2021年6月13日(日)東京ドームで開催された「RIZIN.28」で、フェザー級王者として、ノンタイトル戦でアゼルバイジャンのヴガール・ケラモフと対戦した斎藤裕(パラエストラ小岩)が試合後、会見。さらに、試合翌日に自身のYouTubeチャンネルを更新した。
上下の蹴りを当て、左フックでフラッシュダウンを奪いサッカーキックを当てた斎藤。右を返し、再三のテイクダウンを決めたケラモフに立ち上がる斎藤という試合展開のなか、ケラモフにはイエローカードが出されたこともあり、判定は2-1のスプリットで斎藤が接戦を制した。
物議をかもした判定だったが、RIZINはラウンド毎の10点法ではなく、「15分間の試合全体で評価」するトータルジャッジで、判定基準の優先順位が「相手に与えたダメージが50%」「アグレッシブネスが30%」「ジェネラルシップが20%」というもので、ケラモフは「ロープ掴みとショーツ掴み」によるイエローカードによる「マイナス20%」が大きく響いた形になった。
試合後の会見で、「展開的に厳しい試合でした。ケラモフ選手、強かったですし。パワーはあると思っていたので序盤の勢いというか力は強かったですけど、1Rをやってみて、たぶんケラモフ選手はテイクダウンからトップキープという作戦だなと思ったんで、後半につれて、だんだん力も落ちていくかなというふうに思っていました。その後半に、自分が諦めずに気持ちを切らさずに動き続けようと思ったのが良かったのかなと思います」と勝敗を分けたポイントを語っていた斎藤。
その後、病院で右瞼の傷を「6針縫った」後、YouTubeを更新。「交通事故にあったみたいで、滅茶苦茶身体が痛い」と苦笑しながら、ケラモフ戦を総括した。
「反省点はたくさんある」としながらも「いまあの選手とやることは意味があると思って受けた。実際やってみてパワーがあって、ダーティさ、荒々しさもあったし、日本人選手で同じ階級であのフィジカルの選手はいるのかなと思う。やはりケラモフ選手とやったことは意味があった」と振り返った。
その一方で、ケラモフのダーティワークには、「とにかく荒い。ダーティー。ショーツを握られてたり、(脇を)差されているというより、ガシッと握られてる。細かいところで随所で“そういうことするんだ”という感じでしたね」と苦言を呈した。
1Rの組みの攻防からヒザ蹴りの動きのなかで、斎藤のショーツを掴んでいたケラモフ。両差しでクラッチを組んだ斎藤は、小外がけで崩すも、ケラモフは左手、さらに右手でロープを掴んでテイクダウンを阻止している。
「1Rにクラッチを取れて、(相手が)ロープを掴まなければテイクダウンは取れたから、ダーティというより反則」と強い口調の斎藤は、ケラモフからほかにも反則攻撃を受けたことを明かす。
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瞼のカットはバッティングだった。再開後にサミングも
「バレなきゃ反則じゃないみたいな、確信犯。それもテクニックのひとつだと思いますけど、明らかなロープ掴みとかは違う。悪意があるか無いか」という斎藤は、1R終盤、ロープ際での攻防でレフェリーにサミングの反則を訴えている。
「指とかが入って、1Rの終わりくらいかな、上に乗られて叩かれて叩いた後にやったり……してきてた。傷口だったらいいんですけど、目とか(指を)ぐりぐりやられるのはヤバいじゃないですか。だからすぐに言いました。『目に指を入れてる!』って。外国人選手、見えないところでそういうのをやることはあるんですよ」
さらに1Rには場外転落、カットのアクシデントもあった。
【写真】拡大するとこのヒザ蹴りの時点では瞼は切れていない。
【写真】偶発的なバッティング後、斎藤の右瞼が切れていることが分かる。
スタンドで斎藤は左ミドルを脇腹にヒット。続く右オーバーハンドと、ケラモフの右が交錯。ここで斎藤は頭を左下に傾けて打っているため、頭同士が当たっているようには見えない。公式動画とは異なる本誌カメラで確認したところ、その直後の首相撲の攻防で、ケラモフの頭が斎藤の顔に当たり、その後、瞼に切り傷が確認できる。
続けて左で差す斎藤にケラモフは右で小手に巻き、ロープに向けて払い腰! 5本ロープの3本目と4本目の間から転落する斎藤。その際に、3本目のロープにも顔を擦りつけた斎藤は、広いエプロンに尻を着いてからリング下に転落。立ち上がると、右瞼をカットしており、大きく出血した。
「場所が悪かった。ロープに向かって投げられたら、そりゃ、行きます。ロープに引っ掛かってもちゃもちゃっと落ちたからダメージとかは無いですけど、でもあの時、落ちる前の接触でたぶん切れたと思うんですけどね。頭で切れたのか拳で切れたのか、スローで見たい。(リングに)戻る前には切れてたんで、アレと」
その後のダブルレッグで下になった斎藤は、ケラモフの傷口狙いの鉄槌後に、サミングを受けた。
会見では、「(血を)拭いているとき、ドクターチェックのときに『(有効打かバッティングか)どっちですか』と聞いていたんですが、僕の感じでは、拳じゃないような硬い感じがしたのですが、そのときは『拳じゃないか』というようなことは言われましたけど、ギリギリまで、止められるまでは、どっちにしてもやろうと思っていました。出血が結構あったので止まってくれて良かった。もう少しずっと出続けてていたら厳しかった。できれば(バッティングか拳か)明確にしてほしかったとは個人的には思います」とも語っている。
