2022年5月14日(日本時間15日)米国ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて開催された『UFC Fight Night: Blachowicz vs. Rakic』で、日本の平良達郎(Theパラエストラ沖縄)がUFCデビュー。MMA8勝1敗のカーロス・カンデラリオ(米国)を相手にフルマークの判定3-0(30-26, 30-27×2)で勝利し、戦績を11勝無敗とした。
(C)写真提供・松根良太
パラエストラ沖縄の松根良太代表、パラエストラ千葉の岡田遼とともに過ごした米国ラスベガスでの日々は、平良にどんな変化をもたらしたか。
米国滞在中に発売中の本誌『ゴング格闘技』が取材した試合のディテールから少し離れ、日本に帰国し、『UFCってなんだ?』に出演するなどリラックスした平良に、あらためてオクタゴンでの勝利と今後について、聞いた(※前篇からの続き・text by YUKO)。
「修斗と同じだ」って思っていたけど、コールの時に……
──今回の『UFC Fight Night』は、ほぼ無観客だったことで、いつもよりセコンドの声が聞こえていたのも新鮮だったでしょうけど、それも初戦としては良かったかもしれないですね。
「そうですね。本当に今までで一番セコンドの声も聞こえました。でもあれが大きい会場でお客さんがいっぱいいるってなったら、いつもより聞こえづらいかもしれないですね。多分もうお客さんの性質というか、アメリカの観客は叫んで盛り上がっているから。でも満員の会場でやってみたいですね」
──ただ、上のカードに行くにしたがって応援も凄いですけれど、アウェーの選手にとっては特に地元の選手が相手だったりするとブーイングの大きさも桁違いです。
「それも含めて楽しめそうです! 僕自身、沖縄からどこかへ行っているからいつもアウェーなので。ブーイングを実際浴びせられたらどうかはまだ分からないですけど、アウェーであるということ自体は馴れっこです」
──ああ、なるほど。沖縄を出て東京で戦うときもそういう気持ちはあったのですね。ケージ内の声で言うと、あのブルース・バッファーにコールされたことで特別な気分になったりもしましたか?
「あの瞬間に至るまでは、“UFCだからって気負いすぎないように”って心がけていたから、程よい緊張感でケージまでは入場して来れていて、“修斗と同じだ”って自分では思っていたんです。“対戦相手がいて、俺がいるだけだ”って。でもあの声でコールされたときに“うぉおおっ! UFCだぁ!”ってなっちゃっいました(笑)。それで、たくさんの憧れている選手と同じケージの中で一緒に試合ができるんだって思うと、興奮しました」
──ブルース・バッファーは初出場の選手の試合前には、選手に読み方を確認することもあるそうですが、平良選手の場合は、読みやすいから……。
「あっ、それは無かったですね(笑)」
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──UFCでの試合内容のディテールは本誌インタビューとさきほども少しうかがいましたが、試合に勝利したことで、練習の時も含めてアメリカに滞在している間に、ご自身の身の周りで変化はありました? 歩いていて声をかけられるようになったりとか。
「UFCの影響力ってすごいなという実感がわくことはありました。でもあんまり外には出てなくて、サインを求められたりも一応ありましたけど……。でもそれって、岡田さんが『UFCファイター!』とか紹介するからなんですよ(苦笑)。僕の耳を見たりして『格闘技やっているの?』って聞いてきた方に、岡田さんが『He's UFC Fighter!』とか言うんです。それで『サイン! サイン!』ってなったりすることはありました。あとはソーシャルメディアで海外からコメントをもらったり、英語の応援コメントも増えて嬉しかったです」
──ポストファイト・インタビューの会場でも記者の方がIn-N-Out Burgerの裏メニューを教えてくれたりして、和やかな光景でしたよね。
「あの会見場では何に載るのかもわからずに全部答えていたんですけど(苦笑)。“あ、こんな感じでTwitterとか流れるんだ”って思って」
──現地記者に教えてもらって「ワーオ!」と仰っていた“ワイルドスタイル”は、食べることができましたか?
