(C)ゴング格闘技
2022年5月14日(日本時間15日)米国ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて開催された『UFC Fight Night: Blachowicz vs. Rakic』で、日本の平良達郎(Theパラエストラ沖縄)がUFCデビュー。MMA8勝1敗のカーロス・カンデラリオ(米国)を相手にフルマークの判定3-0(30-26, 30-27×2)で勝利し、戦績を11勝無敗とした。
当初、4月30日(日本時間5月1日)に同所にて行われる予定だった両者の対戦だが、前日計量をクリア後、試合直前にカンデラリオの「体調不良」により中止に。2週間後に延期されるなか、前日計量ではフライ級リミットが125ポンド(56.7kg)で、王座戦以外はプラス1ポンドまで許容されるなか、平良は125ポンド(56.70kg)のジャストでクリア。カンデラリオは再計量で126ポンド(57.15kg)でパスしていた。
試合は、1Rから互いにテイクダウンを奪うなか、2Rに平良が右ストレートでダウンを奪うとリアネイキドチョーク狙い。3Rもトップを奪う平良が三角絞め、マウントからのパウンドなど攻勢に。カンデラリオを極め切れずとも圧倒し、オクタゴン初陣を勝利で飾った。
試合後、ケージのなかで「アイム・ハッピー、サンキュー! 全部で勝負し、フィニッシュしようと思っていましたが、フィニッシュできなかったです。何回か効かせたり極められるかなと思ったけど、最後の一歩で相手が逃げるのが上手かったです」と語った平良は、最後にあらかじめ紙に用意した英文を読み上げながら、「新しいファンの皆さん、ありがとうございます。僕はUFCのタイトルベルトを獲得するためにここにいます。新しい波はすぐにでも見られるでしょう。ありがとうございました」と英語で語っている。
パラエストラ沖縄の松根良太代表、パラエストラ千葉の岡田遼とともに過ごした米国ラスベガスでの日々は、平良にどんな変化をもたらしたか。
米国滞在中に発売中の本誌『ゴング格闘技』が取材した試合のディテールから少し離れ、日本に帰国し、『UFCってなんだ?』に出演するなどリラックスした平良に、あらためてオクタゴンでの勝利と今後について、聞いた(text by YUKO)。
岡田さんの親子丼は、卵もトロトロで……
──試合後すぐに帰国されたと思うのですが、時差ぼけなどは問題ないですか?
「やっぱり朝早い時間に目が覚めるんですけど、それが時差ボケなのか分からないんです。今年に入ってアメリカに行ってから、結構、睡眠が浅くなっていて。“これは時差ぼけだ”って思っていますが、自分は昔は必ず“お昼まで寝てるタイプの人間”だったのに、今では必ずアラームが鳴る前に起きちゃうっていうのが、もしかして“大人になったってことなのかもしれない!?”と思いつつです(笑)」
──大人……えーと歳を取ると夜はすぐに眠くなり、早起きになりますが(苦笑)、それとは違うようですね。眠りが浅くなっていたというのは、やはり試合まで緊張状態が続いていたのでしょうか?
「どうでしょう? ともあれ、今ではいわゆる“時差ぼけ”のような症状は抜けているかなと思います」
──沖縄取材で「地元ならではのお土産」をうかがったら「中味汁」をおすすめしてくれましたよね、ジムの近くのスーパーでスープのパウチを買ってみたんですが、美味しかったです! 教えていただきありがとうございました。
「よかったです!」
──ちなみに松根代表からは「山羊汁」を教えていただきました。
「山羊汁は僕も食べたことありません!『あれが食べられたら本当の山羊好き』だとは聞いたことがありますが、自分は苦手な気がします……」
──そうなんですね。山羊汁は「食べると目の前を山羊の群れが走る」と聞いて、自分もまだ次の機会に取ってあります(笑)。「中味汁」はやっぱりソウルフードというか、お雑煮みたいな感じで、沖縄の各ご家庭の味があるのでしょうか。
「学校給食にも出るような料理です。ただ、知らない人は見た目があまり良くないと思うみたいで……、グロテスクだなって思いましたか? 僕は当たり前のものとして食べていたんですけど、昔一度、小学校に台湾からの交流生が来た時に、中味汁が出たんです。でも多分全員って言っていいくらい交流生達は残してしまったんですよ(苦笑)。“え? こんなおいしいのに!”って思いましたね。ただ、あれは年配の方だけが作れるような料理というのか……、(モツを使うので)内臓の処理が難しいらしいんですよね。平良家の味というのもありますけど、家庭といってもおじいちゃんとおばあちゃんしか作らなくて、母親は作ることができません」
──なるほど。唐突ですが、そんなおじいちゃん・おばあちゃんの作ってくれる平良家の中味汁と、減量のリカバリで岡田遼選手が作ってくれる親子丼、究極の選択を迫られたらどちらを選びますか。
「……(しばらく悩んで)岡田さんの親子丼……です。岡田さん、減量中の時に気を遣って、鶏肉はムネ肉とか脂肪分の少ないところをチョイスしてくれていたんですけど、すっごい柔らかくて。肉の火加減が良くて柔らかいし、卵もトロトロで……あとはタマネギだけ。美味しいんですよねぇ……“ザ・シンプル”っていう感じで」
──アメリカ武者修行では岡田選手と交互に料理を担当していたのですよね?
