2022年11月7日(月)東京・後楽園ホールで開催された『Fighting NEXUS vol.29』のメインで、NEXUS王者・山本空良(POD/PFC)が、柔術黒帯の横山武司(Swells柔術ジム)に2R 判定で敗れ、王座陥落した。
【写真】中央の横山武司を囲む、右は父の横山和忠、左は兄の横山大鋳。3人とも柔術の黒帯だ。
MMA4戦目の横山はいかに戦い、ベルトを獲得したか。RIZINで3勝2敗と勝ち越している山本はなぜ敗れたのか。試合を詳細に振り返り、試合後に横山にインタビューした。
山本は1年で8戦目、MMAデビューイヤーの横山は3戦連続一本勝ち
山本は、2021年11月の「RIZIN Trigger 1st」で鈴木千裕に判定負けも、以降4連勝。RIZINでは新居すぐるを1R TKOに下すと、中村大介、カイル・アグォンに判定勝ちも2022年7月の前戦ではヴガール・ケラモフに判定負け。NEXUSでは、2022年5月に、柔道強豪の寿希也を2R リアネイキドチョークで極めて初防衛に成功している。2021年10月の「Road to ONE: 5th」での野尻定由戦の判定勝ちから、2022年11月まで1年で実に8戦目と、ハイペースで試合をこなしている。
対する黒帯柔術家の横山は、同じく柔術黒帯の兄・大鋳と共に伝統派空手と柔道、中学から柔術を始める。2018年世界選手権・茶帯アダルト・フェザー級ベスト8、2019年全日本選手権・黒帯アダルト・フェザー級優勝などの実績を誇り、2019年の「JBJJF東京オープン2019」黒帯オープンクラス決勝でクレベル・コイケに三角絞めで一本負けも、全日本の階級別では決勝で八巻祐に三角絞めを極めてフェザー級優勝。極めの強さが際立っている。
2022年2月のFighting NEXUSでプロMMAデビューし、佐藤将光の指導も受けた横山は、木村豊を相手に1R 三角絞めで初陣を飾ると、5月大会では、十河卓児にも1R トーホールドを極め、8月大会でファビオ・ハラダを2R リアネイキドチョークで絞め、3試合連続一本勝ちをマークしている。
22歳の王者・山本は、北海道で西川大和と練習するなど、MMAの寝技で強さを見せ、打撃でも立ち会うことが出来るトータルファイターになりつつある。一方で横山は、MMAでほぼ組み技・寝技のみで戦っており、伝統派空手仕込みのスタンドの展開は未知数だ。その極めの強さで王者をも突破できるか。
初回、横山の足関節に、山本も真っ向勝負。ヒジで出血させる
1R、サウスポー構えの横山とオーソドックスの山本。喧嘩四つの前手争いから、柔術とともに空手もベースに持つ横山が右から左の二段蹴り。かわす山本も左ミドルハイをスナップを効かせて早い戻しでガード上に当て、さらに右インローもヒット。
横山の右の関節蹴りと、山本の右ローが交錯。左に回ろうとする山本の外足を取る横山は左インロー、さらに左ミドルハイを2発、ブロック上に当てるなど打撃でも積極的に圧力をかける。
山本が距離を取ったところに、横山は滑り込んでロールして左足を掴むと、足を掴んだまま一気に後転して山本の足をすくうと左脇にかかとを挟もうとするが、すぐにヒザを抜いている山本は内ヒールを組ませず、上を取るが、なおも左足を掴んでいる横山に、山本も横山の左足を左脇に抱えて内ヒール狙い、足関節の攻防を挑む。
互いに足を抜き、横山の立ち際に下から左を突く山本。今度は右足を掴んだ横山が、自身の右足を内側から差し入れて右足にからむが、山本も横山の左足を掴んで腹ばいでヒザを伸ばそうとする。
