リスクを冒さなければ誰もその名を覚えてはくれない
「自分としては、シンヤ・アオキが10年前(※2010年の長島☆自演乙☆雄一郎戦。1Rのキックルールを凌いだ青木真也だったが、2Rのタックルに跳びヒザ蹴りを合わされKO負け)にやったように、急いで飛び込んでいくような間違いは犯したくなかったんだ。もしアオキがちゃんと自分の時間を使って対戦相手に触れさえすれば、僕がロッタンにしたように、極めることが出来ていたのにね」
打撃で立ち会うことなく組みに行ったことで、自演乙の跳びヒザ蹴りを被弾しKO負けした青木真也を例に挙げたDJは、「自分の時間を作るべく」左ミドルを突いてから、ロッタンに組んですぐさまバックを奪取し、組み手を掴んで防ぐロッタンを徐々に詰ませてリアネイキドチョークでタップを奪った。
「僕は自分の時間をどう使うかの練習をしてきて、コーチからは2Rに、『彼は何もする必要がない、それでいて君は常に動いていられるのだ』という風に言われていて、自分としても、“大丈夫、ゆくゆくは極められるだろう”と考えていて、そしてしっかりとサブミッションできて、再び勝利の手を掲げてもらうに至ったということだ」と飄々と語るDJ。
「1Rが終了した時点で、ラウンド間にはどんなことを考えていたか?」と問われても、「まあ、試合だなって。別に僕は“自分がフィニッシュできるぜ”なんて予想を立てたことなんかないよ。常にフィニッシュするために動いているだけだから。ミスすることも、準備しすぎることも好きじゃない。ただ、2R目は自分の時間なんだっていうことで、もしこのラウンドで捕えられなければ、次のラウンド(ムエタイルール)へ行くのみ。で、1Rと同様のことが起きる。で、3Rが1Rと同様なら、4R(MMAルール)を迎えることになっただろう、つまり極めに行くってことだ。自分が4Rで彼をフィニッシュできないということは、彼も自分をフィニッシュしないということで、結果はドローになる──それだけのことさ」と淡々と語った。
試合後のマット上で、「この狂った試合のために周囲が準備をしてくれた。地獄になると分かっていたけど、リスクを冒さなければ誰もその名を覚えてはくれない。ロッタンはこの階級でハードヒッターだから」と、ビッグネームながら謙虚に語り、1Rのムエタイルールで立ち会った理由を語ったDJ。
大会後、チャトリ・シットヨートン会長兼CEOは、「ONEの歴史上、1つのイベントとして過去最高の収益を記録しそうだ。とても興奮している。新型コロナウイルスの影響で制限された収容人数でも、スタジアムは素晴らしいものになった」と興奮の面持ちで語っている。
成功の要因のひとつが、スウイングしたDJvs.ロッタンの試合だった。
「ひとつ気づいたのは、特別ルールのスーパーファイトをもっとやっていこうということ。試合はとても興味深かった。マット・ヒュームに言ったんだ。『クリエイティブ・セッションをやろう』ってね。『みんなで知恵を絞ろう。ロースターのどんな選手でも、どんなクレイジーなアイデアでも、どんな奇抜なことでも、文字通り、世界の誰もできない特別な楽しみをファンに与えることができるんだ。来週、一緒に考えよう』って」
自他ともに認める、この“クレイジーな試合”の成功は、余人をもって代えがたいデメトリアス・ジョンソンという格闘技のアーティストだからこそ可能だったともいえる『ONE X』の名勝負だった。
イベント後のスクラム取材で、チャトリ会長は今後、ONEがシンガポール以外の国で大会を開催する計画を明らかにし、マニラ、東京、そして、ONE世界ライト級王者オク・レユンをはじめ、秋山成勲、ハソ・ソヒを擁する韓国ソウルでの大会の可能性も示唆。また、2022年に米国のゴールデンタイムにONEを復活させるための新しい放送契約の発表が近いと語っている。