楽しんで殺気入れて、どっちの気持ちが先に折れるか
──試合から離れている期間、誰かに相談したのですか。
「うーん、ほんとうに自分の周りにいる人は自分のことを愛してくれているし、言わなくても分かるから、逆に聞かれる。そこで正直に自分から話すという感じで、相談というより周りにずっと支えられてきました。でも、少し相談したのは、やっぱり母親でしたね。山本美憂選手は、母親というポジションもあるけど、ほんとうに自分がアスリートとして尊敬している人で、そういう人にメンタルケアをしてもらっていました」
──その山本美憂選手は怪我で欠場となりました。
「俺は一緒に試合をしたかったですね。久しぶりの試合で、母親と同じ大会に出られるというのは“一緒に頑張るぞ”となって。でも一人になって“エー、一人か”とちょっと不安になったんですけど、やることは変わんないし、母ちゃんは年末に試合が移っただけだから。しかも周囲の選手たちもいい流れにあるので、(中村)倫也とか、大切な仲間に繋げたいと思っているので、自分を見せて自分らしく勝って、みんなとパーティーをしようかなと思ってます」
──美憂選手からはどんなアドバイスを?
「自分の母親は“今回にかかっているから、ラストチャンスだから”とは言わず、“アーセンらしくやりなさい。まずは楽しみなさい”と。“持っているものは絶対勝てるから、あとはあなたの気持ち次第だから”と言ってくれていて“押忍”と。
だから楽しんで殺気入れて。相手もほんとうに気持ち強い選手だから、そこに負けないように──だから、そこなんじゃないですかね、今回の試合は。テクニックとか、グラウンドがどうのこうのじゃなくて、お互いの気持ちがどっちが先に折れるか、じゃないですかね。それか2人とも気持ちが折れないまんま、俺が倒れているのか、相手が倒れているのか、俺の骨が折れているのか、相手の骨が折れているのか、じゃないですか」
カメラの前に出ていいほどの結果も出していないから、ほんとうにこのままでいいのかと自問自答した
──さきほどの「格闘技から一歩退いて、違う道があるのかなと最初のほうは考えた」というのは?
「違う道、と言っても、“ほかの職業をやりたい”ではなくて、やっぱり格闘技が好きでやっていても楽しいし、ただ今までの歴史を見たら、そんなに輝かしいものじゃないし、こうやってカメラの前に出ていいほどの結果も出していないから、“ほんとうにこのままでいいのか”という考えですね。“これであっているのかな”と」
──今日の公開練習は相手にサウスポーに構えてもらい、アーセン自身はオーソドックス構えでした。これまで対サウスポーのときにはサウスポー構えで戦っていましたが、さきほどのはナチュラルな構えでしたか。
「そうですね……まあ自分は右利きなんで、やっぱ山本家は右利き(サウスポー構え)で前手が必殺技が流派じゃないですけど──でも自分がやっていてやっぱりしっくりくるのはオーソドックス構えなんで、ちょっとオーソでやろうかなって。
今まで分かっていなかった打撃の原理が、すごく分かってきているんです。ポジションも大事だし、どこを見たらいいかとか、距離感とか、いろいろあるじゃないですか、打撃の法則が。それをやっと学べたんで、それを学んだうえで、自分はオーソの方が調子がいいのかなって感じましたね」
──それは秋元モッサ(僚平)先生(K-1ジム五反田チームキングストレーナー。玖村将史らを指導。『K-1 AWARDS 2022』「ベストトレーナー賞」受賞)の影響もありますか。
「もちろん。もうモッサ先生が自分の打撃に対する考え方だったり、すべて変えてくれました。恩人です」
──自分の戦い方が見つかりつつある?
「まだ全然、未完成だし、自分のスタイルを決めたら負けだと思っていて、そのときそのときで、“いまの動きが自分に合っている”“この動きが前は合っていなかったけど、この動きを付け足したら合うんじゃないか”とか、常に変化をさせていきたい。止まっちゃったら絶対、研究もされるし、格闘技で勝っている人たちは全員、頭がいいんで、そんな生ぬるい──“これが絶対”となっちゃうと通用しなくなっちゃうなと」
──練習環境では、UFC入りが決まった中村倫也選手がいることで、どんな力になっていますか。
「やっぱり幼馴染だし、一緒にレスリングを始めた仲間なんで、一緒にいると楽しいし、倫也はすごいストイックな選手なんで、すごく細かいところまでアドバイスをくれて“なるほどな”と感じることも多いです。お互いのケツをひっぱたき合っているじゃないですけど、すごくいい刺激になっています。倫也だけじゃなくて、倫也の弟、大宮の家族…手全員ですね」
──今回の試合に向けて倫也選手とも対策を練ることも?
「全然あります。タックルに入ったときに、相手がヒザとかアッパーとか合わせてくるよね、とかそういう当たり前の話とかもしていて、まあ、どう転んでもいいようにしています」