2019年6月9日(日)東京・後楽園ホールで開催される『REBELS.61』で、REBELS-MUAYTHAIスーパーバンタム級王者KING強介(fighting bull)と対戦するWMC日本スーパーバンタム級王者・大野貴志(士道館新座ジム)。
この試合の勝者は、8月18日(日)東京・大田区総合体育館『K.O CLIMAX 2019 SUMMER KICK FEVER』で行われる「MTM Presents KNOCK OUT初代スーパーバンタム級王座決定1DAYトーナメント」への出場権を得る。
大野貴志は言う。「アンダードッグ(かませ犬)が思い切り噛みついて、人生変えます」。(取材・撮影=茂田浩司/REBELS)
デビュー2年半で初タイトル獲得も、その後は伸び悩んだ「いつも踏み台。俺に勝った選手はみんな上がっていった」
格闘技を始めたのも、29歳の今もその道を歩んでいるのも、すべては格闘技が大好きな父親が強引、かつ熱心に息子の背中を押したからだ。
「7歳から空手の道場に入門したんですけど、父親に無理やり通わされました(苦笑)。中学1年の時に士道館新座ジムに入門してキックボクシングを始めたんですけど、自分の同年代だと空手かムエタイ。まだジュニアのキックはなかったですね。だから、中学の頃は練習もそこそこで(笑)、試合はまったくやってないです」
高校は1年で中退し、父親の経営する水道設備の会社に入社。職人として働きながらキックボクシングを続けて、2009年、19歳でプロデビューを果たした。
「最初に全部、父親と契約があったんですよ。空手も最初の頃はやりたくなかったし、キックもそうだったんで『ランカーになったら辞めていい』とか『チャンピオンになったら辞めてもいい』って、どんどんハードルが上がっていって、やってるうちに自分自身でキックにハマってました(笑)」
父親は熱心に応援してくれた。試合ともなれば、母親と連れだって観戦に来て、試合後は家で反省会が開かれた。
「試合に負けたらすげえ怒られました(苦笑)。父親なりに自分の試合を見て、自分のクセとかを研究してて、家に帰ると必ず反省会です。試合を振り返りながら『蹴りが出ねえ、パンチがこうだ』っていろいろ言われましたね」
父親は、残された時間とエネルギーをすべて、我が子が強くなるために使うと決めていたのだ。
「父親は肺気腫を患っていたんです。昔の職人なんで、アスベストとか一杯吸って、具合が悪くなってからは経営してた会社も畳んで。自分がデビューしてからはほぼ毎試合、母親と一緒に試合を見に来ていたんですけど、初めてタイトルを獲った後に、最期は肺がんで亡くなりました」
大野は2012年1月、MA日本バンタム級タイトルマッチに勝利して初めてベルトを獲得。プロデビューからわずか2年半でチャンピオンになり、格闘技の道に強引に導いた父は息子がベルトを巻く姿を見届けてから旅立った。
「試合前は必ず父親の仏壇に手を合わせて、それから会場に行きます。格闘技が本当に大好きだったんで、自分がタイトルを何個も獲ったり、REBELSで試合をしていることを喜んでいると思いますよ」 その後、大野は数々のタイトルを獲得し、王座を防衛してきた。
MA日本バンタム級王座は4度の防衛に成功し、2014年にはBigbangスーパーバンタム級王座を獲得(1度防衛)。2017年にはWMC日本スーパーバンタム級王座獲得。
輝かしい実績を残してきた反面、大野は何度も「屈辱」を味わってきた。
「自分はタイトルを獲ることにこだわりはなくて『勝ち負け』の方が大事なんです。これまで自分が負けた相手は、自分と試合した後に売れていくんですよ(苦笑)。注目されて格闘技雑誌にインタビューが何ページも載ったり、KNOCK OUTで活躍したり、大出世していく。自分はずっと『踏み台』にされてきたんです(苦笑)。 いつか絶対にリベンジしたいと思って、追いかけているとタイトル戦の話をいただくんで『じゃあここは頑張って獲ろう』と思って。それでタイトルを獲ってきましたけど、それを目的にしてやってきたわけじゃないです」
