2021年8月7日(日本時間8日)、米国テキサス州ヒューストンのトヨタセンターにて「UFC265」が開催される。
メインイベントでは、ヘビー級2位のデリック・ルイス(米国)と、3位のシリル・ガーヌ(フランス)が暫定王座を争う。正規王者のフランシス・ガヌー(カメルーン)には、今大会での防衛戦の打診があったものの「準備が間に合わず」UFCは暫定王座決定戦を行うことを決めた(※2021年3月にスティーペ・ミオシッチから王座を奪取したばかりのガヌーは不満を表明している)。
MMA25勝7敗のルイスは、2月大会でカーティス・ブレイズに2R KO勝ちして以来の試合で、現在4連勝中(ブラゴイ・イワノフ、イリル・ラティフィ、アレクセイ・オレイニク、ブレイズに勝利)。今回は2年9カ月ぶりのタイトルマッチで、前回の王座戦は2018年11月の「UFC 230」で当時同級王者だったダニエル・コーミエーに挑戦し、2Rリアネイキドチョークで一本負け。戴冠はならなかった。
ガーヌは、前戦となる6月26日の大会でアレキサンダー・ヴォルコフに判定勝ちして以来、わずか1カ月2週間のインターバルで暫定王座戦に臨む。MMA9勝0敗で、上位どころの相手では、2020年12月にジュニオール・ドス・サントスを2R 右ヒジでTKOに下すと、2021年2月にジャルジーニョ・ホーゼンストライクに判定勝ち。6月にはヴォルコフにも判定勝ちしており、UFC6勝0敗で王座戦を決めた。
果たして“神の階級”で暫定ながらベルトを巻くのは、ルイスかガーヌか。その先には正規王者も待っている。この試合の見どころを、WOWOW『UFC-究極格闘技-』の解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛氏に語ってもらった。
ルイスはスタミナ切れを餌にして、隙ができた相手を逆に食ってしまう
――「UFC265」のメインイベントは、デリック・ルイスvsシリル・ガーヌの「ヘビー級暫定王座決定戦」となりました。この一戦、ヘビー級好きの高阪さんの大好物じゃないですか?
「そうですね。しかも、ヘビー級の中でも特にファンタジックなデリック・ルイスですから(笑)」
──技術や理屈を超えた存在という(笑)。
「これだけ技術が進歩したUFCという最高峰の舞台で“1発当てれば倒せる”という試合をやってきてますからね」
──UFC屈指のハードパンチャーで現在4連勝中。直近2試合はパンチでKO勝ちしてます。
「またルイスは意外とハンドスピードが速いんですよ。体型を見るとお腹は出てるし、全体的な動きは速いとは言えないけど、パンチ自体は速く打てる。だから相手からの見え方が、野球のチェンジアップからのストレートじゃないですけど、スローな動きからいきなり速いパンチが飛んでくるから、対応しづらいんだと思いますね」
――速いパンチが、実際よりさらに速く見えるわけですね。
「あとは、必ず自分も(相手の打撃を)打たれるし、テイクダウンも取られるのに、後半、なんだかんだで復活してくるんですよ」
――たしかにスタミナなさそうに見えて、逆転勝ちが多い。
「試合途中でヒザに手をついて、見るからにスタミナ切れを起こしているにもかかわらず、相手が仕留めようとして近づくと速くて強いパンチが飛んでくる。スタミナ切れを“エサ”にして、隙ができた相手を逆に食ってしまうという。それを本人が意図的にやっているのかどうかは別として、相手は一瞬、気を緩めた瞬間に仕留められてるんです」
――あのヘロヘロの姿を見たら“もう少しで倒せる!”と誰でも思いますもんね。
「それで前に出てきたら、カウンターのオーバーハンドを入れたり、前回はアッパーでカーティス・ブレイズを完全KOしてますからね。そういった打撃技術は本当に高いんですよ」
――そしてUFCで積み重ねたKOが12回。これはUFC史上最多KO勝利記録です。
「これだけ技術体系がしっかりできているUFCにおいて、そのKO率は普通じゃないですよ。その記録だけ聞いて、“どんなすごい技術を持っている奴だ?”と思ったら、見た目は全然テクニシャンタイプじゃないっていうのが、面白いところですよね」
――試合後、暑いからってオクタゴンの中でトランクスを脱いで、怒られちゃうような、憎めない選手です(笑)。(※2018年10月の「UFC229」でアレクサンダー・ヴォルコフを3R KOに下した後のジョー・ローガンによる勝利者インタビュー中に「股間が熱くて」とショーツを脱いだ)
「“怪童”って感じですよね(笑)」
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ガーヌはこれまでピンチらしいピンチを経験してない
――そんなルイスに対して、シリル・ガーヌは長身で運動能力が高く、非常にバランスの取れた“戦士”という感じの選手です。
「本当に対照的ですよね。ルイスはベタ足で強打を振るうタイプですけど、ガーヌはもともとサッカーやバスケットボールの選手だったからか、サイドステップをはじめとした、ステップワークがすごくいいんですよね。あんなにデカい選手なのに、オクタゴンを前後左右、縦横無尽に動くことができる。それはやはり、もともとやっていた競技が影響しているのかもしれない。サッカー、バスケなんて、サイドステップが踏めないと、話にならない競技ですから」
