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2022年12月11日(日本時間12日日)、米国ネバダ州ラスベガスのT-モバイルアリーナにて『UFC 269: Oliveira vs. Poirier』が開催される。
メインイベントは、UFC世界ライト級王者シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)が、同級1位のダスティン・ポイエー(米国)を迎えうつライト級王座初防衛戦。この試合の見どころを、WOWOW「UFC-究極格闘技-」の解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛氏に語ってもらった。
5R戦のスタミナがポイントに
――『UFC269』ではライト級タイトルを懸けた大一番、オリヴェイラvs.ポイエーがついに実現しますね。
「そうですね。自分なんかすごく楽しみな反面、正直“困ったなあ”という感じもあったりするんですよ。“この二人、戦わせちゃうの?”って(笑)」
――困っちゃいますか(笑)。
「もしUFCが2リーグ制だったら、2人とも世界チャンピオンでいいかなと(笑)。それぐらいの実力者であり、スター選手ですからね。その両者のどちらかに黒星が付いてしまうと考えるとつらいんですけど、これがまたUFCの醍醐味ですから」
――両者の前回の試合、オリヴェイラvs.マイケル・チャンドラー、ポイエーvs.コナー・マクレガーも“どっちも負けてほしくない”という感じの試合でした。
「それぐらい今のライト級は充実しているし、その頂上対決が見られるというのは、ファンにとってたまらないとは思いますね」
――では、高阪さんはこの試合のポイントをどのあたりに置いていますか?
「オリヴェイラは打撃でKOもできる寝技のスペシャリストで、ポイエーの方は、打撃のラッシュで畳み掛けるタイプのオールラウンダー。ポイントはいろいろあると思うんですけど、今回は5ラウンドのタイトルマッチということで、スタミナ面がポイントのひとつになると思います」
――王者オリヴェイラは、前回、初のタイトル戦となったチャンドラー戦では2ラウンドTKOで勝利しているので、5ラウンドをフルに戦った経験がまだないですよね。
「そうなんです。ただ、結果的に早いラウンドで勝利していますけど、このところのオリヴェイラの試合を見ると、長いラウンドを想定して戦っていたと思うんです。具体的には“寝技をやりすぎない”ということを、やっていたかなと」
――寝技師のオリヴェイラが、あえて寝技を制限していた、と。
「オリヴェイラって、寝技が得意なだけじゃなく寝技の展開自体が好きだから、以前はついつい寝技をやりすぎてしまっていたことがあったんですよ。極めて勝てればそれでもいいんですけど、凌がれて
しまったときは疲れてしまって、その次のスタンドの展開で不安定さが出てきたり、ガードが下がったり、体が流れながらパンチを打ったりとか、そういうことが起こりがちだったんです」
――寝技の強さが諸刃の剣になっていた、と。
「その反省から、試合全体のバランスを考えて、“出力のコントロール”をし始めたと思うんです。あえて打撃の展開を増やして、そこにうまく寝技を混ぜていくような感じで、寝技でそこまで体力を使わないようにするという。そういったスタイルにたどり着いたんじゃないかな」
――なるほど。ただ単に打撃技術を向上させたわけじゃないんですね。寝技の極めが強い分、出力も大きいから寝技でのスタミナロスも激しいので、スタンドでも勝負できるようにするという。
「相手からしたらオリヴェイラは寝技が強いのは分かっているので、寝技でやり合うんじゃなく、凌ぐ、逃げるということをするわけですよ。それを追いかけていくっていうのは疲れるんです。だから追いかけすぎないようにして、立ち技と寝技のバランスがうまく取れたスタイルに変わっていった」
──それが9連勝に繋がっているわけですか。
「そういう気がしますね。試合全体のコントロールができるようになっていったので。たとえば前回のチャンドラー戦なんかでも、1ラウンドにパンチを効かされて、手を着いて四つん這いの体勢になりながら、頭を振ってパンチを受けないようにするという動きがあったんですよ」
──パンチを効かされてタックルに行ったけれど、切られたときですね。
「そうです。オリヴェイラ的には、あのまま仰向けになって、すぐガードポジションから足を取りに行ったりするなど、選択肢としてあったと思うんですよ。でも、そうじゃなく、四つん這いの体勢でちょっと時間を使ってダメージを回復させて、寝技で体力を使いすぎないようにする。そういうことを頭に入れていたからこその動きだったんじゃないかと思うんです」
――温存することで、勝負所で得意の寝技を最大限に使うこともできるでしょうしね。
「寝技に頼りすぎないことで、より寝技を活かすことができるという。だからオリヴェイラとしては、今回も5ラウンドマッチを見越して、出力のコントロールを考えた、寝技を抑え気味にした組み立てにするんじゃないかなと思います」
――一方、ポイエーはどうですか?
