2023年2月5日(日本時間)、『Bellator 290: Bader vs. Fedor 2』(U-NEXT生配信)で、いよいよ“最後の皇帝”エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)が引退試合を迎える。
対戦相手は、現Bellator世界ヘビー級王者ライアン・ベイダー(米国)。2019年1月に1R KO負けした相手との再戦にしてリベンジマッチ、そして「Bellator世界ヘビー級タイトルマッチ」に向け、ヒョードルは2連勝で“最後の試合”に臨む。
2月2日のメディアインタビューに応じたヒョードルは、「最後の試合がタイトルマッチで感謝している。結果がどうであれ。スコット(コーカー代表)、対戦相手のライアンもありがとう。試合を見ていてほしい」と静かに語った。
ヒョードルは、MMA47戦40勝6敗1NC。2022年9月に46歳になった。
「(46歳でも動けることに)自分でも驚くよ」と微笑したヒョードルは、2000年5月のプロデビューから今回の引退試合までで「最も重要な試合」を問われ、「ノゲイラとのベルトをかけた最初の試合」と答えている。
2003年3月、横浜アリーナで開催された『PRIDE.25』でヒョードルは、初代PRIDEヘビー級王者アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの持つ王座に挑戦。ロシアンフック、テイクダウンからのパウンドで“柔術マジシャン”にダメージを与え、判定勝ちでベルトを獲得した。
ノゲイラの連勝を「13」で止めたヒョードルは、その試合について「私は自分のファイティングIQを高め、勝利への鍵を見つけなければならなかった。当時、彼は世界最高のファイターだったから」と振り返った。
そして、ファン、数多くのメディアがベストバウトに挙げる2005年8月のさいたまスーパーアリーナでのミルコ・クロコップ戦。さいたまスーパーアリーナに47,629人を集めた王座戦でヒョードルは、K-1出身のミルコに自ら圧力をかけ、テイクダウンにも成功。判定勝ちで2度目の王座防衛に成功している。
この試合について、元K-1 USA代表にして、現Bellator代表のスコット・コーカーはヒョードルが、ミルコの打撃に対処する方法にショックを受けたという。
「ミルコ・クロコップはK-1で何年も戦い、キックボクシングでも何年も戦ってきた、打撃の歴史において最も偉大なストライカーの一人だった。彼はMMAに転向し、ランデルマン、コールマンらを1RでKOし、ヒョードル戦に向かった。あの日、私は生で観れなかったが、夜中の2時までテレビで観戦していたよ。ヒョードルはミルコをスタンドで圧倒していたんだ。ヒョードルはミルコを打ち負かし、ミルコをテイクダウンし、圧倒した。“この男は世界最高峰の選手と殴り合えるのだ”と確信したよ。“彼ができることは他にもある”と」
そして、今週末の「Bellator世界ヘビー級タイトルマッチ」に臨むヒョードルをあらためて「比類がない」とコーカー代表は語る。
「私はあの時代を生き、あの時代を見てきた。多くの偉大なファイターがいることは知っているが、他のアスリートと比較して、彼の総合的な仕事ぶりを見ると、比類がない。そして、彼はまだそれを続けている。46歳になってもノックアウトしている。彼はまだ超高速だ。少しは衰えたか? ああ、でも彼はついに引退するところまで来たんだ……彼はすべての道具を持っていた。サブミッション、レスリング、ファイト、そして素晴らしい立ち技……」
ヒョードルは、「オクタゴンの中で戦わなかった史上最高のファイター」ともいえる。その可能性につて、ヒョードルはかつてインタビューで、ダナ・ホワイトUFC代表と面談したことを認めている。
「UFCがPRIDEを買収したとき、その(UFCで戦う)可能性があった瞬間があった。しかし、契約書にサインしなかった。だから実現しなかったんだ。私たちは一度会ったことがある。島で休暇を過ごしていたら ダナ・ホワイトが来た。だけど、いいことは何もなかった。私は少し違った視点からこのことを見ている。“もし、そうなるはずだったなら、そうなっていたはずだ。そうでなかったのなら、そうでなかった”ということだ。私は起こったことに満足している。今を生きて、今あるものに満足しなければならないんだ」
今回の会見では「もしも」についての質問も飛んだ。
「もし、あなたがベイダーからタイトルを奪取して、しかも、(王者のままUFCを離脱した)フランシス・ガヌーがBellatorと契約したら、UFCとベルトを統一する試合をガヌーとしたいか?」
その問いに、ヒョードルは「いまチャンピオンであるライアン・ベイダーの前でその質問はおかしい」と、淡々と答えている。
前戦で1R KO勝ちして王座挑戦権を得た46歳の皇帝は、2022年にワレンティン・モルダフスキー、シーク・コンゴを相手に2連勝中の現役王者と戦うのだ。
2019年1月のBellatorヘビー級ワールドGP決勝戦でヒョードルは、ベイダーの左フックからのパウンドで1R 35秒、KO負けした。
「前回起こったことはすべて、とても早く起こったんだ。確かに私の思い通りにはいかなかった。もちろん、あれから4年が経ち、若くはない。でも、46歳でも彼に“戦いを挑める”ことを願っている」
そして、ヒョードルは、トラッシュトークではなく、試合で行ったことでファンの記憶に残りたい、と語った。
「私はMMAファンから、MMAのスキルに基づいて人気とファンベースを獲得した選手として記憶されたいです。トラッシュトークや今流っている嫌なことではなく、ファイトスキルに基づいて。それが私が皆さんの記憶に残る方法です」
最後に、ヒョードルは「土曜日に何が起ころうとも、引退するつもりだ」とも語っている。タイトルマッチで勝とうが負けようが、ひとつだけ確かなことがある。それはエメリヤーエンコ・ヒョードルが、時代を代表するファイターであるということだ。