上体を起こして座る横山の右ヒザを下から手繰ろうとする山本。そこに左のパウンドは横山! しかし山本も連打はさせず、ヒザをすくって前方に煽るが、身体を戻した横山が座ったまま、インバーテッドガードで股下にいる山本の顔面に左パウンド。
すぐに正対に戻してガードのなかに入れる山本は、下から強烈な右ヒジ! さらにガードの下から右ストレートを顔面に当て、MMAとしての際の打撃の上手さを見せる。ヒジを効かされたか上体を立てた横山に、草刈でなおもこかしてグラウンドを挑む山本。
横山も右足を外掛けから内側に横回転しヒザを伸ばそうとするが、自身の左足を掴んで伸ばされないように防御する山本。横山はうつ伏せで足を手繰ろうとするが、今度は山本が座って、下の横山のボディにヒジ打ち、ヒザを抜いた山本は、サドルに組もうとする横山に足をかけさせず、うつ伏せになったところで尻を蹴って抜いて立ち上がり! その際でも横山に右を振ると、横山は背中を着いてガードポジションに。上から見下ろす山本。
横山の頭部からの出血に、ここでレフェリーがドクターチェックを促す。1R 4分07秒で中断。綿棒で処置し傷口を塞いだドクター。再開。
シッティングガードから近づく横山に右回りの猪木-アリ状態から、山本は残り10秒で右のパウンドで飛び込み、右のヒジ、パウンドを2発でホーン。横山もここは抱きつき凌ぐ。
寝技でアグレッシブに攻めた横山。山本も足関節で対抗し、ガードからのヒジ打ちで横山を大きく出血させている。ダメージでは山本のラウンド。アグレッシブ、エリアコントロールでは横山のラウンドととれるか。
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最終回、パスガード&腕十字の横山。山本陣営は「異議申立て」
2R、間合いを取る山本に対し、横山は右の関節蹴り。山本はオーソから左ローを突く。中央を取るのは横山。掴まれても困らない横山はゆっくりと後ろ回し蹴りで牽制する。左前蹴りはさばく山本が右ストレート、はたく横山が左ミドルハイも、山本もかわす。
横山の左前蹴り、左ミドルにケージを背にした山本。ミドルを打ってすぐに胴に組み付いた横山。山本はそこに右ヒジも空振りで懐に入られたため、ギロチンから引き込むが、すぐに首を抜く横山。山本はハーフから左ヒザを横山の胸の前に置くと下から鉄槌。
右で脇差し、背中を着かせる横山に、左腕を下に戻して煽って、左ヒザを上体を横山の胸につけてニーシールドでスペースを作った山本は、横山の右足を手繰ろうとしながら、空いた左手で鉄槌。さらに左ヒザも細かく横山の胸を叩く。
左足を畳んで座る横山に、下から鉄槌の山本。その腕を掴んで、離し際に左のパウンドを落とす横山。しかし山本はさらに左ヒジを頭部に! 横山は再び出血。「嫌がったぞ」の山本喧一代表の声に、下から左の鉄槌を5発打つ山本。もらった横山はガードし、密着し、右で脇差しパス狙い。
左足で超えるが、半身の山本は左足はまだ股の間に差し込んで、なおも下から鉄槌。腰を切りフルガードに戻すと、下からヒジを3発頭に突くと、いったん腹に頭を置いた横山も立ち上がり。下の山本は立ち上がりにいかず、ハーフに足をからめて、右腕で横山の左足を潜りから担いで前方に送り出そうとする。
身体を戻して上をキープし続ける横山は、左ヒザはパス。左手で脇差し、右手で山本の左足を後方に押してパスガード! マウントの瞬間に背中を譲って亀から中腰になる山本だが両足を巻いた横山は得意のバックに!
腰をずらしながら「マウントで逃げろ」の声に背中は譲らず仰向けになる山本。残り1分半。腰の上ではなく、ハイマウントの横山は両脇を開けさせて、ブリッジからシザーズを試みる山本の足をかわしてヒジ。さらに右手で山本の左腕をすくうと、左足を頭にかけて、さらに右足もかけて腕十字へ!