小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)も、大野がリベンジのチャンスを求めて追いかけてきた一人。2016年3月9日『REBELS.41』で対戦し、3RでTKO負けを喫した。小笠原は「2冠王の大野に勝利」という実績をたずさえて55kgのトップ戦線に浮上し、KNOCK OUTへ参戦。持ち前の攻撃力で55kgの中心選手に躍り出た。
一方、大野にはKNOCK OUTに参戦するチャンスすら与えられなかった。
「KNOCK OUTの関係者にはずっと『出たいです』とアピールしてましたけど『うん、見てるよ。チェックしてるよ』とあしらわれてて(苦笑)。『俺は評価されてない。これは無理だな』とあきらめかけていたんです」
だが、大野は思わぬ形でチャンスを掴むことになる。
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『かませ犬』だろうと、オファーを貰えたら自分の勝ち
今年1月、大野は『PANCRASE REBELS RING.1』の公開記者会見に出席。コメントを求められると、試合順や自分の扱いに対する不満を爆発させた。
「この試合がメインでもいいかな、ぐらいに思ってたんですけど、それだけの評価をされてない、と分かったんで(昼夜興行の昼の部第10試合)。テクニックとスピードで勝負して、しっかりとKOで勝って、試合内容で『REBELSのベルトを獲りにいく』と伝えます。(対戦相手の炎出丸とは)熱量が違う。上に行きたい選手は片っ端から倒して、以前負けた小笠原選手とやらせてほしい」(記者会見でのコメント)
ムエタイ現役王者シップムーンと戦う日菜太や「パンクラスレベルストライアウト」のぱんちゃん璃奈vs川島江理沙に注目が集まる中、大野の「異議申し立て」は強烈な印象を残し、山口代表は「ああいうアピールは良かった」と高評価。試合も炎出丸相手にアグレッシブに攻めて、2RでTKO勝利を収め「大野貴志」の存在をREBELSに刻みつけた。
大野にとって、記者会見は待ちに待った「チャンス」だった。
「あんなにちゃんとした会見は初めてだったんです。自分がどういう考えを持ってるかをもっと知って貰えたらいいと思うんですけど、なかなか言う機会もないんです。普段の大会だと試合前のインタビューといってもアンケートに答える形で、自分は文章を書いて伝えるのが苦手なので(苦笑)。 あの時は『炎出丸選手(元J-NETWORK王者)も自分もお互いにタイトルを持ってるんだから、もっとなんかあってもいいんじゃないか?』と思ってたので、素直に言おう、と。会見が終わった後で『あ、山口さんが横にいたんだ』と気がつきました(苦笑)」
大野にとって、1戦1戦が大事な勝負だった。昨年5月に職人の仕事を辞めて、現在に至るまで「キックボクシング1本」で生活をしているのだ。
「ずっと職人との二足の草鞋でやってきたんですけど、来年3月で30歳になるし、一度キック一本で勝負をしてみよう、と。最高の環境に自分を置いてどこまでトップ選手たちと戦えるか。もうそれしかなかったです。そこまで自分で自分のケツを叩いたらもっと上に行けるのか、自分に挑戦してみたかったんです」
キック1本にして練習に専念したことで、試合内容にも変化が現れた。
「基本、1日2部練ですけど、ボクシングは毎日ボクシングトレーナーに教わってキックと同じぐらいパンチの練習をしてます。元々パンチが好きなんですけど、もっと磨きを掛けてきて、今、3連続でKO出来てます。炎出丸選手との試合も本当はパンチで倒したかったんですけど、ヒジ3発打って2発切れました。ずっとヒジありの試合をやってるんでヒジの練習はしてきましたけど、ヒジでのTKO勝ちは初めてで(笑)。それも、パンチの練習を積んで踏み込みが速くなったからかな、と。結果として出てきてるんで、キックに専念してみてよかったと思ってます」
自分自身、進化している確かな手応えを感じているタイミングで、今回のチャンスが舞い込んできた。「KING強介戦が決まる前から『6月に勝ったら8月がある』とは聞いてて。でもいろんな人が調べて『どうも8月はREBELSじゃないらしいぞ』『でも何のタイトルだろう?』と(笑)。薄々は気づいてましたけど、まさかプロデューサーが山口さんに代わって、いきなりKNOCK OUTの55kgトーナメントをやると思わなかったし、そこに自分が出れるチャンスを貰えるとは。あの発表があった後は周りからも『KNOCK OUTに出れるの? テレビに出れるの?』って、反響が全然違いますよ」
