MMA
インタビュー

【UFC】史上初、RIZIN&UFC二冠王へ──イリー・プロハースカ「RIZINは、僕の礎を築いてくれた学校。その時間の全てが、今回の戦いのためなんだ」=6.12『UFC275』

2022/06/11 17:06
 元RIZIN王者として、UFCランカー相手に2連続KO勝利し、最短距離でグローバー・テイシェイラの持つUFCライトヘビー級王座への挑戦権を得たイリー・プロハースカ。6月11日(日本時間12日)、いよいよシンガポールで決戦のときが来る。  会見で「アジアでの試合は有利と思うか」と尋ねられ「僕にとって場所は一切関係ない。(王者の地元の)リオでもラスベガスでも日本でも同じさ」と静かに語ったチェコの侍は、日本のファンの想いも背負い、史上初の偉業に挑む。プロハースカが、大一番前に、本誌に語った言葉を紹介したい。(text by Horiuchi Isamu) セフードとの練習は最高だった (C)Zuffa LLC/UFC ──プロハースカ選手、『UFC275』の事前会見を終えた直後に、引き続きご自宅からZOOM取材を受けて下さりありがとうございます。 「大丈夫だよ」 ──記者会見では、王者テイシェイラ選手もあなたも挑発の言葉を発することなどまったくなく、お互いリスペクトして試合に臨む姿勢でした。 「僕はいつだって相手をリスペクトして試合に臨む。僕にとって試合とは、相手に怒りをぶつけるものではない。重要なのは自分について知ることだ。己を知れば、自信を手にし、冷静さを保ち、謙虚になれる。それが全てさ」 ──42歳にして戴冠という快挙を成し遂げた王者のことは、どう思っていますか。 「今言った通り、リスペクトの気持ちを持つだけさ。現在は彼が王者だ。でも僕はその地位を獲りにいく。自分のファイティングスタイルの方が優れているし、ファイトIQも僕の方が高いと信じている。そしてファイティングスピリットにおいても勝っている……いや、それに関してはより『大きな』ファイティングスピリットという言い方が正確だ。最高に研ぎ澄ました武器をもって、勝利を得るつもりだよ」 ──武器ということで言えば、先ほどの記者会見であなたは、現在のご自分の課題はグラウンドゲームであり、テイシェイラ戦はそこを強化する良い機会だと話されていました。 「そうさ。そのためにアリゾナ州のファイト・レディでトレーニングを積んできたんだ」 (C)Zuffa LLC ──ファイト・レディにはフリースタイルレスリング五輪金メダリストにしてUFC二階級制覇のヘンリー・セフードがいますからね。他にもジョン・ジョーンズ、デイヴィソン・フィゲイレド等超大物ファイターが集まってきています。 「ヘンリーとの練習は最高だったよ。自分に必要な新しい技術をたくさん教えてもらえて、僕はどんどん吸収できた。あそこで練習できて良かったし、最後はタイのバングタオ・ジムで仕上げるつもりなんだ」 ──プーケットのタイガームエタイで教えていたヒックマン兄弟が、かの地に新しく開いたジムですね。記者会見では、時差と気候に慣れるためとおっしゃっていました。 「そしてあのジムはレスリングに強いんだよ。だからこそ僕はそこを選んだ」 ──グラップリングに長けた王者に対抗するためですね。ファイト・レディでは以前一緒に練習したことのあるジョン・ジョーンズとも練習する予定だったとか。 「いや、結局彼は来なかったから練習できなかったんだ。でも他の良いトレーニングパートナーたちに恵まれたよ」 [nextpage] キング・モーとの試合で、まったく別人になることができた (C)RIZIN FF ──なるほど。グラウンドを着実に強化されているようですが、打撃の方はいかがですか。UFCでのこれまでの2戦は見事なKO勝利を収めていますが、同時にガードが低く相手のパンチを被弾してヒヤッとする場面が見られたのも事実です。 「そうだね……近年、僕は気づいたことがあるんだ。我々の人生でもっとも大事なこと──MMA選手としてだけでなく、人生全てにおいてだよ──は、進化することだとね。学び、より良い人間となるために成長し続けることだ。キャリア全てを通してそうすべきなんだ。確かに前回の試合では修正すべきものがあった。打撃についてもそうだし、柔術やグラウンドゲームにおいてもだ。