは)“もういい”って思ってもらうようにします」