「食べられなかったんです。フライトのことでトラブル(直前に欠航)があったりして、あまり外食もできなくて。食べて写真アップしたかったです……。試合後にジャンクなものをあんまり食べられなかったですね。ドーナツとかクッキーは食べましたけど。アメリカの『甘い系』って結構美味しくて。ケーキはちょっと甘すぎて、チョコレートケーキとかはいまいちでしたけど、クッキーやドーナツは美味しいです!」
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自分としては思っているほど「時間がない」という気持ちが大きい
──アメリカ滞在に悩む人は、やはり食べ物が原因の場合も多いと思いますが、その感じだと問題なさそうですね?
「ぶっちゃけ暮らすのは大丈夫そうです。食事とかも合いましたし、“長い間いたいな”って気持ちはありますね。ただ、次またすぐ海外に練習に行こうと思っているのですが、アメリカにするかは分かりません。……いま、タイガームエタイに行ってみたいなと思っているんです。あそこでピョートル・ヤン選手も練習していますよね? 彼と練習してみたくて。ほかにもいろんな選手がいますし」
──ヤンは試合前はATTにもいて、いまはそろそろ休暇明けではないでしょうか。タイガームエタイにはヤンや、シティキックボクシングのヴォルカノフスキーが出稽古に来たり、日本からはクレベル・コイケ選手もよく訪れていましたね。
今回の同じ大会では、フライ級でデビューしたジェイク・ハードリーがアラン・ナシメントに敗れるなど、ランカー以外にも強い選手がいる中で、平良選手としてはうまくいったところ・うまくいかなかったこともあり、そこで自分自身に感じた課題が、タイガームエタイというジムの選択に繋がっているのですか?
「今回の試合だけじゃなくて、向こうに練習に行ってみたことも、もっと言うと沖縄を出るという意味では、千葉でもそうなのですけれど、新しい練習をしていくとやっぱり外に行くたびに課題が見つかるんです。レスリングの対応であるとか、寝技でも、上と下では下が苦手というか、上の方が僕は得意ですし、寝技の攻撃と逃げだったら攻撃の方が得意であるだとか……自分の中に長所と短所がある。そういう打撃、組み・レスリング、寝技において、“全部強くなりたい!”って思うんですけど、それって“考えてみたら全部だった”という状態というのか……打撃はここを強化したいとか、それぞれポイントがありますし、色んなジムに行ってみたいとも思っています」
──環境を変えることで浮き彫りになってくることもあると。
「はい。同じ環境でずっとやってきて、その積み上げも大切だと思うのですが、とりあえず新しい刺激も必要だと感じました。で、“どこに行きたいかな?”って考えたときに、アメリカントップチーム(ATT)に行ってみたいとも思っていました。ただ(対戦したい相手として名前を挙げていた)ムハマド・モカエフ(※アマチュア23勝無敗・プロ7勝1NC)がいま、ATT所属になったということを知って、そう思うと“あんまり行きたくないな”ってなってしまって。戦うかもしれないですし、やりづらいなと思って。
であれば、ATTよりもタイガームエタイに行ってみたいなと。それに、とりあえずアメリカには行けたから、タイガームエタイのほうが地理的にも近いですし。次の試合がいつに決まるか分かりませんから。とにかく海外で練習することはやっぱり必要だなって思っています。……というのも自分としては思っているほど“時間がない”という気持ちが大きいんです。20歳過ぎてから、本当に歳を取るのが早いなって。20歳になったときから、今も自分は……、何て言うんですかね……、“もう22歳”っていう感じなんです」
──「もう22歳」……。UFCだけのことを言えば平良選手は現在のフライ級で最年少ですし、全体でも3番目に若い選手ですが、ご自身としてはそういう焦燥感のようなものを感じることがあるのですね。
「松根さんや岡田さんと一緒にいると子ども扱いをされることが多いというか。松根さんは『この子は歩くのも遅いし、のんびりやさんだから、岡田も大変だろ?』みたいに言われるので、そういう年上の方との時間が長いことで“俺って子どもなんだな”なんて逆に思ってしまったりもするんですけど、周りにいる昔からの友人が就職しているのを見たりすることで、やっぱり(時間が過ぎるのは)“早いな”と感じるのと同時に、“みんなそう(仕事をしている)なんだよな”って思ったというか。“自分は、格闘技に就職したんだ”と実感しました。