半身になりヒジを極めさせずに抜く山本が座ると、なおも手首は掴んでいる横山は下から三角絞め狙いに移行。ここも、座って上体を後方に抜いていてヒザ裏で組ませない山本。横山は背中を見せて回り正対し、バックを狙おうとした山本を寝かせるが、山本も下から打撃を連打。
ハーフから外掛け、カーフスライサー気味に組んでからヒールフック狙いの山本に、回転して正対する横山。しかし右足はつかんだままの山本はヒザ十字狙い。しかし密着して足を畳んだ横山がレッグドラッグのように潰してパスして5発パウンドを入れてゴング。
座って左手を挙げた横山は頭から出血。山本は握手を求めてから立ち上がり右手を挙げた。
全2Rの判定は、20-18、19-18、19-19の2-0のマジョリティ判定で、延長には行かず、横山が勝利。
山本のヒジを受けながらも後半のポジションとニアフィニッシュで上回った横山が接戦を勝利。ベルトを肩にケージ中央に座った横山は「僕、4歳から空手やってて、父親はプロレス好きでベルトが欲しいと言っていて、柔術はメダルばかりで、これが3試合連続一本勝ちです。年内に結婚するんで支えてもらうばかりじゃなくて、支えられるようになりたいです」と語った。
なお、試合後、山本陣営は、「今回の判定は納得しておりません。20:18 19:18 を付けた理由が知りたいので異議申立てをさせて頂きました。これはタイトルマッチです。今回だけは言わせて貰います」「1Rのカットがダメージによるものか、偶然なのかは審議されるべきだと思う18-20なのです」と記している。
NEXUSの判定基準はダメージ、アグレッシブ、エリアコントロールの順番。勝者・横山は足関節で主導権を握り、ポジショニングで上回り、2Rには腕十字にニアフィニッシュの場面を作った。敗者・山本もポジションを許しながらも、横山の土俵で応戦。最後の腕十字以外はセットさせず、下からの鉄槌、ヒジで出血させ、ダメージを負わせている。
ジャッジペーパーは現在確認中で、1Rに横山を出血させた山本のエルボーをどうとらえるかが、審議の対象となるだろう。
◆ジャッジ3者の採点1R 山本10-9横山 2R 山本8-10横山(18-19)1R 山本10-9横山 2R 山本9-10横山(19-19)1R 山本9-10横山 2R 山本9-10横山(18-20)
ちなみに今大会は後楽園ホールの使用時間の制限もあり、一方的な攻勢には、10-8も積極的につけられる取り決めが事前に行われており、それは出場選手にも伝えられていたという。
第9試合のフェザー級戦では、河名マストvs.寿希也が、本戦判定1-1(20-18, 18-20, 19-19)と三者三様のドローで延長戦突入の流れだったが、寿希也のドクターストップで「2R終了時 TKO勝ち」で河名が勝利している。ジャッジ2者の評価が2P食い違っており、評価基準をどう考えるか。
いずれにしても、山本vs.横山のメインのタイトルマッチは3R戦で観たいレベルの内容だったことは間違いない。試合後の横山との一問一答は以下の通りだ。
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横山武司「ベルトは家族のなかで僕が獲るしかないと思っていた」
──打撃でも左の蹴りで立ち合い、初回から素早いロールから組みました。
「打撃にビビらず、ビビると相手が強く出てきちゃうんで、ビビらずに見て、見て、組もうと思っていて、1発目(ロール)から組めたのはラッキーでしたが、思った通りにできました」
──組んで足関節の攻防になってから正対されて、下からのヒジを受けました。あのときはどんなことを考えていましたか。
「相手が大きいので、常に足関節を狙っていましたけど、相手も寝技がうまいから“付き合わない”のはなく、それなりに寝技の展開になったことはよかったんです。逆に離れることを徹底されたら嫌でした。ヒジは効いてなくて、でも(一本)取り切れなかったのは、相手も上手くて、柔術黒帯としては少しショックでした(苦笑)」
──2Rにしっかり圧力をかけて先に組んで、山本選手のギロチンをさばいて上になりパスガード、腕十字の流れでした。
「あのギロチンは全然大丈夫でした。その後は……疲れていてマジであんまり覚えてないです(笑)。MMAの判定をよくわかっていないから“あれ、これどっちなんだろう”って思ってました。でもこれで俺の勝ちじゃなかったらちょっと……。延長って言われたら、まあ“頑張ろう”と」
──MMA4戦目でメダルではなく、ベルトを手にしました。
「自分の人生においては柔術がメインですけど、ベルトはちょっと……家族のなかで僕が獲るしかないと思っていたので、穫れてよかったです」
──ベルトを獲った以上、防衛か、フェザー級王者としてRIZINから声もかかりそうです。
「いまはとりあえず勝てたので、あまり考えたくないですね(笑)。怪我もあるし、柔術で海外に行く予定もあるので。『今年はNEXUSに全部出る』と言って、2月のMMAデビューから一瞬も自分、練習を休まなかったですし、気持ちも切らさなかったです。2月の試合のときから、12月の後楽園のことまで考えてやってきました。いったん! 自分にご褒美をあげたいです(笑)。今年はこれで終わりです。入籍もあるので、父に美味しいご飯をおごってもらいます(笑)」