やりたいことをやるためにはやりたくないこともやらないといけない
「これは前から言っていることですが、やりたいことをやるためにはやりたくないこともやらないといけないんですよ。みんなやりたいことばかりやるから失敗するわけじゃないですか。僕が2016年にラジャダムナンのタイトルを獲る前にも、実はRIZINから打診があったんですが、その時は断ったんです。僕はRIZINに出たいと思っていなかったし、知名度を上げたいとも思っていなかったので。その時の僕はラジャのベルトを絶対に獲りたいと思っていて、当たり前ですけれどRIZINがラジャのタイトルマッチをやってくれるわけないじゃないですか。だからそこじゃないって断りました。
でも欲しいベルトを獲って、やりたいことを散々やったところで、今度は先につながることをやりたいと思うようになってきたんですね。今度はムエタイというものを広く知ってもらって、競技人口を増やしていくと。そういうことをしていきたいと考えた時に、やりたくないこともやらないといけないわけです。一般社会にも多いと思いますが、やりたいことしかやりたくないって頭の固い人間にはなりたくないですね」
――キックボクサーがMMAに転向する流れの中で、梅野選手も転向しようと考えたことはないんですか?
「ないですかね。興味は普通にありますけれど、転向しようと思ったことはないです。立ち技をRIZINで注目を浴びさせたいと思ってやっている中で、単発で自分がMMAをやっても自分がバズるだけじゃないですか。それって競技のことは考えてないですよね。自分のことだけですよね。自分のことだけを考えていればラクですよ。数字をとるだけだったら、MMAをやった方が早いです。これは簡単にMMAが出来るって意味ではないですよ」
――俺がやりたいのはそういうことではない、と。
「僕はムエタイを16年くらいやってきているので、その競技に恩返しすることをしていきたい。分からないですよ、もしかしたら1~2試合やることもあるかもしれないし、先のことは分からない。ただ、完全にMMAに転向しようとは全く考えていません。そんな甘いものではないですからね。逆にMMA選手が今からムエタイをやりますってなったら、ムエタイ選手はいい気持ちにはならないですよ。いい時にだけ来るのかみたいな。競技に対するリスペクトがないとダメですよ。MMAは本当に凄い世界だし。
パンクラスで6月にチャンピオンになった林源平選手っているじゃないですか。彼は今でも僕が普通の一般会員さんを教えるクラスに来ていますからね。そういうベルトを獲る選手が、何年もプロであることを黙って一般会員さんに混じって練習していたんです。それくらい泥水をすするとは言わないですけれど、そういう積み重ねがあって初めてベルトを獲る世界に行けるわけじゃないですか。数字を持っているからっていきなり挑戦します、はい話題になりましたっていうのもいいと思いますけれど、だったらリスペクトは絶対にないとダメです。MMAはラクだとかふざけても言えないですよ。ヒジでバッコーンとやったら終わりだとか、言ったらウケるのは分かっていますけれど、僕は絶対に言いたくないですね」
――なるほど。分かりました。久しぶりに素の梅野源治の言葉が聞けてよかったです。ありがとうございました。