そういう中で、いまだにメディアに“超新星”と書かれたりすることもそうなんですけど、人から年齢を『21歳』とひとつ間違えられて言われたりすると、“もう22歳なんだけどな”から始まって“もう22歳なのか!”って。僕にはバックボーンが無いですから、レスリングやボクシングといった色んなバックボーンがある選手と対峙して、そこで勝ち抜いていくためには“もっと急がないと!”っていうのが、ここ最近ずっと思っていることです」
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──なるほど。「急がないと」という言葉が出ましたが、その一方で平良選手はUFC参戦について「ラッキー」と捉えていると仰っていました。ダナ・ホワイトのコンテンダーシリーズに出ることからスタートして、そこで良い試合をして契約を勝ち取っていくというキャリアプランだったということでしたが。
「はい。自分は“コンテンダーシリーズに出る”と決めて、それに向けて頑張ろうという気持ちだったので、契約したときは本当に“ラッキーだな”としか思わなかったです。でも契約してくれたUFCもそうですし、それを勝ち取ってくれた、エージェント(米国イリディアム・スポーツ・エージェンシー)のオーナーであるジェイソン(ハウス)さんもそうですけど、“意外と俺って期待されてんだな”って(笑)。それで頑張ろうってなりましたね。僕自身、試合を重ねるにつれて、日本の格闘技ファンの方々が期待してくれていたり、応援の数が増えていくのは実感していましたけど、今回のデビュー戦のオッズも結構自分の方が上で(※-310FAV)、“当たり前に勝つ”と思われていることを感じて、“勝たないといけないな”と考えたりもしました。そして何より岡田さんもそうですし、松根さんもいつも親身になってくれて、本当にただただありがたいと思っていて。試合で勝つことはもちろん、これからどうやって恩を返せるだろうかってことをいつも想っています」
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TUFの扇久保さんを見て「こんな強い日本人がいるんだ」って。僕も──
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──現UFC世界フライ級王者はデイブソン・フィゲイレードですが、手の怪我で欠場中で、7月31日(日本時間)の「UFC277」では1位のブランドン・モレノと2位のカイ・カラ=フランスがフライ級暫定王者のベルトをかけて対戦します。こういったトップ戦線を、これまでとは違う目で見ることになりそうですか。
「意識はもちろんしています。ちなみにUFC PIで結構モレノさんにはお会いしたんですけど、見た目通りの優しい方で。“モレノさん、勝ってほしいな”って。松根さんか岡田さんから聞いたのですが、扇久保(博正)さんも『モレノは凄いいいヤツ』と仰っていたらしく、本当にその通りの方です。カラ=フランスは、直近のアスカー・アスカロフ戦は自分が観ていた限りでは判定でアスカロフが勝ったかと思っていたんですけどね……。とはいえ次の試合どちらが勝つかは読めないので、楽しみにしているという感じです」
──この2人もですが、ランキング4位にはアレッシャンドリ・パントージャがいて、扇久保選手も出ていた「The Ultimate Fighter 24」出身選手がトップ5コンテンダーであることもモチベーションにつながっていますか?
「扇久保さんが、TUFのあの環境で1週間おきに減量して、優勝はできなかったけれども、それでも準優勝という成績を残したということは、本当にすごいですし、リスペクトしているんです。自分自身ラスベガスで練習をして、今回は試合が延期になったことで2週間後にまた減量をするという経験してみたこともあって、改めて本当にキツいことをやられていたんだな、と実感しました。しかもお一人で、です。僕が扇久保さんの試合を観たのはアマチュアの時にジムで松根さんが『これが扇久保って言うんだよ』と教えてくれて、一緒に応援するようになって“こんな強い日本人がいるんだ”って思ったところからだったので、あのTUFシリーズに出ていた選手がいま上位にいることで、やっぱり“戦ってみたいな!”という気持ちにはなります」
──分かりました。今日は帰国後のお疲れのところ、ありがとうございました。最後に『ゴング格闘技』読者にもメッセージをお願いします。
「応援、ありがとうございました。お陰様で無事、UFCの初戦で勝つことができました。今月発売の『ゴング格闘技』にもインタビューが掲載されていますので、ぜひ読んでみてください!」