「そうですね。僕も料理上手なんですよ!『作れ』って言われて実際に料理してみたら意外と食べてもおいしかったっていう。ものすごくレパートリーは少ないし、今は作っていないんですけど。お母さんから伝授されたのが、3つあるんです。沖縄の車麩を持って行ってフーチャンプルーを作ったり、あとはカレーと、ビーフストロガノフみたいなもの。それは1回くらいしか作れなかったんですけど。結果、自分の担当では、ほぼほぼ肉を焼いているだけでした(笑)」
──「料理上手」という割には「ほぼほぼ焼いた肉」と(笑)。しかし、ラスベガスの「UFC PI(パフォーマンス・インスティチュート)」に行けば、栄養士さんの管理のもとで食事ができるというのはかなりのメリットですよね。
「はい。練習でアメリカに滞在していた最後の1週間で契約となったので、その時はまだPIはあんまり使えませんでしたが、試合に向けて今回ほぼ、PIで食事をいただいていました。おいしいですし、体重もスッと落ちてくれましたね。“もっと早く計量日来い!”と思えるくらいの感じで減量ができていました。あと、向こうに行ってからアボカドが好きになりました。前は食べれなかったんですけど、“アボカドっていい脂だからいいよ”って(※リノール酸・リノレン酸・オレイン酸などの不飽和脂肪酸が含まれる)聞いていたから何回か挑戦していたんですけど、ダメで。ただ向こうのアボカド食べた時に“美味しい!”って感じて。それからは日本に帰ってきてからも美味しく感じるようになったんです」
──食べられなかったものが好物になったと。今回の計量では、王座戦以外に許される規定の「1ポンドオーバー」を使わなかったのは、さすがチャンピオンシップを見込んでのことだと志の高さを感じたのですが……。
「……そういうことにしておいてもらっても、いいですか(笑)」
──岡田選手に確認しましたが、「全然違います(笑)」という回答でした。
「(笑)。125.5(ポンド)くらいで大体みんなパスするんですけど、僕も125.8とかで。ただその時『もう水を飲まないでください』みたいな、あと1時間40分くらい時間あったんですけど、その時は時計もしていて指輪も嵌めていて、靴下も履いていたんですよ。なので“ちょっと飲めるんだけどな”とか思いながら1時間待っていたら、1ポンドオーバーを使うことなく、という(苦笑)」
──ジャストでクリアしてしまったと。チャンピオンシップを見込んだ話で言うと、デビュー戦の5分3Rを戦い抜いたばかりですが、チャンピオンになるにはゆくゆく5分5Rの試合が待っています。それを考えることはありますか。
「5分5Rで戦うというのは、3Rとは本当に別競技かのような感覚がありますね。前提としての今回の3Rでの試合にしても、僕は3Rをフルで戦ったことが清水(清隆)戦で1回あるだけで、その試合も全然疲れを感じないものでしたし、直近が1Rでトントン終わっていたこともあって、試合勘と言うのでしょうか、そういう経験値としてあんまり得られていないというのがあって。
だからこそ、攻めに行った時の3Rを経験してみたいという思いを岡田さんや松根さんに話していて。松根さんからは『オマエ、それは贅沢な話だよ』と返されたのは覚えていますし、それは分かっているんですけど……。ただ5分3Rのキツい試合を1回はしておかないと、いざそうなった時に“きっと、すごく疲れちゃったりするんじゃないか”というような不安を抱いていることを正直に伝えていました。
今回2Rに結構チャンスがあって、何回か極めに行って、ちょっと腕も張っていたんです。それを3Rに向かうインターバルの時に“こういう感じか”と感じられましたし、岡田さんと松根さんは多分1R、2Rでフィニッシュすると思ってくれていたこともあって、松根さんは『やりきるぞ』と言ってくれていましたし、岡田さんからは『達郎、お前がやりたかった3Rギリギリの戦いだろ!』と。『こういう3Rをやりたかったんだろ?』って言われて、“そうだ。俺、5分3Rやりたかったんだ”って急に思い出して(笑)。
そこから“楽しい! 楽しい!”ってなってきちゃって。3R、この状態で戦い抜くのは自分がやりたかったことで、もちろんフィニッシュも行こうと思ってましたし、振り返ってみたら本当に……。セコンドとのこういう色々な会話って、いつも覚えていないんですよ。“何話したっけな?”ってなっちゃって。でも今回は振り返ってみたら全部“楽しかったな”“いい経験できたな”って思いました」(※この項、続く)