試合はどう転んでもいいようにしている。いまは勝つための材料、気持ちを揃える材料──すべて答えを知っている
──伊藤選手の試合動画はかなり見ることが出来ますが、どんな印象を持っていますか。
「正直……あまり見ていないですね。見てしまうと、やっと自分が復帰して、今まで汗水かいてつぎ込んだ技が、“あっ、この選手はこれが得意だから、これは出来ないかな”とか、変なバッドマインドが入ってきちゃったら、今まで俺がやってきたことの意味が無いじゃないですか。これが試合に超慣れてきいて、“よし、自分はどんなときでも相手に合わせて自分の動きができる”となったら、全然、相手の研究を自分でして穴を突くとか──もちろん相手の穴は見つけてますよ。自分が見ていないだけで、周りが見てくれているので──しますけど、今回自分は相手のビデオはあんまり見ていないですね」
──得意の組みは、いかに被弾せずにアプローチして、たとえばボディロックでのテイクダウン、押さえ込んで削ることが出来る、という手応えは得ている?
「やっぱりレスラーなんで“見える”っスよね、そのタイミングが。スパーリングも火曜日のプロ練習にトップクラスの人たちが集まってくれているので、そこで試しているのはすごくデカいですよね。ただ単に自分たちの若手たちに試しているんじゃなくて、トップクラスの選手に試して、それが通用する。それが自信になんなきゃおかしいよね、という話です。そのメンバーはinstagramで見てもらえれば(笑)」
──今回の復帰戦が、周囲の評価に対しての意地の参戦なのかと思っていましたが……。
「(遮って)いや、全部あるんじゃないですか。だって、格闘技をやっていない間も、みんなにサポートしてもらって、“これで試合に出なかったら、俺なんのためにみんなにサポートしてもらっているんだ”っていう意地はあります。でも正直言って、怪我して試合が出来なかった期間に脳みそを成長させることが出来たから、その武器を持ったうえで、試合でどういう気持ちになるんだろうという──なんて言うんだろうな“気になる”じゃないですけど、前までは自分の武器が少なかったり、いろいろ知識が無くて、どうしたらいい? とちょっと焦りの方に近かったけど、いまはもう勝つための材料、気持ちを揃える材料、すべて答えを知っているんで、その答えを知った上で、自分が試合でどういう動きをするのか、本気で楽しみなんですよね」
──これまでセコンドにつく時間が長かった。違う視点から格闘技を見たことが気付きにもなった?
「そうですね。でもセコンド側から見る景色と、選手側から見る景色とではだいぶ違うから、選手がセコンドの言うことを聞いたり聞かなかったりするんだろうと思います。いくら外から“あれ出来る”と言っても、対峙すると“チゲーんだよ、相手はこれ狙ってるから行けねぇんだよ”ということはある。格闘技の勉強はできましたけど、セコンドをやったからというだけではないですね。また別モノだから」
──その景色を再びリング上で見ることになります。
「でも、すごい試合に近いスパーをやったりしているので、感覚は掴めているはずです。あとはもうやるだけ、です。自分のすべてを信じて」
──理想の勝ち方は?
「立ちでもありますし、グラウンドでもあります」
──この試合で勝敗を分けるポイントはどこになると考えていますか。
「根性じゃないですか。ほんとうに今回の相手は気持ちの強い選手で、自分はすごくリスペクトしている選手で、だからこそ、面白い試合をみんなに届けられるんじゃないかなと。そこを見てもらえる。どっちの気持ちが折れるのか」
【写真】年末のRIZIN×Bellator対抗戦前にKRAZY BEEでともに練習した「アーチュレッタさんも一緒に」とポスターを入れ込んだアーセン。同日にアーチュレッタは井上直樹と対戦する。
──最後に、もうひとつうかがいます。レスリング時代の2013年の世界カデット選手権のグレコローマンレスリング金メダルのときは69kg級。RIZINでは66kgからバンタム級の61kgで戦ってきました。57kgに落としたことはいつ以来になりますか?
「57は……小学生以来ですね。でも、だいぶ最初の方は1回、どんなものなのか近くまで落としています。力? 全然出てました。それでフライ級の選手と組む機会があって、こんなものかと。正直、自分は怪物になれると思いましたね」