打って組む、組んで打つ、テイクダウンで徹底的に消耗させようと(塩田)
四つから右で差してクラッチした鈴木は、左足を広げてつっかい棒にして後方にそり投げ! そのままサイドを奪うことに成功する。ここで左で枕に巻き寝かせた鈴木、平本は鈴木の腰を押さえ何とか片足を戻すと、ロープを背に立ち上がりへ。
そこで鈴木は、組み技で一日の長を見せる。
ロープを背に手を着いて立とうとする平本の左手を、右手で掴んで、背中ごしに左手に回して「縛った」鈴木は、右手1本で防御しにくい平本に右を連打!コーナーを利して立ち上がった平本だが、連打に顔を腫らせダメージを負った。
鈴木のコーナーについたパラエストラ八王子の塩田GOZO歩代表は語る。
「今回は徹底的にMMAをやろうと伝えました。打って組む、組んで打つ、テイクダウンで徹底的に消耗させ、鈴木千裕のやりたい事を相手に押し付ける作戦でした」
強打のみならず、そこに組みを混ぜることで、平本を消耗させること。そして「削る」ためのテイクダウンを、鈴木は持っていた。
「千裕君は練習で差してからの投げは強いです。少し変則な部分もあるので、経験値の少ない平本選手には有効に働くと考えてました」と、右一本を差したときの鈴木の多少、捨て身気味の強引な投げも、MMA2戦目の平本相手には有効だったと語る。
平本も自らテイクダウンに行くことを想定していた、という。
「もともと僕はテイクダウンに行こうと思っていて、その展開にキツいとかはなかったですけど、実際の試合で抜けちゃう部分もあった。ちょっといろいろ打撃とか含めて、“総合格闘技”として、もっとできたなっていう部分が、本当に、本当にあるんです」と、1年3カ月ぶりの実戦で、思うようにいかなかったことがあると悔やんだ。
平本は相手に右を効かされてからのテイクダウントライを切られ、四つに持ち込まれて投げられ、サイドまで奪われた。この場面で、鈴木陣営は、作戦の遂行に自信を持ったことだろう。
ペルー人の父と日本人の母を持つハーフの鈴木は、骨格が大きい。フレームの大きな鈴木にとって、四つ組みは優位な体勢だ。さらに、MMAの試合経験で劣る平本はガードからの立ち上がりに不安を払拭できず、鈴木はその立ち際のMMAの打撃で削っていた。
実は、この1Rの攻防で鈴木は、両拳を「折った」と感じていたという。
「両手折りました。平本選手の眼窩底付近、目元付近が結構腫れていたと思いますが、そこへのストレートと左右のフックに行った時に『あ、これ多分折れたな』という感じで、序盤ですね。開始早々の打ち合いだと思います」と、序盤で武器を失いかけていたという。
「ボクシンググローブだとまだクッション性があるんですけど、オープンフィンガーグローブだと、自分の威力に拳が、骨が耐えられないんですよね、パワーがありすぎて(苦笑)。めちゃくちゃ痛かったです。でも僕は、試合で骨の1、2本くれてやろうと思っていたのでこれはしょうがないっすね。勝利への代償だなと思って。折って負けたら最悪ですが、折って勝ったのんでなんでもいいや」と、覚悟を決めて、その後も「それでもがむしゃらに行こうと思ったんですが、やっぱりところどころ痛くて、力が一瞬抜けちゃうところがあって、とにかく全力でやりました」と、組みを混ぜながら、打ち合いにも退かず、テイクダウンゲームを仕掛けたことを明かした。
組んでテイクダウンを続けると、消耗する。倒しても大きく殴るとスペースが出来る。その際で平本も立ち上がりを狙うため、自然と膠着が増えるなか、四つに組む鈴木に再三のブレークがかかった。3Rにわたる組みのなかで、鈴木の腕も消耗していたという。
「パンパンですよ! もう“やっべえ、こんなに乳酸溜まんのかよ!”と思いましたけど。応援してくれる人の声と、セコンドの声、『千裕、あきらめんな! 大丈夫、お前ならできる』という言葉を聞いて、“俺はここで負けちゃいけないんだ、ここで勝たなきゃいけないんだ”と、自分を奮い立たせながら戦えていたので大丈夫でした」と、タフな試合を競り勝てた要因を語る。