大野は、自分がどう見られているかをよく分かっている。
「REBELSに行けば、REBELSチャンピオンのKING強介選手の応援が多いだろうし、KNOCK OUTのお客さんは『トーナメント決勝戦で江幡塁vs小笠原瑛作』を期待してるだろうし。だから、自分が出ていけば『なんだ、あいつ。知らねえよ』ってなるでしょう。全然いいです。むしろ、そう思って貰った方が美味しいんで(ニヤリ)。『かませ犬』だろうと、オファーを貰えたら自分の勝ちなんですよ。それでプロデューサーの考えを覆して勝ち上がったら最高じゃないですか(笑)。『絶対に勝てない』と言われてる方が気持ちも乗るんで」
士道館新座ジムの工藤秀和会長は言う。
「大野の良さは我慢強いところです。運動能力はそんなに高くなくて、不器用で、怪我も色々としてきましたけど、それでも我慢して上を目指してやってきました。今回、チャンスはチャンスですけど『勝負』です。負けたら後がないですから、思い切り勝負に行かせます」
大野は「倒して勝つこと」しか考えていない。
「会長にはデビュー前から『プロは倒す選手じゃないといけない。判定ばかりで勝ってるようではダメ。格闘技はスポーツじゃない』と教えられてきて、ムエタイの選手みたいな、綺麗にテクニックを見せて、ポイントを取って勝つ試合は出来ないんで。 自分は勝つ、イコールKO。KOを逃して判定になったら負けます。そんな試合をするんで。 KING強介選手との試合は、相手がどうこうよりいかに練習したことを冷静に出せるか。セコンドにはいつも『冷静に、行き過ぎるな』と言われるんですけど、攻撃し始めるとブアーっと行きたくなるんです(苦笑)。KING選手は魂のこもったパンチで打ち合いを仕掛けてくるだろうから、パンチで打ち合ってもいいし、実は自分はどの攻撃でも倒せる武器は持ってるんで。『倒せるチャンス』は逃がさないですし『倒せる選手だ』とアピールしたいですね」
KING強介を倒せば、念願のKNOCK OUT参戦が決まる。
「人生を変えたいです。テレビに出たいし、街中で声を掛けられたいです。一度、試合が終わった後に池袋で酔っ払いに『さっき見てたぞ!』って声を掛けられて、後楽園ホールにいた誰かの応援なんだろうけどそうじゃなくて(苦笑)。
自分、これまでタイトルを何個か獲らせて貰って、今、引退しても『キックボクサーをやってた』と胸を張って言えるんですよ。
ただ、みんなチャンピオンを目指して頑張ってるんですけど、チャンピオンになっても何も変わらないです。『じゃあもう1個獲ったら有名になれるの?』と思って頑張っても、タイトルを何個獲ろうが会場の外に出れば誰も知らない。それじゃ一緒なんですよね。
ベルトの数じゃなくて、自分のキャラと戦い方のスタイルで売れていくんだな、と分かったのがKNOCK OUTです。だから、今回は自分がどんなスタイルで、トップ選手相手にどんな勝ち方が出来るのか。それを見られると思うんで『コイツ、チャンスを目の前にした時は本当にすげえな!』って思われる試合をします。
今回は、チャンスはチャンスだけど、ここで掴めなかったら消えるだけですよ。だから、とにかく倒す。自分の底力を見せて倒して上に行く。頑張ってる後輩たちにも、チャンスを掴めばこうやってインタビューを受けたり、雑誌に載ったりして、顔も売れていくし、人生が変わるんだ、というところを見せたい。
KING強介、江幡塁、決勝戦は小笠原瑛作でしょう。『アンダードッグ』(かませ犬)が主役に噛みついて、倒してのしあがっていくところをぜひ見に来てください」
<プロフィール>大野貴志(おおの・たかし)所 属:士道館新座ジム生年月日:1990年3月5日生まれ、29歳出 身:埼玉県新座市身 長:166cm戦 績:2009年5月デビュー。38戦25勝(14KO)12敗1分WMC日本スーパーバンタム級王者。第17代MA日本バンタム級王者。第3代Bigbangスーパーバンタム級王者。
■KING強介のコメント。「この試合は『瞬間』で仕留めるので、絶対に見逃さないように。REBELSのチャンピオンとして、REBELSの看板を背負ってる俺の拳は重いよ! 勝って、新たな標的とやれると聞いて、ますます燃えてきた!!」