2021年6月13日(日)東京ドームで「Yogibo presents RIZIN.28」が開催された。
第8試合の「RIZINライト級(71.0kg)タイトルマッチ」では、ホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)が、2019年『RIZINライト級トーナメント』優勝者のトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン)と対戦し、1R1分12秒、三角絞めで一本勝ち。初代王者に輝いた。
また、メインイベントでは、クレベル・コイケ(ボンサイ柔術)が朝倉未来(トライフォース赤坂)を2R1分51秒、三角絞めで失神させ、一本勝ちしている。
地上波放送もあった東京ドーム大会で「カーフキック」に続いて、一躍注目された「三角絞め」とはどんな技なのか。
試合後、ベルトを腰に巻いて会見場に登場したサトシは、「お父さんが得意だった三角絞めで勝てて、一番良かった」と涙を流した。
ボンサイ柔術所属のサトシのMMAでの三角絞めでの一本勝ちは3試合目。2021年3月の徳留一樹戦に続いて連続の「サンカク」での一本勝ちだった。
ひとくちに「三角絞め」と言っても、そのセットアップは様々だ。パウンド・ヒジ打ち有りの現代MMAでは、基本的に下になることはタブーとされる。自ら引き込んで三角絞めに入るためには、いかに上にいる相手の打撃を受けず、良い形で三角の形を作るかが重要だ。
その点でサトシは、この2戦で異なる形でフィニッシュに繋げている。
前戦では「QUINTET」でも極めの強さを見せていた徳留が得意とするハーフガードに対し、下から煽って極めたもの。
MMAの中で「何年も三角で一本を取られていない」と防御に自信を持っていた徳留をして「普通の三角の入りじゃない」というサトシのそれは、最初は引き込んだ腕の逆側から組んで、足を組み直して左側で極めている。タップを奪う際に引き寄せたのは自身の脛をつかんでのものだった。
そして、今回のムサエフ戦で引き込んだサトシは、徳留戦とは逆側の右側で三角絞めを極めている。
ガードの中で上体を立てたムサエフに、サトシは瞬時にムサエフの右手を左手で掴んで、前方に押し出すと同時にガードの足を大きく開いて、まずは「四角」に組んでいる。
同時にムサエフの左手を手前に引き寄せると、左手でムサエフの右足を手繰り寄せながら四角を解いて、右手で自身の左足を引き寄せてムサエフの頭を下げさせると、右ヒザ裏で両足をロック、「三角」の形を作った。
一連のスピードが速いサトシに対して、ムサエフはパウンドを打つ間もなく、引き込まれた腕と反対側の右手を三角の中に入れてわずかなスペースを作るのが精一杯。
左ヒザを立てて防御するムサエフだが、サトシは掴んだムサエフの左腕を伸ばしていったん逆側に捩じってから、その腕を内側に流して頭を引き付けると、最後は、ムサエフの右肩上から両手でクラッチして引き寄せ、タップを奪った。
徳留戦で見せた左の三角とムサエフ戦での右の三角。サトシは、「両方出来るけど、今日絞めた方が私の得意な方。反対もやってるけど、私が好きなのと得意なのは右側。絞めたから相手がすぐタップした。右側はよりプレッシャーがある」と、明かした。 * サトシの父、ボンサイ柔術の創始者アジウソン・ソウザも得意としていた「三角絞め」の起源は諸説あるが、寝技中心の柔道「高専柔道」から生まれた技ともいわれる。
岡山第六高等学校高専柔道の金光弥一兵衛(起倒流備中派柔術、講道館柔道九段)と早川勝(後に八段)らが稽古中に編み出したとされる松葉搦み(三角絞め)はブラジルにも伝播。渡伯し、エリオ・グレイシーと引き分けている金光の町道場出身の柔道家・小野安一が関係しているともいわれる。
サトシが極めた三角絞めは「前三角絞め」だ。向かい合った相手の腕を前に引き出し三角に組んで頚動脈を絞める。ほかにも、仰向けになって絞める「横三角」、相手の背後から絞める「後三角」などがある。
現在では、そこから派生した両腿を絞める「肩絞」やティーピーチョーク、「両脚の中に相手の両腕を入れると極まらない」という定説を覆す、ラバーガードからの変化技デッドオーチャードなど、多くの技が編み出されている。
そんななか、サトシやクレベルは、ベーシックな三角絞めを、たしかな技術でMMAのなかで極めてみせた。
クレベルは言う。
「もともと柔術は日本がルーツだ。それを僕は、日本で出稼ぎにきて、このボンサイ柔術で習い、プロファイターになった。ミクルを極めたサンカクも、相手の間違いを見逃さない。すごくベーシックな三角、腕十字、オモプラッタ……昔の柔術でエリオ・グレイシーが言ってるように『柔術はオフェンスだけじゃなくて、セルフディフェンス(護身)』、それが大事。そのためには毎日練習。『1日、1時間』じゃない。3、4時間かけてやる。それが、私やサトシの柔術で、すごくオートマチックで考えないで動ける」
果たして、サトシとクレベルは、RIZINでこれからどんな柔術を見せるのか。注目だ。サトシとの一問一答全文は以下の通り。
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サトシ「なんでクレベルが未来に負ける? 私もいつもクレベルと練習するから、なんで他の人に負ける?」
──試合を終えた感想を。
「もう本当に“夢かな!?”って。それだけちょっと考えた。夢かな、でも、私がチャンピオン! 弟(クレベル)もいい試合で勝てたから、本当によかった」
──ベルトを腰に巻いた気持ちは?
