MMA
インタビュー

【RIZIN】力士からMMAファイター仕様に。スダリオ剛の変化と進化「北米修行、食事療法、そしてムーブメントトレーニングの成果が出ている」

2022/10/11 22:10
 2022年10月23日(日)『RIZIN.39』(マリンメッセ福岡 A館)にて、ハンガリーの7戦無敗のヘビー級戦士ヤノス・チューカスと対戦するスダリオ剛(HI ROLLERS ENTERTAINMENT / PUREBRED)が11日、所属ジムにて公開練習を行った。  サンドバッグとミット打ちを披露したスダリオは、「いい感じです。今回の相手は前回の相手と違ってアグレッシブに来るタイプだと思うので、早めに決着が着くんじゃないかと。面白い試合になると思います。(KO決着は)見ている人もやっている僕も、スリルのある緊張感のあるなかで、打ち勝つのが爽快なので」と、笑顔で語った。 グラウンドになっても恐怖心が無いから打撃でいける  大相撲での最高位は西十両5枚目、元貴ノ富士 三造ことスダリオ剛は、エンセン井上の指導のもと、2020年9月にMMAデビュー。フィリピンと日本のハーフとして高い身体能力を誇り、MMA転向後は、プロレスラーのディラン・ジェイムス、宮本和志をTKOに下すと、ミノワマンにもカーフキックを効かせてTKO勝ち。しかし、2021年6月にシビサイ頌真に3Rにリアネイキドチョークを極められ初黒星を喫した。  米国修行も経て、10月の横浜大会では米兵のSAINTを相手に1Rに左ボディからの右フックでKO勝ち。その後、練習中に怪我を負い、手術とリハビリで暫く試合から遠ざかっていたが、さらなる米国修行を敢行し、約9カ月ぶりの参戦となった2022年7月の「RIZIN.37」で4連勝中の関根“シュレック”秀樹をカウンターの左ストレートで53秒、マットに沈め、復帰戦をTKO勝利で飾っている。 「いろいろな練習をするなかで成長した部分があるからこそ、シュレック選手が前に出てきてもビビらずに打撃で行けた。(練習の成果は)出せていると思います。グラウンドになっても恐怖心が無いという、その心構えがあったから打撃でいけたんじゃないかなと思います。シュレック選手に勝って、“いいとこ取り”ができちゃって負けられない、気持ちがより一層強くなりました」  対するヤノス・チューカスは、CageRageの後継団体であるUltimate Challenge MMA(UCMMA)が主催しているアマチュア大会で実績を積むと、2019年2月のUCMMAでプロデビュー。19秒でリアネイキドチョークによる一本勝ちを収めた。デビューから3試合連続1R決着で3連勝後、2021年12月からはFightStar Championship、Cage Glory Championshipで再び3連勝。2022年6月にホームのルーマニアで行われたHeroes Fight Leagueでアリン・コンスタンチレスキューを1R、パウンドアウト。プロ戦績7戦7勝、フィニッシュ率100%を記録している。  プロ公式戦では無敗だが、2017年3月のアマチュア大会で現UAE Warriors参戦中のアメド・テジャニ・シェフ(※UAEWでクリス・バーネットに1R TKO負け)に2R TKO負け。2019年10月のEuro Fight Nightではエキシビションマッチとして、現Bellator2勝1敗のルーク・トレイナーに一本負けしているマック・ソスノウスキを相手に1R TKO負けも喫している。  そのチューカスについて、スダリオは、「スタンディングでKOするほどのパンチ力は、正直持ってない。気をつける点としてはタックルぐらい。何かに突出していればポジションとか練習するんですけど、今回の相手はある程度、打撃が出来てタックルも出来て、上から殴ってくる選手なので、(対策は)全体的にやっています」と印象を語る。 「僕は打撃で行きたい。彼は打撃で無理だと思ったら、絶対にテイクダウンに来る。あわよくば、自分が相手のテイクダウンのカウンターで上を取って、相手のやりたいことを自分がやる可能性はあります」と、強化してきたテイクダウンディフェンスを活かしてのKO・TKOでのフィニッシュも予告した。 [nextpage] 力士体型からMMAファイターに変化した食事療法、そしてムーブメントトレーニング  大相撲時代から大きく変わったのは、MMA用の身体だ。土俵でぶつかり合う力士の体型から、リング・ケージの“何でもあり”で戦う、殴って蹴れる、ステップの踏める身体に変化した。 「デビュー時が112kg。試合が決まる前は重くて123kgまで行くのですが、現在の体重は118.9kg、試合が近づくにつれて絞って、筋肉量を増やしていて、体脂肪率は15.9%です」  その変化は、食事療法、そしてトレーニングによるものだ。食事では、計画的なプロテインスムージーの摂取により、大きく体重に変化があったという。 「1回の食事量で食べ過ぎないこと。ドクターに教えてもらったプロテインスムージーというのがあって、試合が決まる前はパワーアップを目的に、ピーナッツバターだったりを混ぜてプロテインスムージーを作るんですけど、時期によってその中身を変えています。パセリやほうれん草を入れたり、脂肪を燃やしてくれるような成分に変えたりしたら、いきなり落ちてきて、糖質を分解したり、老廃物など余分なものが落ちて来るとアドバイスをもらって、プロテインのメニューを送ってもらいました。それを摂りつつ、ウェイトや新しく採り入れたフィジカルトレーニングもやっています」  そしてシュレック戦に新たに採り入れたムーブメントトレーニングやフィジカルトレーニングを「アンダーアーマー」や「DNS」を手掛ける「ドーム」が開設したトレーニング施設「ドームアスリートハウス」で行っている。