【写真】傷口を擦るケラモフ。その際に指が目に入っている
ケラモフのテイクダウンに苦しんだ斎藤だが、尻は着いてもパスガードはされず、蹴り上げで立ち上がり、2R後半には左フックのダブルでフラッシュダウンを奪うと、直後にサッカーキックもヒットさせている。
「後半にチャンスは来るとは思っていた。パワーは強いから、早く失速してくんないかな、と思ったけど、思いのほか体力もあった。強い選手ですよね。日本人で誰が相手をしたらいいんだという感じになりますよ。大変だなと思います」と、ケラモフの実力を認める斎藤は、試合後に、ケラモフに声をかけたことを会見で明かしている。
「僕も判定2-1で負けたことがあるんですけど、今回2-1で勝って。本当に大変ななか、アゼルバイジャンから日本に来て試合をすることを選んでくれたので、そういう感謝の気持ちというか。いろいろ隔離とかも大変だったと思うのですが、無事に試合できて良かったなと。伝わってなかったかもしれないけど、その思いを伝えました」
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もうクレベル選手しかいない、それが「本軸」だと思う
これで、2019年9月の高谷裕之戦から4連勝。RIZINでは3連勝だが、第10代修斗世界フェザー級王者(※3月に王座返上)として、気の抜けない相手が続いている。
「本気で潰しに来ているマッチメーク」と苦笑する斎藤は、「だって、摩嶋(一整)選手は11連勝で、朝倉(未来)選手は8連勝。ケラモフ選手は11連勝……クレベル選手はいま何連勝ですか(4連勝)。最後KSWで負けているけど、(それ以外は)10連勝くらいしてる(2016年から10勝1敗)でしょ。なんか力が働いているとしか思えない(笑)。まあ摩嶋選手、朝倉選手に勝ったので、それ以下の選手はダメなんでしょうね」と、ベルトを持つ者の厳しさを語る。
「ケラモフもほんとうに強いんですよ。石渡(伸太郎)さんからも『なんでやるの? 一番やっちゃダメな相手だよ。まだクレベルの方がいいじゃん』と言われました」と明かすが、その選択には意味があったという。
「この先のことを考えると、北米の選手とやることを考えると、やっぱりケラモフのような選手とやっておいた方がいいんで。これでまた5分3Rやったことが、ものすごく財産として自分の中に残る。これをもっと意味のあるものに変えていかなければと。
試合をしないと分からないことがある。勝って反省できるのが、選手としては一番いい。KOでウワーッと浮かれるよりは。ちゃんと相手を対策して、今何が足りなくてやるべきなのかをやっていく。それ(取り組み)が積み重なって、試合も続いて成長させてくれる。それは後のキャリアにものすごく影響してくる。消化試合はない。今回の試合はやって良かった、意味のある試合です。近年ないくらいに相手が充実している。そういう相手をどんどん当てられるというのは逆にそこまで評価してくれているとも思います。防衛戦もあるし、そういう選手を受け容れて、やりきりたい」
強豪を受け容れてやりきる──そこにはRIZINフェザー級王座防衛戦がある。同日には、クレベル・コイケ(ブラジル)が朝倉未来(トライフォース赤坂)に2R 三角絞めで一本勝ち。王座挑戦をアピールした。
挑戦者決定戦ともいえるメインを見た王者は、「朝倉選手はもうちょっとガンガン行くのかなと思ったんですけど、いつも通り相手を見て打撃をヒットさせていた。クレベル選手、小技を持ってるんですよね。足も(左右)両方蹴れるし、上中下どこでも蹴れる。パンチもボクシングじゃないけど、軌道がちょっと遅れてくる。対戦相手からは非常に見え辛かったりするのかなと。掴まれてもいいから蹴れる。長い手足を上手く使っている。そして気が強い。パンチをもらってもどんどん打って来いよというところがあるんで、ちょっと狂ってるよね(笑)」と、クレベルを評価。
クレベルは試合後、斎藤との試合について、「私が思うには、“斎藤さん、間違えちゃいけない”。彼はアサクラと戦ったとき、3Rやってテイクダウン取ることもできたけど、極められなかった。今日も、ムサエフの友達の人(ケラモフ)と戦って、ミスあったと思う。私とやったら一回のチャンスだけで私は一本勝ちできたと思います」と、王座奪取に自信を見せている。
斎藤は、次戦が防衛戦になることについて「『勝ったらやる』と言っていたんで、もう決まりましたね。いつになるか分からないけど、年内。僕ちょっと目を切ったり痛いところはあるので、身体を治しながら年内やりましょう。防衛戦。次は防衛戦しかないでしょ。もうクレベル選手しかいないと思います。それが一番、お客さんも見たい、本軸だと思います。クレベル選手も『いつでも待つ』と言っていたので、年内ですね」と、大晦日までに、クレベル・コイケを相手に防衛戦に臨む展望を語った。
ケラモフという難敵を退けた斎藤。険しいチャンピオンロードを突き進む。
そのほか、動画では、斎藤の打撃での距離感、これまでの試合での出血経験が今回に活きたこと、試合中にモニターを確認していた意味など、秘話が語られており、必見だ。