2023年4月29日(土)東京・国立代々木競技場第一体育館にて『RIZIN LANDMARK 5 in YOYOGI』が行われ、メインのフェザー級(5分3R)で牛久絢太郎(K-Clann)と朝倉未来(トライフォース赤坂)が対戦。朝倉が牛久に判定3-0で勝利した。この試合で見せた牛久のグラウンドへの“引き込み”が論議を引き起こしている。牛久の意図はどこにあったのか。
前王者として赤コーナーから登場した牛久。試合はともにサウスポー構えから、一回り大きな身体を作った朝倉がプレッシャーをかけていく展開で始まった。朝倉のワンツーにクリンチした牛久は、最初の組みで、四つから頭後ろに組み直すと、ケージを蹴って後方に引き込んでいる。
ガードの中に入り、すぐに牛久の頭を金網に向けて動きを制限する朝倉。その後も牛久は再三の引き込みを見せるも、クレベル・コイケ戦で下からの仕掛けへの防御に取り組んできた朝倉はガードの中央にステイ。相手に動くスペースを与える大きなパウンドを打つこともなく、細かいパウンドに終始しブレーク待ち。スタンドで上回り、判定3-0で勝利した。
この大一番でなぜ、牛久は引き込んだのか。
軸が強くときに変則的な打撃から、強い組み力でテイクダウン。相手を削るのが牛久のファイトスタイル。しかし、その消耗戦を序盤から仕掛けることを牛久は選択しなかった。
「相手が僕より身体も大きくて打撃の決定力も高いので、1、2Rはとにかく足を使って、フェイントとかかけて、相手を疲れさせるのを目的にとにかく動いていました。
相手は絶対、僕のイメージとしてテイクダウン、そのディフェンスに時間をかけて練習しているのは分かっていたので、相手は身体も大きいし、そこで力の勝負をしても僕が疲労するだけなので、引き込みで三角を狙うのは最初のプランからありました。それに(朝倉が)対応するだけで疲れるので。
それで、確かにリング中央で引き込んだときに、三角(絞め)に対処しようと力使っているのが分かったので、“3R目に自分の勝負を仕掛けていこうって。3Rなら足止めて打ち合いに言ってもいいよ”というようなプランだった」(牛久)
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作戦としての引き込みは「ナンセンス」か
作戦としての引き込み。そこからの仕掛けに相手を対応させることで疲弊させようともしていたという。その仕掛けのひとつはクレベルが極めた「三角絞め」。
牛久は「練習では三角で極めることが多かったので、そこにすごい自信持っていて、練習仲間でも柔術の黒帯の人が僕に三角絞めを教えてくれて、練習で極められて試合でも極められると思ったのですが……金網と普段の壁とで若干違うところもあったり、いろいろ経験できました」と、得意技のひとつになっていたという。
しかし、クレベルに失神一本負けしている朝倉は、牛久が三角に入れる組み手を作らせず。ガードの中央に留まり、細かいパンチ。牛久の仕掛けを潰して“ブレーク待ち”を徹底した。牛久にとって想定以上に、朝倉のグラウンドは硬かった。
「もちろん力が強く、変に動かなかったので。パウンドを打ってきてくれたら、逆に空間ができて攻めやすかったのですけど、そこら辺はしっかり(警戒された)」
クローズドガードで相手が殴ってきたところを片腕を後方に送って足を首にかけること、あるいはラバーガードから上体をひきつけて相手が起こしたところを狙う──そのいずれも朝倉はアクションを起こさず防御に徹しており、上にいながらも大きなダメージを与えていないともいえる。
腕を取られないよう、胸の上の中央でステイする朝倉の脳天にヒジを突くのは有効だった牛久だが、「その先」にいくつかの寝技のプランもあった。
それは試合前に練習していた引き込みからのスイープや、足関節の動きだった。
牛久陣営は、所属のK-Clannに階級上の大尊伸光、同階級でONEでも活躍した中原由貴を招聘して「朝倉未来対策」を練って来た。パワフルな大尊、サウスポー構えの名手でもある中原は、米国で足関節の名伯楽ジョン・ダナハーに師事しており、ゲイリー・トノン戦で敗れた関節技の指導を受けている。
ケージでのテイクダウンディフェンスが強い朝倉に対し、正面からテイクダウンして上を取るのではなく、牛久は引き込んでからスイープして上を取り返すこと、あるいはサブミッションをしかけて極める。極められなくてもそこからエスケープする朝倉のバックを奪うトランジション(移行)も狙っていた。
「相手が立ち上がるタイミングで潜って足を取りにいこうかと思ったんですけど、しっかりと対処できていて……やっぱりそこは朝倉選手が巧かったです」と牛久は、作戦を遂行できなかったことを明かしている。