「ポイエーはフルラウンド上等のスタミナの化け物ですよね。だけど、あれはただスタミナがあるというだけじゃなく、さっき言った“出力”をナチュラルにコントロールできるタイプな気がするんです」
――激闘型に見えて、じつは全体的なバランスを考えた戦いができているわけですか。
「でも、ポイエーの戦い方を見てると、どう見ても全力でやってるようにしか見えないんですよね(笑)」
――猛烈なラッシュをしますしね(笑)。
「あとはパンチを打たれたら、強いのを打ち返すし。スクランブル状態になったときの動きとか、空振りもけっこう多いので、“これ、ずっと全力でやってるんじゃないの?”って思ったりもするんです。でもよくよく見ると、打撃の打ち合いになったとき、本人が意識してのことか分かりませんが、突然タックルに行ったり、急に四つ組みになって、ケージに押し付けたりとかしてるんです」
――絶妙なタイミングで全力の打撃をやめて、組んで相手のスタミナを削る展開に切り替えている、と。
「マクレガー戦でもそういう動きが見えたし、マックス・ホロウェイ戦なんかはとくにそうでしたね」
――ホロウェイ戦は5ラウンド戦って判定勝ちでしたけど、あの後半にめっぽう強いホロウェイが、ポイエーには後半攻め込まれていましたね。
「ダン・フッカーとの試合もそうでしたしね。だから、スタミナを使っているように見えて、実はちゃんと温存しているから、試合後半に“予備タンク”があるかのように、さらに動けるようになったりもする。だから最終的にぐちゃぐちゃの競り合いになったら、“スタミナは俺のほうがあるぜ”っていう自信は間違いなくあるでしょうね。そういう意味で今回は、なんだったら序盤からスクランブル仕掛けるかもしれないですね」
――わざとオリヴェイラのスタミナを使わせるようにする、と。
「スクランブルから寝技になって、オリヴェイラが力いっぱい極めにいったけど、ポイエーは脱出してスタンドに戻すような展開が何度も起こったら、オリヴェイラのほうがスタミナ切れを起こすことが考えられますから」
――では、長丁場になればポイエーが有利かもしれない。
「ただ、オリヴェイラもそういう展開になることを想定して、最後の最後にスタミナなり技なりを取っておくことも考えられますからね。やっぱりポイエーはキツくなると、どうしてもタックルに行きがちなんですよ。ということは、フロントチョークを取られやすくなるわけで。ポイエーも他の選手なら首を取られることはなくても、オリヴェイラなら、動けないように固めてからもう一度絞めるような形にもできる選手なので。これはもう、試合が長くなればなるほど、お互いの思惑が見え隠れする試合になるんじゃないかなと思うんです」
――お互いスタミナの出力を考えながらの競り合いになりそうですね。
「そうなると、相当面白い試合になりますよ。これは最後まで一瞬も目が離せないんじゃないかな。この試合で勝ったほうが、間違いなく現時点でのライト級の頂点と言っていいと思います。ただ、次の挑戦者にはジャスティン・ゲイジーが待ち構えていますが」
――“最強を名乗るのは、俺を倒してからにしろ”って感じでしょうね(笑)。
「それ以外にもイスラム・マカチェフみたいな組みが異様に強い選手も出てきたし。だから今回のオリヴェイラvs.ポイエーは、ライト級頂上対決であると同時に、新たなライト級大戦争の始まりのような気もするので、これからますます楽しみです」(取材・文/堀江ガンツ)