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2022年8月20日(日本時間21日)米国ユタ州ソルトレイクシティのビビント・アリーナで『UFC278』が行われる。
メインイベントは、ウェルター級王者カマル・ウスマンがランキング2位のレオン・エドワーズを迎え撃つ、世界王座6度目の防衛戦。両者は2015年12月にも対戦しており、その時はウスマンが判定勝ち。今回は6年8カ月ぶりの再戦となる。
この一戦の見どころをWOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”髙坂剛に語ってもらった。
あれだけタックルが生命線だったウスマンが、ほとんど自分からタックルにいかなくなったのは……
――『UFC278』のメインイベント、ウスマンvs.エドワーズのウェルター級タイトルマッチを髙坂さんはどう見ていますか?
「これは本当に玄人好みというか、ものすごくハイレベルなMMA(総合格闘技)を見せてくれそうな試合ですよね。とくにウスマンは、UFCのパウンド・フォー・パウンドランキング1位。つまりUFCのトップ中のトップで、今や手がつけられない強さを見せています」
――一方のエドワーズも2015年12月にウスマンに判定負けして以来、6年8カ月負けなし(ノーコンテストを挟み)の9連勝中です。
「つまり“負けない者”同士の戦いであり、しかも再戦なので、どちらが前回対戦した時からより進化しているかが問われる試合ですよね。なので今回のタイトルマッチを迎えるに当たって、2015年に対戦した試合から最近までの両者の試合をあらためて見直して、2人の進化の度合いを自分なりに確認してみたんですよ。まず、2015年にやった試合を観ると、判定で敗れたエドワーズの方が、その当時から洗練されたMMAをやってるな、という印象が強かったんです」
――2015年の時点では、エドワーズの方がMMAファイターとしての完成度が高かった、と。
「当時、ウスマンはまだUFC2戦目でエドワーズは4戦目だったので、その差もあったかもしれないんですけど。あの時点でのウスマンは、フィジカルとスタミナ、それからNCAAディビジョン2 全米優勝のレスリングスキルはずば抜けて高いけど、正直まだいろんな技術がバラバラでしたね。
打撃も空振りが目立ったし、フットワークも直線的な動きだけで、エドワーズのサイドステップの動きに対応できてないところがあった。そして出力や体のコントロールもまだしっかりとはできていなかったんだけど、とにかくフィジカルがバケモノなので。5分3R、力を出し続けて判定勝ちをモノにした感じだったんです」
――今の達人然としたウスマンのイメージとはだいぶ違いますね。
「だからウスマンがどのあたりから完成されていったのか、順を追って試合を観ていったんです。2018年5月のデミアン・マイア戦では、打撃に関してだいぶ洗練されてきてはいたけれど、まだスタンドの距離が合ってなくて、ローキックにタックルを合わされて組み付かれるシーンが2~3回くらいあったんです。
ウスマンが完璧に自分の距離をつかんだのはUFCチャンピオンになってから。それも3度目の防衛戦である2021年2月のギルバート・バーンズ戦前後くらいじゃないかと思うんですよ」
――かなり最近ですね。
「それだけチャンピオンになっても奢らず、向上心を持ち続けた選手なんでしょう。ウスマンは、フィジカルとスタミナ、レスリング力を駆使して勝ち続けながら、スタンドの距離設定を含めたいろんなところを修正していって、完成形へと近づいていった選手だと思います」
――かつてはケージレスリングやテイクダウンからのグラウンドコントロールで漬けて判定勝ちをモノにする“地味強”のイメージが少なからずありましたけど、今やそういうイメージはなくなりました。
「あれだけレスリングを軸に試合を組み立てて、タックルが生命線だった選手が、ほとんど自分からタックルにいかなくなりましたからね。それは打撃を当てる距離とディフェンスできる距離を、完璧につかんだからだと思います。それにプラスして、ボクシング技術も飛躍的に上達したので、本当に穴がない、対戦相手からすると付け入る隙がほとんどない選手になりましたよね」
ウスマンに隙を作れる可能性があるのはエドワーズ
――対する挑戦者のエドワーズはどうでしょうか。
「最初に言ったとおり、エドワーズは2015年のウスマン戦の段階で洗練されたMMAができていて、なんでもできる選手だったと思うんですよ。それがここ7年近くの間でさらに磨かれていき、いわゆるファイトIQが高い選手ですから、適切な武器を適切な場面で使うことができる。その取捨選択がさらにしっかりとできるようになったことで、逆に今のほうが昔より出す技や動きが少なくなってるんです」
――つまり無駄な動きをしなくなった、と。
「そういうことですね。だから見方によっては地味に見える場合がありますけど、よく見てみると高い確率で相手にダメージを与えるか、プレッシャーを与える動きになっている。また、組みの状態から離れ際に出す左のヒジを非常に効果的に使っているので、際の攻防にも強い。そうやってしっかりポイントを押さえて、試合を支配していってますね」
――では、両者ともに隙がない者同士の対戦になるわけですね。
「そうなんですけど、試合の最初の段階でより隙がないのはウスマンの方ですね。それぐらい、今のウスマンのスタンドでの距離設定やジャブ、ストレートの正確さというのは完璧に近いものがある。だからエドワーズのほうも打撃vs.打撃でがっちりやろうとすると、どうしてもウスマンの距離で戦うことになり、なかなか自分の打撃を当てるのが難しいという感覚があると思います」
――そうなると、エドワーズはどんな戦い方が考えられますか?
「エドワーズの方があえて積極的に組みを混ぜていくことも考えられると思うんですよ。ウスマンのレスリング能力の高さはよく知られていますけど、がっちりレスリングをやるというより、フェイントでいいので、打撃の中でタックルを混ぜていって、いろんな局面を作っていく。
そうしてウスマンが少しでもイラついて、がむしゃらに前に出てくるようなシーンが作れたら、エドワーズはそこにカウンターの左ストレートを合わせるのがうまいし、また離れ際のエルボーという武器もある。そしてウスマンがテイクダウンに来たら、エドワーズは下からの極めもありますからね」
――前回、2015年の試合では、1Rに三角絞めを極めかけてるんですよね。
「だからそういう仕掛けをすることによって、昔の記憶を呼び起こさせて、ウスマンを退化させるというか。2015年当初のウスマンに戻すことができたら、エドワーズの勝機も広がってくるんじゃないかなって」
――ウスマンを退化させるってどういうことですか?(笑)。
「今のウスマンって、いわば“シン・ウスマン”だと思うんですよ。第4形態ぐらいまで進化しちゃってて(笑)。でも、いろんなことができて、ファイトIQが高いエドワーズなら、組みを織り交ぜたりすることで、レスリングとフィジカル頼みのかつてのウスマンに戻るような局面が作れるんじゃないかと」
――たしかに、これまでのウスマンの防衛戦の相手って、コルビー・コヴィントンはレスリング、ホルヘ・マスヴィダルは打撃、ギルバート・バーンズは柔術といった感じで、一芸に秀でた選手が多くて、エドワーズほどのオールラウンダーではなかったですよね。
「だから場面場面での取捨選択を完璧にすることで、隙のない今のウスマンに隙を作れる可能性があるのはエドワーズなんじゃないかな。もちろんこれはものすごく難しい作業ですけど、そこに期待したいですね」(取材・文/堀江ガンツ)
◆WOWOW『UFC -究極格闘技-』放送・配信スケジュール
『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC278 in ソルトレイクシティ ウェルター級最強ウスマン、6度目の防衛戦!』
8月21日(日)午前11:00[WOWOWプライム]※メインカード生中継
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
8月24日(水)午前1:00[WOWOWライブ]※リピート
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
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