考え方、生き方が違うもの同士の戦いだった
3R、那須川はジャブで武尊の頭を上げさせるが、武尊は構わず詰めて、右をヒットさせる。
「天心君もこんなプレッシャー受けたことないでしょうから、相当キツかったと思う」と那須川の最終ラウンドを語る松倉に、秋山も「少しバテてきたからね。でもガードも上手。無理をしないで戦っている」と、技術力の高さを評価する。
終了のゴング、秋山は放心したような表情で「ぽっかり穴があいちゃったような、すごい試合だった」と両者を讃えると、松倉も「2人あっての大会だった。みんなこの試合を楽しみにしていたし、メインの空気はほかの試合とは比べものにならないものだった」と、大きなプレッシャーと覚悟のなか、“世紀の一戦”に臨んだ那須川と武尊のための大会だったと語る。
そしてあらためて松倉は、このメインに、両者の戦いの哲学の違いが出たという。
「K-1と言ったら武尊、RISEと言ったら天心君。その団体の選手はそのトップを目指す。そのトップで団体の色が出る。対抗戦を観て思ったのは、RISEはより競技で勝つことが評価される、K-1はより倒すことが評価される。もちろんRISEも倒すことを意識していると思いますが、K-1はそこに、より特化している。だから今回の試合は、ちょっと考え方、生き方が違うもの同士の戦いだった。もちろん天心君の戦い方が悪いことをしているとは思わなくて、武尊はああいう戦い方で、それぞれが違う」
戦前、本誌の取材に那須川自身も「ほんとうに対照的ですね。僕の遠い距離と、相手の近い距離。“打ち合わない”僕と、向こうは“打ち合い上等”ですし」と、水と油の部分はあったとしても、試合後は武尊について、「一番感じた部分としてはプレッシャーっていうのを凄く感じましたね。今までやった選手の中でも、一番強かったんじゃないかなって。本当に僕と真逆のスタイルだったけれど、そこの中で勝ち切れたのは大きい」と、過去最大の圧力を感じたことを認めつつ、そこで「勝ちきれた」ことに胸を張った。
互いに「すべてを賭けて」臨んだ大一番。
試合後、松倉は武尊と直に話したという。
「ちょっと喋りました。すごいなと思ったんですけど、会った瞬間に謝られました。『ごめんね』と言われて。常に武尊は周りのことを気にしていて。“終わっちゃったな”じゃないですけど、まだ整理しきれてないとは思うんですけど……」と、試合直後の盟友の気持ちを慮った。
5万6千人を超える観客、50万件のPPV──『THE MATCH』は、すべてが規格外の大会だった。
会場に流れたのは、プリンスの『Endorphinmachine』。フジテレビ中継時のK-1 WORLD GPシリーズのテーマ曲だった。フジテレビは離れたが、格闘技はそこにあった。
秋山は、「あのK-1の曲を聞いて『(石井)館長、これは!』と言ったら、『これなんだよ』って。格闘技はこれで終わるわけじゃないし、『THE MATCH』も2、3と続いてほしいし、武尊君はまた新しい格闘技人生が始まると思うから期待したいし、天心君もボクシングという新しい舞台に期待したい。ものすごくいいものを観させてもらった」と両雄が並び立ったことに感謝し、今後にも期待を寄せている。
この“世紀の一戦”を観て、将来の那須川天心と武尊たちが、この舞台を目指すことになるだろう。「実現不可能」と言われた両者の試合は、未来に向けて大きな種を蒔いた。