契約アスリートが使用することが可能な最先端の施設だ。 「普段ウェイトなどの筋トレを部位ごとにやっていて、そのつけた筋肉を格闘技に活かせる身体の使い方を──ただパワーや筋肉だけをつけても格闘技に活かせないと意味が無いので、トレーナーさんが、パワーの出し方、つけた筋肉をどう活かすのか、使われていない神経をどう使うか──そういった連動系、ムーブメントトレーニングをやっています。結構、疲れるんですけど、それがいま滅茶苦茶いい感じですね。そのムーブメントトレーニングをすることによって、スパーリングやキツいトレーニングも回復具合が違いますし、やったことがない動きでも対応が出来て無駄に身体が疲弊しないです。それにインターバル中の回復もいいように感じます。半月に1度、インボディ(体成分分析装置)を測って、身体の変化を見て」  ファンからは、最近のスダリオの身体的変化について、「ラインバッカーのようだ」との声も挙がっている。  アメリカンフットボールで、ディフェンスラインの選手が手を地面についたスリーポイントスタンス、相撲でいえば「立合い」の姿勢を取るのに対し、ラインバッカーは直立したツーポイントスタイルで構え、強い当たり位に加え、より俊敏な動きが必要とされるが、その体型に似ているのだという。 [nextpage] 北米でのレフェリー付きのスパーリング、ガヌーとガーヌのように──  本来は9月25日のRIZINに出るための準備だったという。それを今回の10月23日の福岡大会、そして大晦日も見据えて、仕上げて来た。 「このトレーニングはシュレック戦後、8月半ばから始めています。ほんとうは、9.25に出るつもりだったんで(苦笑)。すぐに練習を再開しました。今回の大会に出る頭(考え)は無かったんですけど、(榊原)社長と話して、年内に2試合、もう1試合大晦日に出ようと思って」と、連戦プランを明かす。「では、なるべくダメージなく大晦日に向かいたいか」と問われると、「いや、考えてないですね。今回の試合を決めたからには大晦日出場が無くなってもいいと考えています。いまの目の前の試合に賭けているので」と厳しい表情で語った。  前戦は、試合前に米国武者修行を敢行した。エクストリーム・クートゥアーで、UFCのフランシス・ガヌー、Bellatorのティム・ジョンンらとトレーニングを行い、ジョンソンのテイクダウンを防いだことで、自信にも繋がった。  190cmで118kg、北米ヘビー級の265ポンド(120.2 kg)に満たない身体だが、ライトヘビー級(93kg)は考えていないという。 「海外のエクストリーム・クートゥアーで練習したときに、正直、全然、体格差を感じなかったんですよ。自分はヘビーでやっていけると感じているのでヘビーでやっています。自分より身長で小さくてもUFCのヘビーでやっている選手もいますし、あまり身長とか骨格よりも、やり方や考え方で変わるんじゃないかと思います。クートゥアーのジムの選手に『ミドル級の選手と同じくらいのスピードだ』と驚かれましたから、それを活かせれば」  スパーリングで肌感覚で、海外ヘビー級の圧力は経験済みだ。 「エクストリーム・クートゥアーでは、スパーのときは必ずレフェリーを用意してくれるんです。双方の関係者もギャラリーでいるので、試合感覚ですね。あんこの大きなグローブで週に2回。KOするような打撃はNGですけど、カットするようなことはあります。  理想のスタイルは、UFCのシリル・ガーヌと、フランシス・ガヌーですね。その2人のいいところを場面場面でミックスできたらいいなと。ガーヌのように相手のペースに絶対に合わせない、相手が打ち合いに持ち込んでも自分の距離で戦う。KOパンチという強打はなくても、蹴りやヒジ、テイクダウンのなかで打撃を自分の間合いで当てる。僕も1発はあるので、ガーヌの戦いと、ガヌーのように多少強引に行くことも出来るようになれればと思っています。ガヌーも復活するし、2023年にも米国に行きたいと思います」 [nextpage] PRIDEが生まれた年に産まれた。「やっぱりヘビー級が好き」  苦い敗戦と、北米修行も経て、スダリオは、力士出身の日本人MMAファイターとして、もっとも成功するファイターになれるかもしれない。今回のヤヌス戦は、その試金石となる試合だ。 「試合2日前、3日前はよく眠れないです。すごく考えるので。悪い展開だったり、1発もらったりとか考えると眠れずに気付いたら3時とか」と苦笑するが、試合前日はよく眠れる、という。「試合前日は眠れます。公開計量で相手と対峙するから、よりイメージしやすくて、すんなり眠れます」。  公開練習の10月11日は、ちょうど「PRIDE25周年」の記念日。1997年、PRIDEがスタートした年に生まれたスダリオにとって、PRIDEは「追体験」した憧れの舞台だった。 「『PRIDE.1』のときは25年前だから、僕、ちょうど生まれた年です! 過去の格闘技を見るときに、研究も兼ねてPRIDEから見始めたんです。やっぱりヘビー級の試合いが一番好きですね。ミルコ・クロコップvs.エメリヤーエンコ・ヒョードル、それにヒョードルとケビン・ランデルマン、あの頭から落とした試合。ヒョードル選手は無敵だったじゃないですか。そしてあのミルコを相手にヒョードルが打撃で対した。すごい試合でした」──スダリオは日本人MMAヘビー級のなかで、未来に語り継がれる伝説を作ることが出来るか。
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