――そのフットワークがあるからこそ、MMA転向前、キックボクシングでも13戦全勝という戦績を残せたのかもしれません。
「身体能力が高いんで、いろんなことに対応できるし、余裕を持って戦えてるんですよ。また、フットワークと距離感をつかむのが非常に上手いので、相手からすると自分の距離設定にさせてもらえないんです」
――ジャルニーニョ・ホーゼンストライクなんかも、翻弄されてしまっていました。
「結局、“追いかけっこ”になったら、ガーヌの方が速いので、捕まえられないんですよ。ガーヌは踏み込みも速いし、相手から離れるのも速い。だから自分の打撃だけ当てて、相手の打撃はもらわないことがしっかりできる。ヘビー級ではなかなかいないタイプですね」
――“蝶のように舞いハチのように刺す”ことができると。
「動き的にはそうですよね」
――だからこそ現在MMA9戦全勝、UFC5戦全勝とパーフェクトレコードを誇っているという。
「ガーヌはこれまでピンチらしいピンチを経験してないんですよね。だけど逆に言うと、そこが若干の心配材料でもあるんですよ。自分のペースで試合を進められているときは自在に動けますけど、相手が構わずバンバン出てきてピンチに陥ったとき、果たして彼本来の動きができるのかっていうのは、まだ未知数ですから。もし、デリック・ルイスの重いパンチをもらって効いてしまったとき、どう戦えるか。そこに興味がありますね」
――そういう危機に陥る状況こそガーヌにとって未知の領域なので、そこで本当に力を発揮できるかが、心配材料だと。
「そうですね。ただ逆にいうと、今のところそれぐらいしかガーヌにウイークポイントは見当たらないんですよ。あえてそれを指摘する必要はないのかもしれませんけど、本当に目指す頂、ヘビー級の正規チャンピオンは圧倒的な強さを誇るフランシス・ガヌーですから。“今のうちに”と言ったらおかしいですけど、本当の意味でのコンプリートファイターになっておかないと、今回ルイスに勝てたとしても、フランシス・ガヌーとの統一戦になったとき、さあどうなのかという」
――今回はあくまで暫定王者決定戦ですから、その後の正規王者ガヌーを倒すことまで考えて、自分を作り上げる必要があるということですね。
「シリル・ガーヌの場合はそうですね。一方、ルイスが暫定王座戦で勝ってフランシス・ガヌーと統一戦をやっても、いつもとあまり変わらない試合をすると思うんで(笑)。フランシス・ガヌーであろうとも、自分のパンチが当たれば勝つっていう、そこに確信を持っているはずなんで。そこがルイスの強みですね」
――ヘビー級は正規王者フランシス・ガヌーの他にも、ライトヘビー級絶対王者だったジョン・ジョーンズが挑戦してくるという話もありますし、前王者スティーペ・ミオシッチもタイトル奪還を諦めてなかったりと、メンバーがかなり充実してきてます。
「だから今回のルイスvs.ガーヌの暫定王者決定戦は、“真のヘビー級最強を決める戦いの始まり”という印象を自分は持ってますね。勝ったほうが正規王者フランシス・ガヌーと統一戦をやって、そこにジョン・ジョーンズ、ミオシッチなども加わる“ヘビー級大戦争”がいよいよ開幕する。その第一弾としてルイスvs.ガーヌは非常に楽しみなカードだと思います」(取材/文・堀江ガンツ)
◆放送・配信スケジュール『生中継! UFC‐究極格闘技‐ UFC265 in ヒューストン ヘビー級暫定王座決定戦 ルイスvsガーヌ』
8月8日(日・祝)午前11時[WOWOWライブ]※メインカード生中継(WOWOWオンデマンドで同時配信)
8月9日(月・休)夜6:40[WOWOWライブ]※リピート(WOWOWオンデマンドで同時配信)
UFC 265: Lewis vs. Gane
【メインカード】
▼ヘビー級暫定王者決定戦 5分5Rデリック・ルイス(米国)シリル・ガーヌ(フランス)
▼バンタム級 5分3Rジョゼ・アルド(ブラジル)ペドロ・ムニョス(ブラジル)
▼ウェルター級 5分3Rビセンテ・ルーケ(ブラジル)マイケル・キエーザ(米国)
▼女子ストロー級 5分3Rティーシャ・トーレス(米国)アンジェラ・ヒル(米国)
▼バンタム級 5分3Rソン・ヤドン(中国)ケイシー・ケニー(米国)
【プレリミナリー】8月8日午前7時(UFC Fight Pass、YouTube)
▼ライト級 5分3Rラファエル・フィジエフ(キルギス)ボビー・グリーン(米国)
▼バンタム級 5分3Rドラコ・ロドリゲス(米国)ヴィンス・モラレス(米国)
▼ライトヘビー級 5分3Rエド・ハーマン(米国)アロンゾ・メニフィールド(米国)
▼女子ストロー級 5分3Rカロリーナ・コバルケビッチ(ポーランド)ジェシカ・ペネ(米国)
【アーリープレリム】
▼フライ級 5分3Rマネル・ケイプ(ポルトガル)オデー・オズボーン(米国)
▼バンタム級 5分3Rマイルズ・ジョーンズ(米国)アンダーソン・ドス・サントス(ブラジル)
▼女子フライ級 5分3Rヴィクトリア・レオナルド(米国)メリッサ・ガト(ブラジル)
▼バンタム級 5分3Rジョニー・ムニョス Jr(米国)ジェイミー・シモンズ(米国)
【出演】解説:高坂 剛、堀江ガンツ実況:高柳謙一
■生中継前後に出演陣のYouTube配信『スタジオ裏トークUFC265』YouTube「WOWOWofficial」WOWOW番組オフシャルサイト