対戦相手の朝倉は牛久の引き込みに対し、「けっこう想定外の引き込みとかもあって。(今回の試合でレベルアップしたのは)スタミナなんですけれど、(引き込まれて)自分のしたい試合が出来なかったです。(引き込みで何を狙っていたか)よく分からなかったですね(笑)。三角を狙っていたんですかね。あれはクレベルだから出来たことで、僕もそこまで寝技弱いわけじゃないので、あれはナンセンスかなと思いましたけれど。ただ、掴む力が凄く強かったです」と、牛久のグラップルする力が強かったものの、三角絞めの防御は出来ていたと語っている。
もうひとつのフェザー級戦で斎藤裕と対戦した平本蓮も「なんで牛久、引き込みに行った? と思って。けっこう(立ち上がりは)良かったのに作戦が全然分からないです。謎に凄い引き込むから。下から自信あったのかなって。普通にMMAやったら良かったのにって見てて普通に思いました」と、引き込みを「謎」とした。
試合後の総括で榊原信行CEOは、「それぞれ思いがあって、ああいう戦い方になったのかな。ただ、牛久は“消極的に引き込んでいる”ように見えた。クレベルの引き込みとは違う。また、そこを超えて未来がパウンドを落とすとかも生まれなかった」と、負けたくない両選手が生んだ展開だと語っている。
実は、牛久は最終ラウンドに朝倉をダブルレッグ(両足タックル)でテイクダウンしている。それは朝倉のヒザ蹴りを掴んでのテイクダウンだった。
相手が蹴ってきたところを掴むのも作戦だった? そう問うと牛久は「そうですね、僕がテイクダウンに入りにいくとそこにヒザを合わせようとしていたのはすごい感じられたので、で、逆に僕って頭を外に出すので、右の前足の蹴りを相手が蹴っていたのも分かっていたので、不用意に入ったらヒザをもらうなというのはあったので」と、朝倉の打撃の意図を読みながら、簡単にはテイクダウンに入れなかったことと同時に、その蹴りのタイミングを掴んで組んで倒そうとしていたことも明かした。
悔やまれるのは、テイクダウン後の朝倉の立ち上がりに当てたヒザ蹴り後の引き込みだった。
「テイクした壁際で僕のヒザが相手の顎に入って一回相手がガクッと落ちたのは分かったのですけど、そこで“何でくっついちゃったのか”というところが、一番の反省ですね。あそこ離してサッカーボールキックだったり……、そのミスは何回かほかでもあるので、しっかり意識して練習しないとダメだと改めて感じました。そういう一瞬の……」と、ヒザを当てながら打撃のラッシュに行かず、自信を持っていたという下からの攻めに固執したことを牛久は悔やんでいる。
スタンドで始まるMMAで、自分と相手が持つ武器のなかで様々な選択肢がありどんな技をチョイスするか──そのセンスは、牛久vs.朝倉のみならず、斎藤vs.平本の攻防のなかでも勝敗を分けていた。またその選択は、それぞれの力量と、その日のコンディションにも左右されていることは間違いない。牛久の場合はどうだったか。
牛久は、試合後「昨日は応援していただいた皆さんを裏切ってしまい申し訳ありません。自分を見つめ直します。沢山の応援本当にありがとうございました」とSNSに記している。試合後の牛久との一問一答の全文は以下の通りだ。
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牛久絢太郎「僕から格闘技取っちゃうと何も残らないので──」
━━試合後の率直な感想をお聞かせいただけますか。
「そうですね……まあ、悔しいですね、はい」
━━当初のプランを教えていただいてもよろしいでしょうか。
「相手が僕より身体も大きくて打撃の決定力も高いので、1、2Rはとにかく足を使って、フェイントとかかけて、相手を疲れさせるのを目的にとにかく動いていました。で、確かにリング中央で引き込んだときに、三角(絞め)を対処しようと力使っているのが分かったので、3R目に自分の勝負仕掛けていこうって。3Rなら足止めて打ち合いに言ってもいいよ、というようなプランだったので」
━━朝倉選手が試合前のイメージと違う部分はありましたか。
「いや。強かったですね」
━━それはイメージ通りだったといことでしょうか。
「そうですね、イメージ通りやはり打撃の……すごい冷静だと思いましたね、僕がちょっと大振りのフックを出したときに2回目に出したらそれにカウンターを合わせようとしているのも感じ取れたので。冷静でしたね。熱く、冷静でした」
━━試合を終えたばかりですが、今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。
「僕の中でちょっと色々考えていることもあったのですけど、とりあえず今2連敗しているので、僕に発言権はないかなという感じです」
━━今日の試合、3R通してものすごく引き込みにこだわっていたようですが、理由は?
「練習では三角で極めることが多かったので、そこにすごい自信持っていて、練習仲間でも柔術の黒帯の人が僕に三角絞めを教えてくれて、練習で極められて試合でも極められると思ったのですが、金網と普段の壁とで若干違うところもあったり、いろいろ経験できましたね」
━━バックエルボーもこだわっていた?