「本当に夢。私のRIZINのデビュー戦からいつもこのベルト、考えてた! そのあとの試合負けて、ベルトはアゼルバイジャンに行って悲しくて、日本に約束したね。必ずRIZINのベルトは帰ってくるよって」
──対戦したムサエフ選手の印象は?
「本当に私、最初ちょっと打撃が心配だった。でも、私の柔術を信じて、BELLWOODジムの鈴木(博昭)先生がすごい自信を私に教えてくれたから、心配だけど、試合のときはそんな気にしなかった。最初に打撃で行って、(テイクダウンが)できなかったけど、そのあとの気分は、“絶対に勝つ、できる”だった。最初に(試合前に)考えたのは、“足と腰が強いから、絶対投げはできない”と思ったけど、最初の投げに行ってから、“次から、絶対投げできる、すぐ極めできる”と考えた」
──作戦は?
「無い、ね! 本当に試合のプランが、それくらい、ちょっと打撃を……でも、打撃使ってないけど(笑)、それでちょっと考えたあとにすぐに極め。三角で極めたのが一番良かった」
──東京ドームの印象は?
「もう本当にリングチェックのとき、すごい緊張した! 東京ドームの中に入ったのが初めてだから。そんなに大きくないと思ってたから、もう、すごいビックリ! 大きいところでベルトを獲れて本当に良かった」
──防衛戦の相手は誰を望みますか。
「あー、まだ、それ考えない。すぐ家族と一緒に焼肉食べたい(笑)。みんなにベルト見せたい。みんなが私を手伝ってくれて、みんな信じてくれたから、本当にこのベルトを見せたい。それから3カ月くらい休みたい(笑)。試合は速いけど練習が長い。去年からずっとこの試合のことを考えてたから」
──クレベル選手も朝倉未来選手に一本勝ちし、ボンサイ柔術チーム揃っての勝利となりました。
「本当に良かった! みんなよく練習して、全員で勝ってるから。本当にみんな自信がある。クレベルも分かってる、私がライト級チャンプになった(んだから)、なんで(クレベルが)未来に負ける? 私もそう。いつもクレベルと練習するから、なんで他の人に負ける? 気持ちと自信がある。いつも強い人とだけ毎日練習していて、絶対負けない。試合と練習は同じくらいキツい。試合には、緊張があるくらい。いつもキツい練習するからね」
──1日どれくらいの練習をするのですか。
「本当にこの試合、去年から待っていたから本当に長い間、去年からこの試合の練習をすごいしてきた。1週間の日曜だけ休んで、それから1日3回くらい練習するね。たまに筋トレ、MMA、柔術とか、変わるけど、1日大体3回くらい練習してきた」
──引き込むのは、作戦のひとつだったと思いますけど、悪い形で下になるのではなく、いい形で引き込めたのは作戦でしたか。
「よく入ったけど、絶対、最初の2分3分は(ムサエフは)力がすごく強い。でもちょっと本当に私は信じない。絶対(組むことが)できると思ったから、相手ちょっと逃げた。2回目と3回目(の組み)も絶対出来る。だからあまり打撃使わずすぐ投げに行った」
──三角絞めは前回の徳留戦で組み直した左側とは逆でした。サトシ選手は左右どちらでも極めが強いと。
「今日絞めた方が、私の得意な方。反対もやってるけど、私が好きなのと得意なのは右側。絞めたから相手がすぐタップした。右側はよりプレッシャーがある」
──お父さんのアジウソン先生にベルトを見せたかったですか。
「そうね。いまの全部の生活、お父さんに見せたい。お父さん、1カ月前が、亡くなってちょうど10年だった。だから、私の生活は10年前と今とでは色々と変わっているから、それが(見せられないのが)一番悲しい。三角(絞め)で極めて良かった。わたしのお父さんも得意の極めは、三角。今日は三角が一番良かった」
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