家族を語るとき時折目を潤ませたクレベル。フェザー級世界ランキングで50位以内にランクされる唯一の日本のファイターだ。(C)ゴング格闘技
2021年6月13日『RIZIN.28』東京ドーム大会で、朝倉未来(トライフォース赤坂)を三角絞めで極めて一本勝ちしたクレベル・コイケ(ボンサイ柔術)がインタビューに応じた。
2020年大晦日にカイル・アグォン、2021年3月に摩嶋一整、6月に朝倉未来と、わずか半年で3人の強豪をいずれもフィニッシュしての勝利で、フェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ小岩)とのタイトルマッチ目前かと思われたクレベルだが、9月30日の会見後に、RIZINの榊原信行CEOは、現在「クレベルと契約が無い」こと、「クレベルが体重を落とせず10月24日の試合を受けなかった」こと、「『11月7日だったら体重を落として受ける』と返答があったものの、怪我により試合を断った」と明かした。
その後、クレベルはマネージメントを通じて、「私自身、この試合をずっと待ち望んできました。大一番を迎える中、足の怪我により立ち技のトレーニングが全く出来ず、試合をキャンセルする事は苦渋の決断でとても悲しい気持ちでした」と、左足首負傷の写真とともに、声明を発表。練習中の怪我が原因で、大晦日前の試合を受けられなかったことを発表している。
望んでいた王者とのタイトルマッチは、10.24 横浜大会でなぜ実現しなかったのか。本誌では、クレベルのマネージメント山田重孝氏とともに、クレベル本人に取材を行った。
クレベルは濃厚接触者として、隔離生活をしていた
――2021年6月13日の東京ドームでの朝倉未来戦以降、クレベル・コイケ選手の次戦が決まっていません。RIZIN側の説明では「現在、クレベルと契約が無い」こと、「クレベルが体重を落とせず10月24日の試合を受けなかった」こと、さらに、「『11月7日だったら体重を落として受ける』と返答があったものの、怪我により試合を断った」とされています。この経緯について、今回はクレベル選手本人とマネジメントの山田重孝氏にお話をうかがいます。まず現在、RIZINとは契約が切れている状況でしょうか。
山田 その部分は最初に私がお話した方がいいでしょう。契約が切れたというよりは、クレベルの場合は1試合毎の契約だったんです。朝倉未来戦が急に決まったこともあり、複数試合契約の話もいただいたんですが、とても折り合うものではなかったから、今回も1試合の契約となりました。その代わり、他の団体等からオファーが来てもお断りするようにしますと。その際に、「大晦日にカイル・アグォン選手、3月に摩嶋一整選手に一本勝ちしているので、6月に朝倉未来選手に勝ったら、次は年末にタイトルマッチですよね」という話をしたんです。その際にRIZIN側からも「決定ではないですけど、そういう流れになるでしょうね」という電話のやりとりがありました。クレベルとしてもそこに賭けてやってきたわけです。
――口頭で言っていたと。その後、契約が無いなか「10月、11月大会で斎藤裕選手とタイトルマッチで」というオファーが来たということでしょうか。
山田 10月、11月大会の前に、7月12日の時点で9月19日に予定されていた神戸大会のオファーをもらっています。でも次は12月という話になっていたから、クレベルは別の仕事を入れてしまっていた。何より連戦で疲れているから休ませたいし、本人も休みたいと。だから9月は「難しいです、お断りします」と返しました。その後、「9月19日が新型コロナウイルスの影響で流れそうなので、10月23日にタイトルマッチで」と言われたんです。それも前述の理由でお断りしました。
その後、8月下旬にRIZIN側と電話で話している頃、クレベルの近親者にコロナの陽性反応が出て、クレベル自身は陰性だったんですが、濃厚接触者になってしまいました。9月4日に、座間の私のやってる道場アラバンカ柔術アカデミーで榊原(信行)代表と笹原(圭一・広報事業)部長とお話をして、このときは10月24日に日付が変わっていましたが、大会出場を求められ、そこでも「クレベルが濃厚接触者になっており、道場も封鎖されている。隔離されて練習もできない状況なので体重も落とせない」と伝えました。それが「体重が落ちない」という言葉だけがマスコミに伝わっているのだと思います。
――いまは誰がどこでコロナに感染してもおかしくない状況です。何ら責められることはありませんし、濃厚接触者が隔離期間を守ることは重要です。そして道場もいったんクローズしていたと。
山田 体重もそうですが、せめてタイトルマッチにはベストコンディションで臨ませてあげたいです。何より、最初から年末ということでスケジュールを組んでいましたから、その前に「やる・やらない」の話はしていない。7月12日の最初のオファーの時点でお断りしているんです。だから「3カ月前からオファーしている」と報道されましたが、その時点で明確にお断りしていました。
――それがもし大晦日だったら受けていましたか。
山田 もちろん受けていました。約束どおりですから。
――しかし、榊原CEOはクレベル側から「『11月7日だったら体重を落として受ける』と返答があった」と言っています。
山田 9月4日に、コロナのこともあり10月24日大会をお断りした際に、「どうしてもなんとかならないか」と言われ……2週間あれば何とか隔離生活からの出来なかった練習と身体の立て直しもできる、そこから追い込み練習が出来ればと思い、お互いの落とし所と考え、「11月半ばか、その手前であれば可能です。そこであれば私が責任を持って約束します」と答えました。その後、9月14日の昼に「11月7日に会場が取れる」と連絡が来ました。そこでクレベルに連絡したところ、昼は確認が取れなくて夕方に連絡が取れたら、「怪我をした」と。
【写真】左足関節外側靭帯を損傷したクレベルは(写真左)、1カ月の安静・加療が必要とされており、現在(写真右)は改善傾向にあるという。
――11月7日の会場が決まった日に、連絡をしたらクレベルが怪我をしていたことが分かったと。
山田 そうです。それで「診断書を出してください」と言われ、診断書を提出しました。そうしたらRIZINから「ウチの主治医で診断書を」と言われて。町医者と言われましたが、その病院は整形外科も内科も脳神経外科もある国に認められた病院で、そのドクターに診断してもらったのだから、「そこまで言うのなら先生同士でお話ししてもらってください」と伝えました。その頃、クレベルは9月19日の大会に出場するヒロ(ヤマニハ)の練習に付きっ切りでしたから、移動も難しい。それでRIZINのドクターの方と、今回クレベルを診断したドクターの方で、話し合っていただいています。その後、10月24日横浜大会の会見があり、「怪我以前にクレベルの体重が落ちないから試合キャンセル」という話になっていました。
――なるほど。そこには、最初に年末タイトルマッチの前提があったこと、コロナでの体重の問題があったことは語られていないということですね。では、クレベル選手自身は2021年の半年で3試合を戦って、次戦をいつ頃にしたいと考えていましたか。
クレベル(通訳を通じて)朝倉未来選手に勝った後は、やっぱり年末という話だったので、大体その方向に向いていました。半年で3試合を戦って、タイトルマッチに辿り着いた。そこまでに怪我もあったし、応援してくれるファンのためにももう100パーセントの状態で斎藤チャンプと戦いたい。朝倉選手との試合は向こうから指名があったし、決まったときは結構、急でした。受けるしかないと思いましたが、年末のタイトルマッチは100パーセントの状態で行きたい。今まで言われた通りに試合も全部受けてきた。急でも受けたし、朝倉選手が一番強い。突然でも受けた目的はベルトのためでした。もしコロナと怪我が無ければ、11月でも受けることになるのかなとも考えていました。それで、やる以上はタイトルマッチだから、中途半端で戦いたくない。もうコンディションが一番大事でした。