「相手がもうちょい入ってくるのを想定して出したのですけど、意外と冷静だったので当たりはしなかったのですけれど、僕のなかでは、バックヒジも狙っていましたね」
━━最後までサウスポーでした。スイッチしてオーソドックスという選択肢は?
「今回は選択肢はなかったですね。(朝倉は)左の蹴りが強いので、三日月(蹴り)だったり、ヒザ蹴りだったり左の攻撃が基本的に強いので、僕がオーソドックスに開いたところで相手の攻撃をもらっちゃうので、今回はサウスポーで勝負することに決めていました」
━━自分がテイクダウンを仕掛けて上を取るということじゃなくて、最初から引き込みを? 優先順位は?
「そうですね、相手は絶対、僕のイメージとしてテイクダウンディフェンスに時間をかけて練習しているのは分かっていたので、相手は身体も大きいし、そこで力の勝負をしても僕が疲労するだけなので、引き込みで三角を狙うのは最初のプランからありました。それに対応するだけで疲れるので」
━━下になった時に他のサブミッションも狙いつつですか? あとはスイープなども?
「相手が立ち上がるタイミングで潜って足を取りにいこうかと思ったんですけど、しっかりと対処できてて……」
━━実際やってみて朝倉選手の寝技の強さは想定内でしたか?
「想定内だったんですけど、やっぱりまあ……そうですね、想定内でした」
━━想定内なのに自信のあった三角絞めが極まらなかったのは? 相手の力が強かったとか?
「もちろん力が強く、変に動かなかったので。パウンド打ってくるのも、パウンド打ってきてくれたら逆に空間ができて攻めやすかったのですけど、そこら辺はしっかり……そうっすね」
━━花道を帰るとき、判定に納得の行っていない表情だったように見受けられました。
「そんな顔していましたか?」
━━はい。
「本当ですか? 僕のなかでは別に変な意味はないです。変なこと思っていたわけじゃなくて。……え、本当にそんな顔してました?」
━━判定は納得しているということですか?
「そうですね、3Rに行けなかった自分が悪いし」
━━1R、2Rは引き込んでラバーとりながらというところで、想定外だったのは、相手には上体起こしてパウンドを打ったりしてきてほしかった?
「そうですね、空間ができるので僕ももっとアクション起こせたなっていうのは、だからやっぱりそこは朝倉選手が巧かった」
━━ガード潰して、時間潰してブレイク待ちは向こうの巧さでもあったのでしょうか。
「そうですね、それは感じていましたね」
━━体力を削りあって3R牛久選手が出る場面もありましたが、判定、一本、KOのためにもっとしたかった、ということはどんなことですか?
「テイクした壁際で僕のヒザが相手の顎に入って一回相手がガクッと落ちたのは分かったのですけど、そこで何でくっついちゃったのかというところが、一番の反省ですね。あそこ離してサッカーボールキックだったり……、そのミスは何回かほかでもあるので、しっかり意識して練習しないとダメだと改めて感じました。そういう一瞬の……。そうですね、はい」
━━テイクダウンなのですが、相手の蹴り足を掴んでのテイクダウンがいくつか決まっていたと思います。それは通常のテイクダウンよりも相手が蹴ってきたところを掴もうという作戦だったのですか?
「そうですね、僕がテイクダウンに入りにいくとそこにヒザを合わせようとしていたのはすごい感じられたので、で、逆に僕って頭を外に出すので、右の前足の蹴りを相手が蹴っていたのも分かる分かっていたので、不用意に入ったらヒザをもらうなというのはあったので」
━━中原(由貴)選手との練習のなかで、足関節を潜って足を手繰りたかったような動きもいくつか見えました。それは難しかったですか?
「そうっすね……まあ、いろいろ反省ですね、本当に」
━━試合前「格闘技にかける思いの違いで勝つ」と発言されていました。実際に戦って朝倉選手に敗れて、格闘技に対する思いの部分で自分の思うところはありますか?
「そうっすね、まあでも僕から格闘技取っちゃうと本当に何も残らないので。まあ変わらず格闘技に向き合って。それが僕の生き方なので。そこは変わらないです」
━━斎藤裕vs.平本蓮はご覧になりましたか?
「見ていました」
━━感想をお伺いできますか?
「ああ、そうですね、平本選手もすごいテイクダウンを切ったり、見せ場を作っていて、見ていてすごい面白い試合でした。さすがに僕も後ろに試合控えているのでそんなに呑気には見ていないですけど、いい試合だという印象です」
━━ダブルメインだったので、勝った同士vs.負けた同士というマッチメイクもあり得るかと思いますが、平本選手との対戦というのはいかがでしょうか?
「そうですね、あとは団体さんが決めると思うので、オファーあったらその時考えようと思います。今の段階では分からないです」