そこに取り組んだ現在の自分は、前回とは違う人間だと思っているよ」 ──RIZINでの最後の試合となったCBダラウェイ戦後も似たようなことをおっしゃっていましたね。重要なのはお金ではなく、より強い相手と戦い自分を向上させることなのだと。 「そうだ。まさにそれが、僕がMMAをやっている理由だし、だからこそ僕は現在ここにいるんだよ。僕のこれまでの全ての試合において、お金が一番重要だったことはない。もちろん生活のためにお金は重要だ。でもそれ以上に重要なのは、自分に対して確信を持てることだ」 ──あなたのようにキャリア全体を成長の過程と捉えたとき、RIZINでの試合はどのような意味を持ちますか。 「RIZINは、僕に大いなる教えを与えてくれた学校だよ。僕にビッグネームたちと戦う素晴らしい機会を与えてくれて、ファイティング・ライフスタイルをもたらしてくれた。僕はあそこで成長したんだ。RIZINでの5年間のことは、本当に感謝しているよ」 ──RIZINでのあなたの唯一の敗戦は、15年大晦日のヘビー級GP決勝のキング・モー戦(1R KO負け)です。3年後にリベンジを果たしましたが、あの敗戦から得たものは? 「あれは……僕の人生においてもっとも大きな、そして重要な戦いの一つだね。あの試合のおかげで、もっともっと自分を鍛えて、まったく別人になることができたんだ。あの試合で得た教訓は、現在に至るまでのその後の全ての試合で活かしているよ」 [nextpage] たとえグローバーとの試合がグラウンドになっても、僕はどんどん攻撃を仕掛けてゆくつもりだ ──なるほど。その後あなたはUFCに転出し、初戦はライトヘビー級7位のヴォルカン・オーズデミアに2R KO勝ち、次戦はランキング3位にして2度のタイトル挑戦経験を持つドミニク・レイエスをやはり2R KOで仕留めました。これらの試合も学びの過程ということですね。 「イエス。最初の試合で学んだのは、僕の心、感情の使い方だ。世界最高の選手であるためにね。あの試合以来、僕は精神面に取り組み、自分の感情を抑え、もっと効果的に使うようになしたんだ。それによって、はるかに良い体調で試合に臨めるんだよ」 ──なるほど。 「次の試合で学んだのは、技術的にもっと向上させ、また焦りすぎないことだ。冷静さを保ち、勝利に向かって進むんだ」 ──レイエス戦の後では、ダメージを与えたと思って距離を詰めたところでカウンターをもらう場面があったことを反省していましたね。そして今回のタイトルマッチでは、先ほどお話してくれたグラウンドゲームを含めて、さらに進化したプロハースカ選手が見られると。 「イエス。たとえグローバーとの試合で戦いがグラウンドに移行したとしても、僕は他の選手のようにただ守るのではなく、どんどん攻撃を仕掛けてゆくつもりだよ」 ──では最後に、史上初のRIZIN&UFCの二冠王の誕生を心待ちにしている日本のファンにメッセージを。 「僕が思うに、僕のRIZINでの時間の全ては、今回の戦いへの準備だったんだ。RIZINの王者になるだけでなく、世界のチャンピオンになるためのね。日本が、僕がここに至るまでの心の持ち方、礎を築いてくれたことを心から嬉しく、そしてありがたいと思っているよ」 ──ありがとうございました! 「ニホンダイスキ! VICTORY!」 ◆Jiri Prochazka 1992年10月14日、チェコスロヴァキア共和国(現チェコ共和国)ズイナモ生まれ。少年時代より松濤館空手とムエタイを学び、2011年にアマチュアムエタイチェコ王者に。翌12年にプロMMAデビューし、15年12月、石井慧を1RKOに下してRIZINデビュー。19年4月にキング・モーを倒してRIZIN初代ライトヘビー級王座に。翌20年からUFCに参戦。ライトヘビー級7位のヴォルカン・オーズデミア、ランキング3位のドミニク・レイエスに連続KO勝利を収め、2022年6月12日の「UFC 275」にて、グローバー・テイシェイラの持つライトヘビー級王座に挑戦が決定している。191cm、93kg。イェトサーム・ジム・ブルノ/ファイト・レディ所属
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